水産卸の株主欄に並ぶ水産大手
水産業の上場企業を四季報で写経していて、『会社四季報』の業界地図に赤い矢印がたくさん引かれていることに気づきました。
この赤い矢印は、株式を持っている関係を表しています。たとえば『Umios』から『OUGホールディングス』へ、『ニッスイ』から『大水』へ、という具合です。
具体的に見ると、『横浜丸魚』の株主欄には、Umiosが12.14%、『極洋』が8.26%、『築地魚市場』が3.61%と並んでいます。
『中央魚類』のほうは、ニッスイが12%、極洋が5.36%、『東洋水産』が4.04%、『ニチレイフレッシュ』が1.49%です。
Umios、極洋、ニッスイは、上流から加工まで一括でやる水産大手で、売上高も1兆円超え、9000億円、3000億円といった規模なんです。
一方で、上場している水産卸の売上高は、500億円からだいたい1500〜2000億円程度。規模がまるで違います。
なぜ買い切って垂直統合しないのか
そこで素朴に思ったんです。株主に大手が名を連ねているなら、なんで完全子会社化して垂直統合したがらないんだろう、と。
株式の持ち合いは、資本効率の低下を招くので是正していこう、という流れが最近はあります。それなのに大手が10%程度の株を持ち続けている理由が、全然わからなかったんです。
買うなら買い切ったほうが、調達・物流・販売を一体で回せて、中間マージンを自社に取り込めるはずですよね。
実際、水産卸の営業利益率はかなり薄くて、1%台、2%台が上限かなというところです。卸売業全体の4.4%を大きく下回るので、ここを取り込めば全体の利益率は上がるんじゃないか、と感じていました。
写経中のメモにも「なんで上場関連会社にしたままなんだろう」「ニッスイの持分会社で、どうしてこの状態が続いてるんだろう」と書き残しています。
さらに調べると、2020年6月施行の卸売市場法 ── 卸売市場の開設や取引のルールを定めた法律。2020年施行の改正で、全国一律の取引規制が大きく緩和されましたの改正で、ルールが緩和され、各市場の業務規定に委ねられる形になっていました。
市場を経由しない取引や、ものを市場に運ばない取引を組み合わせやすくなった、と私は解釈しました。だとすれば、大手は市場と卸を飛ばして直接流せばいいはず。なのになぜ荷受け企業は上場しているのか、疑問はむしろ深まったんです。
持分法にすら届かない比率と、競合同士の持ち合い
改めて株主名簿を読むと、大手の持ち株比率は10〜14%台で止まっています。
51%を持てば基本的には連結子会社、20%持てば持分法適用会社になりますが、その持分法適用にすら当たらない比率なんです。これはますます謎でした。
資本関係は、持つか持たないか。持つなら実効支配を。競合に持たれる前に100%持って、効率と規模を高めて市場を取りに行く。私の中では、それが常識だったんですよね。
もっと重要だったのは、株主の並び方です。横浜丸魚には、Umiosと極洋という荷主に加えて、築地魚市場や複数の水産会社、卸、低温物流会社が並んでいます。
競合同士で持ち合いをしているんです。不思議ですよね。
少数持ち分は「支配」ではなく「つながる装置」
考えてみると、市場がある場所は決まっていて、その地場で強い会社が情報を持っています。産地ごとに海産物を融通し合うのも、市場の大事な役割です。
つまり、競合と言いながら直接戦っているわけではなく、市場全体を形成するうえで必要なポジションを取っている、という考え方なんですよね。
荷受けは、複数の産地や漁協、輸入元から集荷して、複数の仲卸・売買参加者に分けていきます。もしそこが特定の大手だけのための会社に見えたら、他の荷主は荷を預けにくくなりますよね。
一定の独立性と自由度があるからこそ、みんながそこに水産物を集め、情報を共有して、欲しいものを手に入れられる。
だから少数持ち分は支配のためではなく、流通へのアクセスや取引の安定、価格情報への接続を確保するための装置と読めるんじゃないか。断定はできないんですけれど、最初の疑問は一定解消されました。
