リスナーが投げたテーマ「交渉で自分の意見を通すには」
今回のテーマは、番組のLINEオープンチャットに寄せられた相談から生まれました。長谷川さんが収録前に「トークテーマはありますか」と募ったところ、複数の投稿が集まったといいます。
中でも取り上げたのが、くだもの参謀さんから寄せられた「交渉の戦略論」というテーマです。相談の中身は「自分の意見を通すにはどうすれば良いか」というものでした。
くだもの参謀さんは果物屋の跡取り息子で、現在は社長である父との事業承継の準備中とのことです。父との話し合いで自分の意見が頭ごなしに否定されることが度々あり、交渉がうまくいかないと悩んでいます。
長谷川さんは、このテーマが以前番組で扱った「裸の王様にならないためには」という話にも通じると感じたと話します。交渉というテーマの裏に、いくつもの論点が潜んでいそうだと切り出しました。
交渉は「割り勘勝ち」の前に、その前段が重要
高宮さんはまず、交渉のイメージそのものに疑問を投げかけます。交渉というと、勝った負けた、どっちが取り分が多いか、どうやって割り勘勝ちするか、という話になりがちだと指摘します。
高宮さんによれば、最後にはそうした取り分を決めるフェーズもあるものの、より重要なのはその前段だといいます。
最初から、パイがあって、わしの切り身をいかに大きくするみたいな話というよりも、いかにそのパイを両者で大きくするかにフォーカスした方がいい。
つまり、決まった大きさのパイを取り合うのではなく、両者でパイそのものを大きくするところに目を向けるべきだ、という発想です。
投資条件の「勝った負けた」がディールを荒ませる
高宮さんは、スタートアップとベンチャーキャピタルの投資交渉を例に挙げます。投資するときには、時価総額や投資額、契約書の条項などを一つずつ交渉するのが一般的だといいます。
ところが、その条件を一つ一つ勝った負けたで争うと、交渉はひどく荒んでしまうと高宮さんは話します。
一個一個一つの条件、条項につき勝った、負けた、勝った、負けたってやると、めちゃめちゃ荒む。
本来、投資家も起業家も同じ船に乗って事業を大きくすればハッピーになれる構造のはずです。それなのに、始まる前から勝った負けたの相手方になってしまう、と高宮さんは問題点を指摘します。
特に株価だけを取り上げると、起業家は高く、投資家は安くと、立場の差から対立構造しか生まれません。この一点だけを見ると、交渉は必ずこじれてしまうというわけです。
「優先分配」を使ってパイの面積を広げる交渉
そこで高宮さんが挙げるのが、優先分配 ── 会社の売却などの際、投資家が保有シェアの通りに分配するより先に、投資額の一定倍を優先的に回収できるという条項。ダウンサイドのリスクを抑える役割がありますという条項です。例えば優先分配1倍とすると、会社がM&Aされたときに投資家のリターンが1倍に満たない場合、投資家が先に1倍を確保できます。
この条項は、事業が失敗したときにだけ効いてくるものです。IPOや大きなM&Aで時価総額が十分大きくなれば、シェア通りの分配になり、実質的に無効化されます。
高宮さんは、ここで起業家と投資家の認識のずれをうまく使えると説明します。起業家は「自分の事業は絶対にこれくらいいく」と考え、投資家は「ちょっとわからない」と考える、その前提の差を利用するのです。
絶対こんぐらいいくしみたいなラインがあるんだったら、その代わりバリエーション高くていいよと投資家側は言える。
投資家からすれば、最低でも1倍のダウンサイドが守られるなら、その代わり株価を高くしてもよいと言えます。両者の前提認識が違うからこそ、パイはまん丸から少しいびつな形になりつつ、面積が増えると高宮さんは表現します。
認識のずれ
起業家は成功を確信、投資家は懐疑的というギャップがある
条件の設計
失敗時だけ効き成功時に無効化される優先分配1倍を入れる
譲り合い
投資家はダウンサイドを守る代わりに高い株価を認める
結果
パイの面積が増え、両者の分け前が広がる
