人型ロボットはいまどこまで来ている?
宮武さんによると、人型ロボットはここ1年ほどアメリカでとてもホットなテーマになっています。想定されているのは人と同じくらい、もしくは少し小さいサイズのロボットで、家庭用のほか工場などの産業用も構想されています。
ただし宮武さんは、人型ロボットを本格的に導入しているところはまだ多くなく、検証として入れ始めている段階だと説明します。そのうえで、日本のように人手不足が進む国では、場合によっては人型ロボットが必要になるかもしれないと話しました。
narumiさんが思い出したのは、ソフトバンクのペッパーくんでした。宮武さんはペッパーくんも一種の人型っぽいロボットだとし、全席にペッパーくんがいて話しかけてくれるペッパーくんカフェがあると紹介します。
人型ロボット、猫型ロボットではないですよね。
(ペッパーくんは)たまにソフトバンクホークスの試合で外野席にいられるんですけど、それ以外見たことないんですよね。
1.3兆円規模に膨らむ投資と、Figure・1X・Tesla
宮武さんは人型ロボット市場の数字を紹介します。2025年の人型ロボットのスタートアップの調達額は合計4.7ビリオン、約7500億円規模でしたが、2026年は1月から5月の間ですでにそれを上回り、5月時点で約1.3兆円に達しているといいます。
とはいえ宮武さんは、これは「可能性を感じている段階」であって、普及はまだまだだと強調します。年間の販売台数は数万台で、ほとんどが研究用や、個人・企業の検証目的の購入です。工場への実導入はごくわずかだといいます。
企業としてアメリカで特に有名なのがFigureです。直近の時価総額は39ビリオン、約6兆円と非常に高く評価されていますが、売上はまだまだだと宮武さんは話します。ソフトバンクが1Xという別のスタートアップを買収するのではという噂もあるそうです。
TeslaのダイナーでポップコーンをくれるOptimus
Teslaも人型ロボットをいっぱい作り始めている企業の一つです。宮武さんは、LAにあるTesla Dinerを訪れた体験を話しました。
Tesla Dinerは充電ステーションを備えたレストランで、半分はドライブインシアター ── 車に乗ったまま屋外の大型スクリーンで映画を観られる施設。アメリカでは20世紀半ばに広く普及しましたのようになっています。大型スクリーンが2つあり、レストランからも車からも映画を見られます。
宮武さんの説明では、Teslaに乗っている場合は車から注文して車まで運んでもらえ、サウンドシステムを映画と連動させて車内で音声を聞けるようになっているそうです。
このダイナーでは、たまにTeslaが作った人型ロボットがポップコーンを出してくれるといいます。ただ宮武さんは2回ほど行ったものの、残念ながら会えなかったそうです。
(スタッフに聞いたら)いつ通勤するかっていうのをスケジュールを作ろうかっていう風に社内で話してたらしいので。
narumiさんが「ファミレスにいるパンダのマシーンとは違うのか」と尋ねると、宮武さんは足までついていて本当に歩くと答えます。ダイナーではポップコーンマシーンの横でスクープして渡すくらいしかしていませんが、普通に動き回ることもできるといいます。
中国のロボット競技と、テック企業の一斉参入
宮武さんは、Xなどでよく見かける中国の人型ロボットの「オリンピック」のような大会にも触れます。すごいスピードで100メートルダッシュをして壁にぶつかって壊れたり、テニスをしたりといった映像が出回っています。
宮武さんによれば、特に中国はこの領域に大きく投資しています。アメリカではTeslaに加え、MetaやOpenAI ── ChatGPTを開発するアメリカのAI企業。大規模言語モデルの分野を代表する企業の一つですもこの領域に入るのではないかと言われています。
全員入ってきますね。
全員入ってきます。やっぱりホットになった瞬間みんな入ってくるんですよね。
そもそも、ロボットは人型である必要がある?
