新規事業の「途中の話」を残すというこの番組の狙い
番組ナビゲーターの大長さんは、新規事業は現場では迷いや決めきれなさの中で進むことが多いと切り出します。
そのうえで大長さんは、この番組が成功談やノウハウではなく、答えが出ていない「途中の話」をそのまま残す場だと説明します。
今回はゲスト回です。きっかけは、大長さんが佐古さんと一緒にタコスを食べる会があり、その場で出演を打診して即決したことだと明かされています。
大長さん自身の狙いも語られます。ブリッジは個々の会社に深く入るため、1社ずつの事情は詳しくわかる一方で、業界全体の大きな流れがつかみにくいという課題があるといいます。
サコさん、NEXT Innovation Summitで年間1万人近い人を呼んでるってなると、新規事業だと国内最大級のイベントって言っていいんじゃないかなと思ってて。
そこで大長さんは、佐古さんが見ている実データをもとに、いまのトレンドや課題感を聞いていきたいと今回の趣旨を示します。
VCから大手企業へ、佐古さんが新規事業に関わってきた道のり
佐古さんはまず自身の経歴を紹介します。2008年に人材業界2位とされたインテリジェンス(現パーソルキャリア)へ新卒入社し、リーマンショックの時期を経験したといいます。
29歳ごろから、同社の中で新規事業を立ち上げる仕事に携わり始めたと佐古さんは話します。以来10年以上、新規事業やイノベーションにずっと関わってきたといいます。
ベンチャーキャピタルに2年ほど所属した時期もあったといいます。スタートアップやインターネットの世界が好きな一方で、佐古さんは「社会実装力の低さ」に課題を感じていたと語ります。
その課題意識の背景として、佐古さんは日本のリスクマネーの規模を挙げます。
日本から年間出ているリスクマネーって8000億ぐらいなんですけど、片や、民間から出る研究開発費用だけで15兆ある国なんですよ。
この対比から佐古さんは、日本ではインパクトの大きい事業はスタートアップよりも大手企業から生まれるべきだと考えるようになったといいます。
そうした発想のもと、佐古さんは33歳のときにSpready株式会社を創業したと語ります。会社は現在9期目ほどだといいます。
大手企業の皆様に眠っているアセットやケイパビリティみたいなものを使わせていただいて、一緒にイノベーションを起こしましょうというので作ったのがSpreadyという会社になりますね。
現在のSpreadyは、AIを使ったプロダクトを複数展開しつつ、自分たちも現場で汗をかきながら支援していると佐古さんは説明します。
なぜオンラインとオフラインを使い分けるのか
Spreadyは、マーケットの開発や啓蒙活動に力を入れる会社だと佐古さんは位置づけます。その活動の一つが、年に2回、オフラインを含めると4回ほど開催する「NEXT Innovation Summit」だといいます。
大長さんは、このイベントがオンラインとオフラインを使い分けている背景を尋ねます。佐古さんは、新規事業担当者の情報収集の手段に理由があると答えます。
(情報収集の手段は)ネット検索とかじゃなくて、70パーセントぐらいコミュニティとか、そういうものになるんですよ。
人のつながりで交流して情報収集する人が多いため、オンラインだけでは足りず、オフライン回も開くのだと佐古さんは説明します。
その狙いを佐古さんはさらに掘り下げます。社内で新規事業をやっている人は、その会社の中では少数派になりがちだといいます。
社内に痛みや課題を共有し合える方って少なくなるんですよね、職種的に。なので、会社の外で繋がって、いろんな会社の枠を超えて、新規事業の皆様同士で交流してる。
この構図はスタートアップの世界と似ているかもしれないと佐古さんは付け加えます。
カンファレンスで見る唯一のKPIは「満足度」
大長さんは、Spreadyがイベントでどんな指標を追っているのかを尋ねます。申し込み数や視聴完了、アンケートなど、何を見てイベントを育てているのかという問いです。
カンファレンスはもう満足度ですね。いかに質の高いコンテンツを皆さんにお届けできるかっていうのを、本当に唯一のKPIとして見てる感じになりますかね。
カンファレンスは1日で最大20セッションほど、すべて異なるテーマを届ける形だといいます。セッションごとに満足度を取っているものの、最近は大きく外すことは少なくなったと佐古さんは話します。
