プロトタイプの次に決めるべき「カードの中身」
前回はプロトタイプを実際に動かしてみた回でした。今回はその続きとして、ゲームの骨格を左右する部分に踏み込みます。
そこのプロトタイプをやってみて、結局カードに書かれている幸せを探しに行きましょうというゲームなんですけど、そこのカードの内容をしっかりしないと全体の骨格が見えないよねというところがあったので、一旦そのカードの中身を考えようという日ですね。
このゲームは、カードに書かれた「幸せ」を探しに行く体験が中心です。まずどんな駅や場所を登場させ、そこにどんなテーマを持たせるかをすり合わせていきます。
舞台となる停車場は、銀河ステーションから始まり、白鳥停車場、水晶の河原、プリシオン海岸、鳥捕り、アルビレオ観測所、そして南十字星へと続きます。
山本さんは、原作を読み直したうえで、銀河鉄道から降りたてそうな場所という観点でこれらを洗い出したと話します。
物語軸とゲーム軸、2つの視点でカードを決める
カードのテーマを決めるとき、山本さんは2つの軸で考えていると言います。
1つは、その場所の描写やシーンから自然に導かれる「物語軸」です。もう1つは、ゲームとして成立させるための「ゲーム軸」です。
カードをめくって、それを人にプレゼンして、それがその人にとっての幸せかどうか判断してもらわないといけないので、ある程度その人が幸せと感じるであろうものが満遍なく入っているようにもした方がいいかなという、その2軸ですね。
ここで山口さんが、ゲームのルールをおさらいします。プレイヤーは手札のカードの中から、相手が幸せと思いそうなものを選んでプレゼンしていくのです。
リンゴ、おやつ、牛乳とあった、どれが一番刺さりそうかみたいなことを考えて、プレゼンしていくっていう、簡単に言うとそういうルールですよね。
ただ、リンゴやおやつだけでは幸せの幅が足りません。そこで山本さんは、人が何に幸せを感じるかを大きく6つに分類し、それを物語に織り込もうとしています。
人が幸せを感じる6分類とウェルビーイングの5要素
山本さんが整理してきた6つの分類は、幸せの感じ方を網羅的に押さえようとするものです。
これに対して山口さんが、雑談として「ウェルビーイングの5要素」を紹介します。
ポジティブな感情と、エンゲージメント、リレーション、人間関係、意味・意義、そして達成。
山口さんはこの5要素にも納得しつつ、今回のゲームでは幸せをすべて網羅する必要はないと考えていると話します。
幸せの全部を網羅する必要ないなと思って。割と今網羅的になってるじゃないですか。だからなんか絞ってもいいなっていうのはまず思ってる。
りんごと北極星。抜け落ちさせたくない「小さな幸せ」
山本さんは、もう1つ『銀河鉄道の夜』ならではの絞り方があると言います。それは、身近で親しいものを大事にすることです。
もっと身近な、親しいものみたいな、それこそリンゴとかはあっていいと思うし。大きな達成感とかじゃなくても、そういう小さなものとか。
抽象化して満遍なくすることで、具体的な幸せが抜け落ちてしまうのは避けたい、と山本さんは語ります。
山口さんも、身近なところに幸せを見つける方が面白いと同意します。そしてこの発想が、原作者の宮沢賢治の姿勢とつながると指摘します。
賢治がその、自然科学にすごい目を向けていて、教師もしてて、そういう子供たちにそういうのを教えたくてみたいなことにも、足元の自然を見て、いろいろ発見しようとか、喜ぼうみたいなこととつながりますしね。
山本さんは、北極星を見つけることのような、日常にふっとつながる幸せを例に挙げます。停車場ごとのテーマも、こうした発想で当てはめられていきます。
たとえば水晶の河原は美しい描写から感覚や快楽、鳥捕りは食や消費という観点から環境・資源、といった具合です。
難易度は均等でいい。「正しく悩める」ための山札分け
話はゲーム性に移ります。停車場によってカードの難易度に差をつけるべきか、という論点です。
山本さんは、そもそも難易度という差がどれほど存在するのかがまず問題だと言います。テストプレイでは、食べ物に関する幸せばかりが人気になる可能性もあります。
