五大時計とロレックスは「競技が違う」
高級時計といえばロレックスですが、それとは別に五大時計、あるいは雲上ブランドと呼ばれる時計たちがいます。
パテックフィリップ、オーデマピゲ、ヴァシュロンコンスタンタン、ブレゲ、ランゲアンドゾーネの5つで、歴史も技術も美学も極まったブランドだと紹介されています。
そこで木野さんは、ロレックスがこれだけの知名度と実績を持ちながら、なぜ五大時計には入らないのかという疑問を投げかけます。
その答えとして挙げられたのが「競技が違う」という表現です。ロレックスはむしろオメガやブライトリング、パネライといった実用時計の側に位置づけられると話されています。
その理由っていうのは結構シンプルで、競技が違うっていう表現が一番わかりやすいのかなと思います。どちらかっていうと、ロレックスはオメガとかブライトリングとかパネライとかの実用時計に当たる感じになるんですよね。
五大時計は1800年代前後に発祥し、貴族や皇帝が使う前提のため、装飾性や審美性、手仕上げの伝統工芸的な価値が重視されました。
一方でロレックスの創業は1905年。時計が一般階級にも広がっていく時代に、仕事で使うことを前提に作られたブランドだったと説明されています。
1800年代発祥。貴族や皇帝が使い、装飾性・審美性・伝統工芸を重視。時計を芸術に近づけた
1905年創業。仕事で使う前提で、精度・防水性・耐久性・視認性を重視。時計を生活のインフラに近づけた
カップラーメンが三つ星になった話
ロレックスがすごいのは、本来は実用的な時計だったにもかかわらず、100年以上のブラッシュアップを重ねて五大時計に並ぶ金額や価値に到達した点だと語られます。
木野さんはこの現象を、身近な例えで説明しています。
他のもので例えるならば、カップラーメンが百年以上ブラッシュアップしたら、三つ星レストランの料理と同じ金額になってきたみたいなイメージなんですよね。
当時の人にとって、ロレックスが売っていたのは今認識される「時計」ではなかったと言います。
貴族は懐中時計を持っていましたが、仕事の最中に個人が使う腕時計はほとんど存在せず、多くの人は鐘の音で時間を把握していました。
だからこそ木野さんは、ロレックスを単なる高級時計ブランドと呼ぶのは少し違うと話します。
道具から始まったブランドの歴史
ロレックスは高級品ではなく、道具から始まったブランドでした。精密機器である時計は壊れやすく、庶民が持つには信頼が足りなかったのです。
そこに挑んだのが創業者のハンス・ウィルスドルフでした。頑張ればお金を出して買える存在まで信頼を回復させようと考えたと語られています。
象徴的なのが防水ケース「オイスターケース」です。世界初の防水時計として位置づけられ、翌年には泳ぐ人がドーバー海峡横断に挑戦した際、首から下げたロレックスが長時間の冷水でも動き続けました。
木野さんは、これを単なる宣伝と呼ぶのはもったいないと指摘します。
防水ですって言って打ち出すのではなくて、もう本当に海の中に突っ込んじゃったっていうところがロレックスの凄さであり、価値を作り上げてきた構造になってくるんですよね。
その後もクロノメーター認定や英国天文台の証明、自動巻きの「パーペチュアルローター」など、実用性を裏付ける技術を重ねていきました。
現在のロレックスに「オイスターパーペチュアルデイトジャスト」といった名前が付くのも、防水・自動巻き・日付表示といった機能を積み重ねてきた歴史そのものだと説明されています。
成功者が使ったから成功者の時計になった
現在のロレックスは成功者の象徴のように語られますが、木野さんは順番が逆だと指摘します。
もともとはパイロット、ダイバー、探検家、経営者、政治家、スポーツ選手などが実用品として使っていました。その姿を見た大衆が、後から「成功者の時計」という意味を与えていったのです。
企業が広告で価値を作る前に、使用者が価値を作ってしまったという構造です。
ただ木野さんは、ロレックスもこれを意図していたのではないかと考察します。年式ごとに仕様を変えたり、経年劣化を楽しめる仕組みがあったりと、価値が生まれる仕掛けが多いからだと話しています。
資産価値の裏にある「持ち運べる信用」
現代人がロレックスを欲しがる理由として、まずリセールの強さや資産価値が挙げられます。デイトナのように定価の2倍近くで売れるものもあり、買った瞬間に儲かる面もあります。
不動産や車と違い、即日で現金化しやすいことも人気の背景です。ただし木野さんは、その見方だけだと欲しい人がみんなデイトレーダーのようになってしまうと、より深い理由を掘り下げます。
現代人が求めているのは、預金や株や不動産とは違う「持ち運べる信用資産」という面だと言います。
