セロトニンは「回路」で見ないとわからない
今日のテーマは、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンです。
名前を聞いたことがある方は増えてきたんじゃないかと思います。ただ今日は、効果や効能というより、セロトニンができて使われるまでの全体の流れを書いてみたいんです。
理由もなく気分が落ち込む、ちょっとしたことでイライラする、寝つきが悪い。この3つの現象には、実はセロトニンが関わっているかもしれません。
ポイントは、気分だけでなく睡眠にも関係しているところです。
セロトニンの材料は、トリプトファンというアミノ酸です。体内では作れない必須アミノ酸の一つで、肉や魚、卵、大豆製品などから食事でとるしかありません。
じゃあ、トリプトファンをいっぱいとればセロトニンがいっぱいできて万事解決かというと、そうではないんです。
大切なのは回路がちゃんと回っていることで、セロトニンがたくさんあればいい、という単純な話じゃないんですね。
すごく簡略化すると、流れは4つです。トリプトファンが脳に届き、脳の中でセロトニンに作り変えられ、使われて、最後に回収される。まずはこれを覚えておいてください。
「腸活でセロトニン」は半分正解、半分間違い
もう一つ、前提として知っておいてほしいことがあります。
セロトニンは腸でも作られるから、気分をよくするには腸活を。そんな話を聞いたことがある方も多いと思います。
確かにセロトニンは、脳だけでなく腸でもたくさん作られています。でも、腸で作られたセロトニンは、脳にはほぼほぼ届かないんです。
物質は基本的に血液に乗っていろいろなところへ運ばれます。ところが脳の入り口には、ブラッド・ブレイン・バリア(BBB) ── 血液脳関門とも呼ばれる、血液中の物質が脳へ入るのを選り分ける仕組みと呼ばれるバリアがあって、セロトニンはここを通過できません。
脳はとても大切な場所なので、かなり選り分けをしている訳です。一方で、材料のトリプトファンはスッと脳に届きます。
では腸のセロトニンは何をしているのか。腸の運動を調節したり、腸の刺激や異変を電気信号で脳に伝えたり、血小板による止血にも関わったりしています。
同じセロトニンでも、腸と脳では使われ方が違うんです。なのでこの記事では、皆さんが気になっているであろう脳のセロトニンの話をしていきます。
作るには栄養が要るし、炎症があると横道にそれる
脳に届いたトリプトファンは、2段階の反応を経てセロトニンになります。
最初の反応を担うのがTPH2という酵素で、ここでは補酵素として鉄やBH4が欠かせません。次の段階ではビタミンB6が使われます。
ここがスムーズに動いていないと、トリプトファンだけとってもセロトニンにはならないんですね。
しかもトリプトファン回路には、セロトニンとは別に「キヌレニン経路」という道があります。トリプトファンの行き先は二股に分かれていて、基本的にはキヌレニンの方に行きがちなんです。
このキヌレニン経路は、炎症とすごく関係があります。炎症に関わる酵素の働きが強くなると、トリプトファンはキヌレニンの方へ流れやすくなる。
つまり、炎症があるとセロトニンが作られにくくなる。炎症とメンタルがここでつながってくるんです。
同じ量のトリプトファンをとっていても、体の状態で使われ方は変わります。トリプトファンも鉄もビタミンB6も気にしているのに、どうもセロトニンが作られている感じがしない。そんなときは、歯周病や胃腸の不調のような炎症にも目を向けてみてください。
ただ、炎症だけでセロトニンを説明できる訳でもありません。あくまで手がかりの一つです。
作って終わりじゃない。使われて、回収されるまで
セロトニンは、作ったら完成ではありません。
神経細胞から放出され、受け手側の細胞にある受容体に届いて、初めて情報が伝わります。役割を終えたセロトニンの一部は、また回収されるんです。
この回収まで含めて大事で、ちゃんと回収されないと量が不安定になります。回収を担う運び手の一つに関わるのが、SLC6A4という遺伝子です。
うつや不安の治療で使われるSSRI ── 選択的セロトニン再取り込み阻害薬。セロトニンの回収(再取り込み)を抑える薬というお薬は、この回収を抑えて、セロトニンが働く時間を調整するものなんですね。
回収しすぎてもよくない。流れを見ていくと、いろいろなことが見えてきます。
セロトニンの働きは、どれだけ作るかだけでは決まりません。どう使われて、どう回収されるかでも決まる。だから不調を「セロトニンが足りないから」だけでは考えられないんです。
寝つきとセロトニンは、メラトニンでつながっている
では、睡眠とはどう関係するのか。幸せだから眠れる、という話ではありません。
カギは、睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンです。メラトニンは、実はセロトニンから作られます。
すごく簡略化すると、トリプトファン、セロトニン、メラトニンという流れです。脳の中心にある松果体という器官で、セロトニンからメラトニンが作られます。メラトニンは、体に「夜ですよ、寝ましょうね」と伝えるようなホルモンです。
もちろん、睡眠はメラトニンだけで決まる訳ではありません。夜遅くまでブルーライトのような明るい光を浴びているとメラトニンの分泌は抑えられますし、逆に朝の光は体内時計をリセットしてリズムを作ってくれます。
材料のトリプトファンがあって、セロトニンが適切に作られて動き、メラトニンの合成まできれいに回る。そこにライフスタイルが重なって、眠れる訳です。
複雑ですよね。「これさえやっておけばOK」は僕も含めてみんな大好きなんですけど、、セロトニンはいくつかの視点を持って見ることが大切なんです。
日々の食事でトリプトファンを含むものをとれているか。鉄やビタミンB6は不足していないか。歯周病や胃腸の不具合のような炎症はないか。眠りたいなら光も調節できているか。
ここまでセットで見ていくと、気分が沈む、イライラする、寝つきが悪いといった悩みの手助けになるんじゃないかと思っています。
ただ、体はそんなに単純じゃないので、自分一人では難しいこともあります。そのときは、お医者さんなり専門家に相談することを選択肢に入れておいてください。
僕も血液栄養解析をもとにしたパーソナルヘルスケアカウンセリングをやっていて、無料相談も用意しています。話すのも面倒という方のために、ヘルスケアアプリ『Precision Compass』も作りました。
それでは今日も健康で。ではまた。
まとめ
セロトニンは量を増やせばいいものではなく、材料が脳に届き、作られ、使われ、回収されるという回路全体で見るものです。気分や睡眠の不調も、栄養・炎症・光といった複数の視点から見直すのが大切だと僕は考えています。
- 腸で作られたセロトニンはバリアを通れず、脳にはほぼ届かない
- セロトニン合成には鉄・BH4・ビタミンB6が必要で、炎症があるとトリプトファンはキヌレニン経路に流れやすい
- セロトニンの働きは、作る量だけでなく使われ方と回収のされ方でも決まる
- メラトニンはセロトニンから作られるので、睡眠ともつながっている