市場では、今日どの産地で何がどれぐらい取れたか、質はどうか、といった情報も上から下へ流れていきます。そのクッションとしての機能も、キーワードになりそうだと感じました。
業界が違えば資本戦略も違う。これを知ったときは結構ショックで、面白かったです。そうか、互助システムなんだ、と感動しました。
マージンを抜くことは、機能とリスクを背負うこと
では、マージンを抜くとはどういうことか。ただ利益率が上がるだけではなく、機能とリスクを自社に乗せることなんです。
もちろん、直接取引が有利な領域は実際にあるみたいです。規格・数量・納品頻度が読みやすい商品、大口の量販店や外食・加工工場向け、予約取引ができる冷凍品など、需給の再現性を作りやすいところですね。
全国の寿司チェーンに毎日決まった量のマグロを入れるなら、直接取引の流通網を整えたほうが、安く均質なものを届けられるはずです。
でも魚は少量多品種です。同じ魚でも産地、サイズ、脂、鮮度が違い、水揚げ量は日々変わり、買い手の要望も「秋めいてきたからサンマ」「夏の始まりだからカツオ」と移っていきます。
全部を自前でやるなら、余剰品を逃がす販路、欠品時の代替提案、返品や在庫ロス、廃棄、売掛金の回収まで抱えなきゃいけない。しかも情報も入ってこなくなる。これは大変ですよね。
川上の入り口はいまも産地市場に集まっていて、そこを置き換えるには全国の産地に人と拠点が要るんじゃないか、というのが私の見立てです。
規制が外れても、卸は市場外で伸びていた
2020年の改正で一律規制が外れ、制度上は卸を飛ばす余地が広がったと解釈されています。
でも卸が残っていた理由は、規制じゃなくて機能だったんです。毎日変わる魚を、全国で数千の仲卸や売買参加者、小売り、外食につないで代金決済まで担う仕組みは、他にないんですよね。
じゃあ自由化で卸売業がつらくなったかというと、数字を見るとそうではありません。OUGホールディングスでは、水産物荷受けの売上高割合が58%、市場外水産卸売が38%で、利益率はどちらも1%です。
市場外卸売が2本目の柱に育っているんです。四季報の特色欄にも「市場外取引を拡大中」という言葉が頻繁に出てきて、横浜丸魚も大水も市場外での営業強化を書いていました。
つまり市場流通と市場外流通は対立していなくて、同じ企業が商流ごとに使い分けるハイブリッド構造になっていた訳です。
診断士的に補足すると、範囲の経済とネットワークの中立性で説明できそうです。複数の魚種や販路を一つの分荷・低温物流網に乗せるほど、単位コストは下がりますよね。統合の主役は川上の内製ではなく、流通機能の集約になるだろう、と言えるかなと思います。
そしてプラットフォームが特定の参加者に支配されると、他の参加者が離れていきます。荷受けの独立上場は、その中立性を見える形にする仕組みでもあるんだと考えています。
10%台の持ち合いは、会計上の支配を避けながら関係を維持する形だ、というのはあくまで私の推測です。東証の資本コスト重視の要請が強まるなかで、政策保有株の縮減とどう両立させるのかは、今後見ていくと面白いんじゃないかと思っています。
正直、卸という業種については全然無知でした。間に入っているなら上か下が垂直統合すればいいじゃん、と思っていたんです。
でも一次産業は自然が相手で、変動がとても大きい。インターネットの会社で無形の商材を売ってきた私には、そういう視点の偏りがあったんだなと反省しつつ、新しく面白いことを知れて嬉しいです。
まとめ
水産大手が水産卸の株を10%台で持つのは、支配のためではなく、中立性を保った市場にアクセスし続けるためだ、と私は読みました。卸が残っているのは規制ではなく、変動の大きい魚をさばく機能があるからです。
- 大手の持ち株比率は持分法適用の20%にも届かず、競合同士でも持ち合っている
- 荷受けの独立性が、多くの荷主が荷を預けられる中立的な市場を支えている
- 魚を全部自前で流すと、余剰・欠品・ロス・回収などの機能とリスクを抱えることになる
- 規制緩和後、卸は市場外取引も伸ばし、市場と市場外を使い分けるハイブリッド構造になっている







