うまくいかない時は「潮目」を待つ?リスナーの感想から
本題の前に、長谷川さんはリスナーのコメントを紹介します。最初は、ep.80「心が折れそうになったらどうする?心と体と向き合う戦略論」へのトリケラさんの感想です。
今回はとても染みて何度か聞き直しました。人によって何に恐怖し不安になるかは違うと思いますが、仕事の流れが悪く忙しいと視野狭窄になるのはよくわかります。ジグザグ進んでいる時がしんどいけれど、振り返れば意味付けできるというのも納得でした。
トリケラ さんから
高宮さんはこの感想に、オープンチャットで釣りの「潮目」にたとえて返信していました。うまくいく時は何をやってもうまくいき、逆に何をやってもうまくいかない時もあるといいます。
高宮さんによれば、うまくいかない時期は、目の前の最良手を短期目線で淡々と続けていると、状況が変わってくるそうです。
潮が動いてると魚の活性が上がってガンガン釣れるけど、潮が動かない時って何やってもダメだから、ひたすら粘って待つみたいな話もあるんで。
勝負どころ、攻め時、守り時みたいなのをどう見極めるかみたいなのって、僕結構大事だなと思ってて。
高宮さんは、この見極めはあまりロジカルな話ではなく、自分が乗れるかどうかという思い込みに近いかもしれないとしつつ、「感じること」が意外と大事だと考えています。
長谷川さんにとっての釣りはポーカーです。ポーカーは大数の法則で確率に収束するものの、局面ごとには流れがあると長谷川さんは話します。
確率論的にこれが続くわけないのに、なぜか続くみたいな話があるんですか?
そうなんですよ。配られる2枚って自分で選べなくて、ディーラーがシャッフルしてるんで、基本的にはランダムなんですけど、確率的に0.0何パーセントみたいなことが起きたりするんで。
番組の戦略論は鵜呑みにせず「触媒」に
長谷川さんは続いて、Xに寄せられたシゲさんの長文の感想を、要約して紹介します。
相談の要旨: 根っこに強い自信がある一方で、自分なんて大した人間じゃないとも思っている。だから失敗しても、そういう人間だからと開き直れる。ポッドキャストを聞いて、そんな考えに至った。
シゲ さんから
高宮さんは、番組で話していることが正しいとは限らないと前置きします。『起業の戦略論』でも、セオリーと「べからず」を下敷きにしたうえで、あえてセオリー通りに行くか逆張りするかを決めるのが本当の戦略論だと述べているからです。
ご自身で自分なりのセオリーを下敷きにした戦略を考えていただけると一番嬉しいので、そういうオリジナルの戦略を考えていただく時の触媒になれれば一番嬉しいなと思ってるんで。
長谷川さんも、戦略というHowを取り入れてもらいつつ、根っこのWhatに立ち返るきっかけになればと応じます。
VCの高宮さんは個別株を買えない?
本題は資産運用です。長谷川さんは、ここ数年のNISAをきっかけにした資産形成ブームを背景に、お金を投資するプロである高宮さんに、個人はお金とどう向き合えばいいのかを直球で尋ねます。
高宮さんの仕事は、機関投資家のお金を預かってスタートアップに投資するベンチャー投資ファンドの運営です。その面ではアセットマネージャーに近い立場ですが、高宮さん自身は、個人の投資にはむしろ苦手意識しかないと話します。
さらに意外なのは、高宮さんの会社では株式の個別銘柄を一切買えないというルールです。
え、上場株を買えないんですか?
