シリコンバレーで急浮上した「AIパーソナルアシスタント」とは?
収録は10月頭で、宮武さんによると、シリコンバレーではその2、3週間ほど前から「AIパーソナルアシスタント」という言葉が一気にホットになっているそうです。日本では使えないサービスも多く、まだ本格的には広まっていないといいます。
narumiさんがまず尋ねたのは、ChatGPTやClaudeとの違いでした。宮武さんは、ChatGPTはお願いに対してテキストで答えるのが基本なのに対し、AIパーソナルアシスタントは予約などの「最後の実行」まで担うと説明します。
このパーソナルアシスタントですと、その予約とか、実際その最後の実行の部分まで一緒にやってくれるので、
場合によってはそのクレジットカードを渡すと決済まで全部してくれるっていう。
ちょっと怖くないですか?
お願いをするとテキストの回答が返ってくるのが基本。場合によってはそれ以外の作業もこなす
予約などの最後の実行まで担い、クレジットカードを渡せば決済まで行う
宮武さんは、AIパーソナルアシスタントが決済まで任される点について、失敗している人もまあまあいると認めています。そのうえで、スタートアップだけでなく大手テック企業までこの領域に入ろうとしていると話します。
10年前の「Magic」から続く、パーソナルアシスタントの系譜
宮武さんによると、パーソナルアシスタントの流れは何度も来ています。宮武さんが覚えているのは、2015年から2017年ごろにシリコンバレーにあったMagic ── 2010年代半ばに話題になったアメリカのタスク代行サービス。テキストメッセージで依頼すると、さまざまな用事を代わりに手配する仕組みでしたというサービスです。
Magicは、SNS上でタスクをお願いすると、裏で人間がそれを片づけてくれる仕組みでした。当時はAIの性能が足りず、最終的にAIに置き換える前提で、まずは人力で回していたといいます。
そんなのがたった10年前にあったんだ。
はい、潰れちゃったんですけど。ちょっとエコノミクスが合わなくて。
宮武さんは、人を雇い続ける形ではMagicの採算が合わなかったと振り返ります。当時はFacebookも似たものを作っていたそうです。
AI時代に入ってからは、弁護士事務所向けや医療関連のAIツールなど、分野ごとのサービスが増えました。ただ、個人向けのものはまだ足りていなかったため、いま多くの会社がAIパーソナルアシスタントの領域に参入している、というのが宮武さんの見立てです。
二大勢力「Town」と「Instinct」は何が違う?
宮武さんは、スタートアップで特に人気の2社を挙げます。1つ目のTownは、BtoB・エンタープライズ向けのAIアシスタントです。
Townは仕事のメールアドレスと連携し、メールをすべて把握したうえで「どういう人か」を推測し、さまざまな仕事を任せられるといいます。宮武さんはこれを、割とわかりやすいパターンと表現しています。
2つ目のInstinctは、今回のAIパーソナルアシスタントの流れを作った会社だと宮武さんは話します。宮武さん自身も登録していて、SMSやWhatsAppと連携させ、アシスタントとメッセージでやりとりする感覚で使えるそうです。相手が人間ではなくAIという点だけが違います。
Instinctは今年の2月にベータ版が出たばかりで、最初はかなり苦戦していました。それが8月から急に伸び始め、1年未満で時価総額10ビリオンドル、約1.5兆円に到達したといいます。
Instinctはシリコンバレーの会社で、社長は23歳です。宮武さんによると、周囲からは若くして急成長したころのマーク・ザッカーバーグのように扱われているものの、本当にそうなるかはわからないとしています。
Instinctでできることは、メールへの返信やカレンダー管理、Uberの手配などです。日本の番号でも登録でき、ウェイトリストはあるものの日本からでも使えるといいます。
ブラウザ操作から予定調整まで、Instinctは何をしてくれる?
