子牛は1回でどれくらいミルクを飲む?
この日は研修生が牧場に来ていて、子牛の管理を勉強しながらの収録です。まず最初は基本中の基本、子牛が1回にどれくらいのミルクを飲むのかという話から始まります。
哺乳瓶を見ながら量を当ててもらうと、研修生の予想は2リットルほど。でも実際はもっと多いんです。
つまり、1回のたった5分ぐらいのやつで3リットル飲んでるわけですね。
正式にはポンド表記で「6ポンド」と書かれていて、だいたい3リットルくらいになります。日本ではあまり使わない単位なので、研修生も最初はピンとこない様子でした。
ミルクは水に粉ミルクを溶かして作ります。1リットルの水に対して粉ミルクを何グラム入れるかで濃度が変わり、川上牧場では1リットルあたり140〜150グラムを入れているそうです。
この粉ミルクの粉の部分を「乾物」と呼びます。水分を抜いて残る粉の量のことですね。
哺乳ロボットは品種によって設定が違う
川上牧場では哺乳ロボットを使っていて、子牛は好きな時間に何度でもミルクを飲めます。ただし、首についたタグで1頭ごとに飲める量に制限がかけられています。
制限の量は子牛の大きさや品種によって変わります。うちから出ていく交雑種は、事故を防ぐために下痢にならないギリギリのラインに抑えているそうです。
大量に飲ませたりすると、それだけ内臓に負担がかかったり、消化に時間かかったりとかあるので、下痢にならない程度のギリギリのラインのレベルしか給与しない。
それでも交雑種は1日7リットルほど飲めます。一方でホルスタインは、生まれてから2週間は無制限に設定されています。
無制限の2週間には、ビタミン剤や鉄剤などの添加剤を採算度外視でたっぷり入れているそうです。この時期に免疫力や体力の基礎をつけたいという狙いがあります。
60日ぐらいになると徐々にミルクの量が減り、濃度が濃くなっていく設定です。これは自然界の母牛の乳の変化に合わせたもので、川上牧場ならではの特徴だといいます。
離乳は90日で設定していますが、粉ミルクは餌代としては割高。だからなるべく早くトウモロコシなどを食べてもらった方が、餌代としては安くなるそうです。
昔は手作業で哺乳していて、大きなバケツにたくさんの乳首がついた哺乳バケツを使い、40日ぐらいで離乳させていたそうです。それが今はロボットのおかげで90日まで見られるようになりました。
ロボットを、別に24時間365日働かせても文句言わないで、ロボットは。
子牛が尻尾を振るのは喜んでいるから?
ここからが今回の面白いポイント。子牛がミルクを飲みながら尻尾をフリフリさせる姿は、よく「喜んでいる」と思われがちですが、実は違うんです。
これは「食道溝反射」という反射行動です。牛には胃袋が4つあり、通常は1番目から順番に消化していきます。
ところが、1番目の胃は草しか消化できません。ミルクが入ると消化不良を起こしてしまうので、ミルクを消化できる4番目の胃まで一気にバイパスさせる必要があります。
その反射が起こるとき、胃の入り口にある弁のような部分がミルクを飲むたびにペコペコと動きます。その胃の動きと連動して尻尾が一緒に振れているというわけです。
仕組みとしては、人間がボールが飛んでくると思わず目をつぶるのと同じ、意識しない反射行動なんですね。ミルクが入ると4番目へ、水が入ると1番目へと運ばれます。
だから尻尾の振れ方を見れば、子牛の状態もわかります。ミルクと水が分離してうまく混ざっていなかったり、体力がなかったりすると、尻尾が上手に振れないこともあるそうです。
子牛も体力がなかったりとか、健康じゃなかったりすると尻尾が振れてなかったりとか、そういうのでもわかったりします。
ちなみにこの食道溝反射は子牛だけの独特の行動で、大きくなってミルクを飲まなくなると消えてしまいます。では、成長した牛は嬉しいと尻尾を振るのかというと、そうではないそうです。
