種付けに堆肥運び、月曜の朝から大忙しの酪農家
この回の配信日は10月5日の月曜日です。島根県出雲市の川上牧場の川上さんは、近くの牧場から頼まれた種付けを2頭分こなしてから、注文を受けた堆肥を運び、籾殻も取りに行く予定だと話しています。
ほかにも、川上さんの1日には、今週ある職場体験の準備や、前日に生まれた子牛の出生届などの作業が控えています。牧場の仕事は牛の世話だけでは終わらないことが、朝の予定を聞くだけでも伝わってきますね。
川上さんは乳製品の需給についても触れています。脱脂粉乳 ── 牛乳から脂肪分と水分を取り除いて粉にしたもの。牛乳が余ったときの保存手段として作られるため、在庫の量は生乳の余り具合の目安になりますの在庫が以前伝えた8万トンから、10万トンに達する予測になっていると話しました。
(脱脂粉乳の在庫予測が)10万トンになってきて、これはかなりやばいです。
そのうえで川上さんは、感染症が流行る時期でもあることから、免疫のための腸活として牛乳やヨーグルトをしっかり取ってほしいと呼びかけています。
「放牧中の牛は雑草も食べている?」リスナーからの素朴な疑問
お便りコーナーで取り上げられたのは、配信アプリ「Spoon」のリスナー、カンシンカンシンさんからの質問です。
馬や牛さんの放牧配信を見ていて、ふと牧草をとめどなく食べていますが、雑草も食べているのでしょうか?中には毒性のある草もあると思いますが、自ら選別して食べているのでしょうか?
川上さんは、放牧配信というジャンルがあること自体に驚きつつ、牛や馬が「食べては前に出て」を繰り返す姿には確かに需要があると笑います。
川上さんによると、放牧地にはおいしそうな草だけでなく雑草も生えています。山地酪農 ── 山の斜面などに牛を放して飼う酪農のやり方。牛が草を食べることで、荒れた土地の手入れにもつながるとされますのように耕作放棄地に牛を放す取り組みでは、ほとんど雑草しか生えていない場所もあるといいます。
この回の川上さんは、牛の草の選び方に加えて、放牧地の防疫と、消費者に知ってほしいことをまとめて話すと予告しています。牛舎を移動したため、配信中は牛がよく鳴いていることにも触れています。
牛にとって「牧草」と「雑草」の区別はない
川上さんは質問への答えを結論から示しています。牛は牧草だけを食べているわけではなく、雑草もかなり食べていて、ある程度は草を選んでいるそうです。
ただし、ここが重要で、牛は本能で毒草を全部見分けられるから大丈夫というわけではありません。
川上さんの説明では、牧草と雑草の区別は人間が勝手に付けたものです。牧場が牛に食べさせるために植えた草が牧草で、自然に生えて生産上困るものが雑草と呼ばれています。
牛から見れば、牧草か雑草かという札を見て食べているわけではありません。川上さんは、農林水産省の放牧の資料でも、牛がセイタカアワダチソウやクズ、ヨモギ、ススキ、ササなど多くの雑草を食べるとされていると紹介しています。
一方で、牛は何でも同じように食べるわけではありません。ずっと下を向いて吸い込むように食べて見えても、牛は実際にはかなり草を選んでいると川上さんは話しています。
若くて柔らかい草、葉っぱが多い部分、食べやすい草
硬くなった草、トゲのある草、味や匂いが好みでない草
牛が好きな草から食べるため、同じ放牧地を使い続けると、牛があまり食べない草だけが残って増えていきます。川上さんは、綺麗に見える放牧場は人間が管理していると強調しています。
牛は毒草を本能で見分けるのか、空腹とワラビの危険
本題の「牛は毒草を見分けられるのか」について、川上さんの答えは「ある程度避けることはあるが、信用しすぎてはいけない」です。
川上さんによると、農林水産省の資料でも、牛は通常は有毒植物をあまり食べないとされています。ただし、牧草が足りなくなったときなどには、本来なら避ける植物を食べて中毒を起こすことがあるそうです。