例えばですよ、まさかそうなると思ってなくて、うちの投資先がGoogleに買われたとか、うちの投資先がトヨタに買われたみたいな話が(ありうるじゃないですか)。
後からインサイダー ── 公表前の重要な内部情報を知る立場の人が、その情報をもとに株を売買すること。インサイダー取引として法律で規制されていますを疑われると困るため、証券会社などの金融機関と同様に厳しめのルールにして、日本・海外とも個別銘柄の売買を禁止しているといいます。
なぜ個人が銘柄選びでプロに勝つのは難しいのか
高宮さんは、多くの人が資産運用と聞くと、個人投資家で100億を築いたシスさんのように、個別銘柄をデイトレードで売買する方向に行きがちだと指摘します。
一方で、何兆円、何千億円を運用する機関投資家の間には、理論的なセオリーがあります。高宮さんによれば、株式市場は得する人がいれば損する人がいるゼロサムの構造なので、何千億を運用するプロを個人が出し抜くのは相当難しいはずだといいます。
一つ一つ銘柄を超分析して、生き馬の目を抜くようないくらリターンが出たから給料いくらでリターン出なかったらクビみたいな世界で戦ってるプロの運用者に、個人トレーダーで基本勝てると思わない方がいい。
機関投資家の王道は「アロケーション」
機関投資家のセオリーは、自分で銘柄を選ぶことではありません。1兆円を運用するのに、投資先の銘柄を1つずつ選ぶのは途方もない作業になるからです。
そこで機関投資家は、日本の未上場株はベンチャーキャピタルに、上場株はヘッジファンドや投資信託に、不動産・インフラ・債券もそれぞれの専門家に任せます。長谷川さんが言うところの「アロケーション ── 資産配分のこと。運用資金を株式・債券・不動産などの資産の種類や地域ごとに、どの割合で配分するかを決めることを指します」です。
資金を集める
何千億〜何兆円規模の資金を運用する
配分を決める
未上場株・上場株・不動産・インフラ・債券などに振り分ける
専門家に委託する
ベンチャーキャピタルやヘッジファンドなど、各資産の運用者に任せる
成長を取る
世界に分散しきれば、世界経済の成長分のリターンを取れる
高宮さんは、理論上は全世界に綺麗に分散しきれば、世界経済が一定の成長をする前提で、そのリターンを取れると説明します。
例えば世界経済均して5パー成長すると思ったら絶対5パー取れるんですよ。分散しきれば。
一兆円ある人が5パーで運用すればもう500億じゃないですか。それでいいんすよみたいな世界観あったりするんで。
大事なのは、大勝ちしないかもしれないけれど、大きくやられずに堅実に勝つことだと高宮さんは強調します。
世界最大の機関投資家GPIFは何をしているのか
具体例として高宮さんが挙げるのが、世界最大の機関投資家であるGPIF ── 年金積立金管理運用独立行政法人。日本の公的年金の積立金を運用する組織で、運用資産額は世界最大級ですです。長谷川さんは、日本の組織が世界最大だとは知らなかったと驚きます。
高宮さんによれば、GPIFは日本株・海外株・日本債券・海外債券の4つにほぼ4分の1ずつ配分しています。
| 資産 | 日本 | 海外 |
|---|---|---|
| 株式 | 約25% | 約25% |
| 債券 | 約25% | 約25% |
株が上がって比率が30%ほどに増えたら一部を売って債券を増やし、日本株が上がって海外株が下がったら日本株を売って海外株を増やす。GPIFはこうした調整を続けていますが、個別銘柄の選定は自分では行わず、各資産のアセットマネージャーに委託しているといいます。
個人は何%を目指し、いくらで投資すべきか
では個人はどうすべきか。高宮さんは、トレーディングを本業にしてプロに勝ち切る才覚と覚悟がある人以外は、機関投資家の発想を取り入れるのがよいと話します。
高宮さんの見立てでは、GPIFは10%弱ほどで回っているかもしれず、個人が同じ数字を出すのは無理です。それでも日本のインフレ率が2〜3%なら、5〜6%で回せばインフレに負けずに増えていくといいます。
ただし、リスクがないところにリターンはなく、運用である以上、資産は減る可能性もあります。そのため、子どもの学費や来月の家賃を投資に回すのはだめで、生活外の余剰資金で投資をするのが基本だと高宮さんは言います。
余剰資金の元手をまず作る。余剰資金の元手ができて初めて投資をしましょうって話だと思うんですよね。
分散していても、10年ならすと7%ほど成長する一方で、単年では20%下がる年もあると高宮さんは説明します。逆に、リーマンショックでも20%程度しか下がらないともいいます。
余剰資金かつその余剰が20パー減っても許容できる範囲で投資をしましょう。
余剰資金を作るには、スタートアップのように生活費の「バーン ── バーンレートの略。スタートアップが毎月消費する資金の額を指し、これを抑えるほど資金が長くもちます」を抑えることが大切だといいます。
なぜ「怖いから運用しない」は危ないのか
高宮さんは、日本ではこれまで金利のない30年が続き、銀行口座やタンス預金に置いても減らなかったと振り返ります。しかし今は金利とインフレのある世界になり、ただ置いておくと目減りしてしまいます。
金利のない30年。預金やタンス預金で置いておいても減らなかった
金利とインフレのある世界。置いておくと目減りするため、守るためにも運用が必要
怖いから運用しないっていうのは、それはそれで目減りだけしちゃうので絶対やめた方がいいと。じゃあどう安全な運用するのかっていう世界観だとは思うんですよね。
高宮さんは要件を3つにまとめます。余剰資金だけで運用すること、短期的に20%下落しても耐えられること、そして10年、20年と長期で置いておけることです。
インデックス一択で十分か?種銭が少ないほど分散
長谷川さんは、世間の最適解としてよく語られる「ドルコスト平均法 ── 価格が変動する商品を、定期的に一定額ずつ買い続ける方法。高い時は少なく、安い時は多く買うことになり、購入価格が平準化されますでインデックス投資一択」で良いのかと尋ねます。
高宮さんは基本的にはそうだとしつつ、株式のインデックスだけでは、世界的な株式不況が来ると大きく落ちると指摘します。地域の分散に加えて、株式や債券などのアセットクラスの分散も大事だといいます。
2、30代の人ってそんな何千万とか持ってないと思うんですよ。そもそもの種銭が少ない時にアセットクラスで分散投資って合理的なんですかね?
