リスナーから届いた「言い続ける」ことへの共感
本編に入る前に、番組にはリスナーのゆりさんからXでコメントが届きました。昨年11月の交流会でも学んだ内容に触れたもので、番組がこれまで伝えてきた考え方への共感がつづられています。
ゆりさんのコメントは「言葉を揃えることは判断の基準を整えること。浸透や共感を得るまで、いかに言い続けるかが大事」という点の重要性を改めて実感した、というものでした。
ずっと繰り返し、交流会の中でも大事ですよっていうことを伝えてたことを、ちゃんと覚えてくださってたんだなと思って。そういう意味ですごい嬉しかったなと思います。
中村さんによると、ゆりさんは社労士仲間の一人だといいます。番組では、Xのほか概要欄のフォームからも感想や相談を受け付けていると案内されました。
炊飯器を買うはずが、なぜ土鍋に?
この回の本題は、名倉さんの「良さそうだったのに結局買わなかったものはありますか」という問いかけから始まります。末松さんが挙げたのは、一人暮らしを始めたときに買わなかった炊飯器でした。
末松さんの部屋は廊下にキッチンがある1Kの間取りで、冷蔵庫の上にはすでに電子レンジが載っています。炊飯器をその上に重ねると高すぎてご飯に手が届かず、ほかに常時置ける場所が見当たらなかったといいます。
ちょっと匂い気になるし。ってなったら、炊いて洗って、みんないちいち(炊飯器を)直してるのかなって思ったり。
居住スペースに置くと匂いが気になり、コンセントの位置も考えると、末松さんは炊飯器を買う意味そのものに疑問を持ち始めます。そこで選んだのが土鍋でした。
意外となんか土鍋って大変なイメージあったんですけど、結構炊くの簡単で。
末松さんによれば、土鍋は炊飯器の普通炊きより早いと感じるほどで、米を洗って入れて火にかけるだけなので、スイッチを押すのと手間は変わりません。洗いやすさや収納しやすさまで考えると、炊飯器はいらないと思えたそうです。
私の生活に合うものっていうのが、ピンとくるものがなかったという感じですね。
「買う気があった人」が買わなかったのはなぜ?
中村さんは、末松さんが炊飯器をいくつも見比べていたことを確認します。末松さんは価格や炊き上がりの特徴、ふっくら炊ける機能などを読んだものの、「炊飯器一択だ」という気持ちにはならなかったと答えました。
買うつもりがあった人が買わないという判断をしたのはなんでだろうって考えることが、売り手側にとってすごい重要な情報じゃないのかなって思うんですよ。
中村さんが注目したのは、末松さんがもともと買う気で家電量販店に行き、商品説明を一つずつ吟味する過程で買うのをやめた点です。もう一歩で売れたはずの客を逃したところにこそ、売り手が考えるヒントがあるというのが中村さんの見立てです。
この話は、番組を運営するコミュニティの8月の定例研究会のテーマ「販売促進」ともつながっています。中村さんは名倉さんに、家電の説明書きの違いを全部読み取れるかと尋ねました。
(エアコンは)何畳用ぐらいでしか、もう私は判断できないです。
名倉さんは、エアコンなら11畳用か16畳用かで決めてしまうといいます。中村さんも、どの家電でも途中から説明を読んでもわからなくなり、結局は手頃さや見た目の好みで選ぶようになると応じました。
ここに何が起きてるのかっていうと、売り手が伝えたいことと買い手が知りたいことが一致してないってことでしょ。
「それ、誰の都合ですか?」スペックより暮らしのイメージ
ここで名倉さんが、この回の問いを投げかけます。「うちはこの商品をこの価格で、この売り方で。それ、誰の都合ですか?」という、少し強めの問いです。
中村さんは、炊飯器の売り場の説明が末松さんにまったく伝わっていなかったことを例に挙げます。各社が工夫して商品の特徴をアピールしていても、買い手はその説明をそもそも聞きたいわけではない、という指摘です。
では、末松さんに響く売り場とはどんなものだったのか。中村さんは、1Kに住む人がどこに置き、どう使って一人暮らしを楽しんでいるかがわかる写真入りのPOPがあれば違ったかもしれないと話します。名倉さんも「折りたためる炊飯器」などのアイデアを重ねました。
売り手側はもう当然それは使い手側が考えることであって、それを伝えることは我々の仕事じゃないと思っちゃってるのかな。
中村さんによれば、会社は何を売るか、価格帯は競合と比べて妥当か、家電量販店で売るか自社のネット通販で売るか、といったことは一生懸命考えます。一方で、ユーザーがどんな疑問や不安を抱いているかを考えないまま、言いたいことだけを言っているケースは家電に限らずどの会社にもあるといいます。
スタジオでは、好きなものを人に勧めるときも同じだという話になりました。興味のない人にマニアックな部分から説明しても響かず、「それ何人組のグループの話なん?」から始めてほしい、というたとえに笑いが起きます。
