「おいしい組織」という番組名は、どこから来たのか
この回は、番組名「おいしい組織」の由来を宇尾野さんが明かすところから始まります。組織づくりを料理になぞらえたコンセプトが、そもそもの出発点でした。
宇尾野さんによれば、料理の味は食材だけでなく、誰が作ったか、どこで食べたか、誰と食べたかによっても変わります。組織も同じで、パターンで型にはめるより、そこに誰がいて、どんな営みをしているかで持ち味が決まる、という発想です。
全部を難しく考えるよりも、先に料理を作るぐらいの感覚で楽しくやりましょうよっていうのが、元々の(おいしい組織の)コンセプトを作った時のアナロジーです。
キャッチコピーの背景には、糸井重里さんの「おいしい生活」があったといいます。宇尾野さんは、この言葉のパワーを借りたと、公の場では初めて明かしました。
これパクっていいかわかんないけど、ちょっと使わせてもらおうかという、「おいしい組織」っていうのが出てきた。
組織を広く捉える──仕組みだけでなく「食べるシーン」まで
篠田さんは、料理のメタファーを聞いて、初めは食材や調理法をイメージしていたものの、宇尾野さんの話が「食べるシーン」にまで及んだことに引き込まれたといいます。
篠田さんによれば、「組織」という言葉から想像するものは、ともすると組織図や人事制度だけになりがちです。しかし本当は、権限の分担に関わる人たちの影響のし合いや、事業戦略・事業の状況との関係まで含めて組織だと指摘します。
まずこの捉え方をすごく広くするっていうのは、すごく大事な着眼点です。
その上で篠田さんは、同じ料理でも体調や同席するシチュエーションが合わなければ味わえない、逆になんてことない食べ物が状況次第で思い出深くなる、という主観性を挙げます。組織も、一人一人の体験で成り立っている面があるからです。
クオリティを磨くより、いかに「文脈を揃える」か
篠田さんがここで打ち出すのが、「文脈が揃う」という考え方です。おにぎりのようなありふれたものでも、シチュエーションがフィットすればものすごくいいものになる、という例で説明します。
組織を一人一人が「よかった」と体験できるかどうかは、一つ一つのクオリティを磨き込むだけでは決まらない、と篠田さんは言います。すべてを磨くのは無理だからこそ、意識は別のところへ向かいます。
そして篠田さんは、文脈は上から言われても揃わない、と強調します。前回話した「聞いてもらう時間」が大事だという主張も、ここにつながると説明しました。
自分で納得しないと、自分なりのここにいる意味っていう文脈はできない。
宇尾野さんも、経営者やリーダーがすべきことは「これに沿ってください」と渡すことではない、と応じます。むしろ、解釈するための素材を配り、自分で再解釈できる機会を作ることにパワーを使ってほしいと語りました。
ミシュランかB級グルメか──経営者が設計する「おいしさ」
池原さんは、「おいしさ」の定義を突き詰めると、そもそもおいしいとは何かという問いに行き着くと投げかけます。
篠田さんは、「おいしい生活」というコピーが生まれた背景として、糸井重里さんが海外の仕事で現地の食事が口に合わず、帰りの機内食がとてもおいしく感じられた、という体験を語ったことがあると紹介します。おいしさが状況次第であることを示すエピソードです。
これを受けて池原さんは、経営者の組織づくりを2つの方向で整理します。10人中8人が高いお金を出しても集まるミシュランのような組織を目指すのか、B級グルメが好きな人が集まる組織を目指すのか、という問いです。
多くの人が高い対価を払っても集まる、客観的に高評価の組織。ただし当日それが合わない人も出てくる
