冒頭の話題は、ポッドキャスター飲みとPody
本題に入る前に、浜田さんが参加したポッドキャスター飲みの話から始まります。浜田さんは、1人で2番組を持つ人や毎日収録している人に会い、番組の運営のしかたは本当に様々だと感じたと話しています。
毎日収録している例として、浜田さんは杉本さんやセールスゲートの小池さんの名前を挙げ、1回10分ほどの収録を続けているそうだと紹介します。加藤さんは、番組をそのまま事業のナーチャリングコンテンツとして使う人もいれば、Growth Radioのように事業から少し離れた位置でやる人もいると応じます。
グロースゾーンの高橋さんとかもう完全に会社のコンテンツとしてやられてると思うので、ちゃんとした施設で録画して、社員のメンバーに編集とかしてもらって。
飲み会で話題になったのが、ポッドキャストの書き起こしを記事にするサービスのPodyです。浜田さんは、けんすうさんのハイパー企業ラジオなどを通じて存在は知っていたものの、以前はベータ版でウェイトリスト形式だったといいます。今は普通に使えると聞き、週末に試してみたそうです。
浜田さんによると、Podyは1エピソードあたり1000クレジットかからない程度、つまり数百円ほどで、書き起こしと要約、図解まで作ってくれるといいます。SEOの効果もあるとされ、Growth Radioが話しっぱなしになるのはもったいないと感じていた浜田さんには、ちょうど求めていた形だったようです。
このグロスラジオもいろいろ喋っても、ほんと喋りっぱなしになってもったいないなと思ってたんで、こういうのやりたいなと思ったら、もうこれでできるじゃんって思って。
加藤さんも、テキストにざっと目を通してから音声を聴く人もいるはずだと話し、浜田さんも、どんな話をしているのかを先に知れるほうがいいと同意しています。
なぜ今、Salesforceを取り上げるのか
今回はシーズン2になって初めてのIR解説回で、題材はSalesforceです。浜田さんは、約1年前に「IRで読み解く」としてSansanやラクスなど日本のSaaS株を扱い、何が評価されているのかやRule of 40 ── SaaS企業の健全性を測る目安で、売上成長率と利益率の合計が40%以上なら健全とされる考え方ですについて話した回があったと振り返ります。
海外企業としてSalesforceを選んだ理由について、浜田さんは直近の株価の値動きが非常に激しいことを挙げています。
年の頭のSaaS is dead論ってもう終わったよね、Salesforceの株価見てたらもう戻ってんじゃんみたいな話がされる中で。
一方で浜田さんは、SaaS銘柄の中にはまだ苦戦しているものも多く、Salesforceは勝ち組に近い存在だと見ています。そのうえで、Salesforceの株価がなぜここまで戻したのかが面白いポイントだと話しています。加藤さんも、「SaaS is dead」の文脈からの再評価をまさに体現しているのがSalesforceだと受け止めています。
株価の山と谷をたどると何が見えるか
浜田さんは、Salesforceの株価を全体で見ると大きくは右肩上がりだとしたうえで、その中の山と谷を順にたどります。
1つ目の山は2021年のSaaSバブルの頂点です。そこから1年間大きく下がり、2022年末に谷をつけます。ところが2024年12月、ChatGPTがすでに登場していた時期に再び上昇し、ここが最高値になったといいます。
浜田さんによれば、最高値のときの株価は340ドルで、現在の1.5倍ほどでした。時価総額はざっくり3000億ドル、日本円で約50兆円の水準です。そこから2年ほどで半分近くまで下がり、最安値は163ドルでした。足元では1株250ドル前後まで戻り、SaaSバブル時の頂点とあまり変わらない水準になっています。
加藤さんが、回復のタイミングはAgentforceが本格的に出た頃ではないかと尋ねると、浜田さんは少し整理し直します。浜田さんの見方では、Agentforceを次々に出していたのは2024年の最高値に向かう時期でした。
Agentforce出してはいるけれども、結局AnthropicとかClaudeに食われるんじゃないかっていうところで、すごく下がっていたのが、この1月からっていうところですよね。
その下落に対し、特に8月ごろから急に株価が上がってきた、というのが浜田さんの整理です。
直近3カ月で5割戻した理由は「今めっちゃ儲かっている」
加藤さんは、直近3カ月で株価が5割戻したという話もある中で、なぜSalesforceの株価は戻ったのかと問いかけます。浜田さんは要素がいくつかあるとしたうえで、まずシンプルにSalesforceがとても儲かっていることを挙げます。
浜田さんによると、Salesforceの営業利益率は34%ほどです。さらに、配当や自社株買い ── 企業が自社の株式を市場などから買い戻すこと。流通する株数が減り、1株あたりの価値が高まりやすいため、株主還元の手段とされますによる株主還元を積極的に行っているといいます。
浜田さんは、この強さをSaaSバブルの頃の言い分と対比して説明します。当時のSaaS企業は、今は利益が出なくても、一度獲得した顧客には獲得費用がかからないため、顧客が積み上がるほど将来は大きく儲かると説明していました。