とはいえ、売り手は誰が見るかわからないため、とりあえず多くの人向けに基本スペックを並べがちです。中村さんは、スペックに詳しくうんちくを語る人も一部にはいるものの、そういう人は限られると話します。
ほとんどの人は、どういう場所でどういうふうに使っていけばいいかが知りたかったわけで、別にスペックが知りたかったわけじゃない。
中村さんは、買い手が購入を決めるまでの順番を説明します。まず自分の暮らしの中で使う姿がイメージでき、次にそれに見合う金額かを考え、買うと決めたら最後は「誰から買いたいか」に行き着くという流れです。
使う姿をイメージする
限られた住環境でも、自分のライフスタイルを崩さずに使えるとわかる
価格と比べる
実現したいことと払う金額を比べ、納得できるかを判断する
誰から買うかを選ぶ
極論すると「あそこのお店のあの人から買いたい」となる
良かれと思った接客が「親切の押し売り」になるとき
名倉さんは、自分が販売員なら「あの人から買いたい」と思われるにはどうすればいいかを尋ねます。中村さんの答えは、相手が求めているニーズをちゃんと聞けるかどうか、というものでした。
あなたがどういうライフスタイルで何を求めてるかなんて、(家電量販店の店員は)絶対聞いてこへんじゃないですか。
中村さんによれば、家電量販店では「炊飯器をお探しですか」と声をかけた店員が、価格帯ごとの違いを順に説明していきます。洋服店でも、流行に乗るつもりがないのに今年の流行を勧められる、といったことが起こるといいます。
スタジオでは、服を買うときに声をかけられると店を一周して出てしまう、白い服を探しているのに別の色を勧められる、といった体験も語られました。声をかけてほしい客もいるため、その塩梅が難しいという点でも意見が一致します。
でもそれって親切の押し売りでしかなくて。いや、その親切別に求めてないねんみたいなね。
中村さんは、アパレルでも家電でも本質は同じで、店員は良かれと思って接客していると話します。8月の研究会でも、売り手と買い手のどちらのポジションから物を見るかで売れ方がまったく変わる、という話をしたそうです。
商品のスペックや特徴、価格帯ごとの違いを伝えたい
自分の暮らしの中でどう置き、どう使えるかを知りたい
中村さんは、炊飯器のスペックそのものに問題があったわけではないと強調します。その商品を手に入れることが自分の生活とどうつながるかを末松さんがイメージできなかったから、買うのをやめたという整理です。
もうこれってね、家電メーカーからしたら機会ロスでしかないよね。
しかも末松さんは別の選択肢である土鍋を選び、その結果に大満足しています。買う気があった人が買わず、別のもので満足しているという事実を、売り手は本気で考えるべきだと中村さんは話しました。
「頼みやすさ」と「安心感」が買いやすさをつくる
続いて、8月の研究会に参加した人の声が紹介されました。経営者の参加者からは「自分自身の営業スタイルや製品への愛が強すぎることが、時に顧客目線を妨げる可能性があると気づいた」という感想が寄せられています。
みんなやっぱり自分とこの自社の商品サービスには自信持ってるはずだし、それを伝えたいんですよね。
中村さんは、伝えたいことが相手の聞きたいことと合っていれば「いい人に接客してもらった」と感じてもらえる一方で、10人対応して何人にハマっているかが問題だと話します。これはBtoCだけでなくBtoBでも同じだといいます。
例として挙がったのが、中村さんの会社であるココフルが手がける人事制度の設計です。人事制度の作り替えを考えているという問い合わせに、いきなり自社の人事制度の説明を始めると、相手は引いてしまうかもしれません。
まずは自分の悩みを聞いて欲しかったのに、いきなりサービスを語るんだみたいな。
幹部の参加者からは「買いやすさは、顧客にとっての頼みやすさ、安心できることと言い換えることで、より深い理解が得られると気づいた」という声も届いていました。
この人に頼みやすいし、安心できるからこの人から買いたいっていうのは、確かに買いやすさにつながるなって思いましたね。
話は、末松さん自身の顧客対応に移ります。中村さんが「担当が替わると伝えたら、お客さんはどんな反応をするだろう」と問いかけると、末松さんは、ほぼ毎日電話しているお客さんなら悲しんでくれるかもしれないと期待を口にしました。
実際に担当替えって、別に末松に限らずね、これまでも何度もあるわけですよ。だからやっぱり、そこでも正直差は出ますよ。
中村さんによれば、担当替えを強く残念がる顧客もいれば、あっさり受け入れる顧客もいます。ただ、最初は不安がっていた顧客も、後任がしっかりしていれば数カ月後には「新しい方いいですね」と言うようになるそうです。
中村さんは、担当が替わっても大丈夫だと体験した顧客が、やがて会社そのもののファンになっていく形が理想だと話しました。
お客さんが本当に知りたいことを、聞いたことがありますか?