万人向けではないが、その味を好む人が集まる組織。誰に来てもらうかを思想として設計する
組織を流れる「時間」と「リズム」をどうマネージするか
篠田さんは、経営者にとって大事なのに意外と語られていないテーマとして、組織の中を流れる時間、あるいはリズムを挙げます。手を打ってから成果が出るまでのタイムラグは、事業や持ち場によってかなり違うからです。
これも料理にメタファーがぴったり合う、と篠田さんは言います。短時間でかき込む満足感もあれば、居酒屋で4時間ダラダラ過ごすのがおいしい時もある、という具合です。
篠田さんは、時間についてもっと主体的になれるといい、と提案します。ミーティングは30分か1時間と決まりがちですが、時々わざと時間の流れを変えることは経営者にできる、という指摘です。
明日の撮影全部キャンセルして、みんなで集まろうみたいなことも、自分の立ち位置だったら確かに見えますね(と、ある経営者が言った)。
宇尾野さんも、動いてしまっているシステムを調整する機能を誰が持つかが大事だと応じます。オフサイトのように半日や1日を取るのも、ペースを変える手法の一つだと篠田さんは補足しました。
なぜエールは「画面オフ・音声のみ」なのか
池原さんは、聞き合い・認め合う時間は対面が良いのか、オンラインでも可能なのか、という質問の多いテーマを投げかけます。
篠田さんによれば、エールは基本リモートワーク中心の会社ですが、月に一度は必ず対面で会い、ビジネスのアップデートや交流の時間を作っているといいます。半期ごとの振り返りでは、互いにインプットをもらい合う期間もあり、これは対面が良かったという声が社内から出るそうです。
一方で、エールのサービス自体はオンラインで、しかも画面オフ・音声のみ、実質は電話だと篠田さんは明かします。
相手のお顔も見えないし、自分のお顔も出さない。
篠田さんは、その理由を「思い込みの発動」で説明します。表情が中途半端に見えると、たとえば年上だと感じただけで話しづらくなるなど、視覚情報が雑音になりうるからです。
さらに篠田さんは、オンラインでは微細な表情が見えず解像度が低すぎるため、脳が「わからない」という動き方をするという研究もあると紹介します。顔を見えなくして音声だけにする方が、視覚的な雑音が入らないという考え方です。
(イヤホン越しに)むしろ至近距離で他の人の声が聞こえてくるってないじゃないですか、対面だと。ものすごい没入体験になるんですよね。
篠田さんは、対面と音声のどちらが良い悪いではなく、別の体験としてどう使い分け、組み合わせるかだと締めくくりました。
聞かれた体験が、会議を変えていく
池原さんは、没入体験を通じて働く人たちに共通するテーマがあるのかと尋ねます。
篠田さんは、いろんなレイヤーがあるとしつつ、まず自分のモヤモヤの正体が見えてくること、さらに一部の人には視点の転換が起きることを挙げます。たとえば「部下が思いをわかってくれない」と感じていた人が、ある瞬間に「部下から見た私はどうなのか」と考え始める、という変化です。
客観的には何も変わっていなくても、本人の他者や状況の捉え方が変わることで、発する言葉や声のかけ方、タイミングが変わり、それが周りに波及していくと篠田さんは説明します。
具体例として篠田さんは、ある会社で幹部層が一斉にエールのサービスを受けたケースを挙げます。互いに「聞いてもらっている」とわかっている状態で、会議の雰囲気が変わったといいます。
若手が発言しようとした時、上司がつい「大体わかった、こういうことね」とカットインしてまとめに入ろうとする。そこで別の一人が声をかける場面が生まれたそうです。
ちょっと最後まで聞きましょうか?
