視力がいいのに眼鏡が恋しくなる?
樋口さんに最近ハマっていることを聞かれた深井さんは、ハマるまではいかないとしつつ、「眼鏡を買うこと」と「料理」の2つを挙げました。どちらも、これまではあまりやってこなかったことだといいます。
樋口さんには深井さんが眼鏡をかけている印象がありません。深井さん自身も、人前に出るときは基本的にかけていないと認めます。
それでも深井さんは眼鏡を7個ほど持っています。光に弱い目を守るためのブルーライトカットやサングラス、色付きレンズのものが中心です。
深井さんの視力はもともと悪く、中学生のころから眼鏡をかけていました。5、6年前にICL ── 眼の中に小さなレンズを入れて視力を矯正する手術。角膜を削るレーシックと異なり、レンズを取り出すこともできますと呼ばれる手術を受け、今は視力に問題がありません。
手術直後の深井さんは、テレビを見ながら寝落ちできるような裸眼の生活がとても楽しかったそうです。ところが、しばらくすると眼鏡が恋しくなってきたといいます。
そのうちね、眼鏡恋しくなってくるんだよね。
(もう)眼鏡かけれないんだみたいになって。なんでだろうみたいな。って寂しいなみたいになってきて。
深井さんが眼鏡を楽しむもう1つの理由は、見た目が大きく変わることです。服以上に人の印象を変える、強めのアクセサリーとして眼鏡を使っていると話します。
服とかも超人の印象変えるけど、眼鏡が一番人の印象変わるなって思って。
一方で深井さんは物をよくなくすたちで、アクセサリーのように眼鏡を使っていると、眼鏡もなくしてしまうと笑います。
量産型と職人の眼鏡は何が違うのか
眼鏡へのこだわりを聞かれた深井さんは、量産型と職人が作った眼鏡の違いがよくわかるようになり、量産型はもうかけたくないと答えます。視力矯正の道具として使っていないからこそ、こだわりが出てくるわけです。
樋口さんが「眼鏡の技術はどこに表れるのか」と尋ねると、深井さんは「全部じゃない?」と返します。フレームのメタル部分とセル部分のつなぎ方ひとつにも、技術力の差が見えるといいます。
(眼鏡は)全く同じ形に見えても全然違うんですよ、実は。
深井さんが挙げた違いは、まず鼻に当たるノーズパッドの形・高さ・素材です。さらに、同じ形のフレームでもレンズの大きさが違い、それによって顔に掛けたときの似合い方が変わります。
深井さんによれば、眼鏡の中で瞳がどの位置に来るか、目と眼鏡の距離がどれくらいかで見え方は大きく変わります。眼鏡をかける人は正面ばかり気にしがちですが、実際は横顔を見られる場面も多いと指摘します。
こうした要素を勘案して選ぶと、似合う眼鏡は本当によく似合うと深井さんは話します。似合う眼鏡を見つけるのが好きで、人の眼鏡選びでも楽しいほどだといいます。
実際、深井さんは社員のトシちゃんとの1on1の途中で眼鏡を買いに行こうと言い出し、トシちゃんによく似合う眼鏡を買って1on1を終えたそうです。福岡に呼んでサウナに行き、眼鏡を買った(費用は本人の自費)というエピソードに、樋口さんは「ウェルビーイングが高い会社だ」と驚きます。
楊さんの丸い眼鏡も、深井さんが勧めたものです。この眼鏡は眉側が顔から離れ、鼻側に向かって顔に近づくように傾斜していて、その角度でも見え方が変わると深井さんは解説します。
「最も無個性な眼鏡」を選んだ樋口さんの美学
ここで樋口さんが、自分の眼鏡もプロデュースしてほしいと頼みます。ただし樋口さんは、眼鏡をずっと変えないことにこだわってきた人です。
必ずゾフに行って、これと全く同じやつくださいって言ったら絶対ないんですよ。
樋口さんは、同じ眼鏡が手に入らなければ直して使い、似たものが見つかれば買うようにしてきました。帽子と同じく、印象をずっと変えたくないからだといいます。
深井さんは、樋口さんの顔の形ならもっと似合う眼鏡は余裕であると答えます。スクエア型よりウェリントン型や、下が少し尖った丸めの形、あるいはがっつり四角い形が合うのではないかという見立てです。ただし、印象は良くも悪くも大きく変わると念を押します。
