そもそもなぜ牛を回す必要があるの?
今回の質問は、ポポポという配信アプリのリスナー「カンシンさん」から寄せられたものです。海外の牛の配信を見ると、立派な台の上に牛が整然と並べられて、搾乳されながら回っている。あの装置にはどんなメリットがあるのか、そしてあれは未来の形なのか、という内容でした。
海外の牛さんの配信を見ると、立派な台の上に整然と並べられ、搾乳されながら回っていますが、あの装置にはどのようなメリットがあるのでしょう?もちろんデメリットは装置が高そうだなと思いますが、あの装置が未来の形なのでしょうか?
この装置は「ロータリーパーラー」と呼ばれるもので、日本語では回転式搾乳パーラーとも言われます。人間が搾るタイプもあれば、ロボットが搾るタイプもあります。パーラー ── 牛を搾乳するための専用の設備や部屋のこと。牛を並べて効率よく搾乳するために使われます。
仕組みはこうです。大きな円形の台がゆっくり回転し、そこへ牛が1頭ずつ入っていきます。作業者は決められた場所で、乳頭を綺麗にする係、前搾りをする係、ミルカーを装着する係と分かれています。
牛はそのまま台に乗って1周回り、搾乳が終わればミルカーが自動で外れ、出口に来た牛から降りていきます。そして空いた場所へ次の牛が入る、という流れです。
つまり、ロータリーパーラーで重要なのは、牛を回すこと、その回すことそのものではなく、本当の目的は人間が牛を追いかけるのではなく、牛の方を作業者のところへ連続的に運んでくることということですね。
川上さんは、これを工場のベルトコンベヤーにたとえます。ただし運ばれているのは機械部品ではなく生きている牛なので、牛が落ち着いて搾乳できる設計や管理がとても重要になります。
普通の搾乳機とロータリーの違いは「入れ替え」
比較のために、普通の搾乳機の仕組みも押さえておきます。ヘリンボーンパーラーは牛に対して人間が斜めに入るタイプ、パラレルパーラーは牛の横に立つタイプです。ヘリンボーン ── 魚の骨のような形に牛を斜めに並べる搾乳方式。作業者が並んだ牛の乳房に横から手を伸ばして搾乳します。
こうしたパーラーでは、牛のグループを入れて搾乳し、終わったグループを群れに戻してから次の群れを入れる、という「入れ替え」の工程がどうしても発生します。
一方でロータリーパーラーは、入って搾って出て、次の牛が入るという流れを基本的に止めずに続けられるのが特徴です。
ただし、時間がかかる牛や暴れる牛がいると、その1頭のために台全体を止めなければなりません。台が止まればすべての工程が止まってしまう、というデメリットもあります。
グループを入れて搾り、群れに戻してから次を入れる。入れ替えの工程が必要
入って搾って出て、次が入る流れを止めずに続けられる。ただし1頭止まると全体が止まる
大量搾乳と分業、ロータリーの4つのメリット
ここからはメリットを4つに分けて紹介していきます。まず1つ目は、とにかく大量の牛を搾れること。これが最大のメリットです。
たとえばデラバルという会社のE500というパーラーは、日本向けの公式情報では条件次第で最大約1,066頭を1時間で搾れる能力が示されています。ただしこれは特定の条件での理論上の最大値なので、どの牧場でも毎時1000頭搾れるという意味ではありません。
大切なのは、毎時1000頭という数字よりも、数百頭、数千頭という牛群を一定のリズムで連続処理できるという、ここがロータリーパーラーのメリットかなというところですね。
メリット2つ目は、人間が歩き回らなくていいこと。普通の搾乳では牛のところへ行き、しゃがんで、移動して、また次の牛へ、を何度も繰り返します。
ロータリーパーラーだと作業者が基本的に決まった場所にいて、牛が次々に回転して回ってきます。前搾り担当、乳頭を拭いて綺麗にする担当、ミルカを装着する担当というように作業を分業できます。
大規模になればなるほど、一人がどれだけ頑張るかではなく、作業工程そのものを標準化するという発想になっていく、と川上さんは説明します。
メリット3つ目は、牛にとっても毎回同じ流れになること。牛はルーティーンに慣れるのが好きな動物で、同じ通路を通り同じ入り口から入る流れを繰り返せるのがロータリーの強みです。
ただし、ロータリーだから自動的にストレスが減るとは言えません。追い込みの仕方や床、待機時間、過密状態、作業者の扱いが悪ければ、立派な設備でも牛に負担がかかります。結局は管理が大事、ということです。
メリット4つ目は、搾乳とデータ収集の基地になること。個体識別システムと組み合わせて、今乗っている牛は何番か、どれくらい乳が出たか、搾乳が終わったかといった情報を管理できます。個体識別システム ── 牛1頭ごとにタグなどで番号をつけ、乳量や健康状態などのデータを自動で記録・管理する仕組みのことです。
つまり、牛を回しながら牛の情報も流しているという、これが現代のロータリーです。
気になるお値段は?数千万円から数億円の世界
消費者がいちばん気になるであろう価格の話です。結論から言うと、お高いんです。
ロータリーパーラーに定価、何千万円とか何億円という簡単な価格表があるわけではありません。
価格は、牛が入るストールの数、ミルカの数、個体識別や自動離脱の有無、自動洗浄の有無、建屋、待機場や通路の広さ、人間が搾るかロボットにするかなど、さまざまな条件で総額が大きく変わります。
日本の実際の導入事例では、機械単体で数千万円、施設全体では数億円という数字が出ています。農畜産業振興機構の公開資料などが情報源です。
