台風前の晴れ間に、堆肥運びと農協の総代会
「牛乳のむ?牧場配信」は、島根県出雲市の川上牧場から毎朝届く音声配信です。この日は10月22日の木曜日で、川上さんは少し疲れ気味だと話しつつも「牛乳を飲んでいるので体調不良にはならない」と元気に始めます。
天気は最高気温20度の晴れ時々曇り。台風が近づき前日は一日雨だったため、川上さんは晴れ間のうちに仕事を片付けたいと話しています。
この日の川上さんの仕事は、注文が来た堆肥を3台分運ぶこと、頼まれた籾殻を取りに行くこと、そして午後のJA(農協)の会議です。今年、地区の総代に任命されたため、総代会とその後の懇親会に出る予定だといいます。
(総代会に)行かないといけないですね、また役が増えておりまして、はい。
この回のメインは、リスナーの質問に答えるお便りコーナーです。川上さんは自分は栄養士ではなく酪農家だと断りつつ、牛乳の食べ合わせについてしっかり調べてきたと話しています。
税金で牛乳を減らす?年末の生産抑制奨励金
乾杯の前に川上さんが触れたのは、年末の牛乳生産を抑えた酪農家に、乳量1kgあたり40円の奨励金が出るというニュースです。年末年始の牛乳の需給がかなり厳しいという知らせだと受け止めています。
川上さんが問題にしているのは、お金の使われ方のちぐはぐさです。酪農家を応援しようと税金が使われ、酪農家が頑張って搾ると、今度は余りそうだからとまたお金を配って減らしている、と指摘します。
応援
酪農家を応援しようと税金が使われる
増産
酪農家が頑張って牛乳を搾る
余剰
牛乳が余りそうになる
抑制
またお金を配って生産を減らす
本当にやめましょう。これは何回も言います。業界にとっても良くないですし、本当に皆さんにとっても良くないですから。
川上さんの考えでは、適正価格で牛乳を買ってもらい消費が伸びれば、こうした無駄なお金を使う必要はなくなります。だからこそ、日々の食生活でコップ1杯の牛乳を考えてほしいと呼びかけています。
noteやInstagramで広がる川上牧場の発信
川上牧場は、毎日の音声配信を文字起こしして再構成した記事を、noteで毎日公開しています。さらに深く知りたい人向けに、初月無料のメンバーシップも用意されています。
2日前には、メンバーシップ限定記事として「10年後の酪農はどうなるか」を公開したそうです。直近のデータを集め、精度の上がったAIでリサーチした内容だといいます。
ほかにも、Instagramの「#未来の牛乳」では、リスナーが考えた「こんな牛乳があったらいいな」をデジタルアートにして販売しています。売り上げは子ども食堂への牛乳支援や、小中高の食育活動の費用に充てる予定です。
川上牧場の公式LINEは、毎日は聞けない人のために週1回まとめ記事が届く仕組みです。365日配信を続けているからこその工夫といえそうです。
農業政策がおかしいのは日本だけじゃない
牛乳で乾杯したあと、川上さんは農業政策の問題が日本だけではないと話し始めます。AIや半導体にエネルギーが向かい、電気や原油の価格が世界的に上がっているという見立てです。
エネルギー需要
AIや半導体にエネルギーが向かう
価格上昇
電気や原油の価格が世界的に上がる
コスト増
農産物の原材料価格も上がり、値上げが必要になる
売れない
物価高で家計が苦しく、農産物が売れなくなる
本当にメタ認知してみてください。一回俯瞰して一歩引いて、え、これなんかやばくね?おかしくね?って思ってもらってたら嬉しいな
川上さんは、こうした状況をメンバーシップ限定記事にまとめているそうです。牛乳を飲んでいない人にどう届けるかを、リスナーにも一緒に考えてほしいと話しています。
牛乳の食べ合わせに「魔法の組み合わせ」はある?
お便りコーナーで取り上げられたのは、TikTokから届いた質問です。
栄養豊富な牛乳を効率よく摂取する食べ合わせや組み合わせって何かありますか?
