電話ひとつで「もう行かない」と思った経験は?
MiraQラジオの販売戦略シリーズ後編は、名倉さんの「電話をかけて、この会社はやめておこうと思ったことはありますか」という問いから始まります。
末松さんがすぐに挙げたのは、飲食店の予約電話の経験でした。偉そうな対応をされたこともあれば、空いている日を尋ねたら「担当がいなくてわからない」と言われ、後日かけ直すと告げられたこともあったといいます。
あの飲食店の予約をしようと電話した時に、もう二度と行くかこの店みたいな。ありますね。
あなた誰なの?みたいな。お店の人じゃないの?
中村さんも名倉さんも「あるある」と同意し、第一印象が悪いと、その会社や店そのものを避けたくなるという感覚を共有します。
訪問者を「誰?」と迎える会社はどう見えるか
中村さんは、印象の問題はお客に対してだけではないと話を広げます。会社は取引先を含めたさまざまなつながりの中で活動しており、お客にだけいい顔をすればよいわけではない、という指摘です。
具体例として挙げたのは、社労士としてさまざまな企業を訪問するときの経験でした。中村さんたちは第一声に気をつけ、明るく「こんにちは」と言って入っていきますが、反応がなく、ちらっと見て「誰?」という顔をされることもあるといいます。
(訪問先で)周りの方というか、知らない人とかは、なんか用なんかな、誰のお客さんやろみたいな、ちょっと空気がピリッとするような。
名倉さんにも同じ経験があり、担当者はにこやかに迎えてくれても、周囲の社員の空気に居心地の悪さを感じたことがあると語ります。
社外から何か用件があって来た人は全部、まあ言ったら顧客になり得る人じゃないですか。
中村さんは、そうした人に「自分には関係ない」という態度を取れば、「この会社も知れてるな」と思われてしまうと続けます。
悪気のない対応が招く、経営者にとっての損
中村さんが怖いと感じているのは、そっけない対応をする本人に悪気がまったくない点です。予約電話の店員も、自分が受けた予約ではないからという感覚だったのかもしれない、と推測します。
名倉さんは、アルバイトのように経営に直接関わらない立場だと、お客をつなごうが増やそうがあまり関係ないという気持ちになりがちだと補足します。末松さんも、忙しかったのかもしれないと受け止めます。
しかし経営者の立場から見れば、その一言は大きな損です。中村さんは「由々しき問題」と言い、末松さんは「せっかく取れてた予約が一言で取れなくなる」とまとめます。
当事者意識の欠如
自分の担当ではない、経営に関係ないという感覚
そっけない対応
担当がいない、わからないと返してしまう
印象の悪化
お客が会社や店そのものに不信感を持つ
機会の損失
取れていたはずの予約や取引を逃す
営業以外の人は、自分の仕事と「選ばれる理由」を考えたことがあるか
ここで名倉さんが今日の問いを示します。「あなたの仕事は、お客さんがこの会社にしようと決める理由にどうつながっていますか?」というものです。
末松さんは「難しい」と率直に反応し、入社してすぐに考えられることではないし、考える機会がなければ考えたことがないかもしれないと話します。
中村さんは、社内には直接お客さんに接しない仕事が多くあり、そうした人がお客さんの姿をイメージするのは簡単ではないと指摘します。名倉さんは「大体がそうなんじゃないですか」と返します。
一担当としてお客さんに対してはすごい親身になるけど、じゃあそれが会社自体をどう選んでもらってるのかみたいな大きい目線では考えれてないことが多いんじゃないかなと思って。
この発言は、お客と接してきた経験があっても「担当者として」と「会社として」の目線は別物だという気づきを示しています。
一方、名倉さんはテレビ局のアナウンサー時代を振り返り、スポンサーや視聴者など多様な相手を常に考えながら働いていたと話します。中村さんは、顧客を意識するかどうかは置かれた環境に大きく左右されると受け止めます。
作業が目的化すると、仕事の先が見えなくなる
中村さんは、工場で物を作る人や配送で車を運転する人を例に挙げます。本来はアンテナを立てれば社外と接する機会はあるものの、目の前の作業に意識が向くと、作業そのものが目的になってしまうといいます。