さらに、この設計では企業価値を高める方向に両者のインセンティブが揃います。決まったパイの形をグリグリ奪い合うより、健全な形で交渉が進むというわけです。
古本とルアーの交換に見る「優先順位のずれ」
高宮さんは、投資の話を日常に引き寄せた例え話も持ち出します。大阪でしか手に入らないウッドのルアーと、東京でしか買えないレアな古本という設定です。
自分にとって価値の低いものと、相手にとって価値の高いものを交換すれば、それだけでお互いのパイが増えるという理屈です。カギになるのは、お金の評価ではない定性的な価値の優先順位が、人によって違うという点です。
相手が高く評価してるもので、自分が低く評価しているものがあったら、相手にプライオリティが高いものを譲る代わりに、相手が低くて自分がプライオリティ高いものを譲ってもらう。
こうして優先順位のずれを入れ子にすれば、全部を均等に分け合うより、お互いの効用の総和が増えます。高宮さんは、交渉の一番の前提は「交渉しないでパイを増やすこと」だと結論づけます。
ゲーム理論と現実の交渉はどこが違うのか
長谷川さんは、交渉というとゲーム理論的な囚人のジレンマのようなシチュエーションを想起しがちだと応じます。しかし現実の交渉は、それとは違うと感じたようです。
一見ゼロサムゲームっぽいんだけど、話し合ってお互いの前提条件を確認したら、アングルずらしたりとか、パイを大きくしたりみたいなことが可能。
高宮さんは、交渉というと一回こっきりのディールやトランザクションのイメージになりがちだと補足します。しかし現実社会では、一回で関係性が終わることはあまりないといいます。
例えばM&Aでも、会社を売り切って売り逃げというわけにはいきません。売った後も経営に関わるかもしれず、長期的な評判にも響きます。
いいように騙されてババ捕まされたみたいになると、もう二度とあいつから買わねえみたいになる。
高宮さんは、普通の商取引でも同じだと言います。「あの果物屋はいい」と言って買ったメロンの中が腐っていたら、その評判は大きく傷つきます。だからこそ交渉の機会は、実は連携の機会として捉えた方がよいと話します。
売って終わりではない、ビジョンを握れるかどうか
長谷川さんは、起業家がEXIT後にロックアップ期間を経てもなお会社に残り、やりたいことを達成するケースがあると尋ねます。ビジョンが握れていれば、交渉の向こう側に行けるのではないかという問いです。
高宮さんは、自身がXで発信したスタートアップイベントでの登壇内容に触れつつ、この話に答えます。M&Aの目的をたどると、どちら側の事業を伸ばすかという主語の違いはあっても、事業を伸ばすという目的は共通だといいます。
高宮さんは、スイングバイIPOの例を挙げます。スイングバイIPO ── スタートアップが一度大企業の傘下に入り、支援を受けて事業を伸ばしたうえで、改めて上場を目指す手法。ソラコムがKDDIの傘下を経て再上場した例が知られますのように、大企業の支援を受けてより大きくなるパターンもあれば、大企業の事業を伸ばすためにスタートアップが取り込まれるパターンもあります。
いずれにせよ売り切って終わりの消耗品ではなく、長期的に何度も関係を持つ前提で「すり合わせ」をするくらいの感覚だと高宮さんは話します。買った後に不正が発覚すれば訴訟沙汰になり、法的にセーフでも評判という信頼のエクイティを失うからです。
「勝ちすぎない」ことがLTVを最大にする
高宮さんが交渉でもう一つ大事だと考えるのが、「勝ちすぎない」ことです。ゼロサムで考えると10対0で勝つ方がいいと思いがちですが、それは違うといいます。
高宮さんは、撤退ラインとカンフォタブルなライン ── 撤退ラインが「これ以下なら降りる」という最低限の線であるのに対し、無理なく納得して合意できる快適な水準を指す高宮さんの表現という2つのラインを持ち出します。撤退ラインより上で両者の条件が重なるから合意が形成され、長期的な関係が始まるという整理です。
