「牛にも加齢臭ある?」という質問が届いた背景
今回の配信は、リスナーさんから届いた1通の質問から始まります。電車に乗ったときにおじさんのニオイが気になった、という体験がきっかけでした。
牛さんも匂い加齢臭あるんですか?っていう質問なので
川上さんはこの質問を「感度がいい」と歓迎しつつ、牛の加齢臭についてはこれまで知らなかったので、あらためて調べてきたと話します。
牛さんの加齢臭はあるのがないのが、ちょっとここら辺はね、知らなかったので、調べてきましたので
配信はいつもどおり10分から15分ほど。牛乳を飲みながら聞いてほしい、という呼びかけから本題に入っていきます。
新聞掲載と12月のキャンペーンのお知らせ
本題の前に、川上さんからいくつかお知らせがありました。まず、JAの取材を受けたそうで、12月の牛乳が売れにくい時期に合わせた記事が中国地方の全新聞に掲載されるとのことです。
12月のね、牛乳がなかなか売れない不需要期にですね、中国地方の全ての新聞に掲載されるということで
さらに12月には、全国からインターネットで参加できる牛乳のキャンペーンも予定しているそうです。抽選の景品はなんと、話題のゲーム機だといいます。
なんと抽選でNINTENDOSWITCH2が当たるそうですよ
そのキャンペーンの特典動画に川上牧場が登場するとのことで、「ぜひチェックしてほしい」と呼びかけていました。
そもそも人間の「加齢臭」って何?
ここから本題です。川上さんはまず、比較の前提として人間の加齢臭とは何かをていねいに説明していきます。
人の年齢に伴う体臭は、皮膚表面の油脂が酸化してできるノネナール ── 皮脂が酸化してできる物質。加齢に伴う体臭との関連が研究で報告されている成分です。という物質が関係していると研究されているそうです。
2001年の研究では、40歳以上の被験者でノネナールが検出され、皮膚皮脂の変化との関連が報告されているそうです
ただし川上さんが強調するのは、「人間がそうだから牛も同じ」とは言えない、という点です。ここが今回の話の大事な入り口になっています。
結論:牛に人間と同じ「加齢臭」があるとは言えない
今回いちばんの答えです。川上さんが調べた範囲では、牛に人間と同じ仕組みの加齢臭があるという科学的根拠は確認できなかったといいます。
年を取った牛ほどノネナールが増えて典型的な加齢臭になる、という根拠も見つからなかったそうです。つまり、人間の加齢臭と同じ現象が牛にあるとは確認されていないというのが現時点の答えです。
ただし川上さんは、「牛には牛なりのニオイがある」と続けます。牛そのものだけでなく、糞尿や餌、敷料、お腹から出るガス、皮膚や毛、お乳など、いろいろなニオイが牛舎には混ざっているそうです。
この牛は7歳だからこういう臭いというような感じはあまりなくて
現場での実感としては、年齢よりも「その日の体調、汚れ方、餌、分娩の前後、病気」でニオイが変わると考えるほうが実態に近いといいます。
産後の牛に起きる「ケトーシス」とアセトン臭
ここから川上さんは、牛のニオイが体調のサインになる具体例を挙げていきます。まず注目するのが、出産直後の牛の状態です。
牛は出産すると一気に牛乳を作り始めますが、産後すぐは必要なエネルギーに餌からの摂取が追いつかないことがあります。これを負のエネルギーバランスと呼ぶそうです。
すると牛は自分の体脂肪を使ってエネルギーを作ろうとし、その過程でケトン体 ── 体脂肪をエネルギーに変える過程で増える物質。アセトンなどが含まれ、増えすぎるとケトーシスという代謝異常につながります。が増えていきます。これが泌乳初期に問題になりやすい代謝異常、ケトーシスです。
そして川上牧場でも実際にあるのが、このケトーシスの牛が発する独特のニオイです。口や尿からアセトンのニオイが感じられることがあるといいます。
産後の調子の悪い牛の近くに行った時になんか臭いするなみたいな。なんか卵の臭いみたいな感じの。2日酔いの人みたいなね
甘いような、溶剤っぽいような、卵の腐ったような独特のニオイ。これが牛の体調を知るヒントになることがあるそうです。
ただし川上さんは、「ニオイでケトーシスと診断してはいけない」ともくぎを刺します。ニオイはあくまで「あれ?」と気づくきっかけで、確認するには血液やお乳、尿のケトン体を測る必要があるといいます。
さらに厄介なのが、目立った症状がないサブクリニカルケトーシスの存在です。臭くないから大丈夫、とも言えないのが牛の体調管理の難しさです。
酪農家が「臭い」と言えばまずこれ、後産停滞
