コラボ回で陽平が持ち込んだ「パーパスが腹落ちしない」悩み
この回は、番組「家業兄弟」と、事業承継をめぐる番組「不完全承継」のコラボ企画です。相手番組で相談した内容の続きとして、和紙問屋の4代目・大上陽平さんが、京エナジーの岩﨑さんに「じゃあどうしていこうか」を相談していきます。
陽平さんがまず抱えていたのは、パーパスをめぐる悩みです。皆が持つべきだと言うので、去年「優れた和紙問屋になる」といったものを掲げてみたものの、自分でも腹落ちせず、社内にも浸透しなかったといいます。
去年(和紙問屋になるという標語を)やったけど、なかなか腹落ちもせんし、社内でも浸透しなくて、これって何なんやろうみたいなところで。
一方で、岩﨑さんの会社が掲げる「誇りを持てる会社」という表現に陽平さんは惹かれていました。相手番組で深掘りしてもらったところ、思わぬところで涙が出そうになるほど本質に迫ったといいます。
陽平さん自身がやりたいこととして挙げたのは、商社としての仕事です。人と人をつなぐマッチアップや、お客さんのニーズに応えることが、営業として当たり前かもしれないが快感だと話します。
お客さんのニーズに応えるような、営業として当たり前なんかもしれへんけど、それが僕は結構快感というか、好きなんです。
「やりたいこと」を自己認識し、言語化できている人は少ない
岩﨑さんはまず前提として、自分のやりたいことを自己認識できていない人は多いと指摘します。認識できていても言語化できていない人はもっと多い、というのが持論です。
僕も含めて自分のやりたいことが自己認識できてない人って多いなって思ってるんです。認識できてても言語化できてない人はもっと多いと思っていて。
岩﨑さんが相談を受けるとき、新規事業がやりたい、こんなことに悩んでいる、といった枝葉の話に対して「なんでそれ悩んでるの」「なんでそれ必要だと思ってるの」と問い続けるといいます。すると自然に根幹へ行き着くだけだと話します。
相談の終わり方についても、岩﨑さんは具体的に語ります。根幹にたどり着いたうえで、そこへ向かうファーストステップを約束してもらって終えることが多いといいます。
枝葉と根幹をつなぐには何が必要かっていうのを、それって何年、何十年かかるかもしれないけれども、その一歩を一緒に踏み出すのをやれたらいい。
マネジメントへの移行と、まず作るべき「標語」
陽平さんは、自社の現状を説明します。7人のうち3人は親族で、社員は4人。若手2人と以前からいる2人がうまくシンクロし始め、自分が持っていた仕事も渡せるようになってきたといいます。
そのうえで陽平さんは、経営者の仕事は個々の営業よりマネジメントや仕組みづくりに移っていくのではないか、そのステップをどう踏むのかと問いかけます。
岩﨑さんの答えは、同行や指導も必要だとしつつ、順番が違うというものでした。まず自分がこの会社を通してやりたいことの「標語」を、ブレないところまでブラッシュアップして作ることが先だと話します。
作ることが目的ではなくて、作る過程で自分の潜在意識のものを全部出してきて、揺るぎないものを作っていく。
共通のゴールがないまま同行しても、トレーニングにならない。岩﨑さんはそう説明し、その手段としてパーパスやMBBを作るのが近いかもしれないと述べます。
さらに岩﨑さんは、社員にパーパスを作らせようとする経営者は多いが、まず経営者自身のパーパスができていなければ絶対に作れないと釘を刺します。
自分に落とし込むまで5年、10年。「恥ずかしげもなく言える」がゴール
岩﨑さんは、自分の思いを社員にそのまま伝えられるようになるまで、結果的に5年から10年ほどかかったと振り返ります。最初に作ったものは、恥ずかしくて言えなかったといいます。
これは誰にバカにされようとも、いじられても恥ずかしげもなく言えるってとこまで落ちたんで、言えるようになった。
その原体験は、前職のホテルマン時代にあると岩﨑さんは語ります。そこで得たものを、家業に入ってから実現したいと考えていたといいます。
