ポーカー店2号店とリアルイベントの野望
番組冒頭、長谷川リョーさんは、大阪の西中島で福祉事業と組み合わせて運営しているアミューズメントポーカー店が軌道に乗り、梅田での2号店に向けて動き出していると報告します。
梅田の物件はポーカーができる空き物件で、福祉事業もあわせて行えるかの審査結果を待っている段階だといいます。まだ借りられるかはわからないとしつつも、事業検証としてはそろそろOKという手応えがあるようです。
POCフェーズからPMFフェーズへと。
高宮さんはPMF ── プロダクト・マーケット・フィットの略。製品やサービスが市場のニーズに合致し、顧客に受け入れられている状態を指すスタートアップ用語ですという言葉でこの段階を表現し、2人が一緒に執筆中の『起業の戦略論』を冗談交じりに勧めます。
梅田の物件は西中島の3倍ほどの広さがあり、長谷川さんは番組のリアルイベントを開くなら100人ほど入れるのではと話します。ただ、出演者と編集の樋口さんらが同じ日に同じ場所に集まること自体が難しく、運営側の焼肉会すら実現していないと2人は笑い合います。
プレスラボ解散が示したライター業界の分水嶺
この回のテーマは、長谷川さんの持ち込み企画です。長谷川さんは福祉事業を始める前にライター業をしており、大学院生のころ、十数年以上前に取材を通じて高宮さんと出会っています。
そのライター業が、AIの進化によって変容を迫られていると長谷川さんは話します。象徴的な出来事として挙げたのが、老舗の大手編集プロダクション ── 雑誌や企業のオウンドメディアなどを制作する編集者やライターを抱える会社。出版社や企業から制作を請け負いますであるプレスラボが、自社のnoteで事業終了と解散を発表したことです。
ライター業界的には「マジか」みたいな、1個の分水嶺というか、象徴的な事例で、「そこまで来てるか」というところであったり。
さらに長谷川さんは、ウェブメディアからYouTubeに移行していたCR25が、そのYouTubeもやめるという事例にも触れます。こうした出来事が立て続けに起き、メディア業界全体に大きな変化が起きていると感じているそうです。
長谷川さんは、ライターとしてまだ食べられていた段階で数年後の危機を察知し、福祉業界へ移りました。高宮さんも、長谷川さんが2年以上前から「ライター業界やばい」と言い続けていたと振り返ります。
その時ってなんかそのAIって人間味のある文章を書けないかどうかみたいなレベルの話を議論してたと思うんですけど、もうもはやとっくにそういうフェーズは超えてて。
長谷川さんは、今のAIは人間よりずっと良いクオリティの文章を出してくると話します。そのうえで、明確な未来の変化に意固地にしがみつく必要はないのか、トップ1%なら生き残れるのかと、もやもや考えていたと問いを投げかけます。
「業界将来仮説」をどう立てるのか
高宮さんは、同じことがスタートアップ業界でも起きていると応じます。ただし、長谷川さんが「明確な未来」とさらっと言った点に対して、多くの人はそこまで確信していないと指摘します。
いや、そうなりそうだけどわかんねえなと思ってるから、いやもう明確にこの業界なくなると思ったら、それはみんな脱出するじゃないですか。
そこで高宮さんが挙げるのが、スタートアップ投資の現場で社内でよく使う「業界将来仮説」という考え方です。業界が伸びるのか、変化するならその中でのキーサクセスファクター ── 事業を成功させるための決定的な要因。KSFとも呼ばれ、業界構造が変わると重要な要因も入れ替わります、つまり勝ち筋がどう変わるのかについて、自分なりの仮説を持てというものです。
長谷川さんの場合は「業界は沈没する」という仮説を持ったから脱出しました。一方で、1%は残る構造だと考え、その業界が好きな人なら、書き続けて残る選択もあり得ると高宮さんは話します。
業界は沈没するという仮説を持ち、手段にこだわりがなければ早く見切って移る
1%は残る構造だと考え、その業界が好きなら書き続けて上位に残る
高宮さんから見ると、長谷川さんはライティングという手段にこだわりがなかったからこそ脱出できたのではないか、という見立てです。
スキルとしてのライティングは思いというよりは得意だからやってて。で、1段抽象度上げてコンテンツクリエイションみたいなとこには好きとかいう気持ちがあるんで。
ビジョンと仮説を掛け合わせて決める
高宮さんは、業界の変化にどう向き合うかは、結局「ビジョンはどこか」という問いに行き着くと話します。儲からない業界になったからビジョンを捨てるのか、そもそもその業界にコミットしていないなら早く見限ればいいのか、という整理です。
高宮さんは、業界がゼロになるとは限らない例としてレコード針を挙げます。作れる工場が日本に1つしかないため残存者利益で生き残っていたところに、アナログブームが再来してレコードが流行る、ということも起こり得るといいます。
まあなんか外部環境については仮説を立てられるけど、占うことは、当てることはできないじゃないですか、100パーで。