もう一つ、酪農家がニオイと聞いてまず思い浮かべるのが後産停滞だと川上さんは言います。
牛は子牛を産んだ後に胎盤、いわゆる後産が排出されます。通常は分娩後3時間から8時間ほどで出ますが、24時間を過ぎても胎膜が排出されない状態を後産停滞として扱うそうです。
後産が残ると、時間が経つにつれて組織が変色・変性し、非常に嫌な腐敗したようなニオイになることがあるといいます。
牛舎に入って、まあなんか臭いするなって思ったら、まあこれかなっていうところですかね
ただし川上さんは、後産停滞がそのまま子宮炎になるわけではない、とも分けて説明します。合併症のない後産停滞では、全身症状を示さない牛もいるそうです。
一方で後産停滞は子宮炎のリスクを高めます。産後の子宮炎では、悪臭の強い赤褐色で水っぽい排出物が重要なサインの一つになります。だからこそ酪農家は、ニオイだけでなく食欲や乳量、元気、体温、排出物の状態まで見るといいます。
牛のニオイは「代謝」と「感染」の2種類で考える
ここで川上さんは、牛のニオイを2種類に分けて考えると面白い、という整理を示します。同じ「産後の牛が臭う」でも、中身は違うというわけです。
ケトーシスで体内に増えたケトン体、特にアセトンが呼気などに出てくる
後産停滞や子宮炎で、変性した胎膜や悪臭のある子宮排出物が出てくる
同じ「臭い」でも、体の中で起きていることは全然違う。この視点を持つと、ニオイの受け取り方が変わってきますね。
ちなみに牛はかなり嗅覚を使う動物ですが、その研究はまだ十分ではないと最近のレビューでも指摘されているそうです。牛同士は人間が気づかないニオイの違いまで感じている可能性があり、今後の研究が楽しみな分野だと川上さんは話します。
年を取った牛はニオイが変わる?未来の「電子の鼻」
では、年を取った牛はニオイが変わらないのか。川上さんは「変わらないとも断言できない」と答えます。年齢によって代謝や皮膚、病気のリスク、繁殖状況などが変わり、結果として個体のニオイに違いが出る可能性はあるそうです。
ただし、それを「おばさん牛だから加齢臭」と決めつけるのではなく、「どこから臭っているのかな?」と考えるのが酪農家の見方だといいます。
昔から畜産の現場では、見て、触って、聞いて、そして嗅ぐ。すべてが牛を見るための情報だと川上さんは語ります。人間の鼻は、昨日と違うを見つけるセンサーとしては、ものすごく優秀なのだそうです。
さらに興味深い研究として、牛の呼気に含まれる揮発性有機化合物を分析して病気を見つけようという試みも紹介されました。特にケトーシスでは、呼気中のアセトンがよく研究されているといいます。
将来牛が機械の前を通り、機械がこの牛呼気のアセトンが増えていますと検知します。そんな電子の鼻
この「電子の鼻」(Eノーズ)によって、接触せずに健康管理ができる可能性があるそうです。酪農家が感じてきた「今日この牛、ニオイが違うな」を、機械が数字にしてくれる時代が来るかもしれません。
今日覚えて帰ってほしいこと
最後に川上さんは、今回の答えをあらためてまとめます。現在の科学では、人間で知られるような加齢臭と同じ現象が牛にもあるとは確認されていない、というのが結論です。
ただし牛には、健康状態によって変わる重要なニオイがあります。産後のケトーシスに伴うアセトン臭、後産停滞で胎膜が変性したときの悪臭、子宮炎で見られる悪臭の強い排出物。これらは「ただ臭い」で終わらせず、牛の体の中で何が起きているかを考える手がかりになります。
酪農は数字やセンサーを見る仕事でもありますが、最後は目で見て、耳で聞いて、手で触って、鼻で気づく。人間の五感もまだまだ大事だと川上さんは締めくくります。
この臭いはどこから来ているんだろう?と考えてみると、牛を見る目がちょっと変わるかもしれません
まとめ
「牛にも加齢臭ある?」という素朴な質問から、牛のニオイが体調のサインになる仕組みまで掘り下げた回でした。人間と同じ加齢臭は確認されていないけれど、いつもと違うニオイは牛の健康を教えてくれる。そんな酪農家の観察眼が伝わる内容です。
- 牛に人間と同じ仕組みの加齢臭があるという科学的根拠は確認されていない
- 産後のケトーシスでは、アセトンによる甘く独特なニオイが出ることがある
- 後産停滞や子宮炎では、腐敗したような悪臭が体調不良のサインになる
- 牛のニオイは「代謝から出るもの」と「組織・感染から出るもの」に分けて考えると理解しやすい
- ニオイでの診断はできないが、「昨日と違う」に気づくセンサーとして人間の五感は今も重要

