「ライ麦畑のつかまえ役」とは何者なのか
今回は文学作品の名言を紹介する回です。取り上げるのは、ライ麦畑の捕まえ役、そういったものに僕はなりたいんだよという一節です。
これはアメリカの作家JDサリンジャー20世紀アメリカを代表する作家。『ライ麦畑でつかまえて』のほか短編集などを残し、後年は隠遁生活を送ったことでも知られる。による『ライ麦畑でつかまえて』のタイトルにもなった言葉です。
作品中の16歳の主人公ホールデンのセリフで、こう続きます。
馬鹿げてることは知ってるよ。でも本当になりたいものといったらそれしかないね。馬鹿げてることは知ってるけどさ。
野球じゃない「キャッチャー」、翻訳が難しい原題
ここで作品自体の説明が入ります。『ライ麦畑でつかまえて』は、サリンジャーが1951年に出版した長編小説です。
原題は「THE CATCHER IN THE RYE」。直訳するとライ麦畑の捕手ですが、この「キャッチャー」は野球とは関係ないと説明されます。
意味的には警備員や監視員、見守る人に近く、訳が難しい言葉だといいます。海水浴場のライフセーバーを想像するのがわかりやすいと話されています。
世界中で6000万部以上売れている古典的名作で、今でも年間何万部も売れているそうです。
日本語訳もいくつかあり、sottoさんが読んだのは野崎孝さん訳の『ライ麦畑でつかまえて』。ほかに繁雄久さん訳『ライ麦畑の捕手』や、村上春樹さんの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』も出ていると紹介されます。
作品を読もうと思ったきっかけは、攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX士郎正宗の漫画を原作とするSFアニメ作品。近未来の電脳社会を舞台にし、劇中で本作がモチーフとして扱われる。で取り上げられていたことだったといいます。
「くだらなくて退屈」だった読書が一変した瞬間
読み始めた最初の印象は、意外なものでした。
実にくだらなくて退屈な作品だな、でした。
それもそのはずで、本作は青春小説の古典的名作とされ、出版当時からティーンエイジャーを中心に若者に強くウケた作品です。40代のおじさんが読むようなお話ではない、と本人も語ります。
あらすじは、学校を退学になった16歳の少年が、あちこち立ち寄りながら実家に帰るというもの。ませたエピソードが淡々と語られていきます。
読書は得意な方ではなく、ギリギリ読み進めていたそうです。ところが、あの一節が出てきたシーンで、作品が急に色鮮やかになったといいます。
それまで鬱屈とした曇り空のモノクロームの世界だったのが、いきなり黄色い穂を実らせたライ麦畑の光景が浮かび、鳥肌が立ったと振り返ります。
子供の世界を守る少年、社会を守りたいおじさん
主人公ホールデンは、こんな話をします。広いライ麦畑でたくさんの小さな子供たちが遊んでいる。
畑のすぐそばには崖があり、自分は崖のふちに立って、遊びに夢中で崖から落ちそうになった子を捕まえて救ってやる。そういうことをずっとやっていきたい、というのです。
一般的な解釈では、ライ麦畑は子供の世界、崖の下は大人の世界とされます。ホールデンは子供と大人の境界に立ち、危険でインチキな大人の世界から小さな子供たちを守りたいと言っている、という読み方です。
これに対し、sottoさんは自分を大人として、もう少し大きな解釈をします。ライ麦畑は社会、崖は文字通りの崖、子供たちは社会に慣れていない人や不適合者だと置き換えます。
自分が本当になりたいのは、そういう人たちが社会から足を踏み外して転落しないようにすることではないか、と読んだのです。
ただし、その社会観は青臭いものだとも語られます。陰謀や欺瞞、足の引っ張り合い、つまらない見栄の張り合い。そんな世の中から純粋な人たちを守りたい。それが本当にやりたかったことなのではないか、と自問します。
長年語り継がれる名作だけあって、40代のおじさんが読んでもきっちり刺さるところがある。40代のおじさんも昔はティーンエイジャーだった、という一言で締めくくられます。
翻訳タイトルに隠された、もう一つの意味
記事の後半では、タイトルそのものへの引っかかりが語られます。原題を直訳すればライ麦畑の捕手であり、主人公は「捕まえたい」と言っているだけです。
作品の中で「捕まえてほしい」と言う登場人物は誰もいません。それなのに、なぜ野崎孝さんは『ライ麦畑でつかまえて』という変わったタイトルにしたのか。sottoさんは気になって調べたといいます。
そこで見つけたのが、翻訳者の解釈でした。ホールデンは子供たちを大人の世界から守りたいと言っているが、本当に彼が思っていたのは別のことだ、というものです。
危険でインチキな大人の世界に転落しそうになる自分自身を、誰かに捕まえてほしい。だからあえて『ライ麦畑でつかまえて』にした、ということでした。
この解釈で、sottoさんはまた鳥肌が立ったと語ります。そして、その気持ちを自分に引き寄せます。
まとめ
『ライ麦畑でつかまえて』の一節を入り口に、「誰かを救いたい」という思いの裏側にある「自分も捕まえてほしい」という気持ちまでたどり着いた真面目回でした。
- 名言「ライ麦畑の捕まえ役、そういったものに僕はなりたいんだよ」を起点に、40代の視点で作品を読み解いている
- 原題「THE CATCHER IN THE RYE」の捕手は野球ではなく、見守る人・ライフセーバーに近い意味だと説明される
- くだらなく退屈に感じた作品が、あの一節で色鮮やかに反転した読書体験が語られる
- ライ麦畑を社会、子供たちを社会に慣れていない人と読み替える、大人ならではの解釈が示される
- 翻訳タイトルには「転落しそうな自分を誰かに捕まえてほしい」という、もう一つの意味が込められていると紹介される