ところが金利が上がると、先で儲かることの魅力が薄れました。さらにAIの進歩が速すぎて、ソフトウェアも2〜3年後には価値がなくなるのではないかと言われるようになり、「将来儲かる」というSaaSの言い分が成り立ちにくくなったといいます。
Salesforceは、「いやいや、うち今めっちゃ儲かってますよ」と。なんならもう、「儲かりすぎてるんで、ちゃんとお返ししますね」みたいになってる。
今は赤字でも、顧客が積み上がれば将来は大きく儲かる。金利上昇とAIの進歩で説得力が弱まった
営業利益率34%ほどで今すでに儲かっており、配当や自社株買いで株主に還元している
浜田さんは、将来の約束ではなく今の利益と株主還元で強さを示せている点を、Salesforceの非常に強いところだと見ています。
先行指標だらけのIRは何を見せているのか
浜田さんがSalesforceの株価回復の2つ目の要素として挙げるのが、IR資料の面白さです。SalesforceのIR資料には、とにかくいろいろなKPIが載っているといいます。
浜田さんが例に挙げるのは、AgentforceのARR、Agentforce+Data 360のARR、Agentic Work Unit、トークン数などです。ARR ── 年間経常収益。サブスクリプション型ビジネスで、毎年繰り返し得られる売上を年額で示した指標ですのような売上の指標に加えて、先行指標らしいものがたくさん並んでいます。
ともかくSalesforce上でめちゃくちゃエージェントが動いていて、そのエージェントが動いている数が、年間じゃなくて四半期単位で2倍とか3倍になってますみたいな感じで。
浜田さんは、こうした数字を通じて、数年後には圧倒的なエージェントの会社になっているだろうという姿を見せているのではないかと話します。
売上の見せ方にも工夫があると浜田さんは指摘します。Agentforceだけでなく、データ基盤のData 360や、以前に買収したMuleSoftなどプラットフォーム側のサービスも「AI時代に儲かるサービス」としてひとくくりにし、その売上が全体の何割あるかを示しているといいます。
なんかもうよくわかんないんだけど、確かに儲かるのかもなみたいな感じになって、その辺の見せ方がともかくうまいなっていう感じがしますよね。
加藤さんは、売上の伸びを前提にしながら、今後月額課金中心でなくなるかもしれない局面に備えてトークンの伸びも示していると受け止めます。Salesforceのこの見せ方を、加藤さんは「どちらに転んでも伸びる」と見せる工夫と捉えています。
浜田さんはこれを課金モデルの話として補足します。Salesforceは基本的にシート課金なので、利用者のシート数が減れば売上も減るのではないかという懸念がありました。それに対し、Salesforce上でトークンが大量に使われていることを示せば、今後はトークンに課金することで、これまで通りか、それ以上に儲かると見せられるといいます。
懸念
AIでシート数が減り、シート課金の売上も減るのではないか
示す指標
トークン数やAgentic Work Unitなど、Salesforce上でAIが大量に使われている数字
描く将来
トークンに課金すれば、これまで通りかそれ以上に儲かる
市場の受け止め
将来への備えができていて、リスクが少なく見える
加藤さんが「リスクが少なく見える」と話すと、浜田さんは、将来への備えができていると見せる手法が非常にうまいのだろうと応じています。
2024年の最高値は、なぜ実現したのか
話は少し戻り、加藤さんは、SaaSバブル崩壊後の2024年にSalesforceの株価が最高値をつけた理由を浜田さんに尋ねます。浜田さんは、ここにもいろいろな要素があるとしたうえで、まず利益を出すようになった点を挙げます。
SaaSバブルが崩壊すると、利益は出ていないが成長している会社は評価されなくなりました。浜田さんによると、Salesforceはそこでいち早く利益を出す方向へ舵を切り、ちゃんと儲かる会社であることを示したといいます。
成長率ってもう2割くらいかもしれないけど、利益うちもなんならもう2割以上出せるから、全然儲かってるよねみたいな感じで。
浜田さんは、Rule of 40の考え方で、成長率と利益率を合わせて評価される形に持ち込めたと見ています。
2024年ごろは、まだAIがSaaSをすべて置き換えるとは誰も思っておらず、AIはチャットツールだと思われていた時期だったと浜田さんは話します。むしろ大きかったのは金利の状況でした。トランプ氏の関税政策などでインフレ懸念が強く、金利がなかなか下がらないため、将来のキャッシュフローが評価されにくかったといいます。
インフレ懸念
関税政策などでインフレへの懸念が強まる
金利が下がらない
将来の利益やキャッシュフローが評価されにくくなる
利益を出しに行く
Salesforceがいち早く大きな利益を出す方向へ動く
最高値
今儲かっている会社として評価され、株価が上昇
加藤さんは、Salesforceは見せ方も含めて一貫してうまく、その強さが今も続いていると受け止めています。
「死ぬ気で売る」営業力こそ本質的な強み?