番組の後半では、名倉さんが今日の問いとして「お客さんが本当に知りたいことを聞いたことがありますか?」を掲げます。答えは番組の中では出さず、リスナーにも一緒に考えてほしいという投げかけです。
相談の連絡が来た時って、それ自体お客さんが知りたいことって思ってるんですけど、こっちが深ぼらないと本当に知りたいことまでたどり着けない時ってあるじゃないですか。
中村さんは改めて末松さんに、家電量販店で置き場所に迷っていることを店員に伝えたかを尋ねます。末松さんの答えは「言わなかった」でした。
一人暮らし始めるんですみたいな話から、一人暮らしセットみたいなのあるじゃないですか、家電の。あれ案内されて、これがなんか価格も抑えめでスペックも比較的良くておすすめですで終わって。
末松さんはそのセットで、20万円ほどのドラム式洗濯機も勧められたといいます。部屋に入るかどうかもわからないのに、寸法も今持っている家電も予算も一切聞かれなかったことに、話しながら気づいていきます。
一人暮らしセットみたいなのをオススメすることが、パチッとはまったかもしれないよ。でもそこに行くのが早すぎたってことやと思うんですよ。
中村さんは、末松さんが何に迷い、何を解決したいのかをうまく聞き出してから提案していれば、「この人はわかってる」と思われたかもしれないと話します。末松さんも、高いものばかり勧めないといった積み重ねが信頼につながると応じました。
一人暮らしと聞いて、すぐに家電セットや20万円ほどのドラム式洗濯機を勧める
部屋の広さや手持ちの家電、予算、迷っている点を聞き出してから提案する
中村さんは、お客さんが自分から「これが欲しい」「これが知りたい」と言ってくれることは貴重で、絶対に聞き逃してはいけないと話します。そのうえで軸に置くべきなのは、相手にとってのメリット、つまりベネフィット ── 商品やサービスそのものではなく、それを手に入れることで顧客が得られる利益や価値のこと。マーケティングでよく使われる考え方ですだといいます。
別にその商品サービスそのものが欲しいわけじゃないじゃないですか。自分が解決したいことがあって、それを解決しようとした時に、(お金を払うと)一番解決につながるなってわかるから、わざわざそれに対してお金を払うわけですよね。
中村さんによれば、売り手が自社の良さをアピールすればするほど、お客さんは「そこが聞きたいんじゃない」と感じます。それでも、お客さんはわざわざ「違う」とは言ってくれません。
スタジオでも、客は空気を読んで「考えます」「また来ます」と言って去ってしまう、という声が上がりました。中村さんは、BtoBでも熱心に商品を説明したのに「ほんならまた」で終わる経験はよくあるはずだとして、一度相手の視点に立って考え直すことを勧めています。
「そうそう、それが知りたかった」をつくるには
締めくくりに、末松さんはこの回を「買い手と売り手の両方の目線から見られたのが学びになった」と振り返ります。うまくプレゼンしているのに売れないと感じるときも、買い手の目線に立てば「そりゃ売れへんわ」というポイントがいくつもあったといいます。
やっぱり売り手になった途端、そこが見えなくなってしまう時って多いと思うので、しっかりと自分がアピールしたいことだけじゃなくて、買い手にとってどういういいことがあるのかとか、そういったところまでしっかり伝えないと。
中村さんは、売り手と買い手の立場の違いを考えるきっかけにしてほしいと話したうえで、提案が最もハマる瞬間について語りました。
中村さんによると、買い手が知りたかったことを売り手がうまく言い換えて、お客さんが「そうそう、そうなのよ」と言ってくれたらドンピシャです。名倉さんは、炊飯器なら「一人暮らしって場所がないですよね、炊飯器いらないと考えていませんか」と声をかけられていたら、本人も気づいていなかったことに気づけたかもしれないと応じました。
相手側の逆側の立場からものを見て、何を伝えるかっていうね。そういう視点を持つことが、まずは販促の第一歩かなっていう感じですよね。
次回の定例研究会は9月10日で、テーマは「効果的な販売促進」です。名倉さんが「ほんでどうすんの?」が気になると話すとおり、この回で見えた課題への具体策は、シリーズ後編と研究会に引き継がれます。研究会は会場でもオンラインでも参加でき、無料の体験参加も案内されました。
まとめ
炊飯器を買うつもりだった末松さんが土鍋を選んだのは、スペックに不満があったからではなく、自分の部屋でどう置き、どう使えるかがイメージできなかったからでした。番組では、この身近な事例を手がかりに、売り手が伝えたいことと買い手が知りたいことのズレ、そしてお客さんの本当の悩みを聞き出すことの大切さが語られました。
- 買う気があった人が買わなかった理由には、売り手が考えるべきヒントが詰まっている
- 買い手が知りたいのはスペックよりも、自分の暮らしの中でどう役立つかという具体的なイメージ
- 良かれと思った説明や提案も、相手の話を聞かずに早く出しすぎると親切の押し売りになる
- 買いやすさは「頼みやすさ」と「安心感」であり、最後は「誰から買いたいか」で決まる
- お客さんの悩みを聞き出し、「つまりこういうことですよね」と言い換えられたとき、提案はドンピシャにハマる


