「自社ならではの価値」に即答できるか?
今回のMiraQラジオは、前回の経営戦略の概論から一歩踏み込み、個別戦略のうち「商品」の領域を扱う新シリーズの初回です。中村さんは、商品づくりの過程で何を考えればよいかという「商品に対する戦略」の話になると説明しています。
冒頭で名倉さんが投げかけた問いは、「あなたの会社がお客様に誇れる自社ならではの価値は何ですか?」というものです。名倉さんは末松さんに、すぐ答えられるかを尋ねます。
私何個かは出てくるんですけど。(自社)ならではがくっつくことによって、ちょっと自信なくなるかもしれないなと。
末松さんが挙げたのは、自社であるココフルで最初に教わった「ノーと言わない」という姿勢です。自社の領域外の問い合わせが来ても突き放さず、専門家を紹介するなどして、何かしらの答えを1つ見つけられるようにするという考え方です。
うちに電話したら何かしらの答えが一個見つかるみたいな、そういうところを目指しましょうって最初に教えてもらって。
末松さんは入社後、できないことを跳ね返してしまう会社もあると知り、「誰々に聞いてください」で終わって何も解決しない状況を避けるためにも、この姿勢が大事だと感じたといいます。何か困ったらココフルに聞くという関係を作れること自体が価値だ、と末松さんは話しています。
目に見えないサービスの価値はどう高めるのか
末松さんの話を受けて中村さんは、ココフルが扱う商品はサービスであり、供給という意味では実は難しい仕事だと語ります。難しさの理由は専門性の高さではなく、目に見えないことにあるといいます。
物がないんですよね。だから、これ一個いくらって売れるものがあったら、すごくお商売ってやりやすいんですけども、目に見えないものを売るってまあまあハードル高いんですよね。
中村さんは、目に見えないサービスの品質や商品価値を高めるうえで「ノーと言わない」ことを大事にしていると説明します。名倉さんも、困ったときにすぐ思い浮かべてもらえることは大きな価値だと応じています。
中村さんが仕事を始めた頃は、「パソコンが立ち上がらない」「ネットがつながらない」といった、本来の業務とは関係ない問い合わせも来ていたそうです。末松さんも、電話でボタン操作を一緒に試したことがあると振り返っています。
事業が成長する3つの条件とは?
名倉さんは、何のために商品開発をするのかという本題に話を進めます。中村さんは、事業を成長させたくない会社はほぼないとしたうえで、事業成長には基本があると語ります。
中村さんがモットーにしているのは、物事をシンプルに考えることです。その視点で整理すると、事業成長の条件は次の3つに集約されるといいます。
商品
世の中から必要とされる商品・サービスが自社にある
営業
作った商品を、必要とする人に届けに行ける
供給
売れたときに、必要なタイミングでちゃんと供給できる
供給について中村さんは、せっかく仕事を取ってきても「半年待ち、1年待ちです」となれば、よほどの商品でない限り顧客は待ってくれないと例を挙げています。
名倉さんの「それができたら苦労せん」というツッコミに対し、中村さんは、だからこそどうやって売れる商品を作るかが事業成長の根幹であり、商品づくりが大事なのだと返しています。
「きっと売れるはず」は誰の目線か
中村さんは、商品づくりを考えるとき、多くの会社が自分たち目線で考えていないかと問いかけます。「こういうものはきっとみんな欲しいはず」「作ったらきっと喜ぶだろう」という発想です。
そういう視点がないよりはあった方がいいんですよ。あった方がいいけど、ほんまにそれは必要とされてますか?
