お金を払ったのに自分で働く、IKEAの不思議
竹野さんがこの回で取り上げるのは、スウェーデン発の家具ブランドIKEAです。広い店内やエスカレーター、安いアイスクリームなど、IKEAで買い物をした経験がある人は多いのではないかと竹野さんは話します。
竹野さんがIKEAの不思議として挙げるのは、お金を払っているのに客が自分で働くシステムです。購入した家具は段ボールに入った状態で、持ち帰るか配送してもらったあと、家でしっかり組み立てる必要があります。
家に届いた際に、結構ね、しっかり組み立てをしないといけないんですよね。
竹野さんは、このDIYの要素がある仕組みを世界的なビジネスに育てたのがIKEAだとしたうえで、完成品を売らないことがむしろ強みになったのではないかと問いかけます。
家具ではなく「運び方」を変えたIKEAの歴史
竹野さんがIKEAを調べて見えてきたポイントは、IKEAは家具を変えたのではなく、運び方を変えたという点です。
IKEAの創業は1943年のスウェーデンです。竹野さんは、第二次世界大戦がすでに始まっていた時期に創業された企業だという点に驚きを示しています。
その後IKEAは、1953年に組み立て式のテーブルをカタログで紹介し、1956年にはローテーブルの脚を外す工夫がフラットパック ── 家具を分解して平たく梱包する方式。輸送や保管の場所を取らず、購入者が自宅で組み立てる前提で販売されますの発展を象徴する出来事になりました。
竹野さんは、1953年の時点で組み立て式という思想がすでにあったのではないかと見ています。そのうえで、IKEAが解決しようとしたのは誰のどんな問題だったのか、売り方を変えることはイノベーションなのか、不便をなくすために別の不便を作ってよいのか、という3つの問いを立てます。
組み立ての手間と低価格を天秤にかけると?
IKEAが解決しようとした問題について、竹野さんは、当時は高級な家具が多く、組み立て済みの状態で売ること自体に問題を感じていたのではないかと推測します。
IKEAは組み立て工程の一部を顧客に任せることでコストを削減し、梱包を小さくすることで輸送コストや保管コストも効率化しました。竹野さんは、低価格というベネフィットと組み立ての手間という負担を比べたとき、多くの人には低価格のほうが魅力的だったのだろうと話します。
組み立てを顧客に任せる
組立工程の一部を顧客が担う
梱包を小さくする
フラットパックで平たく梱包
コストを効率化
組立・輸送・保管のコストを削減
低価格で提供
手間と引き換えに安く買える
組み立ての手間は決して小さくありません。竹野さんによれば、本棚を一人で組み立てると半日ほどかかることもあり、その半日分の労働力にはそれなりの金額が乗っていると考えられます。
竹野さんは例として、5万円の本棚に、プロが2時間ほどで組み立てる組立費として2万円を上乗せするケースを挙げます。技術力と時間拘束の分が価格に乗ってくるため、同じものが7万円と5万円で手に入るなら、5万円を選ぶ人が多かったのではないかという見立てです。
本体5万円+組立費2万円で7万円
5万円。ただし半日ほどの手間がかかる
自分で組み立てた家具に愛着が湧く理由
IKEAが受け入れられたもう一つの理由として、竹野さんはDIYが好きな人の存在を挙げます。完全なDIYまではしないけれど、少しは自分で作りたいという層にとって、IKEAの組み立ては程よい手間だったと考えられます。
自分でこうやって組み立てて完成させたっていう商品には、やっぱ愛着が湧くんじゃないかなっていうふうに思いますね。
ここで竹野さんが考えたいのは、安くなるなら客はどこまで自分でやってもよいのか、という点です。木の板を削るところから始めるのはハードルが高い一方、脚を付ける程度なら一般の人でもできます。
竹野さんは、このどこまで客に任せるかという線引きこそ、IKEAがよく考えているポイントだと見ています。IKEAは自分で作ることを大切にする比重が高く、完成品よりも大切にしたいという愛着を強めているのではないかという考えです。
セルフレジは「手間の価値」に変えられるか?
