りそな銀行のスタートアップ戦略グループは何をしている?
今回のゲストは、りそな銀行法人部スタートアップ戦略グループの小川悠介さんです。テーマは「りそなが融資した理由を勝手に解説」で、りそな銀行のスタートアップ融資のスタンスや取り組みを、事例から読み解いていきます。
小川さんの部署は、スタートアップ全般の支援を担っています。ベンチャーデットの提供に加え、ベンチャーキャピタルへのLP出資を通じてネットワークを築き、スタートアップのエコシステムに入り込んでイベントも企画しています。
グループ会社には、りそなキャピタルなどのVCや、レイターステージ向けにJ-Willグループと組んだグロースステージのエクイティファンドもあります。小川さんのグループは、融資とエクイティをワンストップで提供する全体を俯瞰する立場だと説明します。
若林さんが「りそな銀行のスタートアップ支援の主軸になる部署」かと確かめると、小川さんは「合ってます」と答えています。窓口からベンチャーデットの審査まで幅広く担うのが、小川さんの役割です。
シリーズAから最大10億円、融資の対象と金額感
小川さんはまず、りそな銀行のベンチャーデットの概要を説明します。シリーズAのアーリー以降から融資することを掲げて数年前にスタートし、金額は1億円程度から取り組んでいます。
最近は、シリーズB前後からレイターにかけての支援にも力を入れています。金額は3億円、5億円、最大で10億円規模までを想定しています。
(大型の融資は)はじめましてのスタートアップの方々に大きく出すというよりは、既にお取引をさせていただいて、しっかり成長して、りそなとしっかりご連携いただいているようなスタートアップの方々には、より大きくご支援できればなと。
若林さんは、主戦場はシリーズB以降としつつ、場合によってはシリーズAから入るケースもあるのかと尋ねます。小川さんの答えは、シリーズAからも割と取り組んでいる、というものでした。
ただしシリーズAといっても幅があります。りそな銀行の審査は、決算書の定量より、事業計画や販売実績、パイプラインの積み上がりを重視します。そのため「1社、2社と取引が始まった」段階より、もう少し進んだシリーズAの会社が対象になりやすいといいます。
実際、シリーズAの会社に2億円、3億円の融資を実行した実績もあります。若林さんの「PMFし始めた段階より、ある程度手応えがある状態が望ましいか」という問いに、小川さんは「そうですね」と応じています。
| フェーズ | 金額の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| シリーズA | 1億円〜、2億〜3億円の実績あり | 販売実績やパイプラインが一定進んでいる会社 |
| シリーズB前後〜レイター | 3億円、5億円、最大10億円 | 既存取引があり、連携して成長している会社に大きく支援 |
次の増資を待たずに貸す「ファーストペンギン」の判断
金額感がわかる事例として、小川さんは2つの会社を挙げます。1つは、過去に支援実績があり、その後しっかり成長した会社で、いま10億円の融資を提案しているところです。
もう1つは、広くいえばフードテックの領域にあるシリーズAの会社です。製品はすでに完成し、PoCとして導入されていますが、導入から効果が出るまで少なくとも1年はかかるタイプの事業でした。
このフードテック企業は導入先が何件もあり、実績としては「まあまあ」ある一方、まだPoCの域を出ていませんでした。小川さんは、りそな銀行としても判断に迷ったと率直に話しています。
それでも、社会的なニーズ、ユーザーの声、パイプラインの積み上がりに勢いがあったことから、このシリーズAの会社に3億円規模の融資を実行しました。
若林さんは、銀行としては本来もう少し実績を見たいところを、ベンチャーデットの性質上、思い切ってリスクを取ったのかと確認します。小川さんによると、どちらの会社もシリーズAの調達でエクイティのクッションとランウェイがあり、当面の資金繰りに心配はない前提でした。
次のエクイティファイナンスをできれば待った方が断然やりやすいなと。おそらく他の銀行もそう見てるなっていうのはあったんですけども、そこを我々がご融資させていただいた時はしっかり支援できたので。
このタイミングでの融資は、スタートアップ側から強く感謝されたといいます。その結果、次のデットラウンドでは「できればりそなから借りたい」と言われるケースが、この3年間で増えてきたそうです。
若林さんは、エクイティ調達の前に借りるか後に借りるかでスタートアップは迷い、誰かが先に入ってくれるのを待つ「ファーストペンギン待ち」の状態が多いと指摘します。りそな銀行は、まさにその最初の1社として融資を出したことになります。