この2つの目線を表す言葉として、中村さんはプロダクトアウト ── 企業が自社の技術や作りたいものを起点に商品を開発・販売する考え方。供給側の発想とされますとマーケットイン ── 顧客や市場のニーズを起点に商品を開発する考え方。買い手側の発想とされますを紹介します。
供給側目線。「この商品は面白い」「絶対売れるはず」と自分たちを起点に考える。説明から始まるので遠回りになる
ユーザー側目線。求めている人に向けて作るので「それ欲しかった」と受け取られやすい
中村さんによれば、マーケットインのほうが商売は楽です。求めている人がいるのだから、その人に向けて作ればおのずと売れるという理屈です。
あなた欲しいのこれでしょ?って目の前に出したら、ああそうそう、それ欲しかったってなるわけですよ。
一方でプロダクトアウトの商品は、「それ何なんですか?」という反応から始まり、説明が必要になります。中村さんは、余裕のある会社ならプロダクトアウトでもよいが、中小企業にはなかなかその余裕がないため、マーケットインで考えることが大事だとまとめています。
今の困りごとと、3〜5年先の困りごと
名倉さんが改めて言葉を確認すると、中村さんはマーケットインを、商売の対象となる人たちが何を求めているかを考えることだと言い換えます。最低限、そのためのリサーチはしたいといいます。
最も手っ取り早いのは、「今これに困っているよね」と問いかけ、「そうそう、それに困っている」という悩みに応えることです。ただ、中村さんはもう少し長いスパンでも考えるべきだと続けます。
この先きっとあなたはこれに困るよみたいな。
名倉さんの「未来予知していくんですね」という言葉に、中村さんは「予言者のように」と応じます。例として挙げたのは、人事労務の領域で事業をしている自社が取り組む、採用と定着の課題です。
中村さんによると、今の社会状況だけを見て採用の打ち手を作っても、状況が変わるたびに新しいものを作り続けることになります。そこで、これからの労働環境がどう変わり、そのとき顧客が何に悩むかを先回りして伝えられれば、お客さんに対して優位な立場に立てるといいます。
問題が起きたときに「この商品を使えばいい」と顧客がイメージできれば、顧客は離れにくくなる、と中村さんは話しています。
ただし、先回りしすぎると顧客は自分が困る姿を想像できません。名倉さんも「5年後と言われても、その時にならないとわからない」と率直に反応しています。中村さんは、先を見る目安として3年先、5年先ぐらいの近い将来を挙げています。
「今のニーズ」だけを追うとなぜ価格競争になるのか
名倉さんは、今ニーズがあるから作るのではもう遅いのかと尋ねます。中村さんの答えは、今のニーズは考えやすいため、ライバル会社も同じことを考え、競合が増えるというものです。
だって今の悩みは今手に入れたいんやもん。お客さんは。
今すぐ解決したい悩みに対して、供給側も「うちならこれができます」と名乗り出る会社がいくらでも出てきます。どこに頼んでも解決できそうなら、最後は値段で決まってしまう、と中村さんは説明します。
今の悩みは考えやすい
顧客も今すぐ解決したく、供給側もすぐ発想できる
競合が増える
「うちならできます」という会社がいくらでも出てくる
差がなくなる
A社でもB社でもC社でも悩みは解決できそうに見える
価格勝負
「最終お値段は?」で安い会社が選ばれる
先回りしていれば、悩みが顕在化したときにはすでに準備ができています。逆に顕在化してから対応する商品を考え始めると、タイミングを逃してしまいます。中村さんは、だからこそ前回扱った外部環境分析 ── 市場の動向、社会や技術の変化、競合など、自社の外側にある要因を調べて事業への影響を見極める分析のことが大事なのだと結びつけています。
名倉さんが「繰り返していく必要がありますよね」と言うと、中村さんは「終わりなき戦い」と応じます。商品はどんどん古くなるため、常にアンテナを張って3年後、5年後を考えることが求められるというわけです。
商品づくりの本質は「相手にとっての価値」
中村さんは、商品づくりとは結局、相手にとっての価値だと語ります。お金を払う側は価値のないものにお金を払いたくないからです。
相手から見た時に、あ、どうしてでもこれを欲しいと思えるかどうか、そこのプロセスっていうのがとても大事なんじゃないかなって思いますよね。