だからこそ、最悪、ありそうなケース、ベストケースといった幅を持ったシナリオと、自分のビジョンや思いを掛け合わせ、その総合で判断すればよいと高宮さんは話します。
「SaaS is dead」ではなく「IT is dead」
高宮さんは、この話はスタートアップ界隈でもホットだと続けます。以前よく言われた「SaaS is dead」について、高宮さんの将来仮説では、SaaSだけでなく「IT is dead」だと考えているそうです。
ここでいう「dead」の判断基準は市場です。会社やテーマの価値を最後に決めるのは、上場株式市場をはじめとする市場であり、マーケット原理のもとで冷酷なほど民主的に決まると高宮さんは話します。
高宮さんは、足元でITが「dead」なのはもうファクトだとしたうえで、将来もそうあり続けるかは結論がわからないと断ります。それでも自身の仮説としては、ITは産業としてもテクノロジーとしても成熟化が終わっていると見ています。
PERが映す資本市場の冷徹な成績表
高宮さんが根拠として挙げるのは、上場企業を評価するPER ── 株価収益率。株式価値が純利益の何倍かを示す指標で、高いほど将来の成長への期待が大きいとされますです。2000年ごろのITバブルから2〜3年前までは、消費者向けのデジタル系企業にはPER30倍、良ければ40倍がついていたといいます。
PER30倍とは、最終利益を30年積み上げないと回収できない水準です。それが成り立つのは、今後の成長や利益率の上昇への期待が込められているからだと高宮さんは説明します。普通の投資感覚で2〜3年、遅くても5年で回収と考えれば、PER5倍という見方にもなり得るそうです。
マルチプルが下がっているのは、テーマ全体から成長や利益増の構造が失われたか、資本市場の中でより魅力的な投資先が現れたことの表れだと高宮さんは見ています。
その「より魅力的な投資先」が、AIとディープテックです。高宮さんは、上場時のPERが200倍を超えた企業の例を挙げ、200年分の純利益に相当する評価は普通ならあり得ないが、それだけ成長が期待されている表れだと話します。
高宮さんは、ネットバブル期のIT企業や、1980年代のフランチャイズ型飲食店などのリアルビジネスも、かつてはホットなテーマだったと振り返ります。テクノロジーや産業のライフサイクルの早い段階では期待感で高い評価がつき、成熟すると落ち着いていくという見方です。
テクノロジーの登場
新しい技術が生まれる
産業化の初期
大きくなるという期待感で高いマルチプルがつく
成熟化
成長期待が落ち着き、マルチプルが下がる
資金の移動
より魅力的なテーマへお金が流れる
アンラーンか、開き直りか、生まれ変わりか
高宮さんは、IT時代に育ったスタートアップや投資家はアンラーン ── 過去に身につけた知識や成功体験を意識的に手放し、学び直すことしたほうがよいと話します。IT銘柄ならPER30倍、SaaS銘柄なら売上倍率で10倍や15倍という時代は、もう終わったと思っておくべきだという考えです。
そのうえで高宮さんは、市場の答えを冷静に受け止めた後の道として、2つを例に挙げます。1つはビジョンがあるから資本市場の評価は気にせず、上場しなくても業績とキャッシュフローで成長するという開き直りです。
もう1つは、ITは当たり前のものとして、今の事業をAI駆動に生まれ変わらせ、AI銘柄として再出発する道です。長谷川さんの例でいえば、ライティングは手段でありコンテンツが好きなのだと割り切るのと同じ構図です。
高宮さんが強調するのは、正常化バイアスのように「また戻るんじゃないか」と期待しないことです。足元ではSaaSのマルチプルが少し戻ってきているというファクトもあるものの、10年サイクルで見れば戻らないというのが高宮さんの仮説です。
戻る、10年サイクルで見ても戻るという人がいてもいいと思うので、それを受け入れて、だったら戻ると思うんだったら、安い時にバイプッシュしろみたいな話なんで。
高宮さんにとって問題なのは、仮説の中身より、仮説と行動がずれていることです。今までの延長線上で何もしない態度を、高宮さんは戒めます。
長谷川さんは、行動の前提として将来仮説を立てること、そして業界の状況に左右されない自分のビジョンを持つことが大事だとまとめます。番組でいつも語っている、成し遂げたいこと、定量的にどこまで行きたいか、美学やスタイルの3つが重なる真ん中はどこか、という問いです。
アメリカの読書ブームと仕事外の自己実現
長谷川さんは、ITやSaaSの話を自分がいたメディア業界に当てはめると、「アメリカでポッドキャストが流行ったから日本にも来る」という議論に近いと感じたと話します。今アメリカでは、ショート動画の反動で若者の間に本のブームが起きているという言説があるそうです。
ただ長谷川さんは、活字メディアが日本でもう一度盛り返す可能性はなくはないとしつつ、ポッドキャストのように日本に来るかは怪しく、時間軸もわからないと見ています。