加藤さんが今後の株価の見通しを尋ねると、浜田さんは「わかんないですけどね」と前置きしたうえで、Salesforceの幹部から話を聞いた機会について語ります。株主関係の縁で、幹部に話を伺う場があったそうです。
やっぱり本当にその、もう、もう死ぬ気で売ってると。
浜田さんによると、Salesforceでは製品が次々に発表されます。直近で株価が最も上がった日は、Anthropicとの連携を発表した日だったといいます。こうした発表はインサイダー情報にあたるため、社員も事前には知りません。
そんな感じでこう急に発表されてもとりあえず売らなきゃいけないみたいな。めちゃくちゃ難しい状況なんですけれども、それをやりきる営業の力がある。
浜田さんは、CEOのマーク・ベニオフ自身の顧客志向の強さも挙げます。ベニオフ氏は、顧客と話していない社員は評価しないと言わんばかりの姿勢だといいます。浜田さんは、この顧客志向と営業力こそが、Salesforceの最も本質的な強みではないかと考えています。
その根拠として浜田さんは、ピーター・ティール ── PayPalの共同創業者として知られる起業家・投資家。スタートアップ論をまとめた著書『ゼロ・トゥ・ワン』で広く知られていますの『ゼロ・トゥ・ワン』を引きます。同書では、プロダクトが素晴らしくてもGo-to-Market ── 製品を市場に届けて売るための戦略や体制のこと。営業やマーケティングなど、顧客獲得の仕組み全体を指しますが弱い会社が市場を独占したことはない一方、プロダクトはいまひとつでも営業が強い会社が独占したことはある、と書かれているそうです。
AIで物は作りやすくなったが、売ることは簡単になったか
加藤さんは、営業力はもともとSalesforceの強みだったが、世の中のトレンドとしてもより求められていると感じると話します。浜田さんも強く同意します。
浜田さんの見立てでは、『ゼロ・トゥ・ワン』が書かれた頃と比べると、AIによって物を作ることは簡単になり、新しいものがどんどん出てくるようになりました。一方で、物を売ることはそれほど簡単になっていないといいます。
物を売ることってなんか言うてそんな簡単になってない。もちろんAI SDR使えばたくさんメールは送れますけども、それですぐ成果が出るわけではなくて。
浜田さんはさらに、営業は負荷の高い仕事で、Z世代など若い人が多く就くわけでもないと話します。物を作れる人は増えても、いい営業は増えていないという状況の中で、営業力が最後の差別化になるというのが浜田さんの考えです。
AIで簡単になり、新しいものが次々出てくる。作れる人も増えている
AI SDRでメールは送れても成果はすぐ出ない。いい営業は増えておらず、最後の差別化になる
インサイドセールスに携わる加藤さんも、実感を込めて応じます。AIをフル活用できるようになると手法がコモディティ化し、誰もが似たような1to1メールを送るようになるため、受け取る側から見ても差別化が難しいといいます。
やっぱ人みたいなところはありますよね。
浜田さんは、幹部から聞いた話として、Salesforceのトップクラスの人が自ら営業に来て「今日中に決めてくれるならこれでいきます」というオファーを出した例を紹介します。そのうえで、人にしかできないことをやりきる会社は強く、それをAIに全部任せてしまうとおそらくうまくいかないと話し、Salesforceの営業に揺るがなさを感じると語っています。
Slack、Tableau、MuleSoft買収は、なぜAI時代に効いているのか
続いての話題は、以前の回でも取り上げたSalesforceのM&Aです。浜田さんがすごいと感じるのは、MuleSoft、Tableau、Slackといった5〜6年前に買収したサービスが、今になってAI時代に良いポジションを取っていることです。
データ基盤MuleSoftあり、エージェントの入り口のSlackがありみたいな。もう誰が考えてたの?みたいな話で。
幹部の話でも、SalesforceのM&A部隊は強いという話が出たそうです。浜田さんは、過去の種まきが非常にうまいことを、SalesforceのM&Aの強みの1つ目に挙げます。
2つ目は、足元でAI系の会社を次々に買収していることです。浜田さんは、Growth Radioで取り上げたQualifiedやFinといった会社も含まれると話します。
いわゆるもうイノベーションのジレンマにははまらないよっていうふうに宣言してる感じなんですよね。
浜田さんによると、FinはもともとIntercom ── 顧客とのチャットやサポートを担うサービスを提供する企業。低価格で利用を始めやすく、製品自体が顧客獲得を担うPLG型の代表例とされますが提供するサービスです。Intercomは月額10ドルほどから使える超PLG型のサービスで、Salesforceが売らなそうなタイプだといいます。そうしたAI時代に合ったサービスを取り込むことで、新しい市場を切り開こうとしていると浜田さんは見ています。