いや、そうだからこそ分散なんですよ。
高宮さんの例では、種銭が100万円なら、個別銘柄で分散するのは無理です。代わりに株式はTOPIX ── 東証株価指数。東京証券取引所の上場企業を幅広く対象にした、日本の代表的な株価指数ですと米国のS&P500のインデックスを買い、債券も日米のファンドやETFで分散すればよいといいます。
管理手数料はかかってもプラスになり、分散を効かせてインフレに勝てば資産は守れる、というのが高宮さんの考えです。
増やさなくていい、守ればいいと思って分散してると結果的に増えると思うんですよ。
自分色を出すなら「配分の厚み」で
それでも自分なりの運用をしたい人には、配分の厚みで個性を出す方法があると高宮さんは提案します。たとえば「今はアメリカ株が伸びる」と考えるなら4分の1を30%に増やす、アメリカ株25%のうち20%はインデックス、5%をAI関連のETFにする、といった具合です。
高宮さんはポートフォリオ理論 ── 複数の資産を組み合わせて持つことで、リターンを保ちながらリスクを下げられるとする投資理論。1950年代にマーコウィッツが提唱しましたにも触れます。ファイナンス理論でのリスクは変動の幅(ボラティリティ ── 価格の変動の大きさを示す指標。値動きが激しいほどボラティリティが高く、リスクが大きいとみなされます)で、分散するとリターンを変えずにリスクを抑えられることが数学的に証明されているといいます。
高宮さんは、プロのような銘柄の目利きで超過リターンを狙うのではなく、単純な分散で超過利益を取る発想で十分だと話します。
個人がプロに勝てる唯一の方法とは?
話の途中で高宮さんは、市場で個人がプロに勝てると言われる唯一の方法を、長谷川さんにクイズとして出します。長谷川さんは、機関投資家のお金が入りにくい中小型株を挙げますが、高宮さんは、そこにもファンド経由で機関投資家のお金が入っていると答えます。
プロ投資家は常に運用しなきゃいけないことを義務付けられてるじゃないですか。投資をしないことができない。
個人は自分の資産だから投資をしないという選択ができて。絶対勝てると思った時だけに(動けばいいから)、その時はプロに勝てるんですよ。
高宮さんは、これはアメリカの投資の格言で言われていることだと紹介し、長谷川さんは「見(けん)ができる」ということだと受け止めます。
個人には「ゴール」がある。老後2000万円とDie with zero
長谷川さんは、GPIFや会社は永続することが前提だが、個人はそうではないのでは、と問いかけます。高宮さんはこれを「超グッドポイント」と受け止めます。
長期でならせば世界の成長を取れるとしても、短期では不況の5年のような凸凹があります。80歳で「20年投資すれば儲かる」と言われても耐えられない、と高宮さんは説明します。
さらに機関投資家は管理報酬をもらっているため、何もせず待つことができません。一方で個人は、老後2000万円問題が本当なら、2000万1円を稼いだ瞬間に運用をやめてもよいと高宮さんは話します。
永続が前提。管理報酬を受け取るため、投資をせずに待つことができない
人生に終わりがある。必要な額に達したら運用をやめる、投資しないという選択ができる
長谷川さんは、個人はDie with zero ── ビル・パーキンスの著書『DIE WITH ZERO』で知られる考え方。資産を残して死ぬより、生きているうちに経験へお金を使い切ることを勧めます的な考え方ができ、世代ごとにリスクの取り方も変わるのではと続けます。
年齢で変わる配分。流動性とファミリーオフィス
高宮さんは、株式の中にはプライベートエクイティ ── 未上場企業への投資のこと。スタートアップへのベンチャー投資や、企業を買収して価値を高めるバイアウト投資などが含まれますのような「オルタナ」もあると説明します。非上場株やバイアウトファンドなどのハイリスク・ハイリターンな資産です。
こうした資産は流動性がなく、ファンド期限の10年間は途中解約が通常できないか、売ると安値になります。90歳で10年満期のファンドに投資する人はいない、と高宮さんは話します。
3倍、4倍になる可能性があるが流動性がなく、急な出費の時に買い叩かれやすい