海外の放牧研究では、家畜が食べたあとの体調から「この植物を食べると具合が悪くなる」と学習して避けることがあるとされています。川上さんは、群れの中のリーダーや母牛・年上の牛が教えることもあるのが面白いところだと話しています。
ただし川上さんは、「牛が食べない=安全」ではないと注意を促します。毒草の中には、まずいから牛が避ける植物もあれば、毒があるのに牛にとって食べやすい植物もあるためです。
川上さんによると、アメリカ農務省の研究でも、毒草だから必ずまずくて避けるという単純な関係ではないとされています。だからこそ、人間が牧草地を見て危険な植物を管理する必要があるといいます。
毒草中毒のリスクが特に上がるのは、牛がお腹を空かせているときです。川上さんは具体的な場面として、草地の使いすぎ、干ばつ、新しい放牧地への移動、空腹のままの放牧を挙げています。
草が足りなくなる
使いすぎ、干ばつ、放牧地の移動、空腹のままの放牧
選択肢がなくなる
ほかに食べるものが十分にない
避けていた草を食べる
本来は避ける有毒植物も口にする可能性が上がる
人間でもですね、お腹がペコペコだとですね、多少怪しいものでもね、食べたくなるっていうね。
日本で牛の毒草の代表格として川上さんが挙げるのはワラビです。人間も食べる山菜ですが、牛が大量に食べると中毒を起こすことがあり、急性のワラビ中毒では出血や血液の異常が起きて死亡する場合もあるそうです。
川上さんによると、農林水産省の資料ではワラビのほか、アセビ ── ツツジ科の低木で、葉に毒の成分を含みます。名前は「馬が食べると酔ったようになる」ことに由来するとされています、ネジキ、レンゲツツジ、トリカブトなどが放牧時に注意すべき有毒植物として挙げられています。
そのため放牧の前には、人間が草地を見て危険な植物を抜き、場合によっては柵で囲って牛を近づけないようにします。川上さんは、放牧は放しておけばいいわけではなく、牧草の管理がとても大変なのだと話しています。
刈った草のほうが怖い?放牧は「牛任せ」ではない
川上さんが一般の人には意外かもしれないと話すのが、刈り取ったあとの毒草の危険です。生えている状態では牛が避けていた毒草でも、刈って牧草やサイレージ ── 刈った草などを密閉して発酵させた家畜のエサ。長く保存でき、牛の主要な飼料のひとつですに混ざると、食べてしまう場合があるそうです。
牛が植物を見たり匂いを嗅いだりしながら選べる
細かく切られてほかのエサと混ざり、選びにくくなる
川上さんは、草を刈れば安全というわけではなく、エサを与えるときにも確認が大事だと話しています。
放牧は、牛を草原に出してあとは自由にさせる飼い方に見えるかもしれません。けれど川上さんによると、実際には人間が草の量、牛の頭数、草丈、食べ残し、雑草、毒草、水、柵、牛の状態まで見ています。
Xで話題になった「白い道」と牧草地への立ち入り
後半で川上さんが取り上げたのは、北海道の宗谷丘陵にある観光地「白い道」をめぐる話題です。Xでは、バイクが牧草地に入って撮影したのではないかという写真をめぐって議論になっていました。
ただし川上さんは、問題の写真について、本当に牧草地へ無断で入ったのかを確定できる一次情報は確認できなかったと説明しています。写真の人が侵入したと決めつけているわけではない、という立場です。
一方で、白い道の周辺で観光客が牧草地に入ること自体が問題になっているのは事実だそうです。川上さんによると、稚内市の資料に地域の課題として明記されていて、稚内観光協会も「牧草地に絶対に入らないで」と公式に呼びかけています。
牧草地に入ってはいけないのはなぜ?畑としての牧草地と家畜防疫
一般の人から見れば、牧草地は「草しかないんだから少しくらい」と思える場所かもしれません。けれど川上さんは、牧草地はただの空き地ではなく、牛の食べ物を作る畑だと話しています。
皆さん入りますか?もうめっちゃ野菜がちゃんとできてるところにザザザザザって入って、バイクでブーンって入りますか?入らないですよね。
