リピーターはなぜAirbnbからAnyplaceに乗り換えるのか?
内藤聡さんは大学を卒業してすぐシリコンバレーに渡り、現地で起業しました。現在はリモートワーカー向けの家具付きアパート「Anyplace」を、アメリカと日本で展開しています。
Anyplaceは、速いWi-Fiや昇降デスクなど仕事の環境が揃った家具付きの部屋に、月単位で住めるサービスです。内藤さんには著書『シリコンバレーによろしく』もあります。
リピーターがどこに惹かれているのかを問われた内藤さんは、仕事環境に加えて「質の安定」を挙げます。リピーターにAnyplaceを使う前に何を使っていたかを聞くと、ほとんどがAirbnbだったそうです。
結局Airbnbって質バラバラじゃないですか、ホストによって。チェックインしたら写真と違うとか、チェックインするまでわかんないんで。
1週間くらいの旅だったら別に我慢できるんですよね、外れ引いても。ただ、2、3か月の旅だと外れた時の痛みが強いんで。
内藤さんによれば、長期滞在ほど「外れ」を引いたときの痛みが大きくなります。だからこそ、どこに泊まっても一定の質が担保されているAnyplaceはリピートされやすいという説明です。
内藤さん自身は、Anyplaceを現時点では物件を運用する「オペレーター」と位置づけています。そのうえで、今後はブランドを売り、フランチャイズやマーケットプレイス化を進めたいと話しています。
内藤さんが目指すのは、Airbnbのように誰でも掲載できるオープンなモデルではありません。レビューで質を整える仕組みでは、悪い宿に泊まった誰かが犠牲になっている、というのが内藤さんの見立てです。
誰でも掲載できるオープンなモデルでスケールしやすい。質はホスト次第でばらつき、レビューで整えられていく
インバイトオンリー。ネット速度・昇降デスク・サポート・インテリアの基準を満たした物件だけを掲載する
(Anyplaceは)仕事ガチ勢のための最高の宿泊場所みたいな。そのネット、つまりブランドを売って広げるイメージですよね。
映画に憧れて渡米、なぜ内藤さんは「行けた」のか?
内藤さんは映画『ソーシャル・ネットワーク』に憧れ、2014年1月にシリコンバレーへ渡りました。所持金はおよそ60万円でした。
同じ映画を見た人は多いのに、なぜ内藤さんは実際に行けたのか。この問いに対し、内藤さんは理由はよくわからないとしながらも、「まず行っちゃう」ことの重要性を繰り返します。
いつかアメリカ行きたいとか、いつかやりたいって準備してからっていう人がほとんどなんですけど、本当にその場所に行っちゃうみたいなのが一番大事かもしれないですね。
渡米のタイミングも内藤さんにとって幸運でした。メルカリやスマートニュースがアメリカ進出した時期と重なり、起業家の小林輝孝さん(通称キヨさん)や、スマートニュースの辻本さんらから出資を受けられたといいます。
小林輝孝さんは、内藤さんがブログをきっかけに出会い、その後も支えてきた人物です。
内藤さんの実家は町工場のような会社を経営しており、父親は「社長」と呼ばれていました。商売そのものは身近だったものの、映画でシリコンバレーを知り、どうせやるならこの舞台で商売したいと思ったのが出発点だったそうです。
ほんとスキルも別にないし、英語もできなかったんで、気持ちが大事だったかもしれないですね。行っちゃって。
お金のない最初の頃、内藤さんは仲間と自分たちでシェアハウスを運営し、そこに住むことで家賃をほぼゼロに近づけました。このシェアハウスは「テックハウス」と呼ばれていました。
内藤さんは、今ならハッカーハウス ── 起業家やエンジニアが共同生活しながらプロダクト開発に取り組むシェアハウス。シリコンバレー周辺に多く、家賃を抑えつつ仲間と出会える場として使われています的なシェアハウスが多くあるので、そこで安く住みながら仲間も増やせるかもしれないと話します。
お金がないから行かない、という考え方について、内藤さんの見方は厳しめです。ビザや英語やお金を理由にする人は、それらしい理由で自分を説得したいのではないか、と指摘します。
それっぽい理由をつけて自分を説得させたいんですよ。なんか、安心するじゃないですか。自分のせいじゃないっていう。
