本物と偽物が混ざった「変な論文クイズ」とは?
この回は、ゲストのことラボりょうさんが持ってきた変な論文を、堀元さんと水野さんが「実在するかどうか」で当てるクイズ企画です。出題される論文の中には、りょうさんが考えたフェイク論文も混ざっています。
りょうさんは、普段からネットで変な論文を集めて喜んでいるといいます。以前エイプリルフール企画で出演したときには、「おしっこを我慢していると嘘がばれにくくなる」という研究結果を紹介したこともあったそうです。
りょうさんによれば、論文はお堅いものと思われがちですが、科学者もいろいろなことが気になってお茶目な論文を書くことがあります。論文を探してみると、人間の知のフィールドの広さを実感できるというのが、この企画の狙いです。
ルールは5問の二択です。りょうさんが邦訳したタイトルだけを読み上げ、存在すると思えば丸、存在しないと思えばバツで答えます。原題はすべて英語で、りょうさんがそれらしく訳しています。
クイズは堀元さんと水野さんの個人戦で、得点の高いほうが優勝です。優勝者への「豪華景品」は、結局「栄誉あるいは誉れ」だけだと明かされ、スタジオは笑いに包まれます。
ペンギンのうんちの圧力を測った研究は本当にある?
第1問のタイトルは「ペンギンがうんちするときに発生する圧力」です。うんちやおしっこばかり持ってくるりょうさんに、二人は「コトラボではうんちの話を一切していないのに」と抗議しつつ考え込みます。
堀元さんの答えはバツでした。ペンギンのうんちの圧力がわかってもメリットが少なく、研究の優先順位は低いはずだという理由です。水族館でペンギンを増やしたいといった目的がある分、ペンギンの交尾のほうがまだ研究対象になりやすいと話します。
さらに堀元さんは、りょうさんが何もないところから問題を作るとは考えにくいと推理しました。ペンギンの射精の圧力のような論文を見つけ、それを「うんち」に差し替えて持ってきたのではないか、という読みです。
水野さんも同じくバツでした。牛のゲップのように、メタンガスが地球温暖化の問題につながるなら調べる意味がありますが、ペンギンのうんちでは動機が見えないと考えます。もう1つ、「うんちの圧力」はどこで測るのか、肛門目線なのかという不自然さも根拠に挙げました。
りょうさんは、論文を読むときにモチベーションに注目するのは大事なポイントだと二人を褒めます。そのうえで明かされた正解は「存在する」でした。
りょうさんが読み上げた論文のイントロには、ペンギンが臀部から射出する様子を見たことがある者なら、誰しもそこで生じる圧力が気になったはずだ、と書かれていたといいます。そのうえで、公に存在するデータがないから調べた、という流れです。二人は「はずである、じゃないよ」と総ツッコミを入れます。
りょうさんによると、著者が着想を得たきっかけも公開されています。ペンギンは陸上で立ったまま、巣が汚れないようにお尻を外に向けて、うんちを勢いよく飛ばします。すると巣の周りに模様ができ、それを見て圧力が気になったのだそうです。
ペンギンのうんちは普段は白色で、オキアミを食べたときはピンクになるらしい、という雑学もりょうさんから飛び出します。堀元さんは、冬山登山で極限まで溜めて一気に出す登山家のうんちの圧力の論文もきっとある、と悪ノリして、結局「どうでもいいわ」と自分で締めました。
たった一言のタイトル「草生える」の正体
第2問のタイトルは「草生える」の一言だけです。手がかりの少なさに戸惑いながらも、堀元さんと水野さんはそろって丸と答えました。
堀元さんは、英語圏の研究者は少ない単語でおしゃれなタイトルをつけ、情報はサブタイトルに詰め込むことがあると説明します。例に挙げたのが「When Left is Right」という認知系の論文で、左手を右手のように感じさせる話と、左手が「正しい」ときという二重の意味をかけたタイトルだといいます。
水野さんは、言語学系の論文で気になる言語現象をタイトルにぶつけ、サブタイトルで「〜に関する一考察」とするパターンがあると話します。ネットで笑いを表す「w」を草原に見立てた「草生える」を研究する研究者なら、そのままタイトルにしそうだと考えました。
ところが正解は「存在しない」でした。二人は「作問のセンスがない」と文句を言い、受験生が「模試は精度が低い」と言い訳するのと同じだと自分たちでツッコみます。
りょうさんによれば、元になった論文の原題は「Trees that Grow(育つ木)」です。ここでいう木は樹木ではなく、プログラミングでいうデータ構造の木のことです。
