GMOの出社回帰が呼んだ議論
今回のテーマは「出社、リモート、ハイブリッド、結局どこに落ち着く?」です。きっかけは、2025年7月にGMOの熊谷さんが発信した出社回帰の話でした。
宇尾野さんによれば、GMOは元々リモート勤務を許容していた会社です。それが在宅勤務から出社回帰へと大きく舵を切り、大企業での取り組みとして話題を呼びました。
元々フルリモート、コロナっていうところから、ハイブリッドを取り入れられていたところが、フル出社っていうところへの切り替えっていうところで、いろんな意見がネットにも出ていたなと思ってます。
池原さんは、これがGMOだけの話ではないと指摘します。アメリカでも出社回帰が増えているというニュースが出ており、同じ議論が各所で起きているという認識です。
宇尾野さんは、コロナ後に出社回帰の波が一度あり、この2〜3年も相談を受けてきたと話します。今まではこういう規定・文化でやっていたが調整したい、という相談です。
さらにLINEヤフーでも在宅勤務を見直す取り組みがあったといいます。こうした事例から新しい波が来たとき、どう取り組むかを考えるのが今回のテーマです。
出社100に対しリモート89.6というデータ
池原さんは、聞き手には従業員も経営者もいて、それぞれの立場や感じ方があると前置きします。個人の利便性でいえば、通勤がない方が楽なのは事実だと認めます。
個人の利便性、もちろん通勤ない方がめちゃくちゃいいですよね。
一方で、組織全体で見るとデータは別の姿を示します。池原さんは、出社の生産性を100とするとリモートは89.6%、創造性やイノベーションでは対面よりリモートが20%低いというデータを挙げます。
宇尾野さんは、どの働き方を選ぶにせよ、経営判断として「こっちに持っていきたい」というものがある中で判断することが大事だと話します。
そのうえで宇尾野さんが持ち出したのが、両利きの経営のキーワードです。深化と探索という2つの活動で、向いている働き方が異なるという整理です。
宇尾野さんによると、業務の専門性を深める「深化」はリモートや在宅の方が結果が出やすいといいます。集中して深めていく作業と相性がよいという見方です。
一方で、新規事業やチームの新しい働き方、AIの使い方を探る「探索」は、対話しながら進めるハイブリッドや出社の方が結果が出やすいと話します。
今この会社とかチームがどのフェーズなのかっていうのによって選択できると一番いいんだろうなっていうのが私なりの考えです。
集中作業と相性がよく、リモート・在宅の方が結果が出やすい
対話が必要で、ハイブリッドや対面の方が結果が出やすい
「Zoomでいいじゃん」への答え
池原さんは、クリエイティビティが必要でAIに代替されにくい業務ほどコラボレーションが要ると整理します。そのうえで「Zoomをつないで話せばいいじゃん」という声にどう答えるかを問います。
宇尾野さんの答えは「半分正解」です。言語情報はオンラインでも同じように流れる、しかし非言語の情報や同期性は対面でしか得にくい、という見立てです。
(オンラインは)言語情報においてはちょっと速度がずれるぐらいで、基本的には同じように流れてるので、ただ一方で非言語の情報とか、同期性みたいなところでいくと、なかなかそこは情報取れなかったりします。
宇尾野さんは、対面だと隣の人がどんな動きをしているか、何を考えているかがなんとなくわかると話します。対面だから得られる情報量は、対面の方が非常に大きく有効だという体感です。
池原さんは、Zoomをつないで終わったら消して作業に戻るのは、情報交換をテキストでするか口頭でするかの代替手段にすぎないと言います。対面が指すのは別の文脈だという指摘です。
ちょっとふっと湧いた時に、隣にいた(宇尾野さんに)「ねえねえ、これってさ、どういうこと?」って言って、その場で偶発的に発生するとか、テキストだとポンと送って返事来るまで待ってるところが、対面だとその場で顔の表情とか見ながら発生していく。
宇尾野さんは、これを職場全体の観察情報と呼びます。あちらで2人が話している、その2人に一分だけいい?とカットインできる、そうしたやり取りがリアルな職場にはあるという話です。
リモート手抜きとサボりの問題
池原さんは、ハイブリッドが一番よいという声はあるものの、リモート中の勤怠管理は経営者にとって大きな課題だと言います。そこで最近聞いた「リモート手抜き」という言葉を紹介します。
すごい強い言葉ですね。