英語も話せないまま渡り、現地メディアで起業家や投資家100人以上に取材し、インターンにも飛び込んだ内藤さん。怖くなかったのかと聞かれると、「当時はほんと夢中でした」と振り返ります。
コロナ前のシリコンバレーでは、街のカフェに有名起業家がいるのが当たり前でした。内藤さんはその感覚を、少年漫画の世界に入り込んだようだと表現しています。
ほんとジャンプの世界なんですよね。主人公がルフィがいてナルトがいてみたいな。
内藤さんは、失敗への恐怖を「スナップショットの考え方」だと捉えます。その時点では怖くても、長い目で見れば挑戦して失敗した経験は希少で、そういう人を採用したい人や投資したい人がいる、という考えです。
その時点だけを見ると、事業の失敗や挑戦のリスクばかりが怖く見える
先まで見ると、失敗経験は希少で比較されない強みになり、採用や投資の機会というリターンにつながる
僕だってアメリカで会社失敗した現地の人もそうです、日本人もですけど、会社失敗して食いっぱぐれる人見たことないですから。
「暗黒の2年間」を支えた大義とは
内藤さんは2015年に会社を立ち上げます。しかし最初のアプリはAirbnbにアカウントを止められ、その後に試した家具のレンタルや空港への荷物の配送も軌道に乗りませんでした。
内藤さん本人が「暗黒の2年間」と呼ぶこの時期を、どう耐えたのか。内藤さんがまず挙げたのは、キヨさんをはじめ、同じ感覚で挑戦するファウンダーが周りにいたことでした。
もう1つの支えが、起業する「大義」を自分の中に持っていたことです。内藤さんは、なぜ起業するのか、なぜアメリカなのかという問いに答えを持つ人は意外と少ないと話します。
昔にでも残る事業を作りたいっていうのもですし、果たして作れなくても、それを作ろうとした、目指した生き様を残せると思うんで、それを残したいみたいなのもあります。
内藤さんの大義は個人の夢にとどまりません。挑戦者が増えることで日本のプレゼンスや経済力が上がれば嬉しい、と語り、例としてサッカーのワールドカップを挙げました。
内藤さんは、日本代表が強くなったのは海外でプレーする選手が増えたからだと話します。戦後はソニーやパナソニックが世界で稼ぎ、人口増加で内需も十分でしたが、人口が減る今は外で稼ぐ力が求められる、という見立てです。
戦後
ソニーやパナソニックが世界で稼ぎ、人口増加で内需も十分だった
人口減少
国内市場だけでは成り立ちにくくなる
必要な力
世界で稼いだ経験のある人を日本から増やす
目指す姿
日本の豊かさを保ち、さらに豊かにする
そういう気持ちがあると、なんか諦めるとかにならないですね。
知名度ゼロから最初のお客さんをどう見つけたか
2017年、内藤さんはホテルの部屋に月単位で泊まれる予約サービスとしてAnyplaceを始めました。海外でゼロから事業を始めるとき、最初の壁になるのがお客さん集めです。
内藤さんによれば、宿泊系のサービスには宿泊先を探すチャネルが多くあります。最初はCraigslist ── アメリカで広く使われているクラシファイド広告の掲示板サイト。住居、仕事、売買などのカテゴリーがあり、部屋探しにもよく利用されていますや、Facebookの住居探しグループなど、ほぼ無料でアクセスできる場所から手を付けたそうです。
ただやっぱスケールってすぐに天井来るんで、スケールするためには、もうちょっと一般的なチャネルですね、SEOとかpaidとかには行くんですけど。
ユーザーリサーチの方法として、内藤さんはCraigslistとReddit ── テーマ別の掲示板が集まるアメリカ発のコミュニティサイト。「サブレディット」と呼ばれる細かな板に分かれ、熱心な愛好家が集まっていますの使い分けを紹介しました。
マジョリティ、マスに向けてアピールしやすい
サブレディットでテーマが細分化されていて、コアな層を探すのに向いている
コロナ禍をきっかけに、Anyplaceは速いWi-Fiや昇降デスクを揃えた「仕事のできる部屋」へ形を変えました。2021年にこの今のモデルへピボットしたときの最初のお客さんは、意外なつながりから来ています。