川上さんは以前にも、和食や洋食との組み合わせの質問に答え、うなぎと牛乳が意外と合うと話したことがあるそうです。その回は酪農データバンクで「うなぎ」と検索すると読めると紹介しています。
牛乳にはカルシウム、タンパク質、脂質、ビタミンB2、ビタミンB12など、いろいろな栄養が入っています。ただ川上さんは最初に、一緒に食べれば牛乳の栄養が何倍も吸収されるような組み合わせはないと断っています。
牛乳の得意な栄養と、足りない栄養
川上さんが紹介した文部科学省の食品成分データベースによると、普通の牛乳100gにはタンパク質3.3g、カルシウム110mgが含まれています。コップ1杯でタンパク質とカルシウムを同時にとれるのが、牛乳の強みです。
乳製品のカルシウムは、食品由来のカルシウムの中でも比較的吸収されやすいものの一つとされています。ある資料では、乳製品からのカルシウム吸収率はおよそ3割程度とされているそうです。
一方で、牛乳100gの鉄は食品成分表では0mgで、ビタミンDも0.3μgとそれほど多くありません。川上さんは、この「足りない部分」にこそ食べ合わせを考える余地があると話しています。
いちばんのおすすめは牛乳+ビタミンD
牛乳の代表的な栄養素であるカルシウムを、体でうまく使うために大事なのがビタミンD ── 脂溶性ビタミンの一つ。腸でのカルシウムの吸収を助け、骨の健康に関わります。日光を浴びると皮膚でもつくられますです。川上さんは、牛乳の栄養を活かす食べ合わせを1つ選ぶなら、牛乳+ビタミンDを含む食品を挙げたいと話しています。
食べ合わせとは別に、川上さんの個人的なおすすめは、日光を浴びながら牛乳を飲むことだそうです。ビタミンDは朝日や日光を浴びると体の中でつくられるからです。
ビタミンDを多く含む食品は、魚、卵、キノコ類です。食品成分データベースでも、魚や乾燥きくらげはビタミンDの多い食品として上位に出てくると紹介されています。
たとえば朝食なら「牛乳・卵・パンやご飯」や「牛乳・焼き魚・ご飯」。とても普通の朝ごはんですが、栄養学的にはかなり合理的な組み合わせで、珍しい健康食品を買わなくても作れるといいます。
牛乳だけで骨は強くなる?運動する人の組み合わせ
牛乳をたくさん飲めば自動的に骨が丈夫になる、という単純な話でもないと川上さんは強調します。骨にはカルシウムのほか、ビタミンD、タンパク質、運動、年齢、ホルモンなど、いろいろな要因が関わるからです。
そのため川上さんは、牛乳とビタミンDを含む食品、そして日常の運動までをセットで考えるのがよいと話しています。
運動する人にとっては、牛乳の乳タンパク質も役立ちます。研究では、筋力トレーニングの後に牛乳をとると筋タンパク質の合成が促されることが確認され、複数の研究をまとめたレビューでも、牛乳やホエイ、カゼイン ── 牛乳に含まれるタンパク質の約8割を占める成分。ゆっくり消化・吸収されるのが特徴で、残りの約2割がホエイですは筋肉量や筋力の維持・向上に役立つと評価されているそうです。
運動後は牛乳だけでもよいものの、バナナやおにぎり、パンなどの炭水化物を組み合わせるのも実用的です。タンパク質は牛乳、エネルギーは主食や果物と、役割を分ける考え方です。
牛乳とバナナは本当に最強なのか
「牛乳とバナナは最強」という話はよく聞きますが、混ぜると特殊な化学反応で栄養吸収が劇的に上がる、という意味の魔法の組み合わせではないと川上さんは説明します。
それでも牛乳とバナナは、牛乳からタンパク質やカルシウム、バナナから炭水化物や牛乳に少ない栄養を補えるという意味で、普通に使いやすい組み合わせです。朝ごはんの時間がない人、運動後、食欲があまりないときに向いているといいます。
吸収率を倍にする食品というより、食事全体の欠けているところを埋める組み合わせと考える方が正解です。
コーヒー牛乳でカルシウムは台無しになる?
SNSなどで聞く「コーヒーと牛乳を一緒にすると、カフェインでカルシウムが全部出ていく」という話について、川上さんはそこまで極端に考えなくて大丈夫だと答えます。
カルシウムを研究したある資料では、カフェインによってカルシウムの正味の吸収が多少下がることはあっても、影響は小さいと整理されているそうです。カフェオレにした瞬間に牛乳のカルシウムが無意味になる、というのは言い過ぎだといいます。
ただし、コーヒーを大量に飲んだり、砂糖をたくさん入れたりする場合は別の問題が出てきます。普通にコーヒーへ牛乳を入れて飲むぶんには、やめる必要はないというのが川上さんの整理です。
鉄との組み合わせは少しだけ気をつけたい
牛乳と一緒にとるときに少し気をつけたいのが鉄です。牛乳自体は鉄をほとんど含まないうえ、カルシウムを一度に多くとると、1回の食事では植物性食品などに含まれる非ヘム鉄 ── 野菜や穀物、豆類などに多い形の鉄。肉や魚に多いヘム鉄に比べて吸収されにくく、一緒に食べるものの影響を受けやすいとされますの吸収が下がるという研究があります。
一方で、長期間カルシウムをとった研究では、血清フェリチンなどの鉄の状態に明確な悪影響は出なかったそうです。健康な人が「食事中に牛乳を絶対飲んではいけない」とまで心配する必要はない、と川上さんは話しています。
ただし、医師から鉄欠乏や貧血を指摘されている人、鉄剤を飲んでいる人は話が違います。鉄剤を牛乳で流し込むのは避け、処方や薬の説明に従うのが基本だといいます。
1回の食事で吸収が下がる研究はあるが、長期では明確な悪影響なし。過度な心配は不要
鉄剤を牛乳で流し込まず、処方や薬の説明に従う
牛乳が悪い食品だからではなく、その時鉄をきちんと吸収させるという目的を優先させるからです。
お腹がゴロゴロする人は、ヨーグルトやチーズでも
牛乳を飲むとお腹がゴロゴロする人もいます。乳糖を十分に消化できない乳糖不耐症 ── 牛乳に含まれる糖「乳糖」を分解する酵素が少ないため、飲むと腹痛や下痢などが起きやすい状態。日本人には多いとされますの人は、無理にコップ1杯を一気飲みする必要はないと川上さんは話します。
アメリカ国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所では、少しずつ飲む、食事と一緒に飲む、ヨーグルトや硬いチーズを試す、乳糖を減らした食品を使う、といった方法が紹介されているそうです。
川上さんは酪農家として成分無調整の牛乳を飲んでほしい気持ちはあるとしつつ、栄養の面では牛乳だけにこだわる必要はないと話しています。ヨーグルトやチーズ、乳糖を減らした牛乳など、牛乳が苦手でも別の形でタンパク質やカルシウムをとる方法があります。
牛乳はいつ飲むのが一番いい?