「第一想起」になれていない、りそな銀行の課題
小川さんは、りそな銀行の最近の課題として、認知はされているものの「第一想起」になりきれていないことを挙げます。
公庫さんは一番最初であるべきかなとは思ってはいるんですけども、ベンチャーデットプレーヤーとしては一番最初に相談いただきたいなってなりたいと思ってます。
小川さんによると、りそな銀行は単独で融資を判断でき、「他のレンダーが入らないと決められない」ということはまずないといいます。一方で、審査では踏み込んだデューデリジェンスを行うため、余裕を持って早めに相談してほしいと呼びかけています。
話は10億円を提案中の会社に戻ります。この会社への最初の融資はシリーズAの段階で、次がシリーズB、その後もエクイティ調達を重ねたうえで、今回の大型案件につながっています。
この会社とのつながりは、全国にある営業店から始まりました。営業店ではベンチャーデットではなく「スタートアップ向け融資」として接点を持ち、担当者が一生懸命対応し、会社側もりそな銀行に一定向いてくれていたといいます。
その後、赤字がまだ大きく、ランウェイに寄与するために1〜2年より長い期間と、保証協会付き ── 信用保証協会が返済を保証する融資。中小企業が借りやすくなる一方、保証には上限額があり、大型の資金調達には向かない場合があります融資の上限を上回る金額が必要になりました。そこで小川さんのチームのベンチャーデットに話が移り、支援が実現しています。
小川さんは、この会社とのストーリーや歴史がすべてつながっており、ベンチャーデットでの関係が長く続いている、りそな銀行にとって「すごくいい事例の一つ」だと話しています。
「リードレンダー」とは、メインバンクと何が違う?
次のテーマは、りそな銀行が掲げる「リードレンダー」という言葉です。若林さんは初めて聞いた言葉だとしつつ、レンダーとしての姿勢が伝わってくると感じたといいます。
小川さんによれば、リードレンダーは金融業界で市民権を得た言葉ではないものの、まったく使われていないほどでもありません。銀行業界でよく使われるのは「メインバンク」という言葉です。
ただ、スタートアップからすると、何がどうなればメインバンクなのかはわかりづらいものです。シリーズAやBの段階で、本当にメインバンクを固められるのかという問題もあると、小川さんは指摘します。
リードはリードVCという言葉がある通り、そのラウンドをなんか引っ張っていけるような存在であることがリードVCだと思ってます。
小川さんは、リードレンダーの条件として、ラウンドを引っ張ること、一定規模の金額を出すこと、誰よりもその会社を理解して伴走できることを挙げます。これに融資の出し手を意味する「レンダー」を付けたのが、りそな銀行のいうリードレンダーです。
この言葉自体は後から付けたもので、取り組みは数年前のスタート時からそのままの姿勢で続けてきたといいます。スタートアップの視点で取り組みを理解してもらうために、最近使い始めた言葉だそうです。
銀行業界でよく使う言葉。スタートアップには、何をもってメインバンクなのかがわかりづらい
ラウンドを引っ張り、一定規模を融資し、誰よりも会社を理解して伴走するレンダー
若林さんは、一般的な中小企業は決算書が出たら相談するという年度単位の動きが中心で、ラウンドという考え方はあまりないと整理します。スタートアップはラウンドを重ねるので、まず各ラウンドのリードとなり、それが続けば自然とメインになっていくのではないか、という若林さんの理解に、小川さんも同意しています。
最善計画とワーストの間に「もう1本の線」を引く
リードレンダーとしての事例について、小川さんはまず金額の面を挙げます。レイターの超大型ファイナンスはメガバンクも大きく出しますが、アーリーからミドル期に億単位、5億円といった規模で支援できることが、りそな銀行の特徴だといいます。
もう1つはタイミングです。小川さんは、会社の成長をどこで区切り、何を見れば成長が今後も続くと判断できるかを見極めることが、リードレンダーとして重要だと話します。
例に挙がったのは、AIコンサルの会社です。売上は伸びていますが、赤字がとても大きく、銀行の審査では事業計画にストレスをかけるのが基本です。売上を横ばいと仮定すると、ランウェイは1年ももたない状況でした。
一方、スタートアップの事業計画は当然伸びる前提です。デットを調達しなければ1年から1年半しかもたないところを、調達によって2年から2年半に延ばし、次のエクイティでしっかりバリュエーション ── 企業の価値評価のこと。スタートアップでは、資金調達時の株価や企業価値の水準を指し、増資条件に直結しますを上げる、という計画になります。