(最初のお客さんは)フェイスブックで出会ったアーティストで、この人は社員の友達でしたね。ほんと、これはもう本当ラッキーって感じですね。
内藤さんによると、コロナ真っ只中で「ノマドしたい」と話していたその人を、iOSエンジニアの友人を通じて紹介してもらったといいます。
断られ続けた営業と銀行破綻、トラブルを越える考え方
内藤さんが直面したトラブルは1つではありません。ホテルへの営業は断られ続け、資金は残り2か月に。起業家育成プログラム「Launch」では、最初の週の投資家投票がゼロでした。
さらに2023年には、取引銀行だったシリコンバレーバンク ── スタートアップやベンチャーキャピタルとの取引に強かったアメリカの銀行。2023年3月に預金の急激な流出で破綻し、テック業界に大きな衝撃を与えましたが破綻します。
こうしたトラブルの乗り越え方として、内藤さんは大義に加えて「コントロールできることに集中する」ことを挙げます。結果のようにコントロールできないものに左右されないのが大事だという考えです。
自分ができることできてたらもう諦めつくじゃないですか。そういう状態にいるのがすごい大事なんですって。
最後に内藤さんが持ち出したのは、小学生の頃から読み続けている週刊少年ジャンプでした。物語は困難があるから面白い、という視点です。
ジャンプの話が全部うまく行っちゃったら誰も感動しないですよ。
内藤さんは、困難をいい物語のアクセントだと思うくらいの捉え方がいいのかもしれない、と話しています。
知名度のないスタートアップは海外でどう採用するのか
ここからは、海外で会社を動かす実務の話です。Anyplaceの社員は、内藤さんと共同創業者のエンジニアの田中さんが日本人で、それ以外は海外の従業員。全体で20人弱だそうです。
知名度のないスタートアップの採用で大事なのは、実績ではなくビジョンやミッションへの共感だと内藤さんは話します。その中で自分がどれだけ大きな役割を担えるかを描いてもらえるかが大きい、という説明です。
面接段階では、内藤さんはリファレンスチェック ── 採用候補者の元上司や同僚に、働きぶりや人柄を問い合わせる確認手続き。アメリカではオファー前に行うのが一般的ですの重要性を挙げます。アメリカではオファー前に2〜3件ほど確認するといいます。
(元上司や同僚を)紹介できないのはレッドフラッグですよね。結局いい関係を築いてなかったんじゃないか、そういう何か問題があったんじゃないかみたいな。
求人掲示板に投稿しても、知名度がないうちは応募がほとんど来ません。そこで内藤さんが使ったのが、LinkedInの有料機能でこちらから直接連絡する方法でした。
CEOからとかFounderからメッセージが来るってなると、一定数やっぱりちょっと話しかけてみようかなって人いるんですよ。
転職はタイミングなので、送り続けているとたまにいいことがある、と内藤さん。今ではCOOとして内藤さんの右腕になったラファエルさんも、LinkedInで採用した人だといいます。
日本人がトップの会社に現地の人は入ってくれるのか。この問いに内藤さんは、海外の人の採用は意外といける、と答えます。インターナショナルなファウンダーは多く、相手から見れば「よくある会社」の1つにすぎないかもしれない、という見方です。
内藤さんの経験では、アメリカでは給与交渉が活発です。そこで内藤さんは、給与相場を調べるツールのデータをもとに、地域・ポジション・職歴ごとのレンジを示してオファーしているそうです。
それ(データ)がない状態でやると、本当にもうアートの世界になっちゃいますよね。
国籍も背景も異なるチームをまとめるコツとして、内藤さんは2つを挙げました。1つは、日本人同士なら省ける意思決定の理由や背景まで、きちんと説明することです。
もう1つは、大きな意思決定の前に意見をもらうbuy-in ── 関係者から事前に賛同や納得を得ること。アメリカのビジネスでよく使われる言葉で、決定への当事者意識を高める狙いがありますです。最後に決めるのはトップでも、意見を言えた状態にしてから決めると受け止め方が違うといいます。
会社設立・銀行口座・ビザ、最初の壁はどこにある?
