五つの味のうち、なぜ「うま味」は日本発なのか?
人間が感じる味は、大きく分けて甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の5種類だといわれます。小野寺さんは今回、このうちのうま味に焦点を当て、餃子のおいしさの正体を探ります。
小野寺さんによると、うま味は日本で見つかった味で、英語でもそのまま「umami」で通じるそうです。
実はですね、この旨味っていうのは日本で見つかった味です。英語でもそのまま旨味で通じるそうです。
うま味を見つけたのは、幕末の京都で薩摩藩士の家の次男として生まれた化学者、池田菊苗さんです。池田さんは東京帝国大学で化学を学び、明治32年にドイツへ留学しました。
ドイツで池田さんが師事したのは、のちにノーベル化学賞を受けるオストヴァルト ── ドイツの化学者ヴィルヘルム・オストヴァルト。触媒や化学平衡の研究で知られ、1909年にノーベル化学賞を受賞しました博士です。同じ頃のドイツには、森鴎外さん、北里柴三郎さん、滝廉太郎さんもいたといいます。
池田さんはドイツ人の体格の立派さに驚き、日本人の栄養状態を良くしなければならないと強く願うようになったそうです。小野寺さんは、この思いが後のうま味研究につながったと話します。
夏目漱石が「えらい哲学者」と驚いた化学者
明治34年、池田菊苗さんはドイツからロンドンへ渡り、短い期間ながら夏目漱石さんと同じ下宿で暮らしました。漱石さんは後年、池田さんのことを振り返っています。
(漱石さんは)理学者だと思って話してみたら、えらい哲学者で驚いた、ロンドンで池田さんに会えたのは自分にとって大きな利益だったと。
小野寺さんは、漱石さんにそう言わしめるほど池田さんは立派な人物だったと紹介します。池田さんは同じ年に帰国し、東京帝国大学の教授になりました。
帰国から6年後の明治40年、池田さんは奥さんが買ってきた昆布に注目します。これを使えば味覚に訴える調味料が作れるのではないか、と考えたそうです。
京都で生まれ育った池田さんは、うま味を大切にする京都の食文化の中で、昆布出汁の味に親しんでいたのかもしれない、と小野寺さんは推し量ります。
当時の科学では色や香りは作れるようになっていた一方、味の製品は甘味料くらいしかなかったといいます。
12kgの昆布から取れた30gの結晶
池田菊苗さんは、甘味・酸味・塩味・苦味の4つとは別の味があるはずだと考え、自宅の研究室で助手と二人三脚の研究を進めました。
明治41年2月、池田さんはついに昆布出汁から結晶を取り出します。12キログラムの昆布から取れた結晶は、わずか30グラムでした。
ドイツ留学
ドイツ人の体格に驚き、日本人の栄養状態を良くしたいと願う
昆布への注目
明治40年、奥さんが買ってきた昆布で調味料が作れると考える
結晶の抽出
明治41年2月、12kgの昆布から30gの結晶を取り出す
グルタミン酸
4つの味のどれでもない味を「うま味」と名付ける
取り出した結晶を舐めると、最初は酸っぱく、酸味が消えると4つの味のどれでもない味が残ったそうです。それがグルタミン酸でした。
グルタミン酸そのものは、慶応2年にドイツの科学者リッドハウゼンさんが小麦のグルテン ── 小麦に含まれるたんぱく質の一種。パンや麺のもちもちした食感のもとになりますから見つけており、名前もそこに由来します。
池田さんはグルタミン酸に漢字の当て字を書き、この味を「うま味」と名付けました。44歳の時のことだと小野寺さんは紹介しています。
味の素の誕生と、世界がうま味を認めるまでの長い道のり
明治41年7月、池田菊苗さんは調味料の作り方で特許を取り、翌年「味の素」として売り出されます。ビジネスを担ったのは、現在の味の素の創業者である二代目鈴木三郎助さんでした。
小野寺さんによると、うま味調味料として販売されたのはこれが世界で初めてだったそうです。川崎には味の素のうま味体験館もあり、こうした歴史に触れられます。
ただ、発売当初の世間の反応にはネガティブなものもありました。原料は蛇だというデマが流れ、会社がそれを否定する広告を出したこともあったそうです。
美食家の北大路魯山人 ── 陶芸家・書家・料理家として活躍した美食家。器づくりでも知られ、食へのこだわりの強さで有名ですさんは、料理人がうま味調味料を使いすぎると味を損なうと批判しました。一方で、魯山人さん自身は料理をするときにうま味調味料を使っていたそうです。
賛否両論の中で、うま味が世界に認められるまでには長い時間がかかりました。小野寺さんは、その歩みを年代順にたどります。
平成12年頃の受容体の発見によって、うま味が実在することが科学的に裏付けられました。さらに胃でもうま味を感じ、消化を助けていることもわかってきたと小野寺さんは説明します。
うま味の三大成分は、足し算ではなく掛け算
うま味はグルタミン酸だけではありません。小野寺さんは代表的なうま味成分として3つを挙げ、そのすべてを日本人が見つけていると紹介します。
| 成分 | 代表的な食材 | 発見者 |
|---|---|---|
| グルタミン酸 | 昆布 | 池田菊苗さん(明治41年) |
| イノシン酸 | 鰹節 | 池田さんの弟子・児玉新太郎さん(大正2年) |
| グアニル酸 | 干し椎茸 | 国中明さん |
小野寺さんは、日本人は出汁の文化で育ってきたため、うま味に敏感なのではないかとも考えられていると話します。
この3つの成分を組み合わせると、うま味が4倍、8倍に感じられるといわれます。これがうま味の相乗効果です。味の素も、グルタミン酸を中心にイノシン酸やグアニル酸を使っています。
昆布だけだとやっぱり物足りない。鰹節だけだと物足りない。やっぱり昆布と鰹節の出汁を組み合わせる方がよりうま味はある、感じるねっていうことで。
小野寺さんは、昔からの日本の料理人は、この掛け算を感覚的・経験的に見つけてきたのだろうと語ります。
餃子は、皮で包んだ合わせだし?