企画のつくり方も明かされます。テーマは前回のものをアップデートするだけでなく、Spready側で変化させ続けているのかという大長さんの問いに、佐古さんは意外な答えを返します。
ちなみに社内だと企画は全部僕なんですよ。組織化してなくて。
自身がこうした活動をするからこそ、トレンドや関心にベクトルが向くのだと佐古さんはいいます。登壇もモデレーターも自らこなし、最近は「登壇芸人」のようだと笑いながら、楽しんでコンテンツを作っていると語ります。
企画は、企業内で新規事業を起こす人たちが「いまどこに関心があり、どこに困りごとがありそうか」から逆算して考えていると佐古さんは説明します。
「大手企業はゼロイチをやるべきか論」が最大のテーマに
大長さんは、直近1年ほどで関心が強いテーマを尋ねます。佐古さんは、いま圧倒的に大きいテーマがあると答えます。
大手企業はゼロイチをやるべきか論っていうやつですね。
この議論の背景として、佐古さんは市場の売上規模の差を挙げます。プライム市場に上場する会社の売上平均は5000億ほどで、新しい事業を起こすとなると100億規模を見なければならなくなるといいます。
一方でグロース市場、つまりスタートアップが上場する市場の売上中央値は25億ほどしかないと佐古さんは指摘します。
問われてるのはもう余裕でグロースなんて余裕で上場できるようなでかいビジネスを作らないといけないっていうのが、皆さん共通で抱える課題だったりするんですよ。
徒手空拳でスタートアップと同じアプローチをとり、ゼロから100億、1000億へ育てるのは極めて難しいといいます。だからこそ「本当にそれをやるべきか」が問われていると佐古さんは語ります。
でかいビジネスを作ろうと思うと、ゼロイチなんじゃなくて、そもそも買ってきた方が早いんじゃね?みたいなこととか、そんなことが今新規事業の領域だと議論されるようになってきてますね。
新規事業のマーケットが盛り上がったのはここ10年ちょっとで、種は生まれても大きなビジネスにならず途中でやめる例が積み重なった、その学びが背景にあると佐古さんは補足します。
輸入したアメリカ式モデルの限界と、日本型イノベーションの再議論
佐古さんは、そもそものトレンドの流れにも触れます。イノベーションの世界はインターネット産業と同様にアメリカからの輸入が多かったといいます。
アメリカはリスクマネーの規模が非常に大きく、スタートアップとして生まれた会社が世界を変える例があるといいます。GAFAMもその一つだと佐古さんは挙げます。
そのモデルを輸入しようと、この5年ほどは政府も起業やスタートアップを後押ししてきたと佐古さんは振り返ります。
リスクマネーの規模が全然違うんで、8000億って言いましたけど、OpenAI一社だけで超えるやんみたいに、それぐらいの投資があるんで、総量がやっぱり違う。
さらにソフトウェアの世界は勝ち負けがついてきており、近年よく言われるフィジカルAIのような領域では、実際に「掘る」ような取り組みが必要でスタートアップには難しいと佐古さんは指摘します。
こうした状況から、日本型のイノベーションのあり方が再び議論されているというのがいまだと佐古さんは話します。
大長さんは、大手企業が自社のアセットや研究開発で持つシーズ技術を使い、買収で土台を得て広げていく育て方を各社が模索し始めているのか、と確認します。
テーマとしてまとめると、資本を使うっていうことなんですけど、やっぱりスタートアップでも大きくなっていく会社って資本を絶対動かすんですよね。
資金調達や資本業務提携など、資本を動かす経験は、普通に会社員をしているとなかなか触れる機会がないといいます。この資本を動かすリテラシーがなければ大きなビジネスは作れないと佐古さんは語ります。
求められているのは「資本を動かせるイントレプレナー」
従来はCVCという形が語られてきたと佐古さんは説明します。ただCVCはシナジー投資、つまり事業を一緒に作る色合いが強いといいます。
ビジネスを大きくするために外部の資本をどう持ってくるか、そのリテラシーが問われているといいます。そのうえで佐古さんは、いま活動の主テーマになっている課題を挙げます。
課題としてはイントレプレナーをやっぱり育成したいとか、社内起業家をしっかり育てたいとかっていうのが活動の主テーマになってきてますね、今。