アメリカでの法人設立について、内藤さんは「普通に作れちゃいました」と振り返ります。弁護士がやってくれるうえ、アメリカの弁護士は最初の資金調達が終わるまで支払いを待ってくれるそうです。
内藤さんが設立を頼んだのは、法律事務所TMIのシリコンバレー拠点でした。後払いの上限は、内藤さん自身の記憶では5000ドルか、10Kから20Kほどだったかもしれないとのことで、正確な額は覚えていないと話しています。
一応待ってくれます、みんな。
内藤さんは、最初の資金調達で使うコンバーチブルノート ── 将来の資金調達時に株式へ転換される前提で資金を受け取る、借入型の調達手段。初期スタートアップの調達でよく使われますなどは手間がかからないので、弁護士側も待ちやすいのではないかと見ています。
一方で、銀行口座は大変だと内藤さんは話します。紹介があればすぐ作れますが、紹介なしではほとんど難しいそうです。
内藤さんが紹介で口座を作ったファーストリパブリック銀行はスタートアップに優しかったものの、シリコンバレーバンク破綻の頃に潰れ、チェイスに買収されました。今ならオンラインバンクのMercuryを使うと簡単に口座を作れて、一番人気かもしれないといいます。
弁護士や税理士も、紹介が一番だと内藤さんは言います。TMIは日米どちらの事情もわかるのでやりやすく、税理士は最初はキヨさんの紹介で個人のCPAに安く頼んでいたそうです。
| 項目 | 内藤さんの経験 | ポイント |
|---|---|---|
| 法人設立 | TMIのシリコンバレー拠点に依頼 | 最初の資金調達まで支払いを待ってもらえた |
| 銀行口座 | 紹介でファーストリパブリックに開設 | 紹介なしは難しい。今ならMercuryが簡単 |
| 税理士 | キヨさんの紹介で個人のCPAに依頼 | 最初は個人が割安。規模が大きくなれば会計ファームへ |
| ビザ | 学生ビザで渡米 | 状況に合わせて切り替え。必ず専門家に確認 |
ビザについて、内藤さんはまず学生ビザで渡米し、アイデアを考えたそうです。その後も資金調達や事業の状況に合わせてビザを切り替えながら、アメリカで事業を続けてきました。
番組では、ビザの条件は時期や人によって大きく変わるため、自分のケースは必ず移民法の専門家に確認してほしいと補足されています。
投資家選びで大事なのは「誰がボードに入るか」
Anyplaceには、Uberの初期投資家として知られるJason Calacanisさんのファンドが出資しています。内藤さんは、名前の売れたアメリカのファンドが入ったことによる信用だけでなく、社外取締役の存在が大きかったと話します。
社外取締役として入ったのは、そのファンドのプレジデントのマイクさんです。内藤さんは当初、アメリカの投資家が取締役会に入ると追い出されたり詰められたりするのではないかと身構えていたそうです。
すごいいい質問してくれるし、ボードに入るってことは、結構ファンドとしてもリソース使ってるってわけじゃないですか。
内藤さんは、この人に取締役会に入ってほしいか、どれだけアドバイスしてくれるか、という視点で投資家選びをもっと早くから考えてもよかった、と振り返っています。
アメリカの投資家がどこまで経営に関与するかは、相手次第だと内藤さん。ただ、ファウンダーの評判が悪いと次の案件が来ないため、基本的にはファウンダーフレンドリーだといいます。だからこそ、出資前に投資先の起業家にその投資家の評判を聞くことが大事だそうです。
内藤さんが印象的な例として挙げたのが、テックハウスで聞いたStitch Fix創業者のカトリーナさんの話です。Stitch Fixの取締役会には著名投資家のビル・ガーリーさんが入っていたといいます。