予想では、難易度はある程度均等になるのではないか、と山本さんは見ています。具体的なリンゴが取れる場所には、同じく強そうな「食事をする」を合わせるなど、機会を均等にする発想です。
ここで山口さんが、なぜ完全ランダムな山札ではなく、停車場ごとにテーマを紐づけるのかを尋ねます。
『銀河鉄道の夜』の作品はやっぱり本当の幸を探しに行くという体験なのかなと思っていて。列車の中でいろんな話をする中で、そうだよなとか、これってどうなんだろうっていう会話をするわけじゃないですか。
会話の中から相手の傾向に当たりをつけ、狙って探しに行く。その工程こそが原作の体験に近い、というのが山本さんの考えです。
だからこそ、停車場ごとに個性が出た方がいいという方向で2人の考えは一致します。
各マスに無作為にカードを配置。運の要素が強く、狙う工程が生まれにくい
相手の傾向を推測し、当たりをつけて探しに行く駆け引きが生まれる
あえて粒度を揃えない。「正しく悩める」カード設計
テーマを言葉にするとき、動詞や名詞など、どのレイヤーに揃えるかが論点になります。山口さんは、言葉の粒感がなるべく揃うといいと考えていました。
しかし山本さんは逆に、粒度がバラバラでも面白いのではないかと提案します。
あんまり逆に本当に粒度バラバラでも面白いんじゃないかな。ある意味、つかみどころのないような作品というか。
物語自体が急に人が消えるようなバラバラとした感触を持っている。だから「過去」と「リンゴ」が混在してもいい、というのが山本さんの発想です。
そのうえで、山本さんは制作で最も大事にしたい基準を挙げます。
モヤモヤして腑に落ちないのではなく、いろんな尺度で頭を使って考えられること。それが「正しい悩み」であり、カードの粒度や形状を判断するポイントだと語られます。
山口さんも、iPhoneのどちらが良いかを比べるだけでなく、昼食が美味しかったことや新しいスケッチブックを買ったことなど、人は多様なレイヤーで生きていると応じます。だからこそ、いろいろな言葉があっていいのです。
幸福度最下位の国で見た、幸せは一つに収束するという発見
言葉の集め方について、テーマから考えるか、幸せの言葉を先に集めるかが議論になります。山口さんは、幸せという前提から考え始めると言葉が出にくいと指摘します。
ここで山本さんが、壮大な雑談として自身の体験を語り始めます。大学時代、休学して半年アフリカに行き、そのうち2ヶ月をトーゴで過ごしたのです。
幸福度ランキングがその当時最下位やったのがトーゴだったんですね。逆に一番不幸せなところに行ったら何か学べるんじゃない?みたいなので、トーゴに行こうって言って行って。
山口さんは、それを「ブータンの逆」と表現します。現地で幸せについて聞いて回った山本さんが得た答えは、意外なものでした。
聞くと、でもやっぱりお金にどうしても収斂してましたね。お金、仕事がとか、横のガーナは儲かっているのにとか。
大抵の人は一つのものに執着し、収束していく。だからこそ山本さんは、全然関係ない2つの中から発見を見つける方が、ゲームとして面白いと考えます。
結論として、テーマは物語に準拠してシンプルに決め、カードの言葉は幸せかどうかに縛られず広く考える方向でまとまりました。一単語も混ぜつつ、二〜三単語で解釈の猶予を持たせる案も出ます。
最後に2人は、もう一度『銀河鉄道の夜』を読み直して解像度を上げようと確認します。本筋に関係なく見える枝葉のシーンにこそ、拾うべき描写があるからです。
今回読み直して、こんなシーンあったっけ?って普通にあった。テッポーの練習みたいな。
まとめ
ボードゲーム版『銀河鉄道の夜』の鍵となる幸せのカードについて、テーマ設定と言葉の粒度という2つの視点から設計方針が話し合われた回でした。網羅よりも、身近さと「正しく悩める」体験が重視されています。
- カードは物語軸とゲーム軸の2つの視点で内容を決めていく
- 幸せは網羅せず、りんごや北極星のような小さな具体例を必ず残す
- 停車場ごとにテーマを紐づけることで、狙って探す駆け引きが生まれる
- 粒度をあえて揃えず、プレイヤーが「正しく悩める」ことを最優先する
- トーゴでの体験から、幸せは一つに収束しがちだと気づき、関係ない選択肢の対比に価値を見出した