あまりそこから先がどうつながっているかを考えられなくなるってことは結構あるんちゃうかなと思うんですよね。
名倉さんが、お客にもエンドユーザーや取引先などさまざまな種類があり、そこまで考えるのは大変だと返すと、中村さんは「全部がぶつ切りになっているわけではない」という目線を持てるかどうかが出発点だと話します。
中村さんによれば、すべての活動が最終的に販売へつながっていると捉えられれば、担当制や分業であっても、みんなが同じ方向を向いて仕事ができます。ただ、実際には分断されていることが多いのではないかとも述べています。
営業と製造のなすりつけ合いに出口はあるか
部署間の分断の典型として、中村さんは営業と製造の対立を挙げます。営業がお客の要望を聞いて商品の手直しを頼むと、製造側は「そんなものできるわけない、ちゃんと交渉してこい」と反発するという構図です。
逆に、営業成績が伸び悩むと、営業側は「暑い中汗水たらして働いているのに、こんな商品ばかりでは売れるわけがない」と製造側を責めます。名倉さんはこのやり取りを「なすりつけ合い」と表現します。
そんなものは作れない。営業がもっとちゃんと客と交渉してこい
もっと売れるものを作ってほしい。こんな商品ばかりでは売れるわけがない
中村さんは、どの部署が悪いかではなく、すべての部署に存在する意味があり、最終的に目指すところをどの部署でも共有しておく必要があると話します。
末松さんは、自分の担当以外の部署のお客にまで目が向いているかと問われると心許ないと打ち明けます。議論の場では「会社のことを考えないと」と言えても、当事者になると「知らんがな」と言ってしまいそうだという本音です。
お客は部署ごとではなく「会社」として見ている
中村さんが怖いと感じるのは、お客が部署を切り分けて見ていない点です。電話を取ったのが製造の人だから仕方ない、とお客は考えません。
そんな切り分けていちいちお客さんは見ないよね。もう会社ひとくくりで見る。
名倉さんは、冒頭の予約電話も同じ構図だと気づきます。自分の店のことなのにわからないと言われれば、お客は店全体に不信感を持ちます。末松さんは「ここでも(予約を)逃してますね」と応じます。
中村さんは前回の「売り手と買い手の視点」の話にもつなげます。担当者が買い手の視点で対応できていても、会社対会社の取引に進んだときに別部署の応対に不備があれば、「あの人はいい人なんだけど、この会社と付き合って大丈夫かな」と思われてしまいます。
特にBtoB ── 企業同士の取引のこと。個人向けのBtoCと比べ、取引額が大きく、継続的な関係になりやすい傾向がありますでは、最終的な取引の形が会社対会社になり、取引の単位も大きくなるため、会社全体として信頼を失うリスクはより深刻だと中村さんは話しています。
「人も商品」——理念が全員に根付いた取引先の記憶
ここで研究会参加者の声が紹介されます。幹部の方からは「営業マンも会社の商品であるという視点が印象的だった。信頼は日々の丁寧な仕事の積み重ねから生まれると実感した」という感想が寄せられました。
中村さんは、営業に限らず人そのものが商品になると補足し、どの部署につないでもきちんとしていれば「ちゃんとした会社だ」と感じられると話します。
その実例として、中村さんは半導体製品の営業をしていた頃に取引していた会社を挙げます。日常的に接する設計の技術者だけでなく、購買担当、さらに協力会社まで、誰とやり取りしてもきっちりしていて感動したといいます。
どなたと話しててもきちっとされてますよねみたいなことを言うと、うちの会社の理念はこうだからみたいな。
それを誰に振ってもみんな言うんですよ。うちの会社の理念はこうだから。
トップが理念を言い続けているからこそ、現場の人も本当にそう思っている状態でした。中村さんが口を滑らせると「うちではそういう言い方はしないので、やめてください」と逆に注意されたこともあったそうです。
中村さんは、当時の社員が皆同じ方向を向いていたことが強く印象に残っており、そういう会社だからこそ業績が伸びていくのだろうと振り返ります。
販売戦略の話が、なぜ働き方の話になるのか