彼が全部この会社成長する過程で先回りして、こういうことが起こるからこういうのをやっとけって全部言ってくれるらしいんですよ。言われた通りやったら上場したって言うんで。
一方で内藤さんは、日本のスタートアップに対して「過度に期待しすぎない」ことも勧めます。海外の投資家が入っただけで劇的に変わるわけではなく、見栄えはよくなっても、一番大事なのはどんな人を取締役会に入れるかだという考えです。
日本法人のままアメリカのベンチャーキャピタルから出資を受けられるかについては、かなり難しいと聞いていると内藤さんは話します。日本にしかないディープテックなどでない限り、海外法人ではないというだけで出さないケースが多いそうです。
「ハスラー」と呼ばれる力の正体
内藤さんは周りから「ハスラー」と呼ばれています。番組の説明では、ハスラーとは、あらゆる手を使って目的を達成する人のことです。
僕、ファウンダーに求められるすごい大事な能力だと思うんですよね。
内藤さんが好きな例として挙げたのが、Stripeの「コリソン・インストール」です。創業者のコリソン兄弟が、自社のAPIを自分たちでインストールしていたという逸話で、内藤さんはこうした泥臭い話にスタートアップの差が出ると話します。
カトリーナさんの話にも、内藤さんが心を動かされたエピソードがありました。審査する側としてよく尋ねる「ディフェンシビリティ ── 競合に真似されにくい防御力のこと。スタートアップの投資審査で、差別化や競争優位性を測る観点としてよく問われますをどう築くか」という質問をカトリーナさんにぶつけたときのことです。
カトリーナさんは、上場した今でも難しい質問だと答え、正直ディフェンシビリティなんてない、と話したそうです。そして一番大事なのは実行力だと、次のように続けたといいます。
内藤さんは、このカトリーナさんの言葉に「グッときました」と語っています。
人脈・契約・文化の違い、現地で会社を回すヒント
アメリカでの人脈作りについて、内藤さんが勧めるのは「How can I help you」の姿勢です。役に立てることはありますか、と自分から聞く態度が大事だといいます。
本当にもう引っ越しとかでもいいんですよ。なんか美味しいお店、日本から来る時はお店教えますよとか、その姿勢がいい伝わるんだよ。
若く経験が少ないうちは紹介できる人脈もありませんが、小さなgiveなら誰でもできます。内藤さんは、その姿勢を持つ人には徳が貯まるようにラッキーなことが起こりやすい、と話しています。
訴訟の多いアメリカで契約トラブルに備える方法は、プロに任せることに尽きると内藤さん。契約は弁護士にレビューや作成を頼み、訴えられる隙を早めになくしておくのが大事だそうです。
アメリカってマジ訴えてくるんで。
文化の違いでは、面接で聞いてはいけないことの違いに戸惑ったといいます。過去の給料などを聞いてはいけない、といったNGリストがあり、知らなかったことが多かったそうです。
日本企業が海外拠点を作る際、日本から人を送るべきか、現地で採用すべきか。内藤さんは、現地のトップのような重要な人は送るかもしれないと答えます。会社の魂やDNAを持った人がいないと難しい、という理由です。
(送られてきた人は)めっちゃハスラーじゃないといけないですよ。
内藤さんは、送られた人には受け身の会社員根性ではなく、現地でファウンダー的な役割を果たし、チームを採用していくことを求めます。英語が第一言語でない中で経営してきた経験から、ファウンダーには最後にみんながついてきてくれる求心力がある、と話しています。
送られてきた人が会社員根性のままだと、よいカルチャーが育ちにくい