嬉しい時はもう飛び跳ねます。
700キロもある牛がダンスするのは、本当に厄介なんだとか。酒粕をたまにあげたときなどは、隣の牛にガンガンぶつかるほど狂喜乱舞するそうです。
尻尾やハエ、牛の寝方からわかること
では、大きくなった牛は何のために尻尾を振るのでしょうか。人間のように自由に触れる手足がない牛にとって、尻尾は見えないところを探ったり、隣の牛との距離をつかんだりする道具でもあります。
そしてもう1つの役割がハエ払い。虫が飛んでいると牛は尻尾をブンブン振ります。特定の子にだけハエが集まることもあり、それは換気扇の風の向きが関係しているようです。
この時期はアブも増えてきて、刺されると牛も痛くて休めません。そうすると餌の食べる量も搾乳量も減ってしまうため、9月頭ごろに駆虫薬を使うのが毎年の恒例だそうです。
話は牛の睡眠にも広がります。牛が一日にどれくらい寝るのか、研修生が尋ねました。
一日に4時間ぐらいしか、人間のいう睡眠は4時間ぐらいしかしないって言われてます。
その4時間も一度にまとめてではなく、5分や15分といった細切れで寝るのが牛の特徴です。
横になって寝る姿勢は「横臥」と呼ばれます。実はこの寝る時間の長さが、牛乳の生産量に深く関わっているんです。
牛乳を1リットル作るには、乳房に400リットルもの血液を循環させる必要があります。立っているより寝ている方が血液の循環効率が良くなるため、寝ている時間が多いほど乳量が増えると言われています。
逆に立ちっぱなしだと足に血液が溜まり、毛細血管が傷んで蹄の病気につながることもあります。つまり、牛がよく寝られる環境こそが快適でいい環境だということですね。
なかには人が歩いていても爆睡している牛もいるそうです。家畜として一万年ほど飼われてきた牛は、危険をあまり感じずに暮らしています。
自然派の方とかが牛を逃がしてあげなさいみたいな、かわいそうじゃないかって言うんですけど、逃がしたら何もできないよ、この子たち。
離乳のタイミングはどう見極める?
最後は離乳の話に戻ります。子牛が慣れている仲間とペアで過ごすとストレスが減ると言われ、子牛のころから一緒だった牛をペアにする「ペアリング」を親牛まで続けることもあるそうです。
子牛の哺乳期間は、川上牧場では3ヶ月ほど。離乳の目安は、生まれたときの体重の2倍になったタイミングだとされています。
ただ、体重をきっちり測るわけではなく、目視でなんとなく判断しているそうです。その基準がユニークで、牛舎の構造を物差しに使っています。
牛のスタンションって言って牛が餌食べる首のところがあるでしょ。あれもそのスタンションの上のところのバーの上のところが首のここら辺に来たら、大体1歳ぐらいになって種付けする時期だなみたいな。
哺乳ロボットの入り口の高さや、スタンションのバーの位置と牛の首の高さを照らし合わせて、離乳や種付けの時期を見極めているんですね。牛舎構造と牛の発育をうまく組み合わせた飼い方です。
もう1つの離乳の目安が餌の量です。トウモロコシなどの配合飼料を1日1キロほど食べられるようになったら、離乳してもいいでしょうと言われています。
まとめ
子牛が1回に飲むミルクの量から、尻尾を振る本当の理由、そして牛舎の構造を物差しにした離乳の見極めまで。研修生の素朴な疑問をきっかけに、川上牧場の子牛管理の工夫がたっぷり語られた回でした。
- 子牛は1回の哺乳で約3リットル、粉ミルクは1リットルあたり140〜150グラムで作る
- 哺乳ロボットは品種によって設定を変え、ホルスタインは生後2週間を無制限にして体力の基礎をつくる
- ミルクを飲む子牛が尻尾を振るのは喜びではなく、胃の動きに連動した「食道溝反射」
- 牛が寝ている時間が長いほど乳房への血液循環が良くなり、乳量が増える
- 離乳の目安は生まれたときの体重の2倍、配合飼料を1日1キロ食べられるころ




