プロダクトアウトは「作り手の満足」?スマートフォンに見る破壊力
「商品戦略」シリーズ後編は、前編で話したプロダクトアウトからマーケットインへの転換をさらに深掘りするところから始まります。中村さんは、商品開発の基本はこの2つの視点をきちんと切り分けることだと話します。
中村さんの整理では、プロダクトアウトとは「作り手の満足」です。作り手が作りたいものを作って市場に流すやり方で、全否定はしないものの、売りにくい面があるといいます。
俺たちこんなの作ってすげえだろとか、俺たちが楽しいからやってるみたいなね。
一方で、プロダクトアウトは当たったときに大きな力を持つとも中村さんは述べます。その例として挙げたのが、スティーブ・ジョブズによる初期のスマートフォンのプレゼンテーションです。
なんだこれはって思いましたもんね。(スマートフォンは)見たことなさすぎて、それは何ができるんですか?みたいな。
当時のスマートフォンは、お金持ちが道楽で買う贅沢品のような印象だったと3人は振り返ります。末松さんも、小学生のころにクラスで1人だけiPhoneを持っている子がいたことを覚えているそうです。
それが今では、ネットバンキングの二段階認証をはじめ、さまざまな認証がスマホを前提にしています。中村さんは、スマートフォンがないと送金もできず、自分が契約したシステムにさえログインできない時代になったと話します。
お金持ちが道楽で買う贅沢品。何ができるのか想像しにくい存在
認証や送金に欠かせないライフライン。持っていないと生活が不自由になる
中小企業がとるべきは「先回りするマーケットイン」
スマートフォンのようなプロダクトアウトは破壊力を持つ一方で、中村さんは中小企業には難しいと考えています。体力的な面も含めて、商品が爆発的に広がるまで待ちきれないからです。
そこで中村さんが勧めるのがマーケットインで、これは「顧客の満足から考える」ことだといいます。お金を出してくれる人が満足できるものを作る、という発想です。
ただし、顧客が今すぐ欲しいものだけを追うと、値段が安いほうがいいという競争になってしまいます。中村さんは、この先この人はこういうものが欲しくなるはずだと先回りすることが大事だと話します。
作り手の満足から考える。当たれば破壊力は大きいが、売りにくく、中小企業には爆発まで待つ体力が足りないことも
顧客の満足から考える。今欲しいものだけでなく、顧客がこの先欲しくなるものに先回りする
理想の未来の顧客は、今のお客様の延長線上にいるのか
ここで名倉さんが、この回の1つ目の問いを投げかけます。「あなたの会社が理想とする未来の顧客は誰ですか?今のお客様の延長線上にいますか?それともまだ出会っていないお客様ですか?」という問いです。
中村さんは、会社ができることは自社が持つリソースの範囲に限られると前置きします。全く違う分野に挑むには先立つものも必要で大変なので、今あるリソースをどう生かしきるかが問われるといいます。
ほんまに今のお客さんにずっと答えていくことだけが全てなのかって考えると、ひょっとすると全然違う、今はまだ見えない、お付き合いしたことがないお客さんを対象に考えてみるっていうのも、ひょっとしたらあってもいいかもよって話ですね。
中村さんによれば、これから見据える商品を必要としてくれる人は、今のお客さんとは限りません。自社の独自の強みを生かそうとしたとき、誰の悩みに応えるのが一番フィットするのかを考えることになります。
ホームセンター向けからBtoCへ。顧客を変えて広がった事業
対象顧客を変えるのは勇気がいる、という名倉さんの反応に対して、中村さんは実際に成功している例があると話します。挙げたのは、さまざまな鋳造品を作っていたメーカーの事例です。
そのメーカーはもともと、問屋ルートを通じてホームセンターなどの小売店で販売してもらう一般流通の形をとっていました。それが顧客へのダイレクト販売に切り替え、自社の鋳造技術で何ができるかを考えて、ガラッと違うものを作るようになったといいます。
これまで
問屋ルートでホームセンターなどの小売店に販売してもらう
転換
顧客にダイレクトに販売する形へ切り替える
再設計
