きっかけは『Umios』の可愛さでした
なぜ水産業なのか。きっかけは、『マルハニチロ』から社名を変えた『Umios』です。
Umiosのキャラクターがとにかく愛らしくて、私の心を掴んで離さないんです。LINEスタンプも愛用しています。
推し活の写経といいましょうか。Umiosを見るなら水産業を全部見た方がよかろう、というわけです。
ただ、私は会社に座ってパソコンをポチポチする業界で日銭を稼いでいる人間です。一次産業については何もわからない状態からのスタートでした。
今回写経したのは、次の14社です。
『Umios』『ニッスイ』『極洋』『ニチモウ』『東洋水産』『OUGホールディングス』『大水』『中央魚類』『マルイチ産商』『ヨンキュウ』『築地魚市場』『横浜丸魚』『中部水産』『横浜魚類』。
多すぎてびっくりしましたよね。気合いを入れてやってきました。
特色欄を並べても、何が何だかわからない
四季報の特色欄を並べるだけで、事業がバラバラなのがわかります。
Umiosは水産最大手で、国内外に強固な流通網を持つ。ニッスイは水産大手で、加工・商事のほか日本と南米で養殖。
ヨンキュウは養殖業者への稚魚・飼料販売と鮮魚販売が二本柱で、愛媛県の宇和島にあります。中央魚類、築地魚市場、横浜丸魚は、いずれも「水産荷受」と書いてあります。
えっと、何が何なんですかね、と。本当に全くわかりませんでした。
『四季報オンライン』の業界地図を見ても、水産大手と水産卸売の2つの分け方しかなくて、そもそもサプライチェーンがどうなっているのかがわからなかったんです。
読んでいるうちは、正直、工業製品と同じような一直線のサプライチェーンなのかなと思っていました。魚を仕入れて、加工して売る、くらいの解像度の低さです。
どの会社の四季報コメントにも魚の価格や仕入れコストが出てくるので、みんな同じ川の上流と下流に並んでいるだけなんじゃないかと。
しかも「魚が取れていない」「食べる人が減っている」というニュースは時々聞いていたので、その一本線が縮んでいるなら、プレイヤーの数や役割は単純化・効率化されてきているんじゃないかと考えました。
仮説としては薄いんですが、これを確かめにいきました。
一匹の魚は、二度集められて値段がつく
参考にしたのは、内閣府の規制改革推進会議の資料「水産物に関する産地市場・消費地市場の目指すべき姿」と、YouTubeの「日本の水産バリューチェーン フルバージョン」「東京の魚市場2025 豊洲市場編 20分版」の3つです。
まず、漁業者が日本各地で魚を取ってきます。当たり前ですが、そこからスタートです。
取れた魚は、実は産地市場というところに並ぶらしいんです。
内閣府の資料には、水産物は季節や天候で魚種や漁獲量が変わり、サイズや品質もさまざまなので、選別・出荷を行う産地市場と、多種多様な水産物を揃える消費地市場の二段階で形成されていると書かれていました。
一般的な流通経路をまとめると、漁業者 → 産地市場(買受人)→ 卸売業者 → 消費地市場(買受人)→ 食品卸売業者や飲食店 → 小売・外食 → 消費者、となります。
一匹釣れたら一本線で消費者に届くのではなく、産地で一旦集めて値段をつけ、消費地でもう一回集めて値段をつけ直す。二段構えになっている訳です。
国内の水揚げ場は約2800箇所あるらしく、小規模な漁港の水揚げは地域の拠点漁協に集められています。
同じところで取れる魚は特定の魚種に偏るので、地元では消費しきれません。だから価値の高い魚を選別して、高い値がつく大都市の消費地市場へ一括で送るんですね。
一方で、国の資料によると、小規模な産地市場は価格形成力が弱いそうです。漁業者が減って取扱量が減ると運営が非効率になり、手数料も減ってしまう。
そのため、市場の統廃合による集約や、荷捌き・鮮度保持施設の整備、荷受け情報の電子化を支援しているとのことでした。
私が知らなかったのは輸入です。空港経由の輸入水産物は、取扱量だけで見れば国内有数の大規模水揚げ施設に相当する規模が、空路で届いているらしいんです。
消費地市場の様子は、豊洲市場の動画がわかりやすいです。前日の夕方から夜中にかけて荷が入り、卸売業者が並べて、競りや相対取引で次の事業者に渡していきます。
豊洲は全国から来た荷を他の市場へ積み替える中継拠点でもあって、東京に売るだけの場所ではなく、全国に配る結節点なんですね。
卸売業者と仲卸業者、ようやく区別がつきました
ここで用語を整理しておきます。
- 卸売業者(荷受):出荷者から委託・買付で集荷し、競りや相対で販売する。許可制・承認制
- 仲卸業者:市場内に店舗を持ち、小分けや加工をして買出人に売る