朝か夜か、食前か食後か。牛乳を飲むタイミングについて、川上さんは健康な人なら続けやすい時間でよいと答えます。
牛乳はね、お薬ではないので、朝7時32分に飲むと吸収率が最大みたいなものはありません。
朝食でタンパク質を足したいなら朝、運動後なら運動後、間食をお菓子だけにしたくないなら間食、夕食でカルシウムが少なければ夜。自分の1日の食事で足りないところに入れるほうが使いやすい、という考え方です。
牛乳で食事を完成させるという考え方
川上さんがこの質問で一番面白いと感じたのは、牛乳単体ではなく食事全体で考える視点です。牛乳を健康食品のように扱うと「いつ飲めば一番吸収されるか」「何と混ぜたら最強か」という発想になりがちだといいます。
川上さんの考えでは、牛乳は1杯で全部を完成させる食品というより、普段の食事の弱いところを簡単に補える食品です。だからこそ給食に牛乳が必要なのだ、とも話しています。
実際に使える形として、川上さんは3つの組み合わせを挙げます。
| 場面 | 組み合わせ | ねらい |
|---|---|---|
| 朝食 | 牛乳+卵+主食 | 牛乳のカルシウム・タンパク質に卵のビタミンDなど |
| 和食 | 牛乳+鮭やイワシなどの魚 | 魚のビタミンDでカルシウムを活かす |
| 運動後 | 牛乳+おにぎりやバナナ | タンパク質と炭水化物を一緒に補給 |
とはいえ、育ち盛りの子ども、高齢者、スポーツをする人、鉄欠乏の人、乳糖不耐の人では、必要な栄養も合う飲み方も違います。万人に共通する「牛乳最強セット」はないというのが、川上さんの結論です。
パンだけの朝食なら、そこに牛乳を1杯、できれば卵も1つ。川上さんは「牛乳に何を足したら健康にいいか」ではなく「今日の自分の食事に何が足りないか」という目線で考えてみてほしいと呼びかけています。
季節の変わり目に「なんで飲まないの?」
回答を終えた川上さんは、どんな食事でもサポートしてくれる牛乳を改めて推します。季節の変わり目で寒くなり体調を崩しやすい時期だからこそ、牛乳があると一段階安定感が出るといいます。
本当に飲んでない方がいたら、本当に指を指して「なんで飲まないの?」って言っていただけたらね、嬉しいかなと思います。
最後に、Kindle本『酪農未経験者のために、遺伝改良と飼養設計編』と、その内容を読み込ませたAI「ファームエコAI」が紹介されました。黒毛和牛の近交係数 ── 血縁の近い個体同士の交配の度合いを示す数値。高くなると遺伝的な問題が出やすくなるため、交配計画で確認されますを計算できるアプリ「和牛交配チェック」は、登録種雄牛が800頭を超えたそうです。
まとめ
牛乳と一緒に食べるだけで栄養が何倍にもなる魔法の組み合わせはありません。川上さんが勧めるのは、タンパク質とカルシウムが豊富な牛乳に、鉄やビタミンDなど足りない栄養を他の食品で補い、自分の食事に合わせて牛乳を使う考え方です。
- カルシウムを活かすなら、ビタミンDを含む魚・卵・キノコ類との組み合わせが理にかなっている
- 運動後は牛乳のタンパク質に、おにぎりやバナナで炭水化物を足すと実用的
- コーヒー牛乳でカルシウムが台無しになる心配は不要。ただし鉄剤を飲む人は牛乳で流し込まない
- お腹がゴロゴロする人は、少量ずつ・食事と一緒に・ヨーグルトや硬いチーズで
- 「何と飲めば最強か」より「今日の食事に何が足りないか」で牛乳を加える