自身も事業をしている名倉さんは、相手の立場に立つ想像力と、本当に求められているかを確かめる事実に基づいたリサーチの両方が必要で、やることが多いと実感を語ります。それでも、これをやらなければ他社との違いは出ないといいます。
中村さんの「時には預言者にならなあかん」という言葉に、名倉さんは「そこが一番難しい」と笑いながら返しています。
社外の率直な声が、当たり前を強みに変える
番組では、MiraQの定例研究会に参加した経営者の声が紹介されます。「当たり前だと思っていたことが、他者と話す中で実は価値だと気づけた」「自社の強みを言語化したことがなかった」「プロダクトアウトの発想に偏っていたと自覚できた」という内容です。
中村さんはMiraQの魅力を、利害関係のない他社の人と話せることだと説明します。普段受けるフィードバックは仕入れ先や販売先など取引関係のある相手からが多く、どうしても計算が入るといいます。
だからもう本当にピュアな答えが出てくる。
業界の実情を知らないからこそ、遠慮せずに言葉が出てくるというのが中村さんの見立てです。末松さんも、研究会では「こんなことやらないんですか?」「めっちゃすごくないですか?」といった、どストレートな感想が飛び交っていると話します。
こういうのできないんですか?って言ったら、あ、なるほど、そういうのかみたいな気づきも得たりするんで、知らないからこその意見っていうの、すごい大事だなっていうふうに思いました。
名倉さんは、商品に毎日触れていると当たり前になり、自社の強みに気づけないことがあると補足します。冒頭の「自社ならではの価値」という問いに対して、社外の視点が手がかりになるという流れです。
幹部社員の声としては、「難しい」が思考停止ワードになるという指摘が印象的だったという感想も紹介されました。中村さんは、MiraQでは「難しい」と言った瞬間に考えるのをやめている、という点を大事にしていると話しています。
商品は1年前からアップデートされているか?
最後の問いは「あなたの会社の商品・サービスは顧客の要求レベルに今も追いついていますか?1年前と比べて何かアップデートされていますか?」です。中村さんは「結構ドキッとしてるんちゃいますか?」と投げかけます。
名倉さんは自身の事業に重ねて、1年は短いと語ります。売り始めた商品が軌道に乗るか、反応がないかがようやくわかるのが1年というスパンで、その間にアップデートまで考えられているかは難しいといいます。
本当にちょっとしたリニューアルでもいいんですよ。本当にちょっとしたことでもいいから、やっぱりね、アップデートし続ければ大事だと思います。
営業職出身の中村さんは、かつて顧客だった家電メーカーの例を挙げます。家電メーカーは半年ごとに新商品を出し、新商品が出る頃には次の商品企画がもう固まっていたそうです。中身も性能の向上だけでなく、まったく新しい機能の追加まであったといいます。
末松さんは、1年前はまだ修行の身で商品開発に深く関わっていなかったとしつつ、今後商品開発に携わったら日々の見直しが必要だと心に留めたと話します。
中村さんは、社内の毎月のミーティングでも「これは絶対やった方がいい」とよく話すものの、思うところまではできても、きちんと供給できる商品に仕上げるのが大変なのだと語っています。
次回は、商品開発で持つべき「3つの視点」を掘り下げる予定です。中村さんは、比較的古典的ではあるものの意外と見落とされている視点だと紹介しています。
まとめ
今回のMiraQラジオでは、売れる商品づくりを事業成長の出発点に置き、顧客目線のマーケットインと、3〜5年先の悩みへの先回り、そして継続的なアップデートの大切さが語られました。
- 事業成長の条件は商品・営業・供給の3つで、出発点は売れる商品があること
- 自分たち目線のプロダクトアウトより、顧客が求めるものから考えるマーケットインのほうが中小企業には向いている
- 今のニーズだけを追うと競合が増え価格競争になるため、3〜5年先の悩みに先回りする
- 自社の当たり前の中に強みがあることもあり、利害関係のない社外の声が気づきをくれる
- ちょっとしたリニューアルでもよいので、商品を1年単位でアップデートし続ける