問題は、撤退ラインはクリアしていてもカンフォタブルなラインは超えず、しぶしぶ合意した場合です。そのしこりが長期的な関係の中で溜まっていき、不健全になると高宮さんは指摘します。
もうちんちんに交渉勝ちしちゃうと、ふざけんなよとか言いながら、結局ディールダウンしても不満は残る。
だからこそ、お互いのカンフォタブルなゾーンが重なる範囲の中で、自分寄りのところに着地させるのが腕の見せどころだといいます。常に微妙に勝ちながら、何回も関係性を積み重ねていく方が、トータルで見ると得だという考えです。
相手にしこりが残り、長期的な関係の中で不満が溜まって不健全になる
お互いの快適な範囲で着地し、関係を積み重ねてトータルの価値が最大になる
家業の事業承継は「長期的な関係」の最たるもの
話は相談者のくだもの参謀さんのケースに戻ります。高宮さんは、家族での事業承継こそ、これまで語ってきた長期的で繰り返し発生する関係性の最たるものだと言います。
仕事の話が片付いても家族の関係は続き、社長を継いだ後も父は会長や相談役として残ることが多いためです。だからこそ勝ちすぎず、お互いの快適なゾーンの中で着地させることが大切になります。
高宮さんは、優先順位のずれを時間軸でも使えると提案します。短期は父の考える事業の方向性に寄せつつ、徐々にソフトランディングで自分の大きな方向性に持っていくずらし方もあるといいます。
ただし、相手のプライオリティが本人にとっても明確でないこともあります。交渉という場のセッティングをすると、優先順位がバレること自体が負けだという恐怖感も生まれます。
いや、そうじゃないんですよ。一緒に競争、競争っていうのは共に作っていきましょうという感覚でテーブルにつく。
相手のプライオリティを明確にするのを手伝ってあげる、そこまでできるのが本当の交渉上手、いわばビジネスプロデューサー的な感覚だと高宮さんはまとめます。
長谷川さんの福祉業界でのDX、実は交渉ではなかった
長谷川さんは、このテーマから自身の経験を思い出したと語ります。福祉業界に入って約1年、アナログな現場でいきなりDXやペーパーレス化を進めるのは難しかったといいます。
現場も経営陣も含めて、少しずつ浸透させていく。長谷川さんは、それを当初は「交渉」だと捉えていたと振り返ります。
別に敵じゃなくて同じ味方なんで、ちょっとずつ成果出しながら、こういう効果があるんだとわかってもらえたりとか。
高宮さんは、長谷川さんが福祉の社長になった経緯を、外からはハードネゴを頑張ったように見えるかもしれないと指摘します。しかし実態は違ったと言います。
最初は手伝いにおいでよ、一事業所長と思ったら気づいたら社長になってた。
高宮さんは、交渉というフレーミングをすると、もっとガリガリやらなければと思い込んでしまうと言います。そしてガリガリやると、かえって信用を勝ち得られず、そのポジションにはなれなかっただろうと分析します。
ゼロサムになりかけたら「枠を広げる」
長谷川さんは、相談者が「交渉」という言葉を使っていること自体に、今の状況や関係性が透けて見えると指摘します。本来はコミュニケーションや連携かもしれない、と問いかけます。
高宮さんは、契約書の話と同じく、一個の条項で見ると立場の違いから対立構造になる箇所は必ずあると応じます。ミクロで捉えると平行線をたどる論点も出てくるというわけです。
例として高宮さんは、果物屋をやめて果物も扱うコンビニに変わりたい、という主張を挙げます。「時代錯誤だ」と否定されれば平行線ですが、枠を広げれば道は開けると言います。
長期的にコンビニになることも踏まえて、まずはコンビニチェーンに話だけ聞きましょうみたいなずらし方をすると、別に誰も何の異論もなくなるかもしれない。
高宮さんは、交渉事っぽくゼロサムな構造になりかけたら、枠を広げてみるのが一つのやり方だとまとめます。
ビジョンがぶつかるか、局所的なずれかを見極める
長谷川さんは、番組の視点として、最終的には一番根っこのビジョンで共有できていないと分かり合えないのではないかと問いかけます。ビジョンが明確にバッティングするなら、別々にやった方がいい場合もあるからです。
