ミルクフェア翌日の日曜、牧場は何をしている?
この回の配信日は10月11日の日曜日です。世の中は3連休の中日ですが、酪農家の川上さんはいつもどおり牧場で仕事をしています。最高気温28度の晴れで、牛の体調は問題なく、子牛だけが寒暖差で少し便がやわらかいそうです。
前日、川上さんは「ミルクフェア」というイベントに参加していました。そのぶん仕事がたまっているので、この日は堆肥の移動、育成牛舎の掃除、分娩予定の牛の準備、生まれたばかりの子牛へのミルクやりなど、雑務をまとめて片付ける予定だと話しています。
イベントはね、きっかけの一つでしかないですので、面白かったなっていうだけで終わるんじゃなくて。
川上さんは、ミルクフェアで配ったステッカーから公式LINEに登録し、わからないことをコメントで聞いてくれることも酪農の応援になると呼びかけます。
乾杯のあと、川上さんは「スポーツの前後は牛乳を飲むといい」とすすめます。牛乳に含まれるタンパク質やミネラルが疲労回復につながるから、という理由です。前日配信した職場体験の中学生の回にも触れ、Zoomなどで学校と牧場をつなぐ食育にも力を入れていると話していました。
酪農ゲームで酪農家は増える?牛は群れで何を教え合う?
ここからが日曜恒例のコメント返しです。1週間に各配信アプリやSNSに届いたコメントを、川上さんがすべて読み上げていきます。最初は「酪農家がゲームを作るなら」という配信に寄せられた、YouTubeからのコメントです。
なんと、ついに川上牧場物語が制作されるんですね。ダービースタリオンの酪農版は面白そうですね。理想の牛を育てて牧場を経営していく中で、餌の値段が上がったとか、災害が起きたとか、現実的なイベントも発生するんですね。本当にこんなゲームあったら酪農に興味を持つ子供たちが増えそうでいいですね。
川上さんの受け止めは意外と冷静です。リアルな酪農ゲームで楽しさを体験しても、それで牧場をやりたくなる人は少ないのではないか、と話しています。
(牧場物語は)30年も続いてて、もうほんと熱狂的なファンがいっぱいいるはずなのに、全然酪農業界来てくれる人少ないですから。
それでも、前日のイベントではたくさんの子どもたちがゲームで遊んでくれたそうで、そこから酪農家になってくれたらうれしい、と心から願っていると締めくくりました。
続いても同じメイプルさんから、「牛は毒草を見分ける」という配信へのコメントです。牧草地を「牛がこれから食べる大きな食卓」と表現したAI川上さんの言葉と、具合の悪くなる植物をリーダーや年上の牛が若い牛に教えるという話に反応しています。
川上さんによると、牛は水の飲み方や餌の食べ方も群れの中で覚えていきます。リーダーやお姉さん牛、ペアで飼っていればペアの相手が教えてくれるそうです。
あんなに喧嘩して頭ぶつけたり乗りかけたりとかしてるのに、餌をちゃんと教えるんだみたいなね。
立てない牛を寝かせてあげない理由とは
3つ目は、令和7年の研修生との配信をまとめたnote記事の一部をXに投稿したところ、届いたコメントです。投稿の内容は、分娩後に立てない牛を見た研修生が「しんどいなら寝かせてあげたらいいのに」と言った場面でした。
肉身すっぞ肉にすっぞ
川上さんは、このひと言に酪農家なら笑ってしまう本音を見ます。立ってくれないとこのままでは廃業だ、という気持ちを込めて、川上さん自身も同じことを思ったことは何度もあると話しています。
一方で、人間の目線では「かわいそうだから寝かせておこう」と感じるのも自然です。けれど牛の体にとっては、寝たままでいることそのものが危険です。投稿で紹介された理由を流れで整理すると、次のようになります。
寝たままでいる
分娩後に牛が立てず横になった状態が続く
胃にガスがたまる
横になったままだと胃のガスが抜けにくい
足の血流が悪くなる
700キロ近い体重がかかり、足の血の流れが悪くなる
だから立たせる
酪農家はなんとか牛を立たせようと声をかけ、手を尽くす
川上さんは、動物行動学や栄養学といった牛の生態を知っておかないと、助けられる命も助けられなくなってしまうと話します。研修生に学んでほしかったのは、まさにこの点だそうです。
湯たんぽと八雲風穴、電気を使わない温度調整に未来はある?
