人事評価制度は「30人」を目安に作る
今回のテーマは人事評価制度の基礎知識です。会社が順調に発展していくと、いつか人事評価制度を作るときが来ると吉田さんは話します。
創業直後、社長一人・スタッフ一人といった規模では、そもそも評価制度を作ることはあまりありません。スタッフがどれだけ優秀かは見ればわかりますし、給料の決め方も現実的だからです。
たとえば市場価値が給料40万円の人でも、会社の収支バランスとして30万円までしか出せなければ30万円になる、といった具合です。人数が少ないうちは、こうした現実的な判断で給料が決まります。
では、いつ作るのか。意識の高い会社は少人数のうちから作りますが、目安として吉田さんは30人ほどを挙げます。
一クラス、小学校の頃とか30人40人ぐらいだったと思うんですけど、あれが多分一人の人が見切れる限界値の本当にギリギリだと思うんで、まあ30人ぐらいになったら人事評価制度は作った方がいいかなと思います。
評価制度がないと、給料の決定に客観性がなくなります。厳しい上司の部署では給料が上がらず、甘い上司や社長に気に入られた人だけが上がる、といった状態になりかねません。
こうなるとスタッフが不満を持つのはもちろん、いちばん困るのは社長自身だと吉田さんは指摘します。
俺の給料をもっと上げてくださいよとかって言われた時に、基準がないと(社長は)説明できないんですよ。
「人に値付け」か「仕事に値付け」かという二択
人事評価制度を単純に言うと、人に対して値付けをするのか、仕事に対して値付けをするのかという二択だと吉田さんは説明します。
人に対してお金をつける代表例が、年功序列型の人事評価制度です。製造業のような業種に向いていると吉田さんは話します。
この制度の前提は、勤続年数や年齢が増えるほど実力も上がっていくはずだ、という仮説です。新卒で20万円ちょっとから入り、年数とともに給料も上がっていきます。
年功序列の「貯金と取り崩し」構造
年功序列型には、実力と給料が一致しないという構造上のデメリットもあります。実力は30代・40代あたりでいい水準に達し、その後は人間なので衰えていくからです。
結果として、30代・40代の働き盛りは実力に対して給料が低くなり、逆に50代・60代は実力に対して給料が高くなります。
吉田さんはこれを「貯金と取り崩し」にたとえます。働き盛りの時期に会社へ貯金をして、それを後半で取り崩すようなイメージの受け取り方になるという説明です。
30代・40代の働き盛りは、実力に対して給料が低い(会社に貯金する状態)
50代・60代は、実力に対して給料が高い(貯金を取り崩す状態)
この受け取り方は、その会社で骨を埋める人にとってはいい制度です。ただし、実力に応じてすぐお金が欲しい人や、数年で転職したい人には満足しづらい面があります。
仕事に値付けするとどうなるか
そうした不満に応えるのが、仕事や役職、成果そのものにお金をつける給与制度です。同じ仕事をしていれば、年齢や属性にかかわらず一定の給料を出すという考え方です。
わかりやすいのが役職手当です。吉田さんは、あくまで単純化した例として、部長60万円・課長40万円・平社員20万円といった形を挙げます。
この方式は、役職の数と実力を持つ人の数が一致していれば円満に収まります。しかし現実はそうならないと吉田さんは言います。
たとえば課長の席が1つしかなく、給料40万円のところに、課長ができる実力の人が2人出てきた場合が問題になります。
仕事に値付けする制度を徹底すると、実際に課長職に就く人は40万円、もう一人は平社員として20万円になります。実力があっても報われないため、不満を抱えて辞めていきやすくなります。
本来だったら40万受け取れる可能性がある人が20万の給料になるんで、大体こう不貞腐れて辞めていきますよね。俺もやれるのにみたいな話になります。
現実的な着地点はハイブリッド型
こうした事情から、多くの会社はハイブリッド型に落ち着くと吉田さんは説明します。
その人の実力が高ければ基本給を上げていき、加えて役職や特定の業務に対して役職手当のような形で上乗せする、という組み合わせです。
一方で、仕事や役職に値付けするパターンは、社内の競争を激化させたい場合に適していると吉田さんは話します。
たった1つしかない課長職や部長職の給料が非常に高ければ、みんながそこを目指して猛烈に働くようになるからです。競争を激化させたい制度では、勤続年数や潜在的な実力を反映せず、実際にやっている業務内容だけで決めるのも一つの手です。
ただし現実には、実力ある人が2人いてどちらも会社に置いておきたい場面が出てきます。片方に不遇な給料でいてもらうのは現実的ではないため、やはり人への値付けと役割への値付けを混ぜることが多くなります。
自社は「人」か「仕事」か、まず方針を決める