陽平さんは、自分のパーパスが「廃棄物処理」や「地域ナンバーワン」といった方向に行かなかった理由を尋ねます。ここから岩﨑さんは、目的と目標の話へと踏み込んでいきます。
KPIは目標、KGIは目的。目標倒れは「目的の不在」から起きる
岩﨑さんは、KPIはどちらかというと目標にあたると整理します。指標となる具体的な数字を達成するのは、あくまでゴールに行き着くためだからです。
陽平さんが必要としているのは、むしろKGI、つまり自分やオオウエという会社が事業をやっていく先のゴールが何なのか、という視点でした。
陽平さんは、自分の設定が目標視点だったと気づきます。売上を1億増やすという目標から逆算すると、地域一番の和紙屋になって競合に勝つ、という話になってしまうと振り返ります。
岩﨑さんはこれを、設定が違うというより「本質のピンが置けていない」のだと言い換えます。地域で一番になって何をしたいのか、が抜けているという指摘です。
岩﨑さんは自身の陸上経験を例に挙げます。一位になること自体はゴールだが、一位になって何を得たいのかが明確でなければ意味がないと話します。
岩﨑さんは、目標が目標倒れするのは、目標をやるための目標になっているからだと指摘します。目的があって目標があり、目的を達成できるなら目標は途中で変わってもいいといいます。
目的(KGI)
事業をやっていく先のゴール。得たい何か
目標(KPI)
目的に行き着くための指標・具体的な数字
注意点
目的が不在だと目標倒れする。目的が達成できるなら目標は変えてよい
不安に思わなくていい。「思いの皮むき」で本質へ近づく
岩﨑さんは、根幹がすぐに出てこなくても不安に思う必要はないと陽平さんを気遣います。多くの人が明確な目的を持てていないからこそ、周りがやっているから新規事業を、早く社長に、と手段のほうに目が囚われてしまうと話します。
その「得たい何か」を見つける作業を、岩﨑さんは「思いの皮むき」と呼びます。玉ねぎの皮を剥いて核心に迫るように、分解していくことが大事だと説明します。
陽平さんは自分がすでに家業に入って7年経つと述べ、そろそろ答えを出さないと、と焦りをのぞかせます。岩﨑さんは、5年、10年かかることもあれば、明日わかるかもしれないし一生わからないかもしれない、と応じます。
一生わからないかもしれないけど、考え続けることが大事っていうのが必要だった。
岩﨑さんは、考え続ける過程について、人の話で刺激をもらって内省するタイプだと明かします。本や映画、こうして話している最中でも、後から「あの言い方は合っていたかな」と振り返るといいます。
外部からの刺激がないとこでは僕は考えられない。
この流れを受けて博行さんは、ホテルに3日間こもるより、岩﨑さん流なら刺激があってもいいのではと問います。岩﨑さんは、移動中にカンブリア宮殿のような番組を見て、この人はなぜこういう会社をつくったのか、自分はどうしたいかと考えるのも刺激になると答えます。
独りよがりでいい。掛け算で「誰かの幸せ」に変わっていく
岩﨑さんは、なぜ自分のやりたいことにこだわるのかを説明します。自分が納得できないことは人にも勧められず、一緒にやろうとも言えず、自分自身が頑張れないからだといいます。
まず僕がやりたいと心の底から思えるものに没頭したい。だから独りよがりでいいんだと思います。
ただし、その独りよがりを誰かを巻き込んで実現するなら、誰かの幸せも作るものに変わっていく、と岩﨑さんは続けます。山にこもって自給自足したいなら一人でやればいいが、誰かと一緒でないと幸せになれないなら、そこが掛け算で変わっていくという整理です。
岩﨑さんは、パーパスや仕組みの作り方は、すべてこの根幹にどうつながるかを軸に考えれば自ずと決まると話します。だからHow toはむしろ些末なものだといいます。
磨いて戻ってくる。「マッチアップ」は手段かもしれない