その伸びしろと、我々横ばいがワーストだと一旦捉えた時に、その伸びしろとワーストの間にもう一本線を引くのが私たちの仕事かなというふうに思ってまして。
ワースト
売上横ばいと仮定し、ランウェイを厳しく見る
会社の計画
デット調達で期間を延ばし、成長して次のエクイティへ
根拠の確認
パイプライン、ユーザーの声、数字の作られ方を聞く
もう1本の線
実現可能性を見極め、ワーストと計画の間に現実的なラインを引く
小川さんは、見極めても当たらないことは多く、結局わからない部分も多いと認めています。それでも、りそな銀行がよく使う「蓋然性」の見極めができた事例は多く、このAIコンサルの会社には、必要とされるタイミングで比較的大きな金額を出せたといいます。
決算書に未来は載っていない。パイプラインの確度まで聞く審査
若林さんが「こうした話は決算書を見ただけではわからないのでは」と尋ねると、小川さんは「全くわかんないですね」と即答します。
りそな銀行も決算書は必ず見ますが、決算書は1年間を区切った時点の数字しか示しません。スタートアップが見ているのは事業の進捗、ランウェイ、バリュエーションであり、資金調達のタイミングで決算書が出そろうことはほとんどないと、小川さんは説明します。
そこで、りそな銀行は決算書には未来は載っていないという前提に立ち、事業計画をベースに、その裏側にあるパイプラインや見込み客の一覧まで確認しています。
若林さんは、そこまで深く見るには融資先とのコミュニケーションにかなりのカロリーを使うのではないかと尋ねます。小川さんは、りそな銀行側もめちゃくちゃカロリーをかけており、スタートアップのCFOや財務経理の担当者にもかなり負担をかけていると認めています。
具体例は、パイプラインの確度です。案件をA・B・C・Dや確度80%などでランク付けしている場合、小川さんたちは、どんな行為をしたらAに上がるのか、どこまでがBなのかを全部聞きに行くといいます。
その営業の方々って、やっぱり上に数字を上げる時ってよく見せたいじゃないですか。それをどのように申告を社員の方にしてもらってるんですか?とか。
たとえば「NDAを結べたからDからCに上がった」といった事実ベースの基準を確認します。確度100%の案件は疑わない一方で、80%や60%の案件をどう読み込むかが勝負だといいます。
こうした見込みを事業計画に反映し、ワーストになりすぎない数字を作ることで、ランウェイを長めに見られます。その結果、より長い期間の融資が可能になる、というのが小川さんの説明です。
確度の基準を聞く
A〜Dの各ランクに上がる具体的な行為を確認
見込みを読む
80%や60%の案件を事業計画にどう反映するか見極める
ランウェイを見直す
ワーストに寄りすぎない数字で、ランウェイを長めに見る
長期の融資
より長い期間の融資が可能になる
若林さんは、そこまでカロリーを使う本気度があるからこそリードレンダーと言えるのだろうと受け止め、小川さんも「そうですね」と応じています。
使ってみる、聞きまくる、りそな流の事業理解
話題は、りそな銀行のスタートアップに対する事業理解に移ります。若林さんによれば、前回出演したエンモルのCFO澤田さんも、りそな銀行について「事業理解」という言葉を繰り返し使っていたといいます。
小川さんがまず挙げたのは、使えるサービスがあれば、とにかく自分たちで使ってみることです。加えて、大手銀行として社内の他部署に各分野に長けた人がいることも強みだといいます。
BtoBのパイプラインについては、りそな銀行の法人部門自体が普段からエンタープライズ向けの営業をしています。業績会議資料のように、顧客をどう獲得するかを日々数字で追っているため、スタートアップのパイプライン表を見ると、銀行側のほうがシビアに見ていることが多いそうです。
一方で、小川さんは自分たちがわかる分野は「めちゃくちゃ狭い」とも認めています。得意でない分野では、社内外の業界に明るい人にとにかく聞きまくり、いかに早くキャッチアップするかを心がけているといいます。
(起業家さんからも)多分デイワンであった日は、まあまあこいつ多分わかってないんだろうなってなると思うんですけど、なんか2、3回話してると、あれ急にキャッチアップしてきたじゃないかってなれるんじゃないかな。
BtoCアプリにBtoB展開を提案、大企業とのPoCへ
事業理解がわかる事例として、小川さんはベンチャーデットで支援した後の話を紹介します。対象は、BtoC向けにアプリを展開する会社で、前回出演したエンモルとは別の会社です。
このアプリはBtoC向けにこだわり抜いて作られていたため、中身についてりそな銀行がコメントすることはあまりありませんでした。ただ、融資から1〜2年経つと、BtoC単体ではIPOに向けた伸びの勢いが十分でないのではないか、という課題が見えてきたといいます。