牧草地にバイクや車が入ると、草が踏まれて土が締まり、轍ができ、異物が混ざる可能性もあります。そして川上さんがもう一つ伝えたいのが家畜防疫の視点です。
川上さんによると、農林水産省の飼養衛生管理基準 ── 家畜の病気を防ぐために、農場が守るべき衛生管理のルールを国が定めたもの。牛や豚、鶏などの種類ごとに決められていますでは、牛を飼う農場は病原体の侵入を重点的に防ぐ衛生管理区域を設定することになっています。
飼養衛生管理基準で定められている対策として、川上さんは次のようなものを挙げています。
- 必要のない人を入れない
- 入る人の手や指を消毒する
- 専用の衣服や靴を使う
- 車両を消毒する
- 靴に排泄物や泥が付いたら洗浄・消毒する
ここまで徹底する理由は、人や車そのものではなく、それらに付いて移動するものが問題になりうるからです。バイクのタイヤが直前まで別の牧場の近くや泥道、家畜の糞がある場所を通っていたかどうかは、農家にはわかりません。
病原体をですね、外から持ち込む可能性をですね、農家側が管理できなくなるという、ここが問題なんですよね。
川上さんは、バイクが1台入れば必ず病気が出るという単純な話ではないとも付け加えています。また、すべての牧草地が法律上自動的に衛生管理区域になるわけではなく、離れた牧草地をどう扱うかは農場ごとの管理状況によるそうです。
それでも、家畜のエサを作る場所に農家が管理していない人や車、物を持ち込まないという考え方は、防疫の基本と相性がいいと川上さんは話しています。
観光客を敵にしたいわけじゃない、草原は「牛の食卓」
川上さんは、この話は観光客を敵にしたいわけではないと強調しています。むしろ酪農をもっと多くの人に見てほしいし、牧場にも来てほしいと個人的に思っているそうです。
大切なのは、見てもらう場所と生産現場を分けることだと川上さんは話します。観光牧場なら、入っていい場所や牛に触れる場所、消毒する場所を農家が設計しているので、農家が許可したルートを通ることがポイントになります。
白い道の写真について、川上さんは青い空と白い道、緑の草原がとても綺麗で、バイクで走りたい、撮影したいという気持ちもわからなくはないと話しています。
青い空と白い道に映える、気持ちのいい草原
牛が数か月後に食べるエサを作っている生産現場
これ見えているものは同じなのに意味が違うんですよね。
質問に立ち返って、川上さんは草地管理を「ただ草を育てる話ではなく、栄養管理であり、牛の健康管理であり、防疫でもある」とまとめています。
川上さんは、牧草地を見るときに綺麗な草原と思うのではなく、牛がこれから食べる大きな食卓と思って見てほしいと話しています。旅行先で入っていいか迷う場所があったら、わからないなら入らないこと。写真を撮りたいときは、農家さんに声をかけると、いい撮影スポットを案内してもらえるかもしれないそうですよ。
病気がひとつ入るだけで廃業につながるケースもあり、それが農家の管理不足として片づけられてしまうことも多いと川上さんは話しています。だからこそ消費者にも、農家が天候や災害の中で一生懸命作っていることを知ってほしいといいます。
まとめ
牛は雑草も食べ、ある程度は草を選びますが、毒草を全部避けられるわけではありません。だからこそ酪農家は草地そのものを管理していて、牧草地はエサを作る生産現場であり防疫の現場でもある、というのがこの回の川上さんのメッセージです。
- 牛は牧草だけでなく雑草もかなり食べ、柔らかい草を好むなど好き嫌いもある
- 毒草はある程度避けるが、空腹時や刈ってエサに混ざったときは食べてしまうことがある
- 放牧は牛任せではなく、草量・毒草・柵・牛の状態まで人間が管理している
- 牧草地への立ち入りは、作物を傷めるだけでなく病原体を持ち込むおそれがある
- 牧草地は「牛の食卓」。入っていいかわからない場所には入らず、農家に声をかけてほしい