博行さんは、陽平さんが本質として挙げた「マッチアップ」をさらに広げるにはどうするか、と尋ねます。岩﨑さんは、磨いたほうがいいと答えます。
岩﨑さんの場合、何度も磨いて考えても結局「誇りを持って働く会社」に戻ってきたといいます。どこへ行ってもここに戻るなら、これだと腹落ちできたという経験です。
そのうえで岩﨑さんは、マッチアップは手段かもしれないと指摘します。マッチアップで幸せになってもらい、その人に「陽平さんと関われてよかった」と思ってもらうことの優先順位が高いなら、目的はそちらに移るからです。
マッチアップの手段でしかないことに気がつくわけですよ。それを繰り返していく。
博行さんは、「人を幸せにしたい」だと抽象的すぎ、「誇りを持って働ける会社」は抽象と具体の間にあるからこそ行動が生まれるのでは、と受けます。抽象度の上げ下げをしながら、しっくりくるものを探すイメージです。
岩﨑さんは、どんなに突破していっても行き着くところが一つ定まると、迷わずに済んでとても楽になると話します。日々の業務の目的が、根幹より何段も下にあっても、原点に立ち戻れるからです。
地域貢献は目的ではなく、会社を成り立たせるための手段
陽平さんは、より生々しい問いを投げかけます。先代会長からは地域貢献やビジョンを「金にならない戯言」と捉えられてきた。一方で、地域貢献をする会社のほうが業績がいいというデータもある。その関係をどう思うか、という問いです。
岩﨑さんは、それを数字で説明できるロジックは今のところ持っていないと正直に答えます。そのうえで、地域貢献が金にならないならやるなという立場を示しつつ、別の角度から必要性を語ります。
岩﨑さんによれば、会社以外の人に認知され受け入れられなければ、物も売れず、働く人も入ってこない。従業員を雇うこと自体が雇用を生む地域貢献だといいます。
結論として岩﨑さんは、会社を成り立たせるための地域貢献だと整理します。無駄になるものも多いが、大きな部分では絶対に必要で、やり方を間違えないことが大事だといいます。
ビジョンは業績に返る。返らないならビジョンが間違っている
博行さんは、パーパスやビジョンも業績に返ってくる感覚があるかと尋ねます。岩﨑さんの答えは明快で、ビジョンで業績に返ってこないなら、そのビジョンが間違っているのではないか、というものでした。
岩﨑さんは極端な例として、世界征服したいというビジョンで人が集まらないのは、この時代にビジョンが間違っているからだと説明します。地域貢献もビジョンとイコールでなければならないといいます。
さらに岩﨑さんは、ビジョンと社業がつながっていない地域貢献をしても、他人は冷めると指摘します。和紙問屋が水をきれいにする活動ならストーリーとしてつながるが、和紙問屋が「世界の紛争をなくします」だと「なんで」となる、という例えです。
和紙問屋が水をきれいにする活動。社業とストーリーがつながる
和紙問屋が「世界の紛争をなくす」。いいことだが「なんで」となる
岩﨑さんは、ビジョンとパーパスは並列ではなく、ビジョンの過程にパーパスがあると整理します。売上はその結果であり、事業活動はビジョンを実現するための活動だと述べます。
博行さんは、危ない薬を売っても売上は作れるが、それでいいわけではないと補足します。いいビジョンが立っている時点で、売上がついてこないのは本来おかしく、できるかどうかはやり方の問題だとまとめます。
一歩目は「答えが出なくても考える時間を持つ」
岩﨑さんは、目先の売上を考えなくて済む状態にするには、まず目先の売上がちゃんと立つ仕組みを作る必要があると話します。そうでないと、その日暮らしの経営になって疲れてしまうからです。
そのうえで陽平さんは、意識的にそういう時間を作ることが行動レベルで大事かと確認します。岩﨑さんは、デフォルトでそういう時間を作るのもありだと同意します。
締めとして、陽平さんが踏み出す一歩が語られます。サクッと一歩という感じではないが、そこから目をそらすことはもうできないと陽平さんは述べます。