小川さんたちは融資後の早い段階から、BtoCのプラットフォームがあるからこそBtoBにも活用できるのではないかと提案していました。当初、会社側はその提案にあまり感度が高くなかったそうです。
それでも、りそな銀行のメンバーが顧客を次々と紹介し、大手金融系の会社とつないだことで、このアプリを基盤にしたPoCが始まりました。大手エンタープライズとのPoCは少しずつ広がり、会社側も「BtoBはやらなければ」と考えるようになったといいます。
BtoCアプリは伸びているが、単体ではIPOに向けた伸びの勢いが十分でない
りそな銀行の紹介で大手金融系企業とPoCを開始し、BtoB展開が広がりつつある
小川さんは、ベンチャーデットの審査を通じて会社の良さだけでなく、今後伸ばすべき課題もわかったからこそ提案できた事例だと振り返ります。若林さんが、深い事業理解とリードレンダーの立場があったからこそだと確認すると、小川さんは「おっしゃる通り」と応じています。
小川さんはさらに、紹介の仕方についても補足します。メールでCCに入れてつなぐだけでなく、紹介先の大企業にスタートアップの良さをもう一歩伝えることが、りそな銀行の付加価値だと考えているそうです。
りそな銀行は、全国の営業現場を通じて大企業側の課題も把握しており、スタートアップ戦略グループが大企業を直接訪問することもあります。そうした中で聞いた「あの会社はこういうことをしたいと言っていた」という情報をもとに、会社同士をつないだ事例だったといいます。
融資だけでは終わらない支援は、どれくらいの比重?
若林さんの「融資だけでは終わらないんですね」という言葉に、小川さんは「終わらないです」と答えます。
りそな銀行がベンチャーデットを始めてまだ3年ほどです。先行するベンチャーデットのプレーヤーと比べると顧客の絶対数は多くないため、現在はまず資金を供給して顧客の裾野を広げることの比重が大きいといいます。
一方で、一度支援した会社に対しては、ベンチャーデットのフロントメンバーに大きな意識とモチベーションを持って融資後の支援に取り組むよう伝えています。小川さんによると、今では言うまでもなくメンバーが自発的に動いている状況だそうです。
ここで若林さんは内容を整理します。支援フェーズはシリーズAからで、主戦場はシリーズB・Cのミドル以降、金額は1億円から最大10億円の事例まであります。リードレンダーとしては審査に深く入り込み、その事業理解が融資後の支援にもつながる、という整理に、小川さんは「パーフェクトです」と応じています。
2029年3月までに1,000億円、リテールNo.1銀行として描く世界観
最後に小川さんは、りそな銀行の大きな目標として、2029年3月までにベンチャーデットで1,000億円を目指していると明かしました。
ただし、この1,000億円という目標は、数字ありきで達成すること自体が目的ではないといいます。りそな銀行は国内でリテールNo.1を目指しており、小川さんは大枠では中小企業の中にスタートアップが含まれると考えています。
それを我々はまず一丁目一番地としてはリスクマネーであるデットを供給させていただいて、その上でご支援をする。
ベンチャーデットが行き届き始めれば、りそな銀行の顧客は増えていきます。そのとき、スタートアップから「りそなが融資してくれたから、その後の成長を一緒に走ってくれたから」と言ってもらえる世界を目指すことが、1,000億円という目標の意味だと小川さんは説明します。
小川さんは、スタートアップだけでなくベンチャーキャピタルのような支援側にも、りそな銀行がどんな銀行かを知ってほしいと話しています。若林さんはこれを、スタートアップ業界全体のリードレンダーを目指す姿勢だと受け止めました。
まとめ
りそな銀行のベンチャーデットは、シリーズAから最大10億円規模まで、決算書だけでは見えない事業の蓋然性を見極め、リスクを取って早いタイミングで融資する姿勢が特徴です。審査で得た深い事業理解は、大企業との連携など融資後の支援にもつながっています。
- シリーズAから1億円程度、主戦場はシリーズB前後以降で、既存取引先には最大10億円規模まで支援する
- 次のエクイティ調達を待たずに融資する「ファーストペンギン」として、スタートアップの信頼を得てきた
- リードレンダーとして、売上横ばいのワーストと会社の計画の間に、パイプラインの確度などから現実的なラインを引く
- 審査で得た事業理解をもとに、BtoCアプリ企業と大手金融系企業のPoCをつなぐなど、融資後の成長も支援する
- 2029年3月までにベンチャーデット1,000億円を目指し、スタートアップ業界全体のリードレンダーを掲げている