餃子にもうま味はたっぷり入っています。小野寺さんによると、味の素を加えることもありますが、それだけではなく、餃子の具材それぞれにうま味が含まれているそうです。
豚肉にはイノシン酸、白菜・キャベツ・ニラ・玉ねぎといった野菜にはグルタミン酸があります。つまり餃子の餡には、もともと相乗効果が起きる組み合わせが入っているわけです。
小野寺さんは、餡をよく混ぜてしっかり馴染ませることで、この相乗効果をより感じやすくなると話します。キノコを加えれば、3つのうま味がそろうことになります。
白菜はキャベツの倍ほどのグルタミン酸を含むといわれ、うま味を強く感じられます。ただし水分が多いため、餃子に使うのは難しいともいわれるそうです。
下味の醤油やオイスターソースなどの調味料にも、うま味は含まれています。小野寺さんは、餃子を皮でうま味を外に逃がさず閉じ込め、温めて食べる料理だと捉えています。
京都「ぎょうざ処 亮昌」の、和風出汁が効いた餡
今週のお取り寄せ餃子は、池田菊苗さんの生まれ故郷である京都から、餡に和風の合わせ出汁を使う「ぎょうざ処 亮昌」の「亮昌ぎょうざ」です。
京都市内に店舗がある亮昌では、お昼の餃子定食にお味噌汁が付いてきます。小野寺さんは、餃子とご飯とお味噌汁の相性がとてもいいと話し、その理由は原材料にあると説明します。
亮昌の餡には、ソウダガツオ、ウルメ、サバなどの節の出汁に、味噌と醤油が加わります。節のイノシン酸と、味噌・醤油・野菜のグルタミン酸が重なり、餡の中で合わせ出汁ができあがるわけです。
ニラの代わりに京都の伝統野菜である九条ネギ ── 京都の九条地域が発祥とされる青ネギ。やわらかく甘みがあり、京野菜の代表格の一つですを使い、豚肉は京都の餅豚、味噌は京都の料亭御用達の店の田舎味噌です。中華調味料は一切使っていないそうです。
こうした上品な京餃子の味が評価され、亮昌はミシュランガイド京都・大阪2020で京都を代表する餃子店として選ばれました。通販でも購入できるため、小野寺さんはご飯と味噌汁、それに漬物との組み合わせを勧めています。
タレをつけると、もう一度相乗効果が起きる
小野寺さんによると、餃子のうま味の掛け算は餡の中だけでは終わりません。焼き上がった餃子にタレをつけると、うま味の相乗効果がさらに増していくといいます。
醤油にはグルタミン酸が含まれ、米酢や黒酢にはコハク酸 ── 貝類などにも含まれる有機酸の一種。酸味とともにうま味を感じさせる成分ですという、うま味を感じさせる酸味が入っています。
肉と野菜のうま味に、お酢や醤油のうま味をバランスよく合わせることが、餃子をよりおいしくするひと手間になると小野寺さんは話します。タレの量やかけ方、舌に当たる場所でも味が変わるので、いろいろ試してほしいとのことです。
お肉は、寝かせると旨くなる
肉のうま味は時間とともに変わっていきます。小野寺さんは、動物の筋肉にあるエネルギーのもとになる物質が分解されてイノシン酸ができ、熟成させるとアミノ酸も増えてうま味が増すと説明します。
ただし熟成が進みすぎると腐敗に向かい、苦味や臭みが出てきます。おいしさと傷みは紙一重だといいます。
分解
筋肉のエネルギーのもとになる物質が分解され、イノシン酸ができる
熟成
アミノ酸も増え、うま味が増していく
熟成しすぎ
腐敗に向かい、苦味や臭みが出てくる
飯田橋の「おけ以」では、肉を寝かせてから白菜を加え、さらに一晩寝かせるといった工夫をしているそうです。小野寺さんは、こうした店がうま味が増すギリギリのところを狙っていると紹介します。
「餡をなじませる」とよくいわれますが、肉と野菜の素材感が立った状態もおいしい一方、一晩寝かせると馴染むと同時にうま味も増していくといいます。
焼きたて熱々がおいしい、は錯覚?
