なぜ今「報酬」の話なのか
この回の出発点は、多職種連携を続けていくには、それぞれのプレイヤーが食べていけることが前提になる、という問題意識です。
現実的にですね、持続的な多職種連携活動を行っていくためには、それぞれのプレイヤーが食っていけないと、それは机上の空論になってしまうわけですね。
そこで小橋さんは、産業保健専門職の報酬をテーマに据えます。きっかけは、ゲスト出演した別のポッドキャスト番組モヤハレ ── 「産業保健もやもやハレハレ」の通称。小橋さんが4回にわたりゲスト出演した番組で、産業保健にまつわる本音を語り合う内容の回でした。
番組内で話題になったのが、最近、産業保健専門職の相場が下がってきているというテーマです。この記事では、その要因を小橋さんの整理に沿って追っていきます。
仲介サービスだけが原因なのか
報酬低下の背景としてよく言われるのが、産業医の仲介サービスの存在です。安さを売りにして産業医を次々と仲介し、中抜きも一定の割合で行うため、結果的に産業医の報酬が下がる、という説明です。
小橋さんによると、こうした仲介サービスの本質は産業保健ではなく人材紹介です。そのため、質そのものより人を仲介し続けることにインセンティブが向きやすいと指摘します。
彼らのサービスの本質っていうのは、産業保健じゃなくて人材紹介ですから、構造的に産業保健の質そのものよりも、人をどんどん仲介していくことにインセンティブが向きやすい。
ただし小橋さんは、すべての仲介会社がそうだとは言っていません。質を売りにした会社もあれば、安さを売りにした薄利多売型の会社もあり、後者が広がると相場が下がっていく、という整理です。
同業者の間では「薄利多売型の仲介サービスが悪い」という論調が起こりがちですが、小橋さんはそれだけが問題ではないと考えています。
一方で、じゃあその仲介会社だけが問題なのかって言われたら、私はですね、そこはそうじゃないと思ってるんですよ。
専門職自身が身につけるべき力
小橋さんが次に挙げるのは、専門職自身の問題です。仲介会社を通じた仕事が嫌なら、そこを通さずに受けなければいいだけ、という見方を示します。
そのうえで、これからの専門職には専門性を磨くだけでなく、事業力・営業力・契約力が必要だと繰り返し伝えていると話します。これらがないと、本来の価値より安く買い叩かれてしまうという主張です。
本丸は「月1回の職場巡視」という法制度
小橋さんが「本丸」と位置づけるのが、労働安全衛生の法令上の問題です。なかでも産業医の職場巡視を挙げます。
法令では原則として月に1回、産業医の職場巡視が定められています。職場巡視 ── 産業医が実際に職場を見て回り、働き方や作業環境が健康を害していないかを確認する業務。労働安全衛生法で頻度などが定められている小橋さんは、職場を実際に目で見ること自体はとても意義があると評価しています。
問題は、そのやり方と頻度が今の時代に合っているか、という点です。労働安全衛生法は1900年代半ばの工場をベースに作られた法律だと小橋さんは説明します。
危険性や有害性の高い業種では、頻繁な職場巡視に一定の意義があります。一方で、都心のきれいなオフィスタワーや、社員がほとんど在宅勤務という会社ではどうか、と小橋さんは問いかけます。
こういう会社で産業医が現地で原則月に一回職場巡視を本当にしないといけませんかっていう問いですよね。
多くの関係者が内心その意義に疑問を感じつつ、法律だからやらなければならない。そうなると会社は価格の安いところに頼みがちになる、という流れを小橋さんは指摘します。
巡視のコストが単価を押し下げる仕組み
ここから小橋さんは、職場巡視が報酬に与える影響を持論として整理します。
その中心にあるのが、一律で原則月1回という職場巡視のルールです。これが産業医の時間単価を下げる最大のボトルネックなのではないか、という見方です。
月1回の一律巡視
意義を感じにくくても法令で義務づけられている
安いところへ発注
会社は価格の安い提供先を選びがちになる
産業医の時間単価が下がる
意義のある業務の単価まで引き下げられる
専門職全体へ波及
産業医につられて産業保健専門職全体の単価が下がる
この連鎖はあくまで「説」だと小橋さん自身が断っています。それでも、産業保健周りの法改正はもっと継続的に検討していくべきだと考えています。
これからは「訪問ベース」より「顧問ベース」
小橋さんが提案するのは、法令に基づく定期巡視を前提にしない産業保健サービスのかたちです。
具体的には、顧問ベースを土台にして、その上でリスクやニーズに応じて巡視や面談を組み合わせていく形です。これが単価の面でも、あらゆるステークホルダーにとって納得しやすいと話します。
あくまで顧問ベース、その上でリスクとかニーズに応じて巡視や面談を組み合わせていく。
ただし、毎月巡視すること自体を否定しているわけではありません。毎月顔を合わせることでラポールが形成され、産業保健の活性化につながったケースを何度も経験してきた、と小橋さんは振り返ります。
ただ、単価だけでなくリソースの面でも難しさがあると小橋さんは言います。地方では現場まで片道1時間や2時間かかることも珍しくないためです。
地方だと例えば現場に行くまで片道1時間とか2時間って平気でかかるんですよね。
オンライン巡視という現実的な選択肢
リソースの制約を踏まえ、小橋さんが現実的だとするのがオンライン巡視の活用です。現地巡視は必要としながらも、そこにオンラインを組み合わせることを法律で解禁していく方向性を挙げます。
さらに小橋さんは、公衆衛生の視点からの例え話も示します。ある地域に産業医が12人いて、まっとうな産業医が1人だけだった場合を想定した話です。
その産業医が月1回1社だけを回るより、年1回でも12社を順に回るほうが、その地域全体の産業保健にはプラスになるのではないか、という考えです。
これらは2026年時点では法律上認められておらず、小橋さんは「あくまで妄想」と断っています。そのうえで、巡視回数が緩和されれば固定費は減り、反対勢力も出るだろうと見込んでいます。
それでも、しっかり価値を提供すれば時間単価は上がってくると予想し、今のうちから訪問ベースではなく顧問ベースを前提にした契約をしておくことが、企業側にも専門職側にも長期的なメリットが大きいと締めくくります。
まとめ
産業保健専門職の報酬が下がる背景を、小橋さんは仲介サービス・専門職自身・法制度の3つから整理しました。特に一律で月1回という職場巡視が単価を押し下げているという持論を軸に、これからは訪問ベースではなく顧問ベースの契約へ移していくべきだ、という結論が語られています。
- 報酬低下は仲介サービスだけの問題ではなく、専門職自身の事業力・営業力・契約力の不足や法制度も要因になっている
- 一律で原則月1回の職場巡視が、産業医の時間単価を下げる最大のボトルネックだと小橋さんは考えている
- 職場巡視や毎月の訪問そのものを否定しているのではなく、やり方と頻度が今の時代に合っているかが論点
- リソースの制約から、現地巡視にオンライン巡視を組み合わせて解禁していくことが現実的だとしている
- 正当な対価を得るには、対価に見合う価値を提供し続ける必要があり、そのために顧問ベースの契約設計が提案されている