narumiさんは「そもそもなんで人型なんですか」と問いかけます。宮武さんはまさにこれが今日議論したかったポイントの一つだと応じ、人型にこだわる理由が本当にあるのか自分も疑問に思っていると話しました。
narumiさんは、二足歩行は転びやすく不安定で、車輪が4つあれば移動できると指摘します。宮武さんも、人型ロボットはそれなりに重いため、転んで子どもの上に乗ったりすれば危険だと同意しました。
一方で宮武さんは、人型を推進する人たちの論理も紹介します。家庭の環境は人間のために作られているので人の形の方がなじみやすく、階段を上るといった場面もこなせるという考え方です。特定のタスクならお掃除ロボットのような専用機でよくても、いろいろな作業をこなす柔軟なロボットなら人型の方がいいのではないか、という主張です。
人間向けに作られた家の環境になじみ、階段なども上れる。1台でいろいろな作業をこなす汎用性が期待される
お掃除ロボットのように用途を絞る。転倒の危険も少なく、特定の作業に向く
いろんな特定タスクのロボットを入れたいか、1台の人型ロボットで全部済ませるかっていう、多分そういう判断にもなってくるのかなと。
C-3POにするかR2-D2するか。R2-D2の方が優秀じゃないかって。
宮武さんは、人型だとしても腕を6本にするなど別の形もありうると話します。narumiさんは、毎日触れ合う相手だからこそ人型がいいという気持ちの問題もありそうだと指摘しました。ムカデ型ロボットは階段も上れて手も多くて便利でも、抵抗を感じる人がいそうだというわけです。
受け入れをデザインかの問題になってきたり。
人間の体は最適解ではない?鳥と飛行機の教訓
宮武さんは、人間の体には生物学的な制限が多いと指摘します。バランスもそうですし、narumiさんが言うように四本足の動物の方が足は速い。人が二本足になったのは周りを見渡すためや逃げるためなど、さまざまな理由によるもので、その体を必ずしも再現するべきではないと宮武さんは考えています。
実際、ロボット業界の一部もこの点に気づいているといいます。宮武さんによると、Figureはロボットの手を作る際、最初は人間の手首の筋肉を再現して操作しようとしたもののうまくいかず、まったく違うデザインにしたらパフォーマンスがだいぶ上がったという話をしていたそうです。
人間の手首の筋肉を再現して操作しようとしたが、うまく操作できなかった
人間とまったく違うデザインにしたら、パフォーマンスがだいぶ上がった
そもそも人間って理想形じゃないですもんね。人体というのは。
宮武さんはここで空を飛ぶ話を例に出します。人間が空を飛べるようになる前、多くの人が鳥を見て鳥のようなものを作れないかと考えていました。しかし鳥のように飛ぶのは実はとても難しく、鳥と同じように飛ぶロボットが作られたのは、ライト兄弟 ── 1903年に動力飛行機で有人の飛行に成功したアメリカの兄弟。航空の歴史の出発点とされますが空を飛んだはるか後のことだったといいます。
宮武さんの説明では、鳥はエネルギーが必要で休まなければならないなど、いろいろな制限があってあの形と飛び方になっています。当時は鳥しか見えていなかったので寄ってしまうのはわかるとしつつ、宮武さんは人型ロボットについても人という概念をもう少し捨てた方がいいと個人的に考えているそうです。
パンケーキ1000個と、性格を持つランプ型ロボット
宮武さんは、汎用的なロボットなら人型に近いものがいいとしつつ、スピードや大量のスケールが求められる場面では人型でない方がいい場合があると話します。例として挙げたのは、Uber共同創業者のトラビス・カラニックさんの話です。
パンケーキを1000個作るロボットを作りたい場合、多分人型じゃないですと。
そうですね。千手観音型ロボットかもしれないですね。
narumiさんは「BtoBは人型に限る必要はない」とまとめ、宮武さんも同意します。さらに宮武さんは、消費者向けでも人の形が正しいとは限らず、犬かもしれないし別の形かもしれないと続けました。narumiさんは、家に1台置くなら人や犬や猫のようなキャラっぽい形になりそうだと話します。
宮武さんは、人型が求められるのは人間らしさを感じたいからだとしつつ、人間らしさは形ではなく動き方などでも表現できると考えています。その例が、パリとサンフランシスコに拠点を置くスタートアップONGOが作るランプ型ロボットです。
このロボットは話しかけたりインタラクションしたりでき、宮武さんによればトイ・ストーリーのライターを招いてランプに性格を持たせています。可愛らしい動きをしたり、ネガティブなことを言われると下を向いて落ち込んだりするそうです。narumiさんは「ディズニー映画みたい」と反応し、宮武さんはピクサー作品の冒頭に出てくるランプに近いイメージではないかと話しました。