一昔前のイントレプレナー像との違いも語られます。かつては強い原体験があり、ファーストペンギンとして飛び込む人物像が想起されがちでした。
いまは、大きく成長するスタートアップの創業者が持つようなスキルが求められていると佐古さんは説明します。原体験やペインはもちろん、事業を大きくするために何をすべきかを描いてやりきれる人が求められているといいます。
下がったスコアと、4年連続で挙がる課題
大長さんは、逆に減ってきた話題を尋ねます。佐古さんは、参加者へのアンケートをもとに毎年発行している「新規事業実態調査」の結果に触れます。
今年のレポートで特徴的だったのは、新規事業開発の専門部署(出島組織)を作るというスコアが大きく下がったことだといいます。
それはどういう読み解きしてるんですか?サコさん。
佐古さんの読み解きは「もう箱はあるのだろう」というものです。イノベーションを進める際、まず箱と予算、人を割り当てるところから動くことが多く、その仕組みづくりはこの5年ほどである程度進んだと見ています。
一応経営としての理論としてはもう出来上がってると。ただそれを推進する人がいないんだと。
一方で最も取り組むテーマとしては、イントレプレナーの育成・発掘が4〜5年連続で挙がっていると佐古さんは明かします。
アクハイアで起業家とか採用すればいいのにって思っちゃいますけどね、僕は。
なぜイントレプレナーは育たないのか
大長さんは、育成の課題はあるとして、うまく発掘・育成できている事例は出てきているのかを尋ねます。佐古さんの答えは「そんなにない」というものでした。
その難しさを佐古さんは、人が持つ「元のベクトルの違い」で説明します。
起業したいと思って、例えばトヨタに入る人っていないと思うんですよね。
もう一つの理由として、佐古さんは資本の話とつながる点を挙げます。多様な会社を取り込んで大きくなった企業が少なく、内政主義が強い会社も多いといいます。
そのため、新規事業のやり方やノウハウは本などで学べても、それを実際にやる人はどうしても少なくなってしまうと佐古さんは指摘します。
大長さんは、AIでプロトタイピングやMVPができ、仮説検証が早くなるといった話題に注目が集まっていると思っていた、と自身の見立てを述べます。
しかし実際には、AIによる仮説検証の手法よりも、「社内起業家をどう見つけ出すか」という本質的な課題が上がってきているのかと大長さんは確認します。佐古さんはその通りだと応じます。
本当に自分が何のロールモデルもない中で、いきなり起業家になりましょうってないと思うんで。周りにそういう環境がないっていう状態だと産みにくいですよね。
ゼロイチをやめ、投資会社へ舵を切る企業たち
大長さんは、ゼロイチで社内からアイデアを集めて作るやり方ではなく、自社のアセットや資本をどこに投資するかという上段を考えて立ち上げていくことに各社が関心を持っている、と整理します。佐古さんはこれに同意します。
具体例として佐古さんは、カンファレンスに登壇した企業を挙げます。前回のオフラインではパナソニックがそのように切り替えていたといいます。
さらに一つ前のオンライン回では、みずほ銀行の事例が語られました。ゼロイチをやっていた部隊が、屋号はそのままに投資会社のような形へ、ベンチャーキャピタルへと変わっていったといいます。
ゼロイチは起業家がもう人生をかけてやっていると。そこに銀行員は戦えんと。でも産業を作る時にはやれると。
だからゼロイチではなく、1から千、1万といった段階を担うべきだと、みずほ銀行はあり方を変えていたと佐古さんは説明します。
こうしたテーマはまだ試行錯誤の段階で、いくつかの事例や取り組みがスタートしたところだと大長さんは受け止めます。佐古さんも、変わってきている段階だと応じます。
大手企業の新規事業はベンチャーより難しい
大長さんは、社内起業家という言葉自体は10年ほど前からあり、方法論もあると振り返ります。そのうえで、本当のイントレプレナーとはどんな人かを会社で定義し、資本を動かす要素が求められているのか、と確認します。
大手企業で新規事業を生み出すのって、ベンチャーより難しいですよ。やっぱり普通に考えて。要求されるビジネスの規模がもうめちゃくちゃ高い。
その対比として、佐古さんは地域イノベーションに触れます。地域から100億規模の企業を生み出そうという動きが積極的に推進されているといいます。