樋口さんが今の眼鏡を選んだ基準は、「最も無個性で、時代の流行り廃りに影響されなさそうなもの」でした。深井さんは「選び方なんなん」と笑いつつ、そこまでいくと美学だと認めます。
ウェリントン型は大きめなのかと樋口さんが尋ねると、深井さんは、形で決まる呼び名なので大きさはさまざまだと説明します。そのうえで、眼鏡が似合わない人はいないと言い切りました。
プロに完璧にカスタマイズしてもらいたいという樋口さんに、深井さんは一緒に眼鏡屋へ行こうと提案し、樋口さんも乗り気になります。
セレクトショップ、鯖江、そして諸行無常
深井さんが勧める行き先は、デパートの眼鏡売り場よりも、どんな眼鏡が人に似合うかを熟知した眼鏡好きが営むセレクトショップ的な店です。いろいろなメーカーの眼鏡を見比べられるからだといいます。
眼鏡はメーカーや国によって特徴がかなり違い、深井さんのおすすめは日本製です。とくに鯖江 ── 福井県鯖江市。眼鏡フレームの国内生産の大半を担う産地として知られていますの眼鏡は、引くほどの技術力だと話します。
他のメーカーと形一緒なのに、なぜこんなに見え方違うんだろうって思うぐらい、その細部が全部なんかすごいことになってる。
樋口さんは「楽器の選び方と一緒だね」と応じます。深井さんは何にでもこだわってしまう性分で、眼鏡にはさらにレンズの色や反射の色という楽しみもあると続けます。
深井さんはフレームが同じでも、レンズを1年に1回変えています。理由は「飽きるから」で、レンズに飽きたことがない樋口さんを驚かせました。
樋口さんは帽子をオーダーメイドで作っていて、似合うものを探すより作るほうがコストが低かったといいます。眼鏡もオーダーメイドにしたい、既製品は1年で廃番になるのが嫌だと話します。
深井さんは、既製品で最適な形を見つけてから細部を調整してオーダーメイドにするのがいいかもしれないと答え、既製品にも本当の名品はあると付け加えました。
ずっと変わらないでいてほしいと冗談めかす樋口さんに、深井さんは「諸行無常 ── この世のものは常に移り変わり、同じ状態にとどまらないという仏教の教えだから」と返し、二人は深井さんのプロデュースで眼鏡のイメチェンをすることに決めます。
樋口さんは、イラストレーターのイッシュウさんに自分を抽象化して描いてもらったところ、帽子・眼鏡・金髪だけになったと明かします。眼鏡が変われば自分が自分でなくなるかもしれないという樋口さんに、深井さんは「仏教的にはそういうもん」と答えつつ、横顔まで想定して選ぶのはきっと楽しいと話しました。
まだ見ぬ、もう完璧な僕の相棒(眼鏡)を見つけに行きたいです。
パスタ作りで動かす変数は何か
話題は深井さんのもう1つの新習慣、料理に移ります。深井さんが料理をするようになったのは、子どもが生まれてやらざるを得なくなったからです。
(料理は)全然好きじゃないです。だからもうこだわっちゃうから、これ以上こだわり増やしたくないんで。
深井さんにとって料理は眼鏡のような嗜好品ではなく、実利のためのものでした。最初はいかに簡単に作るかに特化していましたが、どうせなら美味しいものを作りたいと思うようになったといいます。
今の深井さんはイタリア料理から入り、トマトとナスのオーソドックスなパスタ1品だけをひたすら作り続けています。まだ毎回同じ味にできないため、習得するまで繰り返し、どれだけ早く作れるかにも挑戦しています。
ちょっとずつ変数を移動させた味がどう変わるかを見てるみたいな感じかな。
深井さんは、季節で味が変わる食材は完全にはコントロールできないので放棄し、パスタは味が変わりすぎるので固定しています。そのうえで、茹で汁の量やトマト缶の種類などを少しずつ変えています。
パスタ(変えると味が変わりすぎるため)。食材の質は季節で変わるのでコントロールを放棄
茹で汁の量、トマト缶の種類、茹で時間と投入のタイミング、ソースの量
レシピ通りならうまいのに、なぜ料理下手が生まれる?