SalesforceがAIに乗り遅れることは絶対にありませんっていう、なんか宣言のために会社を買ってるみたいな感じですよね。
浜田さんは、Salesforceは買収を通じて市場にも巧みにシグナルを出していると見ています。加藤さんが、一見するとさまざまなジャンルの会社を買っていると話すと、浜田さんは、Salesforce VenturesというVCで広く投資しながら、戦略的に合う会社があれば買っていく形で、毎月のように買収している印象だと答えています。
統率された「軍隊」が株主をリードする
加藤さんは、先日のDreamforceで今度は「AIForce」だという話があったことに触れます。浜田さんは、何でもかんでもAgentforceと呼ぶのをやめ、名称の扱いを変えるという話も出ていたと応じます。
何言ってんだみたいな感じになると思うんですけど、それでやっぱついてくる。
浜田さんは、方針が次々に変わる中で社員がついてくる様子を、ある種の軍隊にたとえます。統率力の強さがあるからこそ、こうした動きができるのだろうと見ています。加藤さんも、冒頭で話した営業力によって、さまざまな新製品を現場でうまくさばいているのだろうと応じます。
さらに浜田さんは、Salesforceが営業を続けながら利益もきちんと出している点を挙げます。Salesforceも他のシリコンバレー企業と同様にレイオフを行い、人員数を調整しながら利益を出してきたといいます。
株主に求められることをもう何て言うんですかね、迷わずやるし、早くやるみたいな。
加藤さんも、「株主をリードしている」という表現がしっくりくると話しています。
日本のSaaS企業が学ぶべき「先行指標の見せ方」とは
最後に加藤さんは、Salesforceの事例から日本のSaaS企業が得られる示唆を尋ねます。浜田さんは、AI時代の戦い方が鍵だと答えます。シート課金は難しくなり、データを持つことが求められる中で、そこにどう向き合っているかを示すことが大事だといいます。
その中でも浜田さんが重視するのが、先行指標の示し方です。浜田さんは、昨年日本企業を取り上げた回で話したマネーフォワードの例を挙げます。
浜田さんによると、マネーフォワードは一定の赤字がありながらも株価がしっかりついていました。同社のIRでは、売上が増えた分に対して利益がどれだけ増えるかを示し、売上が今の何倍になれば黒字がどうなるかという見せ方をしていたといいます。
浜田さんは、SalesforceのAgentic Work Unitも究極的には同じ発想だと考えています。今はフルAIではないかもしれないが、この方向に進んでいるので、このままいけば将来はAIの会社になる、利益のある会社になると示すことができます。
そこを示すことによって、ディスカウントされない、将来何かやってくれるんじゃないかっていうふうな期待を持たせ続けるみたいな。
足元は赤字でも、売上の増加分に対する利益の増え方を示し、売上が何倍になれば黒字になるかを見せる
Agentic Work Unitやトークン数で、このまま進めば将来は圧倒的なAIの会社になると見せる
加藤さんは、この視点はIRだけでなく、採用や、SaaS企業に身を置く一人ひとりにとっても会社として見せていきたい部分だと話します。
どうしてもSaaSやってると、ARRがあって、グロースがあって、Churnがあってみたいな感じですけれども。
その手前側っていうか裏側に本来の稼ぐ力を示してるKPIみたいなのがあって、そこをうまく示せるかみたいなとこはすごく大事ですよね。
今回が初めてのIR解説回だった加藤さんは、知識がない中でも面白かったと振り返ります。浜田さんも、マニアックではあるものの大事な内容だと話し、この回を締めくくっています。
まとめ
Salesforceの株価は、SaaSバブル崩壊、2024年の最高値、AIへの懸念による下落、直近の急回復と大きく揺れてきました。浜田さんは、その背景に、今の利益と株主還元、先行指標を駆使したIR、揺るがない営業力、先を読んだM&Aがあると読み解いています。
- 将来の利益を約束するのではなく、営業利益率34%ほどの今の利益と株主還元で評価を取り戻した
- トークン数やAgentic Work Unitなどの先行指標で、シート課金が縮んでも伸びる姿を示している
- AIで物は作りやすくなったが売ることは難しいままで、「死ぬ気で売る」営業力が最後の差別化になる
- MuleSoft・Tableau・Slackの過去の買収とAI企業の相次ぐ買収が、AI時代のポジションと市場へのシグナルになっている
- 日本のSaaS企業も、ARRやChurnの裏にある本来の稼ぐ力を先行指標で示せるかが重要になる