自社の鋳造技術で何ができるかを考え、ガラッと違う商品を作る
中村さんは、調べてみると、対象顧客を変えたことで事業が発展的に広がった話はたくさんあると話します。極端に言えば、BtoBの会社がBtoCで考えたらどうなるか、という大きな発想の転換もあってよいといいます。
名倉さんは、顧客が変われば商品開発の考え方もすべてリセットされると指摘します。事情をわかってくれていたホームセンターやマニアックな層から、何も知らない一般のお客様へ相手が変わるからです。
その進め方について中村さんは、前編で扱ったSWOT分析 ── 自社の強み(Strengths)・弱み(Weaknesses)・機会(Opportunities)・脅威(Threats)を整理する、経営戦略の基本的な分析手法やBRIO分析を行う中で、対象顧客を変えるべきだという決断が必要になる場合もあると答えます。もちろん既存市場の中で進める道もあり、そこは柔軟に考えてよいという立場です。
商品開発の3つの柱「QDC」とは何か
名倉さんは、前編の最後に中村さんが予告していた「商品開発の3つの柱」について尋ねます。中村さんが挙げたのが、商品開発でよく言われる「QDC」です。
中村さんの説明では、Qはクオリティ(品質)、Dはデリバリー(納期)、Cはコストです。QCDと呼ばれることもありますが、順番はどちらでもよく、それぞれの視点から見てお客さんにとってどんな魅力があるかを考えることが大切だといいます。
中村さんは、3つのうち最初に考えるべきはクオリティだと強調します。品質が悪いと何も売れないからです。
例として中村さんは100円ショップを挙げます。名倉さんも、他社で1000円で売られているものと品質がさほど変わらない商品がたくさんあり、それならコストの面で100円のほうが選ばれると応じます。
品質には段階がある。満たして当然の「一次品質」
中村さんによると、品質には一次品質、二次品質、三次品質という段階があり、これを順に満たしていくことが大事だといいます。
一次品質は、機能面や性能面の品質です。中村さんは、調理したものを保存する容器を例に説明します。
調理済みのものをすぐに容器に入れて、こうね、あのフライパンとかお鍋とか洗いたいですよね。でもその容器が全然耐熱性がないとか。
求める性能に応えられない商品は、どれだけ安くても「これはいらん」となる、と中村さんは話します。ただし一次品質はあくまで最低限で、満たしていなければそもそも商品として成立しない水準だと位置づけます。
「なんとなく好き」を生む二次品質と、無印良品の例
中村さんは、二次品質こそ実は大事だと話します。二次品質とは、デザインなどの感性や、趣味嗜好へのフィットです。
ただのなんか透明な容器と、ちょっとこう可愛らしいデザインされてる容器と。で、機能面は一緒です。値段も変わりませんと。どれがいい?
この問いに名倉さんは「私はシンプルな方」と答え、物によるとも付け加えます。中村さんは、それこそが人によって趣味嗜好が違うということで、どちらが正しいわけでもないと受けます。
それ(シンプルと可愛い)どっちを対象にしたいですか?の話やんか。
中村さんは、自社ならではの特徴をどう出すかが問われると話します。名倉さんも、そのメーカーの商品は全部この路線だと伝わればファンができると応じます。
とことんシンプルを追求してマーケットを大きく取った例として、2人がそろって挙げたのが無印良品です。中村さんは、最近は方向性が少し見えにくくなった気もすると添えつつ、凝ったデザインを追求するならそちらに振り切るのも一つの道だと話します。
三次品質はブランド。「中村商店、大丈夫?」との差
3つ目の三次品質は、いわゆるブランドです。中村さんは、多くの人が「無印の商品なら大丈夫」と感じることを例に挙げ、名倉さんも安心感がすごくあると同意します。
あれなんか中村商店が同じもん出してても、中村商店大丈夫?みたいな。
同じものでも、無印良品と聞いた瞬間に安心して買う。この差が三次品質だと中村さんは説明します。
名倉さんは、大手と比べると中小企業にブランド力は難しいのではと問いかけます。中村さんは、意外と中小企業でも持っているところは持っていると答えます。