家庭への普及を阻む「動作データ不足」
narumiさんは、これだけ投資が盛り上がれば数年後や10年後に各家庭にロボットが来るのは確実なのかと尋ねます。宮武さんの答えは、アメリカ企業はようやく今年から来年にかけて販売を始めるので、普及は徐々にというものでした。
宮武さんが最大の課題として挙げたのが、データの不足です。ChatGPTのようなLLM ── 大規模言語モデルの略。大量の文章データから学習し、自然な文章を生成するAIの仕組みですは、インターネット上の大量の情報で一定の性能を出し、そこに人間の専門家のデータを加えて発展してきました。しかしロボットの動作データはほとんど存在しないといいます。
インターネットの大量の情報で一定の性能を出し、人間のエキスパートデータで発展した
動作データがほとんどない。一人称カメラの映像も少なく、特定タスクのデータは特にない
特に人型の場合、一人称カメラの映像から少しずつデータを集めるものの、その量も多くありません。narumiさんが「YouTuberのVlogから引っ張るしかない」と冗談を言うと、宮武さんはそれも多くないうえ、特定タスクをしているデータは特にないと答えました。
日常の作業が学習素材に——データ収集という仕事
このデータ不足を背景に、いまデータを集める業界が大きく盛り上がっていると宮武さんは話します。アプローチの一つは、人間にカメラを持たせてタスクをしてもらい、お金を払うというものです。
皿洗いの一人称動画を撮るバイトっつってね。
まさにそういうのが今存在してるんですよ。そこまでお金もらえないんですけど。
宮武さんによると、アメリカのDoorDashや日本のUberといったサービスでも、ゴミ捨てなどの作業データでお金をもらえる環境になりつつあるそうです。ただし常にカメラを置かなければならず、自分のデータを常に抜かれているということでもあります。
話はここから働き方へ広がります。narumiさんは、AIが得意なことから離れて手を動かす仕事へ向かおうという流れがあるなかで、ロボットがすぐ来たらどうするのかと問いかけました。
宮武さんは、ブルーカラーや修理のようなスキルはずっと残ると言われてきたものの、逆にそちらの方が残らないと個人的に考えていると話します。クリエイティビティがそこまで求められないため、学習データさえあれば、ロボットの機能次第である程度できてしまうという理由です。
AIとロボットが来ない未来はあるのかという問いにも、宮武さんは、よほど規制がかからない限り難しいのではないかと答えています。
無料の掃除・料理と引き換えに集める生活データ
宮武さんによれば、データ収集をめぐってはスタートアップ同士の競争も激しくなっています。AIにデータを渡すなという団体もたくさん出てきている一方で、自分たちでやってほしいと求める動きもあるそうです。
その例として宮武さんが紹介したのが、あるスタートアップの取り組みです。ニューヨークで「無料でアパートを掃除します」というオファーを出し、多くの人が応じました。その代わり、掃除をしに行く人はカメラをつけていて、リアルな環境のデータを集めています。
同じ会社はサンフランシスコでもプライベートシェフを無料で提供し始め、シェフの動作データを集めようとしているそうです。
タダより高いものはないと。データが一番高いから。
narumiさんが、人生のあらゆるデータをIT企業に渡せば生きていける時代が来るのではと言うと、宮武さんは「一瞬だけあるかもしれない」と応じます。多くの人が同じデータを提供するようになれば、データの価値はどんどん下がっていくと考えているためです。
データ不足
ロボット企業はリアル環境の動作データを強く求めている
無料サービスと引き換え
掃除や料理を無料で提供し、カメラでデータを集める
データの蓄積
多くの人が同じようなデータを提供するようになる
価値の低下
同じデータが増え、だんだん価値が下がっていく
日本の「おもてなしデータ」に価値はあるか
宮武さんは、日本には別の可能性があるかもしれないと話します。日本にはおもてなし文化があり、日本のおもてなしデータは重要なのかもしれないというのです。そのデータを持っているのは、店舗の従業員などです。
宮武さんによれば、お客さんとの接し方のような細かいところが日本はとても上手で、アメリカ人も日本の店員さんの対応をとても気に入っているといいます。narumiさんは日本のホテルマンやレストランの店員の丁寧さを挙げ、アメリカのスーパーの「はい次」という対応は学習してほしくないと笑いました。
宮武さんは、日本のデータには少しプレミアムが乗るかもしれないとしつつ、それも後々は置き換えられていくだろうと付け加えます。
具体例として宮武さんが挙げたのが、店のドアまで商品を持ってきてくれるうえ、テープの端が剥がしやすいように少し折り返してあるという日本の気配りです。アメリカ人にそれを見せると、みんなびっくりするそうです。