宇尾野さんは、空いた時間の使い方が問題になると整理します。副業や学びが会社に推奨されていれば手抜きではなく、むしろハイパフォーマンスのための調整だといいます。
一方で、副業が推奨されず、余白を別の仕事に充ててほしい会社では、同じ行動が「手抜き」と見なされてしまうと話します。捉え方は会社の方針次第だという整理です。
池原さんは、成果を出したうえで残り時間を雇用契約に沿って使うなら問題ないとしつつ、管理のしにくさを挙げます。そして、より深刻な「サボり」の実例を語ります。
(知り合いの)チームのメンバーで全くリモートワークの時に連絡が取れない人がいるって。何を電話してもテキストしても連絡がない。後から聞くと寝てたとか、パチンコ行ってたとかっていうのは聞いたことがあります。
その管理職は連絡がつかず諦めてしまったといいます。宇尾野さんは、こうした積み重ねが出社に振り切る判断につながると見ます。
宇尾野さんは、出社で生産性が上がるという結果は「よりいい仕事ができる」と「手が抜けなくなる」という2つの変数からできているのではないか、と分析します。
ハイブリッドは離職率を33%下げる
池原さんは、フルリモートの文化から、対面のコラボレーションや場の力を皆が取り戻し始めた雰囲気だと言います。そこでハイブリッドがいいとこ取りではないか、という議論に入ります。
これはもう完全に私個人の意見ですけど、ハイブリッドの方が仕事の成果を最大化するという意味においては、非常によき打ち手です。
宇尾野さんは、出社が週2日か月1回かなど選択肢はあるとしつつ、選択できる形を取るとよいと話します。池原さんは、これを裏づけるデータを紹介します。
池原さんによれば、マッキンゼーの調査ではハイブリッドはフルリモート・フル出社のどちらよりも生産性が5%以上高く、チームの協業と満足度のバランスもよいといいます。
さらに国内の分析でも、週2〜3回の出社は人事評価・昇進・生産性にプラスで、離職率が33%減るといいます。特に女性や若手のメンバークラスで効果が大きいという結果です。
それ突きつけられると、じゃあもうそれしかないなっていう感じですね。
宇尾野さんは単純な話に聞こえるが、どの経営者も悩むテーマだと言います。賃貸か購入かのように答えが出しにくい、ただ統計は認識しておけるとよい、という締めくくりです。
極端から真ん中へ寄せる経営判断
池原さんは、最終的に決めるのは経営者であり、どの覚悟を持つかが重要だと話します。ずっとハイブリッドならよいが、極端に寄った状態を真ん中に寄せるのは悩ましいと言います。
特に、フルリモートから出社を増やす、あるいはフル出社にフルリモートの環境を作るといった大きな移動は、相応の負荷がかかるという指摘です。
幅の中での移動距離がすごく大きければ大きいほどカロリーがかかるんで、カロリーをどれだけ判断したタイミングで腹をくくれるか。
宇尾野さんは、働き方が変わると社員の構成や働く内容まで変わりうると話します。それをどれだけ許容できるかが意思決定で大事だという見方です。
池原さんは、個人からはこっちがいい・あっちがいいという声があるにせよ、経営者がどちらに判断するかは覚悟と向き合うべきテーマだとまとめます。
切り替えの伝え方はファクトか哲学か
池原さんは、ハイブリッドが良さそうという話から一歩進めて、実際にどうやるのかというHowを知りたいと問いかけます。切り替えの通知の仕方と、その後の人事設計です。
(池原さん)どうやってハイブリッドにするか通知するのか。フル出社からリモート、フルリモートからハイブリッドになった後、どんな人事設計をすればいいのか。
宇尾野さんは、切り替えの伝え方をいくつかのケースで示します。ひとつは、GMOの事例のように事実を並べる方法です。
GMOの事例では、後ろでタイピング数などをモニタリングし、会社が大事にしたい指標の先行指標としてどちらが良かったかを示しました。事実をもって経営判断し、納得を作りに行くという進め方です。
もうひとつは、哲学とストーリーで語る方法です。トレンドやファクトに加え、経営者として「こうしたい」という思いをストーリーとして出して伝えるケースです。
さらに、社員の声を聞く方法もあります。アンケートを取ったり、幹部が合宿で結論を出したりして、悩みや葛藤も含めた決定のプロセスごと見せるやり方です。
(切り替えは)極端な話、一日で決められるような意思決定ではありますけど、もう3ヶ月かけてやってとかっていうのも、それぐらい重たい判断の一つかな。