リターンは取れないが流動性が高く、増やさなくていい段階なら十分
ただし子どもへの相続まで考えると、再び長期分散の考え方になります。富裕層では家族の資産をプロが運用するファミリーオフィスがあり、基本は機関投資家と同じでも、家長が好きだからプライベートエクイティやスポーツファンドに厚く張るなど、個人の好みが反映されやすいといいます。
お金はどう使う?文化的道楽と「足るを知る」
長谷川さんは、大阪で85歳の夫婦が4億円を寄付したニュースに触れ、80代、90代でお金が余っていても使うのは難しいと感じると話します。高宮さんは、難しいのは使い方より生かし方だと応じます。
長谷川さんは、Die with zeroのパンチライン「本当の配当は記憶」を挙げ、ACTIVISTの創始者・田畑田畑さんが子どもたちとワゴン車でアメリカを縦断したいと話していたことを紹介します。
高宮さんの最近のプライベートのテーマは「文化的道楽」です。道楽だけだとシャンパンを開けて騒ぐ消費になりがちですが、「文化的」と付けると、資本主義では評価されにくい良いものを世に残すニュアンスが加わるといいます。
(道楽をするためにも)先立つものは一定お金はなきゃいけない。ただ自分はどの程度の道楽をしたいのかによって、さっきの老後2000万問題が老後200万円問題なのか2億問題なのかに変わるっていう話だと思うんで。
高宮さんは、自分がどのレベルで足るを知れるかを言語化することが、運用目標を決めるうえで大事だと話します。「足るは200億」と思うなら、かなりアグレッシブな運用をしないと届きません。
長谷川さんは、資産形成もWhyやWhatが大事で、2000万円問題を一律に語れるわけがないと納得します。
「オルカン情弱」論争と、不動産・NISAの扱い方
高宮さんは、Xではかつて「NISAをやっていない人は情弱」と言われ、最近は「オルカン情弱」と言われていると触れます。高宮さんの見方では、それは情弱ではなく、もう一段上のレイヤーでの分散が足りないだけです。
個別銘柄で自分でインデックスを作るか、ファンドを買って1%ほどの管理手数料を払うかは、好みと財布の大きさの問題だと高宮さんは話します。
僕は普通につまらない投資をしてますね。NISAの枠内をひたすら埋めるっていうだけです。
高宮さんは、NISAは節税になる分ですでに超過利益が取れていると評価します。ただし全額をNISAに入れると株式に偏るため、不動産や金などのコモディティも含めた全資産で分散すべきだといいます。
不動産は個人で分散しようがないからこそ、REIT ── 不動産投資信託。投資家から集めた資金で複数の不動産を保有・運用し、賃料収入などを分配する金融商品ですや不動産ファンドを使う、と高宮さんは提案します。長谷川さんも、新興国REITのインデックスやゴールドで分散していると話します。
長谷川さんは、シスさんのような成功例の裏には、スポットライトを浴びない99%の失敗者がいる生存者バイアスがあると指摘し、高宮さんも同意します。
奇をてらわず、セオリーから少しずつ崩す
締めくくりに高宮さんは、プロから見れば教科書通りのつまらないセオリーだとしつつ、奇をてらう必要はないと話します。インフレ下の運用や住宅ローンの金利上昇といった悩みも、このセオリーでカバーできると考えています。
セオリーで回してみて、自分に合った形でちょっとずつセオリーを、守破離じゃないですけど、崩してくっていうのがいいんじゃないかなと思ってます。
まとめ
高宮さんの答えは、個人も機関投資家と同じく分散投資を基本にし、大きく増やすより守ることを主眼に置くというものです。そのうえで自分にとって「足る」額を知り、セオリーから少しずつ自分流に崩していくことが勧められています。
- プロでも個別銘柄で勝ち続けるのは難しく、個人は機関投資家を手本に分散するのが王道
- 投資は生活外の余剰資金で行い、20%の下落に耐え、10〜20年置ける範囲にとどめる
- 種銭が少ない人ほど、インデックスやETF、REITで地域と資産クラスを分散する
- 個人の強みは「投資しないこと」を選べることと、必要額に達したら運用をやめられること
- 必要な額は人それぞれで、自分が足るを知るラインが運用目標を決める