ゼロから顧客を開拓して土台を作り、現地社員を迎え入れる。求心力が生まれ、よいカルチャーにつながる
アメリカ発のサービスを日本でどう展開しているか
Anyplaceは日本でも物件を運営しています。ただ、日本の物件のお客さんは100パーセント海外の人で、アメリカの顧客ベースを日本に連れてくるイメージだと内藤さんは説明します。
そのため、日本向けのローカライズはあまりしていないそうです。今後日本人に使ってもらうなら、もっとコンパクトで手頃な部屋が必要になるかもしれない、と内藤さんは話しています。
一方で、アメリカのお客さんならではの細かな調整はあります。代表例がベッドのサイズです。
キングサイズのベッドって日本で探すのももう幻ですよ。
内藤さんによると、日本の感覚で用意するとクイーンやキングは選ばれませんが、クイーンを用意するととても喜ばれるそうです。またアメリカには「ダブルサイズ」という概念自体がなく、伝わらないといいます。
MVPとRedditで、最初の仮説をどう検証するか
内藤さんはAnyplaceを始めたとき、8ドルほどのノーコードツール ── プログラムを書かずにWebサイトやアプリを作れるツールの総称。アイデアをすばやく形にして試すのに使われますで最初のサイトを作りました。今ならAIでプロトタイプを簡単に作れるので、MVPを作る敷居はかなり下がったと話します。
残る課題は、深く刺さるユーザーを見つけることです。内藤さんは、今やるならRedditを使うかもしれないと言います。細分化されたコミュニティに投稿し、反応した人に直接メッセージを送れば、手応えが見えるという考えです。
まず使ってくれるか、お金払ってくれるかとか、あとはその、リピート率みたいなことですよね。
内藤さん自身は最初の頃、ホテルに直接足を運んで話を聞いていました。今も、ユーザーに実際に会って話を聞くことが大事だという考えは変わりません。
今僕たちのサービスを使う前は何を使ってたんですか?とか、どういうユースケースなのかを聞くのはすごい大事だと思うんですね。
日本にいながら海外向けプロダクトを検証できるかについて、内藤さんは「現地でやった方がいい」と答えます。時差で深夜の対応になることに加え、現地には「明日会えますか」「友達も紹介するよ」といったチャンスが多いからです。
なんかこれ精神的なとこになると、やっぱ行くぐらい追い込まれないと。
日本で始めるか、最初からアメリカで始めるか
日本で成功してから海外に出るか、最初から海外で始めるか。内藤さんの答えは、最初から海外でした。日本で始めると、どうしても日本のユーザーに引っ張られてしまう、というのが理由の1つです。
もう1つの理由は、尖ったサービスを受け入れる土壌の違いです。内藤さんは、アメリカは国としてもベンチャー的で、まずやってみて議論して決める文化があると話します。
日本でWaymoのサービスを考えついたとして、やっぱ走らせられないじゃないですか。「人ひいたらどうしよう」みたいな。
内藤さんは、AirbnbやUberも日本で始めていたら違法ホテルや乗車拒否などと言われてできなかったのではないか、と見ています。
始める場所としては、やはりサンフランシスコだと内藤さん。AIの震源地となった今、Anyplaceのサンフランシスコの物件はほぼ満室で、コロナ禍のリモートの流れから人が戻ってきているといいます。
結局は人なんで。
投資家も、会って食事できる距離の人に投資を決めることがあると内藤さんは話します。投資だけでなく、採用もお客さんのヒアリングも、現地に行って現地にあるチャンスをつかんでいくことが大事だという考えです。
起業家にとってのシリコンバレーは「プレミアリーグ」か?