聞かれる体験をしたからこそですね。
データで最も上がった「心理的安全性」と「ミッションへの回帰」
篠田さんは、100以上のプロジェクト、人数分のデータを比較して、ビフォーアフターでスコアが最も上がった項目を紹介します。1つは、難問に直面した時に会社のミッション・ビジョンにまで立ち戻って考えるようになること、もう1つは心理的安全性でした。
宇尾野さんは、心理的安全性が高まるのはイメージが湧くものの、ミッション・ビジョンへの回帰とのつながりが分かりにくいと質問します。
篠田さんの仮説は、自己理解が進むこととつながっている、というものです。聞いてもらい自分のことを話すなかで、なぜこの仕事を続けているのか、自分が大切にしたいことは何かに少しずつ気づいていくといいます。
そのレイヤーの自己理解は抽象度が高く、会社のビジョンやミッションも同じく抽象度が高い、と篠田さんは言います。抽象度が近づくことで、両者が重ねやすくなるという説明です。
宇尾野さんも、新しいメンバーが入社時の気持ちを薄れさせてしまう場面に重ねます。仕組みのなかでがんじがらめになった時、ふと立ち止まって自分の言葉を聞き直すことで、会議や仕事の位置づけを調整したくなる、という流れです。
「浸透させる」という言葉が嫌いな理由
宇尾野さんが「社長からの一言より、まず自分で気づくこと」と整理すると、篠田さんはビジョン・ミッションを「浸透させたい」という言い方そのものが嫌いだと語気を強めます。
それがなんか人を人として扱ってないでしょみたいに、ちょっとすいません、語調が強くなります。
篠田さんは、上から落とす、いちいち配備するといった発想への違和感を率直に示しました。
宇尾野さんは、ここで浮かぶキーワードは「信じる」ことではないかと応じます。入社した以上、思った通りにいかなくても、ふと立ち止まれば思い返してくれる社員がいると信じられれば、「浸透させねば」という発想にはならないはずだ、という見方です。
使命感からね、来るんだろうということはもちろんそうなんですけどね。
難しいのは、一人一人の「ラストワンマイル」
宇尾野さんは、どんな時にエールへの相談が来るのかを尋ねます。
篠田さんによれば、事業戦略と紐づく形で、組織風土やキャリア形成支援といった人事的な大きなコンセプトを進める必要がある、という文脈が多いといいます。企業は社内で正しい取り組みを進めているものの、最後のつなぎが難しいのだそうです。
篠田さんは、企業が自力でも時間をかければつながるとしつつ、エールを使うと数ヶ月という比較的短い時間で変化が見えてくるため、効率の観点で選ばれていると説明します。
池原さんは、会社がそういう場を用意すること自体が重要だと補足します。上司部下ではやりにくい、聞かれた体験のない上司は聞くことができない、といった状況のなかで、会社が場を用意することがメッセージになる、という指摘です。
組織に「痛い」を拾うセンサーを張り巡らせられているか
最後に宇尾野さんは、文脈を揃えることに苦心する経営者へのメッセージを求めます。
篠田さんは、「聞く」と言うと解釈が広がって難しく感じられると前置きし、ある経営者が社内向けに語っていた「センサー」の話を紹介します。
センサーみたいなものをちゃんと組織の中に張り巡らさないとうまくいかないよね、これをどういうふうにやりますか?
その経営者の例では、金メダルを目指すスポーツ選手が、どこか痛いと検知したら目標は変えずにメニューを変える、という比喩が使われていました。
組織も同じで、達成したい目標は変えなくても、新しい試みを始めれば組織のあちこちから「痛い」というメッセージが出てくる、と篠田さんは言います。それをキャッチできないまま同じメニューを続けると、途中で倒れてしまうという指摘です。
宇尾野さんは、対話や聞いてもらう機会を作った後、そこから浮き上がってくる次のヒントに耳を立てることが大事だと理解を示し、この回を「組織の声をちゃんと聞きましょう」という言葉で締めくくりました。
まとめ
組織の「おいしさ」は、一つ一つのクオリティを磨き込むことより、一人一人が自分で納得して文脈を揃えることから生まれる、という視点で語られた回でした。聞くこと、時間のマネジメント、そして「痛い」を拾うセンサーが、その土台になります。
- 組織は組織図や制度だけでなく、人の影響のし合いや事業状況、そして一人一人の体験まで含めて捉える
- すべてのクオリティを磨くのは無理で、大事なのは文脈が揃うこと。文脈は上からは揃わず、自分で納得して初めてできる
- 組織を流れる時間やリズムは経営者が主体的に変えられる。わざとペースを変え、いっぺん時間を止めることもできる
- 聞かれた体験は自己理解を深め、会議の空気や、ミッション・ビジョンへの向き合い方まで変えていく
- 難しいのは施策を一人一人が自分ごとにするラストワンマイル。組織に「痛い」を拾うセンサーを張り巡らせられているかが問われる