内容は、関数型プログラミングの代数的データ型 ── 複数の型を組み合わせて新しいデータ型を定義する仕組み。関数型言語でよく使われ、木構造のような入れ子のデータを表すのに向いていますが木構造で定義されると拡張しにくかった問題を、拡張できるようにしたというものだと、りょうさんは説明します。拡張できるから「育つ木」というわけです。
情報工学出身の堀元さんは「アリスメトリック」と言いかけて言葉に詰まり、「木が育っていくなっていう論文」とだけ語って笑いを誘います。ここまで二人とも2連敗です。
「放屁による言語発話補助デバイス」はりょうさんの夢だった
第3問は「放屁による言語発話補助デバイス」です。二人は再び下ネタへの抗議をしつつ、「考えがいのあるいい問題」だと身を乗り出します。
答えはまたしても2人とも丸でした。こういう発想はイグノーベル賞 ── 「人々を笑わせ、そして考えさせる」研究に贈られる賞。1991年に始まり、ユーモアのある科学研究を毎年表彰しています的だという見立てに加え、発声が難しい人の意思疎通のために、目線以外に使えるものを全部試すのは価値がある、という動機の読みがありました。
正解は「存在しない」です。りょうさんは、この論文は自分の「ただの夢」だと明かしました。
きっかけは、りょうさんが著書『言語学クエスト』を書いていたときのことです。インコは人間と同じような声を出しますが、声帯ではなく鳴管 ── 鳥が声を出すための器官。気管が左右の気管支に分かれるあたりにあり、人間の声帯とは構造も位置も異なりますという別の器官を使っています。
構造が違っても同じ振動さえ作れれば声になる、それならお尻からでもできるのではないか、というのがりょうさんの発想でした。自分の本の執筆中に思いついた話で翻弄された二人は、「めっちゃ腹立つ」と悔しがります。
インコの発声を調べる
インコは声帯ではなく鳴管で人間のような声を出す
気づき
構造が違っても、同じ振動さえ作れれば声になる
発想の飛躍
それならお尻からでも発声できるのではないか
りょうさんは実現可能性も感じているといいます。フランスには自在におならを出す芸人ル・ペトマーヌが昔いて、お尻から空気を吸い込めたらしく、「もう肺じゃん」と思ったそうです。
話はそのまま「おならだけで話す言語」の設計に広がります。お尻は唇に似ているので破裂音は出せそうですが、母音を出すには閉鎖を作らず気流を流し続ける必要があり、音素が少なく子音中心の言語になりそうだと盛り上がります。
最後は、発話補助デバイスで音響を変えれば音素が増え、単語も作れて二重分節性も確保できる、と冗談まじりにまとまります。知り合いの言語学者黒島氏の表記を招いた「屁語」の回をやろう、という話まで飛び出しました。
「完全殺人の行い方」で初めて答えが割れる
第4問のタイトルは「完全殺人の行い方」です。テイストを変えてきた問題で、ここで初めて堀元さんが丸、水野さんがバツと答えが割れます。
堀元さんは、反社会的なタイトルは遊び心で、中身は真面目な論文だと読みました。体内で12時間で分解される画期的な毒物の発見を「完全犯罪に使える」と冗談めかすようなケースや、物理学のトンネル効果を密室からの脱出にたとえるケースなど、分野を問わずありうると話します。
水野さんは、変わった医学論文や法医学論文を紹介した本をいくつも読んできたことを根拠にしました。『変な学術研究2』『爆発する歯、鼻から尿』『本当にあった医学論文』などを読むと、中身が変でもタイトルは「〜市における〜の一症例」のように真面目だといいます。
堀元さんからは、骨粗しょう症をチョコレートバーにたとえることの妥当性を論じた論文が、医学の有力誌に載ったという話も出ます。
ふざけたタイトルは遊び心で、真面目な論文の比喩として法医学以外のどの分野にもありうる
変な医学・法医学論文でもタイトルは真面目なので、こんな題はつけない
正解は「存在する」で、堀元さんが初めて正解しました。りょうさんによると、この論文の「完全殺人」は、人を殺しても罪に問われなかったものという意味です。
中身は鮮やかなトリックではなく、古今東西の社会を見渡して、殺人が罪にならない条件を社会学的に整理したものだといいます。殺す側と殺される側の地位の差もその1つです。
りょうさんは、日本の斬り捨て御免 ── 江戸時代に、武士が無礼を働いた町人などを斬っても処罰されないとされた慣行。実際には厳しい条件があり、自由に斬れたわけではありませんを例に挙げます。この論文に言わせれば、殺人者の地位が高く殺される側の地位が低い場合は、完全殺人になりやすいということです。
勝った堀元さんは、雑学本ばかり読んでいるからだと水野さんをあおり、「地位が違いますから、殺しても罪にならないかもしれません」とこの論文にかけて締めます。水野さんは「ダーツする猿以下」の正答率を嘆きました。
ニワトリは美しい人間を好むのか?