楊さんに楽しんでいるのかと聞かれた深井さんは、レシピ通りに作れば結構美味しくできることが救いになっていると答えます。樋口さんも、レシピ通りに作るとうまいと同意し、楊さんは「うまいからレシピになっている」とまとめました。
樋口さんは、料理が下手、できないと言う人も、全く同じ通りに作ればうまくなるはずだと考えています。一方で深井さんは、料理下手と言う感覚もわかると話します。
味がどうなるかが想像できない。自分とかだと。
深井さんによれば、レシピ通りに作っている段階は、炒める・切るといった技術以外がほぼ反映されない状態です。料理の得意・不得意は技術より、味の想像力やクリエイティビティの問題ではないかという感覚を持っています。
樋口さんは、レシピを超えられたらもう上手だと応じます。そのうえで、一人暮らしの人などに多い「料理が全くできない」という人も、少なくともレシピ通りには作れるはずだと話しました。深井さんも、包丁は3日ほど練習すれば誰でも使えるようになると同意します。
日本料理は「音を出すまでが難しい楽器」
楊さんは以前から料理をしていて、樋口さんは楊さんの麻婆豆腐がうまいと褒めます。楊さんはそれもレシピ通りだと言いますが、深井さんは日本料理だけはダントツで難しいと切り出しました。
理由について深井さんは「繊細すぎる」と言い、楊さんは香辛料でごまかせないからだと補います。樋口さんも、最初は煮物が苦手だったと振り返ります。
深井さんは料理を楽器にたとえます。イタリア料理はベースのように、極めれば無限でも、とりあえずうまくなるまでが早い楽器です。日本料理は、綺麗な音を出すだけで難しい楽器のようだといいます。
樋口さんは、日本料理のうまみは全部が混ざらないと意味がわからないのではないかと考えます。塩や醤油はそれだけで濃さがわかりますが、うまみは単体で舐めてもわからず、深井さんは「アンサンブル系すぎる」と表現しました。
まずくないまではもちろん作れるんですけど、味噌汁とかでうまっみたいなの作るのめっちゃ難しくないですか。
楊さんは、材料や手法はほぼ同じでも、組み合わせる段階での細かな調整が味を大きく左右すると話します。深井さんも、素材ごとの煮る時間などが少しずれるだけで素人っぽさが出やすいのが日本料理で、パスタではそこまで差が出ないと感じています。
パスタはロック、四川料理はヘビメタ
樋口さんは、あくまでイメージとして料理を音楽ジャンルにたとえます。パスタは音圧がバーンとあるロックで、日本料理はバイオリンが少し外れただけで気づかれるクラシックのようだといいます。
中華料理はどうかと聞かれ、樋口さんは種類が多いとしつつ、四川料理に限ればロックかヘビメタだと答えます。深井さんも、油と唐辛子で攻める四川料理はジューダス・プリーストのようなヘビメタだと盛り上がりました。
樋口さんは四川料理を「痛みと痺れ」と表現します。深井さんは家の火力が足りず中華料理は作れないと話し、爆音で聴かない限り意味のない音楽のようで、やはりヘビメタだと納得します。
調味料をイコライザーの音域で考える
樋口さんは、自分は料理が下手だと繰り返しつつ、料理を音楽のミックスで考えるとわかりやすいと気づいたことがあると話します。調味料をEQ ── イコライザー。音を周波数帯ごとに強めたり弱めたりして音質を整える機材や処理のことの周波数帯に当てはめる発想です。
| 調味料 | 音域のイメージ | 特徴 |
|---|---|---|