続いて紹介されたのは社長の方の声で、「自社の業務環境や組織作りの必要性を感じた。販売戦略の話をしていたはずなのに、働き方にも目を向けるべきだと思った」という感想でした。
末松さんは、一人だけが理念を大事に思うのではなく、全員が大事だと思える環境をつくることではないかと解釈し、中村さんも、結局はそれが販売につながっていくと応じます。
名倉さんは、これまでの放送で何度も出てきた「社員全員が同じ方向を向く」という言葉が、実は販売戦略にもつながる伏線だったと気づき、末松さんは「ここで回収できました」と笑います。
取引先のファンになる「Whoの時代」
中村さんは、先ほどの取引先が関西のある家電メーカーだったことを明かします。営業担当として関わっていただけですが、いつもしっかりした対応を受けるうちに、自分も一消費者として電化製品はそのメーカーのブランドを選ぶようになったといいます。
もうあんまもう他のメーカーのブランドなんてあんま見ないみたいなね。もうここから買いたいみたいな。
中村さんはこれを、どこで作られたかではなく誰が作ったかで選ばれる「Whoの時代」の話につなげます。スーパーの野菜売り場で農家の写真とQRコードが貼られているのも、その象徴だといいます。
名倉さんも、ご夫婦がにこやかに写っている写真を見るとつい買ってしまうと話し、作り手の顔が見えるかどうかで購買意欲が変わると実感を語ります。
そういうのが組織ぐるみでできるかどうかってことやと思います。
そのための出発点として中村さんが挙げるのは、部署の垣根を越えて、全員が販売の一端を担っているという自覚を持てるかどうかです。
選ばれない理由から目を背けていないか
後半では、名倉さんが2つ目の問いを示します。「うちが選ばれない理由に心当たりはありますか?それ、誰かに話しましたか?」というものです。選ばれる理由ではなく、選ばれない理由に目を向ける問いです。
末松さんは、うまくいかなかったことを考えて落ち込むより、見なかったことにして「次、次」と切り替えてしまいがちだと認め、今思うとそれではダメだと振り返ります。
中村さんは、選ばれなかった理由を皆で考える必要があるとしたうえで、大事なのは現場レベルでは実は知られている情報だと話します。名倉さんは「選ばれないはずだ、ということを実は誰かが知っている」と言い換えます。
だって自分たちの商品サービスを一番冷静に見てるのは誰かって言ったら、多分現場の社員なんですよ。
社長が業績を語っても、社員は「この商品サービスで業績と言われても」と感じていて、改善点がわかっていながらあえて言わない人もいるのではないか、と中村さんは問いかけます。
声を上げると「ネガティブなやつ」になる職場
名倉さんは、現場が声を上げられていない可能性や、そもそも選ばれていない事実を現場が知らない可能性を挙げます。
中村さんはさらに、問題を提起すると「あいつはいつもネガティブだ」「批判的にしか言わない」と見られてしまう職場の空気を指摘します。名倉さんは、人間関係が絡む以上そういうこともあると認めます。
そのうえで名倉さんが提案したのは、お客様の声のように、現場の声を匿名で集められる仕組みです。中村さんは、そうした声をうまく拾い上げられる会社は強い会社なのだろうと応じます。
中村さんによれば、社外と接点を持っていれば、自社商品の良くないところだけでなく「他社さんはこうですよ」という情報も耳に入っているはずです。名倉さんは、規模が大きくなるほどそうした情報がどこかで止まってしまうのではないかと話します。
自社でも情報は上がってきているか
中村さんは、自身の事務所であるココフルでも同じことが起きているかもしれないと言い出し、名倉さんを驚かせます。
中村さんはすべてのお客と接しているわけではなく、担当者だけが接点を持つケースも多くあります。日々の要望の共有はできていても、担当者がお客から聞いた他社の動きなどの情報は、意外と上がってこないのではないかと考えています。
名倉さんは「聞けていないのだと思います」と応じます。中村さんは、FAXのDMで助成金の案内が届くなど、お客側にはさまざまな情報が入ってきているのに、その中身を自分たちは知らないことが多いのではないかと話します。