竹野さんは、IKEAと同じ構造はセルフレジや料理キットにもあると話します。セルフレジは客が自分で商品を読み取ることで、お店の人件費削減につながります。
ただし竹野さんは、セルフレジは手間を愛着のような価値にまだ変えられていないと考えています。
(セルフレジは)お店のコスト削減だなっていう感覚がすごくあると思うので、そういったところがね、今後ね、セルフレジのね、広がるポイントになってくるんじゃないかな
竹野さんは、もしかすると今後「自分でレジした商品だぜ」のような価値が生まれてくるかもしれない、と冗談めかして付け加えています。
コスト削減に加え、自分で作った愛着という価値につながっている
人件費削減にはなるが、お店のコスト削減という印象が強く価値にはなっていない
北欧デザインとデモクラティックデザインとは?
IKEAのもう一つの魅力として、竹野さんは北欧家具ならではのデザインの良さを挙げます。そこから、そもそも良いデザインとは何かという問いに進みます。
竹野さんによると、IKEAはデモクラティックデザイン ── IKEAが掲げるデザインの考え方。多くの人が手に取れることを目指し、形や機能、品質、価格、持続可能性を同時に満たすことを重視します、つまり民主的なデザインをベースにしています。見た目だけでなく、機能、品質、価格、サステナビリティまで考えられたものです。
竹野さんは、デモクラティックデザインを企業の効率と顧客の満足を両立させる仕組みだと捉え、三方よし ── 「売り手よし、買い手よし、世間よし」を表す言葉。近江商人の商いの心得として知られ、取引が社会全体にも良い影響を与えることを重んじますに通じると話します。売ってよし、買ってよし、社会的にもサステナビリティがある、という構図です。
デザインっていうのはやっぱり物の形とかだけじゃなくて、やっぱり体験だったりとか、世界観を設計することでもあると思います。
竹野さんは、その世界観そのものが、最終的にIKEAのブランドを作り上げているのではないかと見ています。
高品質と低価格は本当に矛盾するのか?
竹野さんが次に問いかけるのは、高品質と低価格は本当に矛盾するのかという点です。日本の例として、竹野さんは「お値段以上」のニトリを挙げ、低価格でもクオリティが高い商品があると話します。
さらに竹野さんは、商品が良くても購入までの仕組みが悪ければ価値は下がるのか、という問いも投げかけます。安さの理由が、価値が下がったからなのか、企業努力によるものなのかを見分けることが大切だという考えです。
竹野さんの見立てでは、IKEAはここがうまくできています。手間を省いてコストを下げながら、その手間を自分で作る愛着に変え、下げた分に別の価値を乗せたうえで低価格を実現しているからです。
なくすべき手間と、残すべき手間
竹野さんは、便利なことが増えた現代で、便利さを追求しすぎて失っている価値はないのかと問いかけます。そして、IKEAの仕組みを自分の仕事や暮らしに置き換えて考えてほしいと話します。
多くの人は、お客様の手間をなくすことが良いサービスだと考えています。竹野さんも、手間をなくすことで生まれる価値があることは認めつつ、IKEAの歴史を見ると必ずしもそうとは限らないと指摘します。
竹野さんが提案するのは、手間を作ることで生まれる価値に目を向けることです。そうすると、仕事や暮らしの中になくした方がいい手間と、残した方がいい手間があると見えてくるのではないかと話します。
竹野さんは例として楽器の練習を挙げます。今はAIで音楽を作れるものの、自分で練習して演奏することには別の価値がある、という考えです。
竹野さんは最後に、当たり前だと思っていることも、少し視点を変えるだけで違った価値が見つかるかもしれないと締めくくっています。
まとめ
IKEAは家具そのものではなく運び方と売り方を変え、組み立ての手間を顧客に任せることで低価格を実現しました。竹野さんは、その手間が愛着という価値にもなっている点に成功の秘訣を見ています。
- IKEAは1943年にスウェーデンで創業し、フラットパックによって輸送・保管・組立のコストを下げた
- 組み立て済みとの価格差は大きく、多くの人が手間よりも低価格を選んだと考えられる
- 自分で組み立てた家具には愛着が湧き、セルフレジとの違いはその手間が価値に変わっているかどうかにある
- デモクラティックデザインは見た目・機能・品質・価格・サステナビリティを両立させる考え方
- 仕事や暮らしでも、なくすべき手間と残すべき手間を見分けることが大切だと竹野さんは話す