| 出汁 | 20Hz〜120Hzの低音(バスドラ・ベース) | 土台になる |
| 塩・醤油 | 1キロ〜4キロの中音域 | 少し増減するだけでブワッとわかる |
| わさび | 8キロ〜10キロ | もう少し上 |
| 唐辛子・胡椒 | 12キロより上 | ピリッと目立つがパンチ力はない |
深井さんはこのたとえに膝を打ち、日本料理が難しいのは高音域があまりないからだと結論づけます。樋口さんは、日本料理はコンプ ── コンプレッサー。音量の差を圧縮して音をまとめ、迫力を出す処理をぐちゃっとかけられず、それぞれの音が分離して聞こえる状態に近いと説明しました。
反対に四川料理は、イコライザーで見ると低音から高音まで全部がブワーっと出ている状態です。二人は「四川料理は料理のヘビメタ」という答えにたどり着きます。
とんかつはインダストリアルメタル、キュウリは弾き語り
日本料理について樋口さんは、小さな音から大きな音まで入ったダイナミクスがあり、楽器が多く左右に振り分けられたオーケストラのようだと言います。深井さんがジャズも近いのではと言うと、樋口さんも音量をコントロールしながら出すのが難しい点が似ていると応じました。
パスタについて樋口さんは、中音域から低音がドスンと効き、タバスコや鷹の爪が高音を担う「ドンシャリ」だと表現します。ボサノバは何かという問いには迷った末、深井さんがポトフを挙げました。
意味ねえけどね、この例え。ずっと意味ないけど。おもろいわ。
深井さんが、低い声とジャギジャギしたギター、一定のリズムが特徴のドイツのインダストリアルメタル、ラムシュタインは料理で何かと問うと、樋口さんの答えは「とんかつ」でした。深井さんは、すき焼きのようにタレの味一本で決まる料理も同じ系統だと付け加えます。
すき焼きは少し煮すぎてもうまく、遊びがあります。樋口さんは、ギターの細かなフレーズより音圧や歪み具合で決まる音楽と重ねました。
深井さんは、料理と音楽という観点で世界を見たことがなかったとし、「これは高音域だな」と考えると入れすぎに気づけるので、料理が少し作りやすくなったかもしれないと話します。
最後に樋口さんは、とてもうまいキュウリにマヨネーズを少しかけるだけの料理は、歌がうまい人のギター弾き語りだとたとえます。深井さんは、もろきゅうはビリー・ジョエルくらいかもしれないと応じ、「皆さんの得意料理は音楽で例えると何か」という問いかけで回を締めくくりました。
まとめ
深井さんは、視力を取り戻したことでかえって眼鏡を楽しむようになり、子育てをきっかけに料理の試行錯誤を始めました。どちらにも細部へのこだわりと変数を動かして確かめる姿勢があり、後半の料理と音楽のたとえは、日本料理の難しさを説明する意外な手がかりになっています。
- 深井さんは、ノーズパッド、レンズの大きさ、瞳の位置、目との距離で眼鏡の似合い方が変わると考え、「眼鏡が似合わない人はいない」と話す
- 樋口さんは深井さんのプロデュースで、印象を変えないために選んできた眼鏡からのイメチェンを決めた
- 深井さんはパスタを固定し、茹で汁やトマト缶などの変数を少しずつ動かしてパスタ作りを練習している
- 日本料理は高音域が少なく、音が分離したオーケストラのようだから難しい、というたとえに二人は行き着いた
- 四川料理はヘビメタ、パスタはロック、とんかつはインダストリアルメタルと、料理を音楽で捉える遊びが広がった