インフレや通貨の不安、終身雇用の崩壊、SNSの比較社会。将来が不透明な中で、人はお金そのものとは違う「形ある信用」を欲しがる傾向にあると分析されています。
これは、革命で亡命する恐れのあった昔の王様が宝石を身につけていたことにも通じると言います。
ロレックスの人気は時計ブームではなくて、実際不安の時代が可視化された現象っていう風にも捉えられるのかもしれないな
時間を使う時計と、時間を残す時計
現代最大の比較対象として挙げられるのが、Apple Watchなどのスマートウォッチです。木野さんは、この2つも「売っている価値」がそもそも違うと語ります。
ロレックスが売るのは信頼、歴史、象徴性、継承性、自己物語、資産性です。一方スマートウォッチが売るのは利便性、接続性、健康管理、生産性、現在性だと整理されています。
ロレックスは時間の意味を売っていると。Apple Watchは時間の使い方を売っている。時間を使う時計と時間を残す時計っていう違いが出てくる。
Apple Watchは「この瞬間」を最適化する時計で、歩数や心拍、睡眠、次の予定までの時間を管理し、人生を運用するのに便利です。
対してロレックスは、いつ買ったか、なぜ買ったか、誰から受け継いだか、どんな日々を共にしたかという「人生を物語化する時計」だと語られます。
この違いを支えるのが、機械式でメンテナンスすればほぼ永遠に使える耐久性です。傷ついたベゼルや焼けた文字盤に時間が積もっていき、それがアンティークとしての価値にもつながっていくと話されています。
利便性・接続性・健康管理・生産性。この瞬間を最適化し、人生を運用する。時間を失わないための時計
信頼・歴史・象徴性・継承性・自己物語・資産性。人生を物語化する。時間を忘れないための時計
人は時計ではなく「自己肯定の儀式」を買う
ここから木野さんは、自身の思想として、人が本当に欲しいのは時計そのものではないと語ります。
時計としての機能や歴史は信頼を作るためのもので、一面に過ぎないという考え方です。
買う人が求めているのは、自分の努力は無駄ではなかった、自分はここまで来た、自分の人生は間違っていない、といった確認だと言います。
経営者やトップを走る人、誰にも理解されずに頑張っている人は、褒められる機会がとても少ないと木野さんは話します。
お金を稼いでいても、お金は使って初めて人生を豊かにするもの。ならば何に使うかという問いになり、頑張ってきたことを認めてくれるものに変えられるかが本質だと語られています。
頑張って買わないと手に入らず、永遠に使い続けられ、普段の生活でつけていいもの。それが手首で静かにモチベーションやアイデンティティを支えてくれるのではないかと話しています。
AI時代にこそ強いブランドとは
最後に木野さんは、これからのAI時代の話に触れます。情報が無料になり、スペック比較もレビュー要約も一瞬になり、価格比較も自動化されていく時代です。
どこでも同じ値段で買えて売れるようになった中で、ものに何が残るのか。それが歴史、物語、築き上げた信頼、一貫性、象徴性だと語られます。
検索とか新しく生むものでは測れない価値っていうのが本当に出てくるんじゃないかなと思うんですよね。自分自身に語ることができる唯一の価値になるんじゃないかな。
ロレックスは数値化できない意味を長年積み上げ続けてきたからこそ生き残っている、とも指摘します。
クォーツショックのようにトップクラスのブランドが潰れた時代もあり、そこを生き残る強さは歴史なしには成り立たないと語られています。
木野さんは、高級時計を買えないから頑張っていないわけではない、と強く付け加えます。金銭面で評価されにくい仕事や、設備投資・自己投資・子育てに費やす場面があるのは当然だと話しています。
そのうえで、頑張ってきた末に落ち着いて買える時期が来たとき、象徴として持てるものがあると知っておくだけで、くじけそうな時の支えになると語られました。
まとめ
高級時計、とりわけロレックスが売っているのは時間そのものではなく、頑張ってきた年月に意味を与え、記憶を受け止め、次の世代へ渡していける「人生の物語」なのかもしれません。実用時計として始まったブランドが、数値化できない価値を積み上げてきたからこそ、AI時代にも強く残ると木野さんは語ります。
- ロレックスは五大時計とは「競技が違い」、仕事で使える確信を商品化した実用時計として始まった
- 防水や自動巻きなどの技術を積み重ね、成功者が使ったことで後から成功者の時計という意味がついた
- 現代人が求めるのは資産価値だけでなく、不安の時代に持てる「形ある信用」でもある
- Apple Watchが時間の使い方を売るのに対し、ロレックスは時間の意味を売る「自己肯定の儀式」だと位置づけられる
- 数値化できない歴史や物語こそ、情報が無料化するAI時代に残る価値である