そういう細かいところはやっぱりアメリカ人苦手なので、逆に日本の方がそういうデータを提供してあげると、ロボット企業は喜ぶかもしれないです。
VRと遠隔操作でロボットに動きを教える
データの集め方としては、人間にカメラをつけるほかに、VRヘッドセットを使ったテレオペレーション ── 離れた場所から機械やロボットを遠隔で操作すること。人の操作を記録して、ロボットの学習データにも使われますもあると宮武さんは説明します。遠くにいても、現場でのデータを集められる方法です。
宮武さんの知り合いの会社では、アフリカやインドなど世界各地で人を集めてVRヘッドセットをかぶせ、アメリカの家庭に置いた人型ロボットを遠隔操作して掃除をさせているそうです。そうしてデータを少しずつ集め、最終的には人間がいなくてもできるようにすることを目指しています。
ゲームじゃんそれもう。オンラインゲームになってるじゃん。
narumiさんは、かつてGoogleがストリートビューのために車やバイクにカメラをつけて走らせた例を思い出します。今は道だけでなく、部屋の中や料理の場面まであらゆる行動が記録され、学習素材になるわけだと話しました。
宮武さんは、自動運転でも同じことが起きていると補足します。アメリカでWaymo ── Googleの親会社Alphabet傘下の自動運転企業。アメリカの一部都市で無人の配車サービスを運営していますに乗った際、うまくいかないときにサポートに電話すると、テレオペレーターが運転してくれたそうです。ロボットで洗濯するのがすごくうまい人なども出てくると宮武さんは言います。
(ロボットに全部任せたら)もう僕ら何すればいいんだ。転がってゲームするしかないですよね。
そうですよね。人間とは何なのかっていう、そういうところに。
ロボット用の服から広告まで——広がる周辺ビジネス
宮武さんは、人型ロボットの発展に伴って新しい市場も次々に生まれていると話します。最近では、人と接することを前提にした人型ロボット用の服や素材も登場しているそうです。
本当にやばいマウントですよね。ロボットに着せれる服でマウントしてきたら。
一方で、ちょっとディストピア感もあると宮武さんは認めます。最近Figureが出した広告キャンペーンにはアーノルド・シュワルツェネッガーが出演し、人型ロボットをどう処分するかを描いていました。最後はロボットが溶鉱炉に入りながらサムズアップするという、映画を思わせる演出です。
便利になることと、幸せになることは同じ?
宮武さんに「ロボットが欲しいと思ったか」と聞かれたnarumiさんは、ロボットが家に来て幸せになるかはまだ見いだせないと答えました。
料理するとか、ちょっと細々インテリア整えるとか、そこに喜びを感じるじゃないですか、人ってある意味。
本当にそこにロボットが介在して、本当に僕らの幸せどこに行くんだろうっていうのを考えると、何もわかんなくなりますね。便利とは何かっていうのを。
宮武さんは、自分は特定のタスクのロボットがたくさんある家の方が好きかもしれないと話します。narumiさんは、ロボットが入れない規制区域ができてそこが人気になるかもしれないと想像しました。
narumiさんが思い描くのは、1週間ロボットのない暮らしを体験できるような場所や、平成時代の生活を取り戻してセガサターンで遊べるような場所です。宮武さんは「エスケープルーム的」「もう瞑想ルーム」と応じ、そういう方向にどう発展していくのか見ていこうと話をまとめました。
最後にnarumiさんは、11月8日の文学フリマで、友人と作った同人誌「転職は止まらない」を出展すると告知しました。6、7回転職した経験から、働くこと・転職することをテーマにしています。宮武さんは、仕事は一つのアイデンティティであり、それが奪われればアイデンティティも奪われていくと応じました。
まとめ
人型ロボットはアメリカで投資が急拡大している一方、まだ検証段階にあります。二人の対話からは、人の形にこだわる必然性への疑問、普及の鍵となる動作データの争奪戦、そしてロボットに任せた先の人間の喜びという論点が浮かび上がりました。
- 人型ロボットの調達額は2025年の約7500億円を今年5月時点で上回り、約1.3兆円に達したが、実導入はまだごくわずか
- 宮武さんは、汎用性では人型に利点があるものの、用途によっては人という概念を捨てた方がいいと考えている
- 最大の課題は動作データの不足で、無料の掃除やシェフ、VR遠隔操作などでデータ集めの競争が起きている
- 日本のおもてなしの細かい気配りは、データとして一時的にプレミアムが乗る可能性がある
- narumiさんは、家事などに感じる喜びをロボットに任せたとき、人の幸せがどこへ行くのかという問いを投げかけた