ファクトを並べる
タイピング数など先行指標のデータで、どちらが良かったかを示す
哲学とストーリーで語る
トレンドとファクトに、経営者としての思いを重ねて伝える
プロセスごと見せる
アンケートや合宿で、悩みや葛藤も含めた決定過程を共有する
池原さんは、気軽にどちらか決める話ではなく、議論と思いを尽くすか、ファクトベースで示すかして、納得感のある形でやりきることになる、とまとめます。
宇尾野さんは、大企業ならメディア発信で社内に伝える効果もあると話します。物議を醸しても、それを許容して対話する姿勢が大事だという指摘です。
アンカーデイとランチで出社を設計する
池原さんは、フルリモートの会社から週1〜2回の出社を求めるのはメンバーにとって大きな変化だとして、どう設計すればいいかを尋ねます。
宇尾野さんは、よく出る悩みとして物理スペースと通勤負荷の2つを挙げます。首都圏ではピーク時の移動がつらく、そもそも電車に乗れないこともあるといいます。
物理スペースの例として、100人しか入れないオフィスに200人が全員来てしまい、半分しか入れず近くのカフェで仕事、という事態が起きると話します。
その対策が「アンカーデイ」です。この日はこの部署が来る、この会議室はこう使うと指定し、最初にアナウンスして渡すやり方です。
宇尾野さんは、組み合わせにゲーム性を持たせたり、出社日はランチをご馳走して食事中に会話が生まれる機会を作ったりと、コラボレーションを支援する工夫も紹介します。
自由にどうぞドーンじゃなくて、ちょっとこちらが設計をしてあげるっていうところが重要で、来ることによりメリットを感じてもらうってところが大事かもしれない。
池原さんは通勤負荷への対策も挙げます。自社ではフレックスでコアタイムが10時から3時のため、出社日は9時半や10時でよいとするとオフピーク出勤ができる、という例です。
宇尾野さんは、こうしたTipsも社員の声を聞いて反映していくとよいと話します。意思決定は経営チームが行っても、運用は自分事として作れるようになるといいます。
「出社が嫌」と言われたらどうするか
池原さんは、アンケートで「出社が嫌」と書かれたらどうするのか、と率直に問います。宇尾野さんは「困っちゃいますね」と受けつつ、対応の考え方を示します。
宇尾野さんは、嫌な理由に固有の事情があれば、制度で許容できるよう調整するか、働ける方法を考えるかだといいます。ただし、これは会社の哲学によると強調します。
(出社が嫌という声への対応は)意思決定する前の段階で大体を決めておくっていうのはすごく大事。もう会社によっては(それなら)うちにならないんじゃないっていうコミュニケーションをするって決めてる会社もあるんで。
池原さんは、どういうスタンスで巻き込むかは哲学だとまとめます。創業初期、メンバーが増える時期、事業課題が変わる時期で、働き方は変えていくべきものの一つだといいます。
宇尾野さんは、直近の相談事例を紹介します。オフィス移転と出社回帰を合わせたいという依頼で、根本にはCEOの「みんなとワイワイ仕事したい」という思想がありました。
その会社はビジネスモデル上フルリモートにしていたものの、テンションが上がらないという悩みがありました。宇尾野さんは、元々出社で良い組織文化を作っていたため、その根本を大事にしましょうと提案したといいます。
結果として、バリューの言葉も見直しました。船出には難しさもあったものの、社長が対面でもっと近くで働きたいという気持ちが、大事な起点だったと振り返ります。
池原さんは、バリューも一緒に見直したことをよいヒントだと受けます。どんな仲間とどう働き、どんな成果を出すかを考えるきっかけとして、ハイブリッドや出社があるという理解です。
まとめ
出社・リモート・ハイブリッドに唯一の正解はなく、深化と探索というフェーズ、データ、そして経営者の覚悟から選ぶ判断です。切り替えは伝え方と設計を丁寧に用意し、働き方そのものを組織づくりのきっかけにできると、この回は示しています。
- 深化はリモート、探索は対面が向く。会社やチームのフェーズで選ぶとよい
- 対面の価値は非言語・同期性・職場全体の観察情報にある
- ハイブリッドは生産性が5%以上高く、週2〜3回の出社で離職率が33%減るデータがある
- 切り替えはファクト・哲学とストーリー・プロセスの開示で納得を作る
- アンカーデイやランチ、オフピーク出勤で出社のメリットと負荷を設計する