人事評価制度を作るなら、まずうちの会社は人の潜在能力に値付けするのか、仕事に値付けするのかを意識すべきだと吉田さんは言います。
人の潜在能力に値付けする方式は、製造業や長期勤続を推奨するような業種と親和性があります。仕事に値付けする方式は、士業やコンサル業など成果がわかりやすい業種に向いています。
どちらが正解かは業種によってある程度決まってくる、というのが吉田さんの見方です。
吉田さんは、方針を間違えた場合の例も挙げます。成果がわかりやすい生命保険や不動産の営業を強烈な年功序列型にすると、稼げないと感じた人が辞めてしまいます。
逆に製造業に成果主義を無理に入れると、長期勤続によるキャリア形成の観点から、安定した実力を持つ人が社内に蓄積されず、会社として良くない結果になりかねません。
製造業や長期勤続を推奨する業種に向く。年功序列型と親和性が高い
士業やコンサル業など、成果がわかりやすい業種に向く
方針の次にやるべき「従業員アンケート」
ある程度方針の目星をつけたら、まずやった方がいいのが従業員アンケートだと吉田さんは勧めます。
評価制度を作る会社や見直す会社では、経営幹部層がスタッフ一人ひとりの状況を細かく把握しきれていないことが多いからです。
アンケートで、現場で何が行われているのか、どこがボトルネックになっているのかを知る必要があります。逆に、今の制度のいい点や、評価してほしい点も聞き出す対象になります。
出てきた実態は、後の調整にも活かせます。特定の部署の部長が厳しすぎるといった話が出れば、甘辛の調整として管理職研修に反映することもできます。
従業員アンケートには、もう一つメリットがあると吉田さんは言います。制度は後で説明会を行いますが、そのときに「皆さんのアンケートを踏まえて作りました」と言えることです。
実際にアンケートを参考にして作るため、経営側が勝手に決めて押し付けているという印象がなくなります。従業員が参画意識を持って制度に取り組めるようになります。
必ず作るべき「実力資格等級表」
ここから先の作り方は人事コンサルタントに相談してほしいとしつつ、吉田さんは絶対に作った方がいいものを一つ挙げます。実力資格等級表です。
実力資格等級表は、いわば人事評価の地図です。グレード1、グレード2、グレード3といった等級を会社ごとに決めていきます。
たとえばグレード1は初心者、グレード2は半人前、グレード3は平社員の一人前、その先に主任・課長・部長・執行役員と決まっていく、といった形です。
それぞれの等級がどういう状態・定義なのかを社内で決め、等級ごとに年次を定めていきます。
この表があると、評価する側も指導しやすくなります。地図を見ながら「あなたは2等級だから、3等級に上がるにはこれが足りない」と説明できるからです。
あなたは二等級の実力の定義と比較するとここが足りてないから二等級に上がれないんですよっていう風に、会社としても説明しやすくなるんです。
昇進だけではない「複線型コース」という選択
実力資格等級表は、平社員から課長・部長へと上がっていくケースだけではありません。その形だと、マネジメント能力がない人は昇進できないことになってしまいます。
そこでよくあるのが、マネジメントコースとスペシャリストコースに分ける複線型コースです。
管理職としての能力はなくても、手にしている仕事や潜在的な能力が高ければ、スペシャリストコースで処遇していく、という設計です。
吉田さんは、ここまでを押さえれば人事評価制度で大外れを引くことはあまりないとまとめます。人に値付けか仕事に値付けかの方針を決め、従業員アンケートをしっかり行い、実力資格等級表を整える、という順番です。
評価のフィードバックの仕方など、細かい部分は非常に深い領域なので専門家に相談してほしいとしつつ、この土台があれば大きく外れることはないという見立てです。
まとめ
人事評価制度は、会社が30人ほどの規模になったら作った方がよく、その根本にあるのは「人に値付けするか、仕事に値付けするか」という選択です。自社の業種に合う方針を決め、従業員アンケートと実力資格等級表という土台を整えることが、大外れを避ける鍵になります。
- 従業員が増えて客観的な給料決定ができなくなる前、目安として30人ほどで人事評価制度を作るとよい
- 評価の根本は「人(潜在能力)への値付け」か「仕事(役職・成果)への値付け」かの二択で、現実にはハイブリッド型に落ち着くことが多い
- 製造業など長期勤続型は人への値付け、士業やコンサルなど成果重視の業種は仕事への値付けと親和性が高い
- 制度づくりの最初に従業員アンケートを行うと、現場の実態がわかり、従業員の参画意識も高まる
- 等級の定義と年次を示す「実力資格等級表」を作ると、評価や昇進の説明がしやすくなり、複線型コースも設計できる