- 売買参加者:都の承認を受けた量販店や水産加工業者。卸売業者から直接仕入れる
- 食品卸売業者:市場の外で、量販店やコンビニに品目を揃えて届ける
卸売業者は、一体ごとの個体差を検品して値をつけます。目利きが本格的に行われるのがここなんです。
仲卸業者の機能は、評価と分化です。バルクで仕入れて、マグロを部位ごとに切ったり、魚を開いたり、料亭が使い切れる小さい単位に分けて売ったりします。
正直、私はこの2つの違いをよく知りませんでした。動画を見て、写経してきた「水産卸」と呼ばれる企業は、基本的には卸売業者、つまり荷受業者なんだと理解できました。
サプライチェーンがわかると、各社がどこで付加価値を出そうとしているのか、なんとなく想像できてきますよね。
市場外取引が増えても、産地市場は通っている
写経中によく見かけたのが、「市場外取引が増えている」という記載です。
産地に近いところからバルクで仕入れて全国のチェーン店で使う、加工に必要な量がわかっているから消費地市場を通さず自分たちで仕入れる、といった流れのことです。
『水産白書』によると、消費地卸売市場の経由率は2020年度で約46%。1989年は75%でした。
大手企業やサプライチェーンを持つ企業が、欲しいものを効率的に仕入れるようになって比率が下がっていった、という仮説が立てられそうです。
ただ注意したいのは、これはあくまで消費地市場の経由率だということです。北海道立総合研究機構のマニュアルでも、生産地ではほとんどが産地市場を通っていると整理されています。
価格の帰属も押さえておきます。小売価格のうち、生産段階が3割程度、産地市場段階が3割程度、消費地市場段階が1割程度、小売段階が3割程度を取っていると見られるそうです。
多層構造は、自然の不確実性を消すためにある
では、なぜこんな多層構造があるのか。今回の一番の肝は、多層構造は自然を相手にした不確実性を消すためにあるということだと思います。
供給は構造的に減っています。漁業・養殖業の生産量は1984年の1282万トンがピークで、2025年は357万トン(概算値)。
需要も縮んでいます。食用魚介類の1人当たり消費量は2001年度の40.2キロがピークで、2024年度は21.3キロです。
取れない、売れない。それでも消費者のニーズは偏って存在しています。
漁獲量は毎日変わるし、同じ魚でもサイズ、脂、鮮度、産地が違う。生鮮なので時間が経つほど価値は落ちる。
生産地は2800以上に分散していて、需要地は都市に集中している。だからこそ、産地市場、荷受、仲卸、食品卸、低温物流、加工という層が必要になるんです。
スーパーにいつも同じ切り身が似た値段で並んでいるのは、この層が変動を見えないところで吸収しているからなんですね。どこかで不作でも、どこかで豊漁かもしれない。
品質のばらつきもプロの目で仕分けされ、必要な場所に届いて、どんな形で仕入れるかというやり取りが毎日されている。毎日ですよ。
いや、すごいですよね、正直。スーパーに行っている時も、写経を始めた時も、全然想像していませんでした。
診断士的な補足をすると、在庫のリスクプーリングや経路の冗長化の話だと思います。分散した小口の供給を一度集約して、需要が確定してから分化するほど変動に耐えられる、という話に落ち着けられるんじゃなかろうかと。
産地市場の統廃合も、規模の経済と交渉力を同時に取ろうとする施策ですよね。施設の稼働率が上がり、扱う量が増えるほど価格形成力が生まれる。集約化・共同化の典型例です。
卸売市場は、集荷、価格形成、代金決済、情報提供の4機能を担う公共インフラとして設計されていて、そこで自然の変動をクッションにしている。そう読み取ることができました。
写経を始めた時点では、水産業を魚を捕る会社、売る会社、加工する会社くらいに思っていました。実際に見えてきたのは、自然相手の変動を市場・卸・物流・加工が受け止めて、毎日買える状態に変換する産業だった訳です。
では、これだけ複雑な物流を、大手水産会社が全部自前でやっちゃえばいいんじゃないの? 次はそこを考えていこうと思います。YouTubeの動画もぜひ見てみてくださいね。
まとめ
水産業は一本線のサプライチェーンではなく、産地市場と消費地市場で二度集めて値段をつける多層構造でした。私はこの多層構造を、自然相手の変動を吸収して安定供給するためのクッションだと理解しました。
- 魚は産地市場で選別・値付けされ、消費地市場でもう一度集約・再配分される
- 水産卸と呼ばれる企業の多くは、市場の卸売業者(荷受)にあたる
- 消費地市場の経由率は約46%まで下がったが、産地市場はほとんどが通っている
- 多層構造は、漁獲や品質の変動を見えないところで吸収する仕組み