中村さんによれば、BtoCなら消費者への認知度の高さが、BtoBなら「一般人は全然知らないけれど、その世界の人なら誰でも知っている会社」であることがブランド力にあたります。ただし三次品質は信頼の積み重ねでしかなく、最も時間がかかるものだといいます。
デリバリーは納品の速さだけではない
品質の次はデリバリー(納期)です。中村さんは、まずわかりやすいのは納品までの速さだと話し、名倉さんもネット通販では届く日で買う場所を決め、「3日から4日」と書かれていたら飛ばしてしまうと語ります。
中村さんは、ネット通販で市民権を得た例としてアスクルを挙げます。最初は社名のとおり「明日来る」だったのが、デリバリーの改善で当日に届くようになり、今ではAmazonプライムでも午前中に頼めば当日届くのが普通になりました。
その裏では、物流センターの改善など、消費者からは直接見えないところで大きな企業努力があるはずだと中村さんは話します。
さらに中村さんは、無形商品を扱う会社にとってのデリバリーはレスポンスの速さだと指摘します。社会保険労務士の業界では、このレスポンスがよく問題になるといいます。
なんで今まで既存のね、社労士の先生いらっしゃったのに変えようと今回はね、決められたんですかって言ったら、まず出てくるのがこのレスポンスなんですよ。
問い合わせても3日後ぐらいにしか返事がない、という不満が委託替え ── 企業が業務を委託している社労士などの専門家を、別の事務所に切り替えることの理由として挙がるそうです。中村さんは、実際のものを運んでいるかどうかに関係なく、レスポンスも含めたデリバリーがとても大事だと話します。
コストは「安さ」ではなく「値頃感」
最後のCはコストで、中村さんは「結局それを手に入れるのにいくらかかるのか」という話だと説明します。物流センターを整えるといった取り組みも、最終的には値段に跳ね返ります。
例えばね、100円で買えるボールペンを当日配送するんやったら1000円要りますよって言われたら、いやだったら明日でいいわってなるじゃないですか。
中村さんは、ひたすら安ければよいわけではないと強調します。大切なのは、このクオリティとこのデリバリーで手に入るならこの価格は妥当だ、と感じてもらえる値頃感です。
供給する側はできるだけ利益が欲しいものです。中村さんは、自社がつけたい値付けに対してクオリティとデリバリーをどれだけ頑張るかで値頃感が決まり、うまくいけば多少高い値付けでも「それで手に入るなら安い」と思ってもらえると話します。
参加者の声。社会課題と「できる理由を探す」姿勢
ここで、ミラクの定例研究会の参加者から寄せられた声が紹介されます。1つ目は幹部社員の方からの感想です。
社会的課題に目を向けることで、まだ顕在化していない未来の顧客像にアプローチできる可能性を感じました。異業種との対話によって、新たな視点やヒントを得られたことが大きな収穫でした。強みや戦略に対する考え方が各社で異なり、自社の立ち位置や方向性を見つめ直す機会になりました。
中村さんは、顧客の悩みの根本には社会の問題があり、社会の問題があるからこそ対象とする顧客に悩みが生まれると話します。だからこそ社会的課題に目を向けることがとても大事だといいます。
続いて、経営者の方からの声も紹介されます。
顧客の課題や要望をストックし、商品開発やサービス向上に生かす仕組みをまず作ろうと思います。インプットだけでなく、仮想問答やシミュレーションでアウトプットの練習をすることも始めたいです。できる理由を探すという姿勢を持ち続けることが印象的でした。
名倉さんは「今日雨やしジム行くのやめとこうかな」と、人はついできない理由を探してしまうと笑います。中村さんは、考えていることが顧客や社会から見てどうかはアウトプットしないとわからないと話します。
アウトプットしてみると、いろんな反応が返ってくるんですよ。こんなん別にいらんとかね。
名倉さんは、そう言われたらまた磨いて何かにすればいいだけだから、まず動き出すことが大事だとまとめます。
二次品質を言葉にできるか。「察してくれる」顧問先の話