これから海外に挑戦する人へのメッセージとして、内藤さんは再びスポーツの例を持ち出しました。海外で経験を積む経営者が増えなければ、日本はより強くならないという考えです。
今この瞬間、サッカープレイヤーだとしたら、Jリーグよりもプレミアリーグとかヨーロッパを目指すと思うんですよね。
野球ならメジャー、バスケならNBAを目指すように、スタートアップならシリコンバレーを目指すようにならないといけない、と内藤さんは話します。今そうならないのは、シリコンバレーを自分がやる場所ではないと思っている人が多いからだといいます。
内藤さんは、違いは能力ではなくルールにあると考えています。アメリカのベンチャーキャピタル ── 成長が見込める未上場企業に出資する投資会社。少数の大成功で多くの失敗を補う投資モデルが一般的ですは、100社に投資して99社失敗してもいいという発想で、フルスイングを促すといいます。
50億、100億を集めて失敗すると「もう無理なのでは」と思われがちで、フルスイングを躊躇しやすい
失敗するかもしれなくても大きく集めてフルスイングし、潰れたら潰れるというゲームの仕方
内藤さんは、ルールを経験した人が増えて「こうやればいいのね」とわかれば、日本人の活躍も増えていくと話します。ロールモデルが出てくれば、スタートアップをやるなら突き詰めればシリコンバレー、という世界になるという見通しです。
残る人と帰る人を分けるもの、そして「和僑」へ
挑戦しても、多くの人は日本に帰っていきました。残った人と帰った人の違いを問われた内藤さんは、ここでも「大義」を挙げます。
結局なんでアメリカでやってるのか、なんで起業なのかっていう問いに対する答えを持ってる人って少なくて、僕も持ってなかったです、起業するまでそういうの。
内藤さんによれば、その答えを持っておくと簡単には辞められなくなるそうです。
内藤さんは今、後に続く起業家の支援にも力を入れています。海外で活躍できる日本の経営者が増えなければ、日本は豊かさを守れないという思いがあるからです。
日本人の起業家が増えれば、先輩や同期、後輩から学び、紹介し合い、助け合えます。内藤さんはその姿を、華僑になぞらえて表現しました。
海外に出る前の自分に声をかけるなら、という質問に、内藤さんはアドバイスより先に「よく行ったな」と答えました。学生で世間知らずだったからこそ大きいことを見ていた、その頃の野心を忘れたくない、と話しています。
むしろ僕がアドバイスするよりも、定期的に振り返って、あの頃の僕に見せてもらうっていうのが、そっちかなと思ってますね。
そして番組を聴く人への最後の言葉も、内藤さんらしいものでした。
いや、もうすぐにチケット取ってあげてください。これで取れる人は強いですよ。
まとめ
内藤聡さんの12年は、準備より先に「行っちゃう」ことから始まり、暗黒期やトラブルを大義とコントロールできることへの集中で越えてきた歩みでした。採用、設立、銀行、投資家選びといった実務でも、紹介や現地での直接の行動が鍵になっていると語られています。
- 長期滞在では「外れ」の痛みが大きいため、質を担保するAnyplaceはリピートされやすい
- 挑戦の失敗はその時点ではリスクに見えても、長い目で見れば比較されない経験という強みになる
- 知名度のない採用ではビジョンへの共感とLinkedInでの直接連絡、給与はデータに基づくオファーが有効
- 投資家選びでは「誰がボードに入るか」が重要で、海外投資家に過度な期待はしない
- 日米の違いは能力ではなくルールの違いであり、なぜ挑戦するのかという大義が簡単に辞めない支えになる



