なぜ「買い物の未来」がゲームセンターなのか
Haruからのメッセージは「買い物の未来を見においで」だったのに、待ち合わせ場所は郊外のゲームセンターでした。隣で話す人の声が聞こえないほどの大きな音に、「ゲームセンター内の100台の機械が言い争っているみたいだ」と戸惑うSakuraに、Haruは入り口のクレーンゲームを見るよう促します。
そこには行列ができていて、並んでいるのは家族連れでした。大きなうさぎのぬいぐるみをほしがる男の子と、そのそばでスマホを操作するお母さんの姿があります。
待って、お母さんはオンラインで値段を調べてるの?
ぬいぐるみはネットのほうが安いし、明日には家に届く。それでも彼女は子どものためにコインを入れるんだよ。
Sakuraはその光景を「素敵でもあり、ちょっと不合理でもある」と言います。Haruはその両方こそが、この回の問いだと切り出します。
AI検索起点の注文が1年で15倍
AI検索経由で買い物をする人が本当にいるのか、というSakuraの問いに、Haruは数字を挙げます。Shopify Japanが追ったのは、AI検索から始まる注文でした。ChatGPTやGeminiに聞いて、そのまま買うという流れです。
(AI検索から始まる注文が)1年で15倍に増えたんだ。
15倍? 15%じゃなくて?
Haruは15倍だと念を押し、さらに日本の買い物客の約半数が、年末セールで商品やお得情報を探すのにAIを使うと答えたと続けます。
Sakuraも、スマホが「この炊飯器がおすすめ!これを買って」と言ったら、レビューも読まずに「いいよ」と従ってしまうかもしれないと打ち明けます。
それが新しい当たり前だと博報堂の買物研究所は言っている。何かを買う時はもう検索しない。話しかけるんだ。
Haruによれば、これからは一人で決めるのではなく、AIエージェントと一緒に決める時代になります。ただしSakuraは「一緒に決める、は言いすぎ。私はただうなずくだけ」と冗談めかします。
Haruは、炊飯器ならそれでいいかもしれないと応じます。「では本当に大事なものを買う場合は?」とSakuraが聞くと、Haruは「そのときは君の直感だ」と答えます。
椅子とゲームセンターが店として残る理由
エージェントが退屈な買い物を引き受けるなら、それでも自分が店に足を運ぶ理由は何か。Sakuraのその問いに、Haruは2つあると答え、1つ目を「椅子」だと言います。
椅子は写真だけでは自分の背中に合うかわかりません。実際に座ってみる必要があります。オフィス家具メーカーのオカムラは、去年の11月に個人向けの店を東京に開きました。
その店には10種類以上の椅子と、ゲーミングルームの模擬空間があり、専門スタッフによる30分の無料試し座りができます。
買う前に30分椅子に座る。それはどんなAIにもできない。AIには私の背中がないもの。
Haruはこれを「店は、自分の体で確かめる場所」とまとめます。そして2つ目の事例は、まさに目の前にあると言います。それがこのゲームセンターです。
ゲームセンター? ここで買い物してる人なんていないよ。
ところがHaruによれば、バンダイナムコは4月に富山のモールに複合施設を開きました。公式ショップやくじの景品店に加えて、ナムコのゲームセンターが販売フロアのすぐそばにあります。
公式ショップと、くじの景品店と、ナムコのゲームセンターが、同じ販売フロアにあるんだ。
その狙いについて、施設の責任者はこう語ったといいます。
「オンラインショッピングはどこにでもある。だから店は、同じ好みを持つ人が出会う場所であるべき」だと。
モール自体も「遊べるモール」と名乗っています。Sakuraはこれを「ゲームがあるショップではなく、たまたま物も売っているたまり場」だと言い換えます。
「体験」が物を売る、推し活という関係性
ただ、体験が重要視されると、人は買う量が減るのではないか。Sakuraのその疑問に、Haruは「そう思うだろうけど、そこが『物より体験』の落とし穴だ」と応じます。
体験は物を売れるんだ。数字を見てごらん。
Haruが挙げたのは、東京ディズニーリゾートの例です。グッズはゲスト1人あたりの支出の約30%を占めています。Sakuraも「たしかに、みんなキャラクターが印刷されたショッパーを持って帰る」とうなずきます。
次にHaruが挙げたのが推し活です。年間で約3兆5000億円、およそ220億ドル規模で、公式グッズの売上はチケット売上より上位にランクするといいます。
だから、まず感情があって、それを残すために何かを買うのね。
Haruはさらに、ある調査ではオンラインの買い物客の9割近くに「偏愛」があり、お金をかけているとします。半数以上は値上がりしても支出を削らず、その一番の理由は「生きる喜び」だったといいます。
AIが買い、人は「ほしい気持ち」を持ち続ける
Haruはそこが要点だと言います。エージェントが引き受けるのは、洗剤や炊飯器、最安値探しといった雑務です。引き受けられないのは、そもそも合理的ではなかった部分だと語ります。
じゃあ買い物は2つに分かれるのね。AIが買うことをやって、私たちは(欲しいという)気持ちを持ち続ける。
そう話しているうちに、行列の男の子がうさぎのぬいぐるみを取りました。うれしそうなその顔を見ながら、Haruは核心を口にします。
あのぬいぐるみはネットのほうが安い。でもここにいる誰も気にしていない。さぁ、ここに200円ある。君もトライしてみるかい?
Sakuraが「わたしに不合理になれって言ってるの?」と冗談で返すと、Haruは買い物の中でロボットが君の代わりにできない唯一の部分だと答えます。
この回は、AIが買い物を代行する時代でも、人が店に向かう理由は消えないことを示しています。合理的に処理できる買い物はAIに任せつつ、ほしいと思う気持ちや、同じ好みの人と出会う体験は人の手に残るという見立てです。
洗剤や炊飯器などの日用品、最安値探しといった合理的に処理できる買い物
椅子の試し座りのように体で確かめる部分と、推しや偏愛のような「ほしい気持ち」
まとめ
AI検索起点の注文が1年で15倍に増えるなかで、それでも人はクレーンゲームに並び、店に足を運びます。合理的な買い物はAIに任せ、体で確かめる体験や「ほしい」という気持ちは人の側に残る、という二極化がこの回の見立てです。
- Shopify JapanによればAI検索から始まる注文は1年で15倍に増え、日本の買い物客の約半数が年末セールでAIを使うと回答した
- オカムラは30分の無料試し座りができる椅子の店を、バンダイナムコは販売フロアにゲームセンターを併設した複合施設を開いた
- 東京ディズニーリゾートではグッズがゲスト1人あたり支出の約30%を占め、推し活は年間約3兆5000億円規模とされる
- オンラインの買い物客の9割近くに「偏愛」があり、半数以上は値上がりしても支出を削らない
- AIは合理的な買い物を代行できても、「ほしい」という気持ちや同じ好みの人と出会う体験は人の側に残る



