江戸にタイムスリップしたら、何の仕事で食べていく?
本つまみぐいラジオの今回のテーマは「働き方の未来」です。幸あれこさんが紹介するのは、飯田康子さんの『江戸のフリーランス図鑑』という本です。
幸あれこさんは本題に入る前に、会社も肩書きもパソコンもない江戸時代にタイムスリップして、自分で食べていくなら何の仕事をするかと二人に問いかけました。
会社もないし、肩書きもないし、もうこういうパソコンとかもないしっていう、そういう世界で自分で食べていってくださいって言われたら、江戸時代何の仕事します?
イケハヤさんが真っ先に挙げたのは、人の排泄物を集めて肥料として売る仕事でした。人脈も道具もなく、身一つで始められるという理由です。
まあ何にもなかったらですね、人脈もなければうんこでも拾うしかないじゃん。
幸あれこさんによると、この仕事は実際に本にも載っていたそうです。一方、しゅうへいさんは島に住みたいという理由から塩作りを選びました。収録スタジオのある島にも、昔は塩田があったといいます。
でも島に住みたいから塩作るかな。塩って絶対いるからね。
幸あれこさん自身は「戦わない門番」を挙げます。不審者が来たらどうするのかとしゅうへいさんに詰められても、「こんにちは」と声をかけて中の人に確認しに行くと答え、空き時間に単語帳で勉強できる自由な仕事だと主張しました。
こうした雑談を経て、幸あれこさんは本の狙いを説明します。未来はお金よりも、今ある資源をどう使い、何を循環させられるかが大事になり、それを実践していたのが江戸の人たちだという見立てです。
『江戸のフリーランス図鑑』は、店を持たずに町を移動しながら働いた人たちを紹介する本です。単なる職業紹介ではなく、当時の暮らしぶりもわかりやすく書かれており、幸あれこさんはそこから未来の働き方を3つのポイントで予測していきます。
江戸では健康は「向こうからやってくる」ものだった
幸あれこさんが挙げる1つ目のポイントは「健康に関わる人」です。本を読んで、江戸には健康に関わる仕事が非常に多いことに気づいたといいます。
江戸時代の医者には資格が必要なく、志があれば町の医者に弟子入りして勉強していくのが普通だったそうです。ほかにも鍼灸 ── 鍼(はり)や灸(きゅう)でツボを刺激し、体の不調を整える東洋医学の施術。日本でも古くから行われてきましたの施術者、歯磨き売り、爪楊枝を売る楊枝屋、症状ごとの薬売り、眼鏡売りなど、細かく分かれた仕事があったと紹介されます。
幸あれこさんによると、江戸でも目と歯の健康は日常を過ごすために欠かせないものとされていました。眼鏡は国産品でも高価でしたが、豊かな老後には必須で、御隠居や徳川家康も愛用していたそうです。
現代ならドラッグストアで歯磨き粉も目薬も眼鏡もそろいます。けれど江戸では、歯磨き売りや薬売り、眼鏡売りの方から町を歩いてやってきました。幸あれこさんは、江戸の健康は「移動型サービス」だったと表現します。
江戸: 歯磨き売り・薬売り・眼鏡売りが町を回り、健康の方からやってくる移動型サービス
現代: ドラッグストアに行けば歯磨き粉・目薬・サプリ・眼鏡まで一度にそろう
そのうえで幸あれこさんは、これからの社会は病院に行く回数を減らす方向に進み、治療より予防、つまり未病 ── 病気とまでは言えないものの、健康とも言い切れない状態。東洋医学に由来する考え方で、この段階で手を打つ予防の重要性が注目されていますが大事になると考えます。
未来に価値が上がるっていうのは、病気を治す人じゃなくて元気を維持する人だと思うんですよ。
年収マウントの次は「元気マウント」が来る?