最後の問いは「あなたの会社の商品・サービスの二次品質、感性や趣味嗜好へのフィットを言葉にできますか?なんとなくこの会社が好きと言ってもらえる理由を、自分たちの言葉で説明できますか?」です。名倉さんは、「なんとなく好き」が一番強いのではないかと話します。
中村さんは、自社の顧問先で実際にあった話を紹介します。資金繰りに余裕がなくなると、経営者は継続したい気持ちがあっても、一旦契約の間を空けようと考えることがあるといいます。
ある顧問先で社長がそう考え、自社内で完結させるか、もっと安い事務所を探すよう担当者に話したところ、普段密接にやりとりしている担当者が「それはめちゃくちゃ困るからやめてください」と強く反対したそうです。
私たちが求めているところを、私たちが言えなくても、察して対応してくれるとこってないですよみたいな。
中村さんによれば、担当者が評価していたのは、ミスがないといった一次品質ではありません。顧客がうまく言語化できない悩みを汲み取り、「きっとあなたが悩んでいるのはこういうことですよね」と言葉にしてくれることでした。
それができるのは、一定のお付き合いの期間を通して、その人がどんなときにどう考えるかがわかっているからだと中村さんは話します。これこそが二次品質につながるといいます。
自社の商品を売ることにしか興味がなければ、相手に関心は持てません。相手は何に困っているのかに常に関心を持つからこそ、顧客から「なんでわかるの?」と言われる先回りができる、と中村さんは話します。
2回を振り返って。美容院で知った値頃感と、仮説から動く大切さ
前後編の締めくくりに、末松さんは2回とも「未来を予測する」という言葉が出てきたと振り返ります。今やらねばを繰り返すだけでは成長がなく、未来を予想するには社会の変化について情報収集し続ける必要があるとして、今日からできる第一歩はアンテナを張ることだと話します。
末松さんはQDCの話から、自身の体験も語ります。これまでは物を買うとき、多少機能が劣っても安いほうを選んでいたそうです。
普通、例えば5000円で払って、まあこんぐらいかっていうのでもう満足してたんですけど、もう普通に1万2万払った時に全然違うんですよね。
お高めの美容院では、頭を流す水から違ったといいます。末松さんは、たまのご褒美ならこちらがいいと思えたのは、クオリティとコストのバランスが自分のお財布に見合っていたからで、10万円になったら多分行かないと話します。企業側がそのラインをどう見極めるかは、経験とお客さんの声から導きたいと語ります。
中村さんは、とにかく見立てて仮説を立てたらやるしかないと話します。やってみて相手のフィードバックを聞けば、品質・デリバリー・コストのどこに不満があるかを教えてくれるといいます。
逆にこの機能面はいらないからもうちょっと値段が安い方がいいとか、いろいろ言ってくれるはずなんですよね。
ただし中村さんは、どれだけお客さんが買ってくれても、自社がやりたくないことでは続かないとも話します。自社もやりたく、それを必要としてくれる人もいる、その重なりの中で商売を続けられる商品作りが理想だという締めくくりです。
最後に、ミラクの次回定例研究会は9月10日に開かれ、作った商品をどう届けるかという「効果的な販売促進」がテーマになると案内されました。
まとめ
この回では、今のお客様の延長線上だけでなく、自社の強みが最も生きる未来の顧客を考えること、そしてQDCの視点で商品価値を組み立てることが語られました。中でも、機能だけでは説明できない「なんとなく好き」という二次品質を、自社の言葉で説明できるかが問われています。
- 中小企業は、顧客が先々欲しくなるものに先回りするマーケットインを軸にし、ときには対象顧客を変える勇気も持つ
- 品質は、機能の一次品質、感性や趣味嗜好へのフィットの二次品質、ブランドや信頼の三次品質の3段階で考える
- デリバリーは納品の速さだけでなく、問い合わせへのレスポンスの速さも商品価値になる
- コストは安さではなく、品質と納期に見合った値頃感で考える
- 仮説を立てて動き、顧客の声を聞きながら、自社のやりたいことと顧客の必要が重なる商品を磨き続ける