最終問題のタイトルは「ニワトリは美しい人間の方を好む」です。二人とも丸と答えました。
堀元さんは、この研究はイグノーベル賞を取っていると思う、と話します。動物に人間の写真を見せて好みを選ばせる研究を見た記憶があり、日本でも渡辺茂さんがハトにピカソとモネの絵を見分けさせた実験がイグノーベル賞を取っている、というのが根拠でした。
水野さんはこの論文自体は知らないものの、美男美女が得をする研究をたくさん知っていると話します。つり橋効果 ── 不安や興奮によるドキドキを、一緒にいる相手への恋愛感情と勘違いしてしまうという心理学の説の条件を調べた研究では、美男美女は魅力的に見えたものの、魅力的でない人はむしろ魅力度が下がったといいます。
水野さんは、モテテクニック本を真に受けてジェットコースターに乗っていた過去を振り返り、自分の魅力度を下げていた可能性に「世知辛い」と嘆きます。裁判で被告が美男美女だと刑が軽くなりがちで、美女は平均1.2年、美男は2.7年短くなるという研究の話も出ました。
正解は「存在する」で、二人とも正解です。りょうさんによれば、この研究には、生物はなぜ美しい個体を好むのかという昔からの論争が背景にあります。
均整の取れた顔や綺麗な羽は、病気にかかっていない健康の表れだから好まれる
脳が顔や個体を見分ける神経回路にとって、わかりやすいパターンだから反応しやすい
りょうさんの説明では、ニワトリは人間と子どもを作らないので、健康の目印説が正しければ人間の美醜に反応する理由はありません。一方、認識しやすさ説が正しければ、ニワトリにも人間の顔の好みの傾向が出るはずです。
実験では、ニワトリに人間の男女の顔を見分けるタスクをさせたところ、より男らしい顔によく反応したといいます。ただし「美しい」とまで言うのはミスリーディングだと、りょうさんも認めます。
今の日本なら中性的な顔のほうが美しいとされることもあり、「ビューティフル」は言い過ぎかもしれない、という話になります。水野さんが案を出し、最後は「種を超えた男らしさ」のほうが誠実で引きもあるタイトルだとまとまりました。
ここで水野さんは「バッタにスター・ウォーズを見せる実験」を言い当てて大はしゃぎしますが、クイズ外のポイントは認められませんでした。
結果発表と『言語学クエスト』の名前の由来
全5問を終えた結果は、堀元さんが2問正解で優勝、水野さんが1問正解でした。二択なので期待値は2.5問で、二人ともランダム以下という「しょうもない戦い」に終わります。
| 問題 | 実在 | 堀元さん | 水野さん |
|---|---|---|---|
| ペンギンのうんちの圧力 | あり | バツ(不正解) | バツ(不正解) |
| 草生える | なし | 丸(不正解) | 丸(不正解) |
| 放屁による言語発話補助デバイス | なし | 丸(不正解) | 丸(不正解) |
| 完全殺人の行い方 | あり | 丸(正解) | バツ(不正解) |
| ニワトリは美しい人間の方を好む | あり | 丸(正解) | 丸(正解) |
水野さんは1問正解していたのに「0問」と言われかけます。麻雀でも2位だったのに誰にもそう思われず、スタッフに「この弱さは確率では説明できない」と言われたこともあるそうです。
堀元さんは、面白い研究が次々やってくる体験はまだまだ欲しいと話し、りょうさんの初の著書『言語学クエスト』の紹介へ移ります。言語が変わると性格が変わるといった、専門的な論文にもとづく知的好奇心をくすぐる話が詰まった本だといいます。
りょうさんによると、タイトルの「クエスト(冒険)」と「クエスチョン(問い)」は語源が同じです。人生はいろいろな問いを攻略していく旅だという思いを込めたそうです。
水野さんはゲラの段階で読み、本の帯に推薦の言葉を寄せています。ゆる言語学ラジオや『言語沼』が好きな人なら確実に面白いと太鼓判を押しました。
最後に二人は、各分野にある「自分の分野の面白論文」をコメントで教えてほしいと呼びかけて、回を締めくくります。
まとめ
タイトルだけで実在を見破るクイズは、二人ともランダム以下の成績に終わりました。それでも、ペンギンのうんちの圧力やニワトリの好みの研究を通して、研究者の意外な動機と、タイトルが中身を少し盛ることもあるという論文の一面が見えてきます。
- ペンギンのうんちの圧力の論文は、巣の周りの模様を見て圧力が気になったことから生まれた
- 「放屁による言語発話補助デバイス」はフェイクで、インコの鳴管を調べたりょうさんの発想だった
- 「完全殺人の行い方」は、殺人が罪にならない社会的条件を整理した社会学の論文だった
- ニワトリの研究は美しさへの好みを直接示したものではなく、男らしい顔への反応を調べたもので、タイトルはやや言い過ぎだった
- 『言語学クエスト』の書名には、クエストとクエスチョンが同じ語源だという思いが込められている