幸あれこさんは、SNSでよく見かける年収マウントを例に、未来は「元気マウント」の時代になると予測します。年収1,000万円を誇る代わりに、体の元気さを誇り合うようになるという話です。
元気マウントが来ると思うんですよ。えっ、まだ五十肩なの?みたいな感じで。
しゅうへいさんから「誰が言ってんの?」とツッコまれ、五十肩という言葉に年代が入っていて例えがかみ合わなくなる場面もありました。最終的に幸あれこさんは「まだ虫歯で消耗してるの?」のような言い方に落ち着きます。
幸あれこさんが言いたかったのは、スマホ首やSNS中毒、心の病といった現代病が増えているからこそ、体も心も健康であること自体が仕事になる、という点です。しゅうへいさんもこの部分には「すごい納得」と応じています。
みんなもうAIとかSNSに病んでいってしまう未来、未来はもっとそれが加速してるだろうからこそ、その中で私は本当に元気ですよっていう、こういう移動型サービスの人。
幸あれこさんは、すれ違いざまに「私は本当に元気ですよ」と声をかけられた未来人が「お金出します。どうぞ元気でいてください」と感じる様子を、しゅうへいさんと即興で演じてみせました。しゅうへいさんは「新興宗教じゃねえか」とツッコみます。
しゅうへいさんはSNSで健康な人を見て一緒にワークアウトする形ではどうかと提案しますが、幸あれこさんは、SNSでは何とでも言えるので、顔色を実際に確かめられる移動型であることに意味があると返しました。
SNSだと何とでも言えるから、本当の意味で顔色がいいかどうかをちゃんと確認できないと価値がないんです。だから移動型サービスなの。
突飛な話の最後に「元気でいることの価値は上がる」という普通の結論に着地する流れに、しゅうへいさんは「ジェットコースターで上がって、最後落ちずに」と、毎回のパターンだと笑っていました。
壊れたら直す、余ったら回す。江戸の「捨てない」仕事
2つ目のポイントは「捨てない人」です。幸あれこさんによると、江戸の人々はリサイクルやリユースを本当に大切にしていて、本にもそれを仕事にした人が数多く登場します。
- 焼継ぎ屋: 割れた陶磁器の食器を接着して直す
- 鋳掛屋: 穴の開いた鍋や釜を、金属を溶かしてその場で修理して回る
- 雪駄直し: 草履のような履物である雪駄を直す
- 紙くず買い: いらなくなった紙や古い帳簿を買い集めて店に売る
- 献残屋: 大名や公家の屋敷を回り、贈り物の余りや不要品を買い取る
紙くず買いが集めた紙は、漉き直して再生紙にすることも江戸時代にはあったそうです。幸あれこさんは献残屋を「転売ヤー」とたとえて紹介しました。
壊れたら直し、古くなったら再利用し、いらなくなったら別の形で回す。幸あれこさんは、これが江戸の暮らしの基本で、今大事なものが江戸時代に詰まっていると感じたといいます。
江戸ではゴミになる前に次の仕事が待ってるっていうような社会だったわけですね。
新品より「15回生まれ変わった商品」がかっこいい未来
江戸の捨てない暮らしから、幸あれこさんは、未来は新しく作る人よりも、今あるものを生かせる人が強くなると考えました。何を持っているか、何を作り出すかよりも、何を循環させられるかが価値になるという見立てです。
幸あれこさんが想定する未来の仕事は、壊れたものを直す人、中古品に新しい価値を与える人、余っているものを必要な人につなぐ人、使い捨てを前提としない仕組みを作る人です。
価値観も変わり、捨てるのが早い人より、しぶとく使う人がかっこいいとされ、「買い替えてる人ダサくない?」というムーブメントが起こるだろうと幸あれこさんは話します。
今って新しいものほど価値があるんだけど、そうじゃなくて、私が考えたのは、この商品は15回生まれ変わってますっていうのがかっこよくて、価値になると思ったんですよ。
しゅうへいさんは「物語も感じる」と賛同し、斜め上の展開にならなかったことに安堵しました。そのうえで古民家の例を挙げます。
でも新築建ててドヤるよりも、やっぱ古民家を改修できた方がドヤりやすい。
しゅうへいさんは、住み心地は新築の方がいいと本音も漏らしつつ、断熱まで手を入れて古民家を改修できる人はかっこいいと話します。幸あれこさんは、暮らしの危機に緊急性を感じるほど、人は今あるものを大切にし始めるのではないかと付け加えました。
AI時代に価値が上がる「人間にしかできない芸」とは
3つ目のポイントは「人間にしかできない芸」です。『江戸のフリーランス図鑑』には、物を売るだけでなく、芸を見せて人を集める人が多く登場します。
綱渡りや空中ブランコなどを演じる軽業師 ── 綱渡りや曲芸など、身軽さを生かした芸を見せる芸人。江戸時代の見世物の代表的な担い手でした、手品や皿回しで生計を立てる放下師 ── 手品や曲芸などを演じた大道芸人。中世から江戸時代にかけて、町や寺社の境内などで芸を見せていました、扇子や刀の上でコマを回す曲独楽などが職として紹介されます。表記は書き起こしの音から判断したもので、放下師・曲独楽です。
幸あれこさんが注目するのは、芸と販売が一体になっていた点です。歯磨き売りが芸を見せて人を寄せたり、薬売りが人形劇で客を集めたりと、見世物と販売がセットだったといいます。しゅうへいさんはこれを「TikTokショップやん」とたとえました。
芸を見せる
歯磨き売りや薬売りが芸や人形劇を披露する
人が立ち止まる
ただ売るだけでは寄ってこない人が集まる
商品が売れる
集まった人に歯磨きや薬を売る
幸あれこさんは、江戸の町は物を買いに行く場所というより、町そのものがライブ会場のようだったと表現します。人を立ち止まらせる力が、そのまま仕事になっていたわけです。
そこから幸あれこさんは、AIで情報がいくらでも手に入る未来には、情報を持っている人より人を引きつけられる人が強く、この人から受け取りたいと思わせる仕事ほど残るのではないかと考えました。
うまい話より「うまい間」が仕事になる?