ある程度の骨格みたいなのは引き出していただいた部分もあるんで、それの言葉の研ぎ澄ましであったり、答えが出なくてもそういう時間を持つ。
岩﨑さんは、それを3ヶ月、半年やれば、その時点で研ぎ澄まされたものは絶対に出てくると励まします。むしろ陽平さんの性格なら、出てこないことにストレスを感じてくるはずだといいます。
楽しかったこと・嫌だったことの列挙で「want」を見つける
岩﨑さんは、過程でのおすすめとして、今までやってきた仕事で楽しかったこと・快感だったことを列挙し、その横に絶対やりたくないことも並べる方法を挙げます。
やりたくないことを書くことが、やりたいことの裏返しになる。博行さんはそう受け、嫌だったことでもいいという岩﨑さんの補足を加えます。
- 今までの仕事で楽しかったこと・快感だったことを列挙する
- その横に、絶対やりたくないことを列挙する
- やりたくなかったことに加え、嫌だったことも書く
ここで陽平さんが、自分の裏表を打ち明けます。人前で話すことがすごく嫌なのに、深層心理では嫌いじゃない自分もいる、という悩みです。
深層心理はちょけたいけど、その恥かくのが嫌みたいな。そういうのが結構ある節があって。
岩﨑さんの返しは、悩みの構造を分解するものでした。人前に出たくないのではなく、恥をかきたくないのがやりたくないのではないか、と切り分けます。
岩﨑さんは、それがプライドなら、プライドを捨てることが美徳だという考え方に触れるのも重要だと話します。恥をかくリスクを具体的に考えてみれば大したことないと思えることもあり、こうした思い込みは結構すぐ外れるといいます。
好きも嫌いも、皮を剥いた先に本質がある
岩﨑さんは、やりたくないと思っていた行為が、実は行為そのものではなく結果が嫌なだけ、というケースは世の中に多いと語ります。
博行さんは、振られるのが怖いから恋愛したくないのも、恋愛が嫌なのではなく、振られることやかっこ悪さ、関係が崩れることが嫌なのだと例を挙げます。
この視点から博行さんは、陽平さんの「マッチアップ」も本質ではないかもしれないと考え直します。マッチアップがたまたまうまくいってきたから好きと言っているだけで、嫌いな要素の恥を取り除いた先に、本当に好きなものがある可能性です。
岩﨑さんは、陽平さんのマッチアップの快感を掘り下げます。お客さんが自己認識していなかったものを提供して「これ欲しかった」と言われる、それは想像を超えて感動が生まれる瞬間だと整理します。
そのうえで岩﨑さんは、人は他人にはそれができるのに、自分のことはできないと指摘します。自分に対しても「何をしてもらったら気持ちいいか」を考える、いわば自分へのマッチアップを勧めます。
陽平さんは、この最後の対話で今日初めて芯を食ったかもしれないと振り返ります。しっくりこない部分が残るのは、まだ途上だからだと博行さんはまとめます。
締めくくりとして、岩﨑さんに定期的に出演してもらい、3ヶ月後・半年後に「あの問いはどうなったか」を聞ければ、リスナーの励みにもなるとして、この回は終わります。
まとめ
パーパスが腹落ちしない悩みは、標語の出来ではなく、自分が事業を通して得たい「本質」がまだ定まっていないところから来ている、というのがこの回の核心でした。岩﨑さんは、目的と目標を分け、好きなことも嫌なことも皮を剥いて掘り下げることを勧めます。
- パーパスは社員にではなく、まず経営者自身が「恥ずかしげもなく言える」まで落とし込む必要がある
- KPI(目標)とKGI(目的)を分け、目的が不在だと目標倒れが起きる
- ビジョンで業績に返ってこないなら、アプローチかビジョン自体が間違っている疑いがある
- 地域貢献は目的ではなく、会社を成り立たせるための手段として位置づける
- 楽しかったこと・嫌だったことを列挙し、やりたくない理由を分解すると本質に近づける