地域企業はオーナー企業や2代目・3代目の経営者がいることが多く、いまのビジネス規模が2桁億円ほどなら、2億や3億の新事業でもインパクトが大きいといいます。
なんでイノベーションは地域企業とかの方がやりやすいと思いますね。
大手企業の中では、組織を率いていくことになるため、やる気やアイデアの良し悪しだけでは足りないと大長さんは受けます。
大長さんは、資本の動かし方や人事、さらにストーリーテリングのようなコミュニケーションでトップや役員をネゴシエーションしていくスキルが必要で、普通の起業家とは違うと整理します。
能力より「志」と「行動特性」、やってみるを繰り返す
大長さんは、多くの企業が今後どうやってこうした人材を育成し、経験を積ませていくかがイノベーションサミットの焦点になりそうか、と尋ねます。佐古さんの答えは、人としての能力の問題ではないというものでした。
ビジネスパーソンとしてのスペックって、どう考えても大手企業にいる人の方が高いんですよ。普通に考えて、賢いし。
佐古さんは、スタートアップ経営者を自分たちも含めて「アホ」「夢しか見ていない」と自嘲まじりに表現します。そのうえで、違うのは能力ではなく志や行動特性だと語ります。
来年に向けたカンファレンスのテーマについても佐古さんは見立てを示します。イントレプレナーというテーマを一つ入れるほか、ドメインが重要になるといいます。
具体的には、高市内閣が出した17のアジェンダに紐づくような、日本型イノベーションのドメインを挙げます。防衛や宇宙、フィジカルAIといった領域の最先端を扱っていくと佐古さんは語ります。
AIに任せる部分と、人に残る「洞察」の部分
大長さんは終盤に、カンファレンスでの啓蒙やニーズの把握と、AI発散やSpreadyのサービスで現場に伴走する活動を並行して行うなかで、会社として今後どう進めていくのかを尋ねます。「まだ途中の話でいい」という前提での問いです。
佐古さんは、会社としてここから3か年が勝負になると語ります。まず、AIのプロダクトをとにかく多く出していく方針だといいます。
その理由は、ゼロイチは総合格闘技で人がいくらいても足りなくなるからだといいます。AIでやれることはAIに任せる考えです。
ただし、それだけではうまくいかず、最後はフィジカリティのある部分が必ず残ると佐古さんは強調します。
インタビューを通じて、お客さんは本当に何に困っているのかを洞察するスキルとかって、これAIやっぱ難しいんですよ。言葉の言語化された処理しかできないんで。
だからこそ、AIでできるものはAIに任せ、人にしかできないものにフォーカスしてゼロイチを前に進めるというのがSpreadyの向かう先だと佐古さんはまとめます。
最後に大長さんは、今回語られたNEXT Innovation Summitのアンケートをまとめた最新の実態調査レポートが、この9月に発刊されると案内します。産業や会社の規模ごとのクロス集計も載せているといいます。
中小の企業様も含めて、イノベーションの今の現在地っていうものはデータで結構可視化できてるかなと思う。
大長さんは、上期が終わり下期や来年度に向けて現在地を確認するタイミングとして、レポートを見ながら社内の課題感と照らし合わせ、対話を始めてほしいと呼びかけて締めくくります。
まとめ
年間1万人規模の新規事業担当者が集まる場と数千人分のアンケートから、佐古さんは新規事業の関心がゼロイチの立ち上げそのものから、資本を動かして事業を大きくする力へと移っていると語りました。仕組みや箱は整っても、それを推進するイントレプレナーが足りないという課題が浮かび上がっています。
- いま最大のテーマは「大手企業はゼロイチをやるべきか論」で、買収など資本を使う選択が議論されている
- 新規事業開発の専門部署を作るスコアは下がり、イントレプレナー育成・発掘が4〜5年連続で最重要課題に挙がっている
- 求められるのは能力よりも志と行動特性で、資本を動かせる社内起業家をどう生むかが焦点になっている
- 大手より地域企業のほうがイノベーションを起こしやすい面があり、みずほ銀行など投資会社へ舵を切る事例も出ている
- AIに任せられる部分は任せつつ、顧客の困りごとを洞察するような人にしか残らない部分にフォーカスする方向性が語られた