幸あれこさんは、AIはもう話すこともできるので、人間にしかできないのは「うまい話」ではなく、「うまい間を作れること」だと言います。
幸あれこさんによれば、AIとのチャットにあるのは情報処理の間であって、人と人のコミュニケーションに独特の間は人間にしかないといいます。
しゅうへいさんの提案で、幸あれこさんがAIと人間を演じ分けることになりました。今日の天気を聞かれたAI役は「情報処理中」「高速モードです」と言ってから「晴れ」と答え、人間役は長い沈黙のあと「ねー」と返しました。
なるほどね。聞かれて答えを出す以外の選択肢があるってことか。
幸あれこさんは、AIとばかりチャットする未来には人々が「間不足」になり、ミネラル不足のように間を求めるようになると予測します。そこに間を提供する人がいれば、とんでもない仕事になるという話です。
私は間を作って15年なんでねみたいな感じで。
しゅうへいさんは、会話は誰でもできても、いい間を取れる人は貴重だという点に理解を示し、「間の取り方コンサル」も出てくるかもしれないと話を広げました。
幸あれこさんはここで3つのポイントを整理します。未来に残る仕事は、健康に関わること、循環させられること、人を引きつけられる間を持つことです。
さらに、とても高い下駄を履いて歩く芸の例も挙がりました。AIやロボットがやっても面白くなく、人間だからこそ「そんなことできるの?」という驚きがある、と幸あれこさんは話します。
未来予測がピンとこない理由は「ディストピア」にあった
感想を求められたイケハヤさんは、「間のインパクトが強すぎて頭が回らない」と率直に答えつつ、間が芸になるという考えにはうなずきました。
しゅうへいさんは、間をスローな会話や空間に近いものとして捉え直します。例に挙げたのは、イケハヤさんの住む高知でのバーベキューの場面でした。
肉を焼きながら美味しいご飯があって、そのみんなで間を共有してるみたいな。
話を聞いていたイケハヤさんは、幸あれこさんの未来予測がいまひとつピンとこない理由に気づいたといいます。それは、幸あれこさんが思い描く未来が想像以上のディストピアだから、という分析でした。
さっきの一番もそうでしょ?もうみんながもうAIとかに取り憑かれたようにカタカタカタカタやって。だからあの健康ですよみたいな人が役立つ。
幸あれこさん自身も、イケハヤさんやしゅうへいさんが考える未来のさらに先、地球を守らないとまずいような未来を想定しているのかもしれないと認めました。
イケハヤさんからは「あんまり働き方を紹介してないよね」とツッコミも入ります。それでも、花粉症のイケハヤさんや体調のつらいしゅうへいさん、寝不足の幸あれこさんを例に、毎日健康を維持できるのはすごいことだという点では、イケハヤさんも同意しました。
それがどう仕事になるかみたいなところ。
最後に幸あれこさんは、ハッシュタグ「#本つま」でリスナーが想像する働き方や未来予測を募り、次回は3冊の振り返りとコメント紹介を行うと告げて締めくくりました。
まとめ
『江戸のフリーランス図鑑』に描かれた、町を移動しながら働く江戸の人々の姿から、幸あれこさんは健康、循環、人間にしかできない芸と間という3つの未来の働き方を導きました。突飛な予測にイケハヤさんとしゅうへいさんがツッコむ掛け合いのなかで、元気でいることや今あるものを生かすことの価値が改めて浮かび上がる回です。
- 江戸では歯磨き売りや眼鏡売りが町を回り、健康は向こうからやってくる移動型サービスだった
- 焼継ぎ屋や鋳掛屋、献残屋など、江戸には「捨てない」ことを仕事にした人が数多くいた
- 幸あれこさんは、未来は新しく作る人より、今あるものを循環させる人が強くなると予測する
- 芸と販売がセットだった江戸の町から、AI時代には人を引きつける力や「うまい間」が仕事になるという考えが示された
- イケハヤさんは、予測がピンとこない理由を幸あれこさんの描く未来のディストピア性に見いだした