うま味の感じ方には温度も関係しています。小野寺さんによると、熱すぎるとうま味は感じにくく、最も感じやすいのは50度前後だといわれているそうです。甘みについても同じことがいえるといいます。
小野寺さんは、焼きたての餃子を少し冷まし、50度くらいまで落ち着かせて食べると、うま味をより感じやすくなると話します。
うま味をしっかり感じられると、塩を減らしてもおいしく食べられるという利点もあります。うま味が足りない料理は塩を足したくなり、塩味を増やすとうま味がなくてもおいしく感じてしまうからです。
塩をかけたくなり、塩味でおいしさを補ってしまう
塩が少なくてもおいしく感じられる
小野寺さんは、おいしく減塩できれば、池田菊苗さんが最初に願った日本人の体格向上にもつながると語ります。現在の日本人に体格の立派な人が多いのは、たんぱく質の多い食事や経済的な理由が大きいとしつつも、池田さんの願いはかなり叶ってきているのではないかと話しています。
「調味料(アミノ酸等)」の正体は?
小野寺さんは日頃から、スーパーで冷凍餃子の原材料表示を見てほしいと呼びかけています。そこには「調味料(アミノ酸等)」と書かれたものが非常に多く、これがない餃子を探す方が難しいほどだそうです。
この表示の中身として最もシェアが大きいといわれるのが味の素です。味の素はグルタミン酸に、イノシン酸やグアニル酸を加えたうま味調味料として販売されています。
うま味調味料はかつて「化学調味料」と呼ばれ、化学的に合成されたものを口に入れて大丈夫かといわれることもありました。
しかし小野寺さんによると、味の素の原料はサトウキビの糖蜜、キャッサバ芋、トウモロコシのデンプンなどです。味噌や醤油と同じように発酵させて作るもので、化学的に合成しているわけではありません。
うま味の三大成分が1つに入っているため、手軽にしっかりうま味を感じられることから、多くの餃子店に欠かせないものになっていると小野寺さんは話します。
実際、その味の素を入れた餃子と入れない餃子を作って比べてみると、やっぱり明らかに味の素入ってる方が美味しく感じるんですね。
この量がほんのちょっぴりでも大丈夫。ほんのちょっぴりでも全然変わるんですね。
餃子店でも、味の素をドバドバ入れることはなく、大量に作る中でほんの少し加えるだけで、うま味がしっかり馴染んでいくそうです。
一方で、亮昌のように出汁と味噌でうま味を作る餃子もあります。小野寺さんは、うま味をどこから出すかに良し悪しはなく、その餃子に合った作り方や作り手のポリシーを感じながら味わってほしいと語ります。
うま味の向こうに見える、作り手と池田博士の情熱
小野寺さんは最後に、今回の話を振り返ります。うま味を誰が発見し、どう作られ、どんなものなのかをたどったうえで、50度くらいに冷まして食べるとうま味をより感じられることなどを紹介しました。
一口ずつ噛みしめながら、餃子の中にどんなうま味が隠れているのか、どんな食材の味が引き立てられているのかを想像すると、よりおいしく感じられるはずだと小野寺さんは話します。
その餃子を作っている方々の思いの向こう側には、池田博士の旨みにかける情熱もあったんだなというふうなことをですね、歴史として、ストーリーとして感じていただけると、より美味しく感じられるかなと。
番組の最後には、11月20日から22日に池袋サンシャインシティで開かれるニッポン全国物産展に焼き餃子協会が出店することが告知されました。群馬の金星食品さんも出店し、ジャパン餃子大賞2026を受賞した餃子3種類が用意されるそうです。
物産展では、最近餃子の通販を始めた若手のチャオズリサさんも店頭に立ち、手作り餃子を販売する予定だと紹介されています。
まとめ
うま味は、池田菊苗さんが昆布から見つけたグルタミン酸に始まり、長い時間をかけて世界に認められた日本発の味です。餃子は、肉・野菜・調味料のうま味が皮の中で重なり、タレでさらに掛け算される料理だといえます。
- うま味は池田菊苗さんが明治41年に昆布から発見し、昭和60年に「umami」として国際的に認められた
- グルタミン酸・イノシン酸・グアニル酸を組み合わせると、うま味は4倍、8倍に感じられるといわれる
- 餃子の餡には肉のイノシン酸と野菜のグルタミン酸がそろい、タレの醤油やお酢でさらに相乗効果が起きる
- うま味を最も感じやすいのは50度前後で、焼きたてを少し冷ますとよりおいしく、減塩にもつながる
- 「調味料(アミノ酸等)」の多くは発酵で作られるうま味調味料で、出汁で作る餃子も含め作り方に良し悪しはない