名倉さんは、お客の側から「こんなFAXが届いたんですけど」と自然に教えてもらえる関係づくりが大事だと提案し、末松さんも「できていたら理想」と応じます。
「中村さんのところはやってないですよね」と言われた理由
中村さんは、お客から「この間こういう契約をした」と聞かされ、「それはうちでもできたのに」と思った経験があると明かします。その場では「そうなんですね」と言うしかなく、相談がなかったことに寂しさを感じたといいます。
末松さんも、社労士事務所として入退社手続きや給与計算のアウトソース ── 企業の給与計算業務を外部の専門家に委託すること。社労士事務所の代表的なサービスの一つですを手がけているのに、現場で「中村さんのところはやってないですよね」と何度か言われた経験を話します。
お客は、この事務所を労務相談やコンサルティングが中心の事務所だと思い込んでいたようです。中村さんは、社労士事務所といえば手続きや給与計算をするもの、という当たり前の認識があるからこそ、「当たり前の会社ではない」という逆の思い込みが生まれたのではないかと分析します。
事務所は手続きや給与計算も当然のように手がけている
お客は「労務相談やコンサル中心の事務所」と思い込み、その仕事を他社に頼む
末松さんは、電話でも「給与計算ってやってらっしゃるんですか?」と聞かれることがあると付け加えます。中村さんは、伝わっていないだけでなく、思い込みによって仕事の機会が他所に流れていると指摘し、名倉さんは「選ばれなかった」と言葉にします。
言うまでもないと思ってたことが知られてなかったっていう典型的な例かもしれないですね。
名倉さんは、選ばれなかった理由を皆で考え、声を上げられる環境をつくることがまず大事だと整理します。中村さんは、お客は選ばない理由をいちいち教えてくれないからこそ、普段の接点で自然に入ってくる情報をどう吸い上げて形にするかが大切だと話しています。
販売戦略の最後に問うべきは「それをやるのは誰か」
振り返りで末松さんが思い出したのは、身なりから軽く扱った相手が実は偉い人の母親で、丁寧に接客しなかった店員がクビになるというドラマの定番の場面でした。名倉さんも「韓国ドラマで見たことある」と応じます。
末松さんは、自分の担当に丁寧に接するのは当然として、会社でつながる人は全員お客様であり、今は契約していなくても未来のお客様がそこら中にいると話します。困ったときに最初に顔を思い浮かべてもらうには、社員一人ひとりの姿勢と対応が大事で、それは今後への投資でもあると語りました。
中村さんは、前回と今回の販売戦略の話を総括し、買い手と売り手の違いに目を向けることが基本の基本だと改めて述べます。そのうえで、価格や売り方に目が行きがちな販売戦略でも、常に考えるべき問いがあると続けます。
日々実践するのは現場で活躍する社員であり、販売は営業に任せればよい話ではなく、全員の総力でやっていることだと社内で共有できるかに尽きる、と中村さんは締めくくります。
次回の定例研究会のテーマは「効果的な組織づくり」です。社労士である中村さんたちにとって「本丸中の本丸」のテーマで、名倉さんは経営者だけでなく社員にも参加してほしいと呼びかけ、中村さんは特にプレイヤーとチームの牽引役を兼ねる管理職にこそ学んでほしいと話しています。
まとめ
この回は、電話対応や訪問者への態度といった身近な場面から、営業以外の社員の振る舞いも会社が選ばれるかどうかを左右するという視点を示しました。お客は部署ではなく会社全体を見ており、選ばれない理由のヒントは現場がすでに持っているかもしれない、というのが中村さんたちの問題提起です。
- 悪気のないそっけない一言でも、お客は会社や店そのものへの信頼を失う
- お客は部署を切り分けず「会社ひとくくり」で見ているため、全部署が最終的な目的を共有する必要がある
- 理念が全員に根付いた会社は、取引先の担当者までブランドのファンにする
- 選ばれない理由は現場が知っていることがあり、声を上げやすく情報が上がる仕組みが重要
- 販売戦略では価格や売り方だけでなく「それをやるのは誰か」を問い、全員の総力で取り組む意識を共有する


