YouTubeに届いた「牛のひづめ、手入れするの?」という質問
今回の配信は、YouTubeに寄せられた質問に答えるお便りコーナーが中心です。最近は質問がたくさん届いているそうで、その中から牛のひづめについての疑問が取り上げられました。
質問の内容は、なかなか消費者やリスナーにはわかりにくい部分です。川上さんは、人間の爪との比較も交えながら話していきます。
牛のひづめは手入れしたりしますか?古代の人の爪の手入れを調べていたら、生える速度と、木登りや土掘り、狩りなどで削れる速度がちょうどで、爪の手入れがなかったとか。野生の動物は手入れしないけれど、犬猫などの室内で飼う動物は爪が伸びがちに。牛はどうなんだろうと思った次第です。
犬や猫は肉球に爪がしまわれていますが、牛の爪はむき出しです。牛にとって爪の手入れは、とても大事なものだと川上さんは話します。
牛の爪は「2本指のつま先立ち」で700キロを支えている
そもそも牛のひづめは、2つに分かれています。1つになっている馬は単蹄類 ── ひづめが1つに癒合した動物のグループ。馬やロバなどが含まれる。ウマ目とも呼ばれる。、牛のように2つに分かれているものは偶蹄類 ── ひづめが偶数(主に2つ)に分かれた動物のグループ。牛、豚、鹿などが含まれる。偶蹄目とも呼ばれる。と呼ばれます。
人間の手には5本の指がありますが、牛のひづめは人間でいう人差し指と中指にあたります。つまり、2本指のつま先立ちで立っているような状態なんです。
牛の体重は600キロから700キロほど。それを4本の足で支えているので、1本あたりにかなりの負担がかかります。
2本のでっかい爪で体重を支えているんです。つま先立ちでそれを支えているので、ものすごい爪って大事なんですよね。
もし爪が悪くなると、牛は立てなくなったり、歩けなくなったりしてしまいます。これは生産にも直結する、大切な問題です。
歩けないと絞れない、牛の爪が生産性に直結するわけ
今の日本では、牛が自由に歩き回れる牛舎の形が増えてきています。フリーストールやフリーバーンと呼ばれるスタイルです。
このスタイルでは、牛は自分で歩いて水を飲んだり、餌を食べたり、搾乳室に入ったりします。つまり歩けないことは、絞れない・食べられない・水が飲めないに直結するというわけです。
だからこそ、爪の手入れをしないと、すぐに生産性へ影響が出てしまいます。足は牛にとって大事なパーツなんですね。
さらにフリーストールやフリーバーンの牛舎は、糞はきれいに掃除されていても、床がいつも濡れがちです。すると牛の爪が柔らかくなって、病気になりやすくなります。
爪を切る専門職「削蹄師」という国家資格の仕事
そこで登場するのが「削蹄」という爪の手入れです。川上牧場では、毎月削蹄師さんに来てもらっています。
1回につき6頭か7頭ずつ手入れをして、12か月で全80頭ほどの爪をひととおり刈り終える計算です。痛がっている牛や立ちにくい牛がいれば、その都度対応してもらうそうです。
この爪を切る専門の職業が「削蹄師」です。国家資格で、二級と一級といった等級もあるそうです。
ただ、この仕事は担い手が不足しています。削蹄師さんも減ってきていて、体をとても使う仕事だからです。
牛の足って1本100キロぐらいあるので、持ち上げたりするんですよね。今は削蹄枠が良くなって油圧式のものが出てきて、労力も少なくなってはいますけども、すごい体が資本の仕事ですね。
野生では自然に削れる爪が、牛舎では削れない理由
もともと牛は野生の動物が家畜化されたものです。野生だった頃は、野山を歩いたり地面を蹴ったりする中で、爪が自然に削れていました。
ところが牛舎の中は、コンクリートや、良いところでもゴムマットです。ゴムマットだと、爪の形が変わってきてしまうんです。
体重が100何キロ乗って、つま先立ちで一点に集中してしまうので、爪の形が曲がってきちゃったりするんですよね。それを手入れするのがまた削蹄だったりします。
牛の爪をよく見ると、大きさや角度、厚さが牛ごとに違います。それを見極めて手入れするのが、削蹄師のプロの技です。
川上さん自身も酪農ヘルパー時代に削蹄の手伝いをしていて、グラインダーで刈ることはできるそうです。それでも、毎日その仕事をしている人にはかなわないと話します。
足は「第二の心臓」、爪の病気と治療のはなし
牛が歩くことには、血液の循環という役割もあります。これは馬でも同じで、足は「第二の心臓」とも言われます。
歩くことで、心臓から送られた血液が足のポンプ作用によって心臓へ戻っていく、という仕組みです。
だから健康状態が悪くなると、爪の中に血豆のようなものや病気ができて、痛くて歩かなくなることがあります。こうした症状も削蹄のときに治療や投薬をしてもらいます。
重症になると、下駄のようなものを履かせて、痛む患部が地面に触れないようにする方法もあるそうです。
昔の「ブーツみたいな爪」からアニマルウェルフェアへ
結論として、今の家畜として飼われている牛の爪は自然には削れません。だから削蹄師さんに来てもらい、手入れしてもらっているのです。
近年はアニマルウェルフェア、つまり牛の幸せが重視されるようになりました。爪の手入れも、その一環として大切にされています。
昔は生涯爪を切らず、長いままにしておく牛もいたそうです。川上さんは酪農ヘルパーとして牧場を回る中で、そうした牛も見てきました。
本当にブーツみたいな爪してる牛とかいましたけど、やっぱりそういうのももうなくなってきてますね。
今は、ちゃんと手入れをすることが生産性につながる、と広く認識されています。だからこそ削蹄師の存在が重要なんですね。
削蹄師は、やればやるほど給料が上がる歩合制の仕事です。すごい人だと何千万円と稼ぐ削蹄師もいるそうで、体力勝負ではあるものの夢のある仕事だと川上さんは語ります。
まとめ
野生では自然に削れていた牛の爪も、牛舎で飼われる今は自然には削れません。だからこそ、爪を切る専門職「削蹄師」が牛の健康と牧場の生産性を支えています。身近な牛乳の裏側には、こうした地道な手入れの積み重ねがあるんですね。
- 牛のひづめは2つに分かれた偶蹄類で、人間でいう人差し指と中指の2本指のつま先立ちで、600〜700キロの体重を支えている
- フリーストールなどの牛舎では床が濡れて爪が傷みやすく、歩けないことが「絞れない・食べられない」に直結するため、爪の手入れが生産性に大きく関わる
- 川上牧場では毎月削蹄師さんが来て、1年で全80頭ほどの爪を手入れしている
- 削蹄師は国家資格の専門職で、担い手不足が課題。体力勝負だが歩合制で夢のある仕事でもある
- 昔は生涯爪を切らない牛もいたが、アニマルウェルフェアの広がりで爪の手入れが当たり前になってきている