岡山県のある牧場では、40頭タイプのロータリーパーラーと餌寄せロボットを合わせて6,000万円という導入事例が報告されています。ただし、さらに建物に2億2,000万円、バルククーラーに1,000万円など別の投資も行われています。
海外では、オーストラリアの牧場でベッドが2,000床あるフリーストール牛舎2棟と50頭入れるロータリーパーラーなどを、付帯施設を含めて総工費400万オーストラリアドル、日本円で約4億円と報告された例もあります。これはロータリー単体の価格ではありません。
ロータリーイコール必ず丸々億円になるとは覚えないでほしいなと。いろんなやつがあるなと思いますね。
止まったら全部止まる。ロータリーのデメリット
高いこと以外にもデメリットがあります。ひとつは、止まったらどうするか、という問題です。台が止まればすべてが止まってしまうからです。
もし、このロータリーを通って搾乳を終えないと餌が食べられない、という動線にしてしまうと、機械が止まると牛が餌も食べられなくなってしまいます。
数百頭、数千頭を一つの設備で絞っていると、その設備が経営の心臓になります。
過去に、ローラーやポンプの故障で半日稼働できなかった経験から、代理店にバックアップ部品を置いてもらうようにした、という事例も報告されています。
牛は今日機械が壊れたので搾乳を明日にしよう、みたいなことができません。時間が来れば牛乳は作られていきますので。
だから大規模な設備ほど、故障しないこと以上に、故障したときに復旧できることが重要になる、と川上さんは強調します。
ロータリー=省人化ではない、という誤解
もう一つの誤解が、ロータリーパーラーなら人がいらない、というものです。映像だけ見ると、牛が勝手に乗って回って降りていくので、かなり省力化できそうに見えます。
ところが、必ずしもロータリーにしたら従業員数が減るとは限りません。
とある事例では、以前のパーラーは一回に4人のシフトだったのに対して、ロータリーパーラー導入後は6人のシフトになっています。
この事例の目的は、人減らしではなく搾乳効率の向上と作業強度の軽減でした。行ったり来たりする動きは減っても、その場にいる拘束時間は変わらない、という形です。
逆に、より小規模なロータリーで一人運転を想定したシステムもあります。デラバルのE300というタイプは、30頭から60ベイルで一人運転にも対応するとされています。
ロータリーイコール省人化ではなく、一人当たり一時間当たりにどれだけの牛乳を処理できるかという労働生産性を見るべきだということですね。
ロータリーパーラーは本当に酪農の未来なのか
いよいよ質問の核心、ロータリーパーラーは未来の酪農なのか、という問いです。川上さんの答えは、未来の一つではあるけれど、未来の答えではない、というものでした。
ロータリーが「牛を集めて一気に搾る」考え方なのに対し、搾乳ロボットは「牛が自分のタイミングで搾乳機へ行く」という、方向性のかなり違う考え方です。今はこの二つを組み合わせたロボット型のロータリーまで存在します。
では川上牧場ならどうかというと、生産牛は50頭ほど。この規模で数億円かけてロボット型ロータリーを入れても、設備能力をほとんど使い切れません。
むしろ、今ある設備の作業動作を改善したり、牛の移動を減らしたり、給餌を省力化したり、繁殖管理をまとめたり、監視や記録をデジタル化したりする方が、経営への効果は大きいといいます。
一方で、500頭、1,000頭、2,000頭という大規模な牛舎を建てるなら話は変わり、人を増やして搾るのか、搾乳時間をどう収めるのかを考える中で、ロータリーが選択肢として出てくる、という整理です。
見るべきは機械の凄さより「投資を何年で回収できるか」
海外の動画では、巨大な牛舎に自動給餌ロボットやロータリーパーラーがあり、何百頭もの牛とモニターに並ぶデータが、とても先進的に見えます。でも経営として見るなら、注目すべきは機械の大きさや凄さではありません。
その設備が何時間の労働を減らしたのか、一人で何頭管理できるようになったのか、故障した時に誰が直すのか、そしてその投資を何年で回収できるのか。ここまで見て初めて、いい設備だったと言えるかなと思います。
つまりロータリーパーラーそのものが未来なのではなく、自分の牧場で一番貴重なものは何かを考えて設備を選ぶことが未来だ、と川上さんは締めくくります。牛なのか、土地なのか、時間なのか、人なのか、お金なのか。牧場によって答えは違います。
最後に川上さんは、リスナーへ問いかけを投げかけます。牧場に一億円投資できるとしたら、巨大なロータリーパーラーか、搾乳ロボットか、それとも別の設備か。どこに使ってみたいか、コメントで教えてほしい、という呼びかけで質問回は締めくくられました。
まとめ
ロータリーパーラーは、牛を作業者の前へ連続して運び、搾乳を一つの流れとして標準化できる強力な設備です。ただし数千万円から数億円という費用や、止まると全部止まるリスクもあり、規模によっては大きすぎることもあります。だからこそ、機械の凄さではなく、自分の牧場に必要な技術を選べることが本当のスマート化だ、というのが今回の結論でした。
- ロータリーパーラーの本質は「牛を回すこと」ではなく、牛を作業者のところへ連続的に運んで搾乳を標準化すること
- 最大約1,066頭/時などの処理能力や分業のしやすさ、データ収集が大きなメリット
- 費用は機械単体で数千万円〜1億円級、施設全体では数億円になる事例もある
- 止まると全体が止まるため、故障しないこと以上に「復旧できること」が重要
- ロータリーが未来の唯一の答えではなく、規模や労働力に合わせて自分の牧場に必要な設備を選ぶことが本当のスマート化