4つ目は、noteの「100年以上続く酪農の器具」という記事に寄せられたコメントです。昔ながらの道具の価値に注目しています。
ハクキンカイロや湯たんぽはアナログですが優れていると思います。電気を使わずに温度調整できるというのが、これからの時代もっと必要とされる気がしています。(温度を下げることに関してはさらに付加価値がつくかなと思います。八雲風穴のような)
川上さんは、湯たんぽは今では電子レンジで温める形になっていても、構造は昔と変わらないと話します。USBバッテリーで温まる作業着のような新しい道具もありますが、アナログな道具の形は意外と長く残っているという見方です。
温度を下げる技術については、地球温暖化で気温が上がり続けるなか、冷やす技術を持つ会社が伸びているそうだ、と川上さんは紹介します。日本だけでなく世界中が困っている問題なので、需要や付加価値が増えるのはありそうだと受け止めています。
コメントにある八雲風穴は、出雲市の山の中にある洞窟のような場所です。川上さんによると、夏でも中は2度ほどで、避暑地として観光名所になっています。地下を深く掘って冷気を循環させ、冷房などに使う技術もあるものの、費用が高いのが難点だと話していました。
牛の角を畑に埋める農法と、三元豚の「三元」の意味
5つ目も吉田間さんから、牛の角についての記事へのコメントです。海外の農場に行った友人から聞いた、少し不思議な農法の話です。
最近海外の農場に行った友人と話していて初めて知ったのは、牛の角に牛糞や水晶を詰めて畑に埋めるという有機農法(バイオダイナミック農法)というものがあるらしく……。私の場合、成分で考えてしまうのですが(確かに窒素、カリ、リン酸、カルシウム、ケイ酸等でいい土になるかも)、もっとスピリチュアルな思考でその農法にたどり着いているのが興味深かったです。
牛の角は宇宙や聖職星々とつながっていて、子牛を産んだメス牛の角だけ使うというのがポイントなのだとか。
川上さんは「めちゃめちゃ面白い」と反応します。農業の歴史をたどると、祈祷で雨を願ったり豊作を祈ったりする文化があり、豊作祈願は今も残っています。
神に捧げるといいと思ってるものが、科学的に証明されて、窒素、カリ、リン酸、カルシウム、ケイ酸が、本当にバランスよく入っているので。
神様のおかげだと信じられてきたことに、成分の面から納得できる理由がある、というのが川上さんの見立てです。牛を神の使いとする宗教もあることにも触れ、牛にはまだできることがたくさんあると感じたそうです。
続いてはstand.fmの清さんから、「ホルスタインだけが正解じゃない」という交雑牛の配信へのコメントです。
三元豚って三種交雑だったんだ、ブランド名だと思っていた。
川上さんの説明では、三元豚は3つの品種を掛け合わせて雑種強勢 ── 異なる品種や系統を交配すると、子が両親より丈夫さや成長の良さなどで優れた性質を示しやすくなる現象。ヘテローシスとも呼ばれますを起こし、おいしい肉を安定して生み出すために作られたものです。この考え方を乳牛にも生かす研究が北海道で進められており、生産性を落とさずに健康な牛になったというデータも出ているそうです。
「80頭って多い?少ない?」に集まった現場の声
ここからが今週のメインです。川上牧場のInstagramに投稿したスライド「80頭って多い?少ない?」がプチバズりし、約5000回再生されました。投稿には、酪農家や畜産関係者からたくさんのコメントが寄せられています。
メスだけ飼わないと食えないってことです。
川上さんはこのコメントの意図がよくわからなかったと正直に話し、オスを飼わないのは人工授精が普及したからだろう、と受け止めています。
中間くらいか。
川上さんによると、北海道から沖縄までの酪農の飼養頭数の平均は110頭になるかならないかくらいです。川上牧場の80頭は「中規模でやや少なめ」で、スライドに書いた内容をそのまま受け取ってもらえたと話しています。
自分も繁殖和牛15頭飼っていますが、友人や一般の方には驚かれます。しかし、同業者からは「たった15頭、お前さん趣味の世界か」とか「それで食っていけるのか」とか言われます(笑)。
このコメントへの川上さんの答えははっきりしています。農業は面積や頭数、農機の数で評価されがちですが、やり方はいろいろあるという考えです。
小さい規模でもね、利益上げて、直接販売とかしてたら、市場に左右されずに売れて。
15頭だったとしても全然家族養えるぐらいの、ことができるかなと思ったりしますね。
このやり取りには「大きなお世話ですよね」というコメントも続き、川上さんも「端的に言うとそういうこと」と同意しています。
自分でするにはしんどい頭数であり、人を雇って経営するには資金がしんどい頭数、80頭は中途半端。
牛飼いからトラックドライバーに転身した方のコメントに、川上さんは、一人では大変なのは確かだと認めます。人を雇えば固定費になるため、川上牧場はタイミー ── 働きたい時間に単発で働ける、スキマバイトのマッチングサービス。面接なしで働き手と事業者をつなぎますや研修生の力を借りているそうです。ただし「中途半端」とは考えず、スキマバイトやAIなど昔はなかった手段がある今は、やりよう次第だと話しています。
つなぎ牛舎なら多い、フリーストールならまあまあ、ロボットなら小さい。
川上牧場は親牛がつなぎ牛舎 ── 牛を1頭ずつ決まった場所につないで飼う牛舎。個体ごとの管理がしやすい一方、搾乳や給餌に人手がかかりやすい方式です、子牛がフリーバーンです。ロボット搾乳なら80頭を家族2人ほどで十分回せるだろうと、川上さんは見ています。同じ80頭でも、飼い方で評価が変わることがよくわかる指摘です。
牧場の大きさは頭数で決まる?人数で決まる?