高宮さんは、家業の果物商売を永続させたいという思いと、果物屋でなくてもいいからスケールさせたいという思いなら、ビジョンレベルでぶつかると認めます。
一方で、果物屋をどうサステナブルにして伸ばすかという話なら、家業を引き継いで大きくしたいという点で合意できるはずだと高宮さんは言います。局所的にはぶつかりやすい論点も、一歩引いて枠を広げれば折り合えるという見立てです。
番頭さんとの交渉は「トップを攻める」で解決
高宮さんは、長谷川さんが社長である御大とぶつかることはないのかと尋ねます。長谷川さんは、御大とはほとんどぶつからず、基本的にやりたいようにやらせてくれると答えます。
代わりに交渉が必要になるのは、現場レベルの右腕にあたる番頭的な人だといいます。ITツールを使いたいと言ったときに「そんな意味あるの」と返される場面が度々あるそうです。
そこで長谷川さんが取っている方法は、1年やった末のしょうもないハウだと前置きしつつ、先に御大の承認を取るというものでした。
社長がいいって言ってるんでって言ったらもう通るんで、っていうのもトップを攻めるっていう感じですね。
高宮さんは、これを一対一の交渉というフレームを外し、御大を巻き込んで大きな枠にした例だと整理します。ゼロサムになりかけたら枠を広げる、という先ほどの話と重なります。
小さな事業でも「出島」は作れる
長谷川さんは、小さなスモールビジネスだと、父親とビジョンを握らない限り交渉が連携になっていかないのではないか、と疑問を投げかけます。大企業なら出島のように一部だけイノベーションを加速させるやり方もあるからです。
高宮さんは、スモールスケールでも出島は作れるのではないかと応じます。別法人で新しい果物ビジネスをやってみて、道が同じになれば合流するという方法を挙げます。
昔ながらの果物屋さんの一コーナーでめちゃめちゃこだわった生産者の超高級果物を売るから、一コーナー実験用にちょうだいよ。
長谷川さんは、相談者のどこが具体的に通らないのかを知りたいと話します。ECをやりたいのが否定されているのか、どのレベルの衝突が起きているのかが気になると述べました。
高宮さんは、これはポーカーバーでのリアル壁打ちイベントで深掘りしたいところだと応じ、話を締めくくりに向けます。
交渉のテーブルは、そもそも「一緒にやる」場
最後に長谷川さんは、この回のまとめとして、交渉を必ずしもゼロサムで考える必要はないと振り返ります。相手の立場や前提、利害を大局的に眺めて、どうすり合わせられるかを考えることが重要だと述べます。
高宮さんも、交渉のテーブルについている時点で「何かを一緒にやりましょう」と言っているだけだと補足します。だからこそ、ファイティングポーズを取る必要はないと言います。
ゼロサムというフレーミングをこっちがすると、相手もそのフレーミングに乗っかってきちゃうから、最初からそれをなるべく外しましょう。
高宮さんは、番組で話に出たリアル壁打ちイベントも同じ発想だと例えます。壁打ちで相談に乗れば、それがコンテンツになり、リスナーも長谷川さんのポーカー店も、みんなにとって得になるという話です。
まとめ
今回はリスナー相談を起点に、勝ち負けを競う交渉ではなく、パイそのものを広げる交渉の考え方を語り合いました。優先順位のずれを利用し、長期的な関係を前提にすり合わせることが、結果的に両者の得につながるという内容でした。
- 交渉は決まったパイを取り合う前に、両者でパイを大きくすることにフォーカスする
- 立場の差で対立する論点も、認識や優先順位のずれを使えば両者の分け前を増やせる
- 現実の交渉は一回こっきりではなく、長期的で繰り返し発生する連携の機会と捉える
- 勝ちすぎるとしこりが残る。微妙に勝ちながら関係を積み重ねる方がトータルで得になる
- ゼロサムになりかけたら、一歩引いて枠を広げ、関係者を巻き込むと折り合える