その自分がなんかアウトプット欲みたいのが一定趣味というか、仕事外で満たされてるんだったら、シンプルに仕事は収益性が高いことにピボットした方がいいんじゃないかっていうのが僕の考えではあるので。
高宮さんは、将来仮説は事業の対象市場に限らず、社会変化にも及ぶと応じます。長谷川さんの判断の前提には、仕事と仕事以外の活動をあわせた人生全体で自己実現すればよい、という社会の変化についての仮説が埋め込まれているという見立てです。
昭和的な会社中心の社会。同僚が家族のような存在で、仕事で自己実現に振り切るしかない
仕事と課外活動を含めた人生全体で自己実現する。お金にならないポッドキャスト配信でも楽しいならそれでいい
個人の力よりも「どこにいるか」
長谷川さんは20代の約10年を振り返ります。ライター業は得意で好きなことであり、オウンドメディアブームという市場もあったため、たまたま条件が重なってお金を稼げていたのだといいます。
自分の力というよりはその時の流行とか、自分がアンコントローラブルなたまたまのマーケットに自分がたまたまいただけなんでっていうのを今客観的になんか見れてるわけで。
オウンドメディアのコンテンツを作ることを使命とは思っていなかったため、何らかの形でコンテンツを定期的に作れていれば満たされると長谷川さんは話します。ライター業を辞めてから、個人の能力よりも、どの市場にどのタイミングでいるかのほうが大事だと感じるようになったそうです。
高宮さんは、「伸びている市場に入れ」というスタートアップやVCの鉄則に触れつつ、長谷川さんの話はさらに一歩深いと指摘します。市場も結果指標にすぎず、その背後にある大きなトレンドに抗うな、という話だというのです。
GREE田中理論に学ぶ「沖での波待ち」
ここで高宮さんが紹介するのが、GREEの田中さんがよく語っていたという「GREE田中理論」です。大波が来てから沖に向かってパドリングしても遅く、大波が来そうなときにはすでに沖で待っていなければならない、という考え方です。
仮説を立てて先回りして、ここに大波来るんじゃねえかっていうとこで浮かんで、サーフボードの上でプカプカ待機してなきゃいけないっていう話で。
波がないのに気合で立とうとしても立てないのと同じで、大波をつかまえることが決定的に重要だという前提に立った話です。ただし波が来るかを100%当てるのは無理なので、仮説を立て、空振りしたら次の場所を試す、という繰り返しになると高宮さんは話します。
一方で高宮さんは、好きでもないサーフィンで波待ちをして空振りするとしんどいとも話します。サーフィンではなくウィンドサーフィンが好きなら、風待ちをすればいいという例えです。
ウィンドサーフィン好きだからウィンドサーフィンやってて、大した風来なかったけど楽しかったねって。っていう、そういう気の持ちようをするのが大事なんじゃないかなっていう気がしますけどね。
長谷川さんはこの話を、番組で繰り返し語ってきた「戦略とはWhatを実現するHowである」という考えに結びつけます。AIブームがあっても、そこに自分のWhyはあるのかという問いに回帰するというわけです。
波は当たらない、だから好きなことを
長谷川さんは、個人の力ではどうにもならない時代の大波の中で、トレンドに踊らされず、自分のWhyやビジョンを見つめ直しながら、仕事や生活を調整していくしかないと感想を述べます。
高宮さんはさらに前提を掘り下げ、大波に乗ることが成功で、乗らなければダメだという強迫観念のように聞こえてしまうと話します。波待ちを勧めたものの、仮説は当たらないものだというのです。
高宮さん自身、コンサルを辞めてMBAに行き、日本でVCを始めたときには、スタートアップ業界がここまで盛り上がるとは思っていなかったといいます。新しいものを世に出すのが好きだから来ただけだそうです。
この変化について、高宮さんは将来仮説などまったく立てられていなかったと振り返り、波は勝手に来るかもしれないし来ないかもしれないくらいの、肩の力を抜いた気持ちでよいと語ります。
好きなことさえやれてれば、なんか後から振り返って、なんかジグザグ後付けでなんか意味付けをできると思うんで、好きなことをやってたこと自体は嘘にならないんで、絶対に。
まとめ
ライター業界の淘汰を入り口に、2人は業界将来仮説を立てて波を待つ戦略と、仮説と整合した行動をやりきる大切さを語りました。そのうえで最後は、仮説は当たらないものだからこそ、好きなことを軸に肩の力を抜いて取り組む姿勢に着地しています。
- 業界の変化には「業界将来仮説」を幅を持って立て、自分のビジョンと掛け合わせて残るか移るかを判断する
- 高宮さんは、PERの低下を資本市場からの冷徹な成績表と捉え、ITは成熟化したという仮説を持っている
- 仮説を決めたら整合する行動をやりきり、今までの延長線上でのノーアクションは避ける
- GREE田中理論のように、大波は来てから追うのではなく沖で先回りして待つ
- 波は当たらないので、好きなことをやり、波が来たらラッキーくらいの気持ちでいることが大事