ここからは、牧場の「大きさ」を何で測るかという物差しそのものに関わるコメントが続きます。最初は酪農経営者のムラサワさんです。川上さんは一度別の方のコメントを読み間違え、読み直しています。
この80頭ってほぼホルスタイン牛を示すかな。業界では中規模と言われるが、その牧場の状況によるが、後継牛を同じ敷地内で飼養するか、各々の牛舎や糞尿処理施設等があると、一般の方々には大きな牧場に見える。
川上さんは「ごもっとも」と同意します。川上牧場にも親牛舎と育成の子牛牛舎があり、「80頭飼っています」と言うと一般の人からは「大きいね」と驚かれるそうです。同じ80頭でも、見る人によって印象が分かれます。
親牛舎や子牛舎、糞尿処理施設が並び「大きい牧場」に見える
全国平均の約110頭より少なく「中規模か、やや少ない方」
牧場で働くタムラエーイチロウさんからは「まあ少ない方だわな」、AONSWWWさんからは「個人で、ホルスタインの親牛だけ数えて80頭ならまあまあ」というコメントも届きました。川上牧場は親牛が約50頭、子牛を合わせて約80頭なので、「まあまあ」ではないかもしれない、と川上さんは答えています。こうふじさんの「ニュージーランドならめちゃめちゃ小規模」には、国が変われば物差しも変わる、と返しました。
最後に読まれたのが、先ほど読み間違えた、きょうさんからのコメントです。
これだけで中規模以下とは言えないね。働いてる人数で大きい小さいって決めるので、間違った情報はやめましょう。
川上さんは、働く人数で規模を見る考え方もあると受け止めつつ、1人あたりの頭数という別の物差しを示します。
僕今80頭一人で飼ってるんですけど、1000頭飼ってて従業員が100人いたとするとですね、一人当たり10頭しか見れてない(形になる)。
川上さんは、それで生産性がよいと言えるのか、個人的には疑問に思うと話しています。ここまでのコメントを並べると、牧場の大きさは何を物差しにするかで答えが変わることが見えてきます。
| 物差し | コメントの見方 | 川上さんの受け止め |
|---|---|---|
| 頭数(全国平均) | 80頭は中間くらい | 平均約110頭に対し中規模でやや少なめ |
| 飼い方 | つなぎなら多い、ロボットなら小さい | ロボットなら家族2人でも回せる |
| 見た目 | 施設が多いと一般には大きく見える | 「大きいね」と言われるが業界では中規模 |
| 国 | ニュージーランドなら小規模 | 国で比べると物差しが変わる |
| 働く人数 | 人数で大小を決める | 1人あたり頭数で見ると生産性に疑問も |
なお、川上さんは、きょうさんへの返信に農林水産省やJミルクのデータをもとにした配信とnote記事のリンクを付けたそうです。
Instagramから酪農データバンクへ。配信の締めくくり
スライド投稿をきっかけに、川上牧場のInstagramのフォロワーも増えました。川上さんは、概要欄の音声配信やnote、Podyのリンクに加え、公式LINE登録者が使える「酪農データバンク」で「頭数」などと検索すれば関連記事が出てくると紹介しています。
ほかにも、Kindle書籍『酪農未経験者のために』のデータを読み込ませたAI「FarmEcho AI」や、黒毛和牛の交配を調べられるアプリ「和牛交配チェック」の告知がありました。アプリは登録者が80名に達し、沖縄県のユーザーが沖縄の種牛データをどんどん入れてくれているそうです。
3連休の中日、日曜日ですけども、お仕事の方、学校の方、いってらっしゃい。みんな牛乳飲んでね。
まとめ
日曜のコメント返し回は、ゲームや牛の群れ、昔の道具や不思議な農法まで話題が広がりつつ、最後は「80頭は多いか少ないか」という問いに集まった現場の声で盛り上がりました。川上さんの答えは、規模に正解はなく、物差しとやり方次第だということです。
- 80頭は全国平均の約110頭より少なく、業界では中規模かやや少なめ。一般の人には大きく見える
- つなぎ牛舎かロボットか、国や働く人数など、物差しを変えると規模の評価は変わる
- 川上さんは、小さな規模でも直接販売やスキマバイト、AIを使えばやりようがあると考えている
- 分娩後に立てない牛を立たせようとするのは、寝たままだと胃のガスや血流の悪化で命に関わるから
- 牛の角を使う農法や三元豚など、牛や家畜にはまだ知られていない面白さが多い



