なぜ今、ヴェブレンを紹介するのか
いつもはブランドの歴史を語っている竹野さんですが、今回は少し別の角度から話を始めます。
コラボやポッドキャストなどブランドの歴史を語る機会を増やしていくなかで、そもそもなぜそれをするのか、という根本を語らないまま始めてしまっていた、と振り返ります。
そこで、考え方のベースになった人物として、ソースタイン・ヴェブレンを取り上げると話します。
ヴェブレンはブランドの創始者ではなく、経済学者であり社会思想家です。ソースタイン・ヴェブレン19世紀後半から20世紀初頭に活躍したアメリカの経済学者・社会思想家。消費を社会的な観点から分析したことで知られます。
この人の言ってることって、やっぱりもうブランドそのものなんじゃないかな。かなり本質的なところを突いている内容なんじゃないかなと僕は思うんですよね。
あくまでブランドを話していく上での考え方のベースとして、ざっくり紹介するというスタンスです。詳しく知りたい人には、本を読んでみることをすすめています。
代表作『有閑階級の理論』と顕示的消費
ヴェブレンの代表作として『有閑階級の理論』が挙げられます。上流階級の消費やライフスタイルを観察するなかで導き出された内容です。有閑階級の理論ヴェブレンの主著。上流階級の消費行動を観察し、地位や見栄が消費を動かす仕組みを分析した著作です。
そこで出てくる中心的な概念が「顕示的消費」です。世の中の人がブランドに対して抱くイメージの大きな部分を、この顕示的消費が占めているのではないか、と竹野さんは考えます。
顕示的消費とは、簡単に言えば、自分の豊かさや地位を他人に示すための消費のことです。顕示的消費自分の富や社会的地位を他人に見せびらかすことを目的とした消費のこと。ヴェブレンが提唱した概念です。
ただし、ここが大事なところです。ヴェブレンは単に「金持ちが見栄っ張りだ」と言っているわけではありません。
もっとメタ的な視点で、社会の仕組みとして観察しているイメージだ、と竹野さんは説明します。
たとえばバッグは、普通に考えれば荷物を入れるために買うものです。しかしヴェブレンは、それだけではないと言います。
私はこういう人間です、私はこういう階層に属してます、私はこの世界のルールをわかっていますよ、っていうことが、無言の名刺になっている。
竹野さんもこの見方に共感します。ハイブランドでなくても、着る服や身につける道具は、その人の世界観を世の中にアピールしているのではないか、と話します。
例として無印良品の服を全身で着る人を挙げます。ブランド品を誇示するのではなく、ものがいいこと、環境に馴染むこと、飽きがこないことを大切にしている、という価値観を訴えているのではないか、という見方です。
働かないことがステータスだった時代
ヴェブレンは高価なものに目を向け、なぜ人は必要以上に高価なものを欲しがるのかを考えていました。
安いからこそ欲しくない、という感覚を持つ人が確かにいる、という指摘です。
その背景にあるのが「有閑階級」という考え方です。ざっくり言えば、生活のために働かなくてもいい階級のことです。
多くの人は食費や生活費のために働いています。しかし資産を回すだけで生きていける人たちにとって、昔は働かないこと自体がステータスでした。
現代のビジネスパーソンでは、忙しさがステータスになることもあります。予定が埋まっている、仕事ができる、といった具合です。
ですが、ヴェブレンが見た社会はむしろ逆でした。実用的な労働ではなく、趣味や思いに時間を使うこと自体が地位の証だったのです。
これは「顕示的閑暇」とも呼ばれます。時間を無駄にできる人が偉かった、という発想です。顕示的閑暇生活のために働く必要がないほど余裕があることを、時間の使い方によって他人に示すこと。有閑階級の特徴とされます。
現代でも、お金を気にせず景色のいい海で毎日釣りをして過ごす人は優雅に見えます。手間のかかる趣味も同じです。
ゆっくり入れるコーヒーで朝のひとときを過ごす。空間や世界観そのものを楽しむ。そうした過ごし方は、やはり優雅に映る、と竹野さんは言います。
予定が埋まり、仕事ができ、忙しいことが地位の証になりやすい
働かず、趣味や時間を贅沢に使えること自体が地位の証だった
ロゴは記号のショートカット
ヴェブレンは「ヴェブレン財」という、高いからこそ欲しくなるものの存在も指摘しました。ヴェブレン財価格が高いほど需要が増える性質を持つ財のこと。ステータス性が消費の動機になる商品を指します。
さらに、人は誰かと比べながら欲しがるという、金銭的競争や比較の重要性も語っています。
この考え方は、ロゴの価値を考えるときにとても使える、と竹野さんは言います。
ロゴはものの機能を高めません。ロゴが入っていても収納力が倍になるわけではありません。
それでもロゴには社会的な読み取りが働きます。持っている人はある程度の地位だろう、高いものだろう、人気のものを手に入れる感性がある人だろう、といった読み取りです。
ロゴ自体はつまり記号のショートカットなんじゃないか。ヴェブレン的に言えば、顕示的消費においてロゴは非常に効率がいい。
代行的消費と文化資産へのつながり
もう一つ、「代行的消費」という考え方があります。自分ではなく、家族や周囲が見せる消費のことです。代行的消費本人ではなく、配偶者や使用人など周囲の人の消費によって、その人自身の富や地位を示すこと。
かつて上流階級では、妻や使用人が美しく着飾っていることが、家長の富を示す場合がありました。
いくらお金を持っていても、奥さんが貧しい格好をしていれば優雅には見えません。むしろ本人より奥さんが綺麗な格好をしていることで、本人が望んでその格好をさせている、と示せるという見方です。
そこから、子供の教育や家族旅行へとつながっていきます。
その先にあるのが「文化資産」です。多くの経験を積み、社会のマナーを見てきた子は、多くの文化資産を持つことになります。文化資産教養、マナー、経験など、目に見えない形で受け継がれる資産のこと。社会で有利に働くとされます。
そして文化資産を持っていることが、社会で有利に働く、というのがヴェブレンの指摘です。
代行的消費
家族や使用人が着飾ることで、本人の富や地位を示す
教育・経験
そこから子供の教育や家族旅行へつながる
文化資産
経験やマナーが蓄積され、社会で有利に働く資産になる
ヴェブレンから見た価値の6つの側面
ヴェブレンのすごさは、消費の中に隠れた階級、欲望、見栄、社会的競争を、19世紀の時点で見抜いていたところにある、と竹野さんはまとめます。
特にラグジュアリーブランドは、ヴェブレン的に見れば顕示的消費を洗練させたシステムのようにも見える、と話します。
そして竹野さんは、消費そのものが価値につながると考え、いくつかのポイントに整理します。
これらが、物と価値を考えていくうえで深くつながる内容だ、というのが竹野さんの見立てです。
まとめ
ヴェブレンの顕示的消費という視点は、ブランドが機能ではなく社会的な意味を持つことを教えてくれます。ロゴや消費の裏側にある地位や欲望を見抜いた思想は、今のブランドを読み解く土台になります。
- ヴェブレンは経済学者・社会思想家で、代表作は『有閑階級の理論』
- 顕示的消費とは、豊かさや地位を他人に示すための消費のこと
- モノは機能だけでなく、社会的な意味も一緒に買われている
- ロゴは地位や感性を伝える「記号のショートカット」として働く
- 代行的消費や文化資産まで含め、消費はさまざまな価値につながる