narumiさんは、レストラン予約を頼んだらアシスタントが電話をかけてくれるのかと質問しました。宮武さんの答えは、現時点ではウェブブラウザを操作して予約する形だというものです。
今はウェブブラウザ上で、例えば、まあ日本でやってくれるかわからないですけど、食べログさんに行って、で、そこで予約。
宮武さんは、Instinctがゆくゆくは電話もしてくれるようになるかもしれないとしつつ、まだ1年未満のサービスで「これから」だと話します。
narumiさんが初めて「いいな」と感じたのは、Instinct同士の会話でした。宮武さんとnarumiさんが両方Instinctを使っていれば、Instinct同士がお互いのカレンダーを見て予定を調整してくれるといいます。
確かに予定どこ空いてるかを、5人6人になるとめちゃめちゃめんどくさいから。
そこ(Instinct同士の調整)は初めていいなと思った、今。
宮武さんは、グループチャットでみんなでUberを頼むときに、AIパーソナルアシスタントが全員の注文をまとめて手配し、決済をそれぞれ個人で済ませてくれるといったユースケースも紹介しています。
レストラン予約を任せる意味は?Instinctが評価される理由
narumiさんは、レストラン予約くらいを代わりにやってもらう意味はあるのか、なぜInstinctがそこまで評価されるのかと疑問を投げかけます。
宮武さんがまず挙げたのは、Instinctの成長スピードです。Instinct経由の流通額は年間1ビリオンドル、約1500億円のペースに達し、招待制で制限されている中でも毎日10%成長しているといいます。
毎日10パー成長してるんですよ。
数日間で倍になるってことですか?
さらに宮武さんによると、Instinctのユーザーの4割が、3週間以内に自分のInstinctへクレジットカード情報を渡しているそうです。ある程度信頼して、決済まで任せてよいと伝えていることになります。
narumiさんは、ECなどのサービス提供者がInstinctに使ってもらおうと動くようになるのかと尋ねます。宮武さんは、将来的にはありうるとしたうえで、アシスタントに買ってもらいたいものと買ってもらいたくないものがカテゴリごとに分かれてくるだろうと答えています。
ホテルの取り直しとサブスク整理、Instinctの「いい使い道」
宮武さんによると、Instinctの取引高の半分は旅行関連で、ホテルやフライトの予約が中心です。narumiさんは「勝手にInstinctが取ったホテルに泊まるのは怖い」と言いますが、最後に確認できる仕組みがあるそうです。
宮武さんが「非常にいいユースケース」と挙げたのが、ホテル予約の取り直しです。変更可能な条件で予約しておくと、Instinctが部屋の価格を常にモニタリングし、値下がりしたら連絡をくれます。
この間ブッキングしたホテル、例えば100ドルで予約したものが今80ドルになってるんですけど、こっちで勝手に変えちゃいますね。
宮武さんは、価格の上がり下がりが大きいフライトでも、Instinctが同じように監視して瞬時に予約を切り替えてくれると話します。
予約
いつでも変更できる条件でホテルを予約する
監視
Instinctがその部屋の価格を常にモニタリングする
提案
値下がりするとInstinct側から連絡が来る
切り替え
OKすれば安い予約に入れ替える
一部のユーザーは、Instinctに銀行口座の情報を渡し、使っていないサブスクリプションを洗い出してもらっているそうです。narumiさんはすかさず「それNetflixのユーザー減らないですか?」と反応しました。
全部見終わったら自動でInstinctが解約しちゃうみたいなね。
なんかめちゃめちゃ、僕らは効率いいけど、困る人も出てきそうな。
会社側は困りますよね。
Instinctは招待制で、招待枠を二次流通市場で300ドル、日本円で4〜5万円ほどで売っている人もいるそうです。宮武さんは、シリコンバレーでいまホットな会社なので「みんな使ってるって言いたい」というステータスの面もあると見ています。
宮武さん自身のInstinctの使い方は、まだそれほど面白くないといいます。来週からのアメリカ出張のホテル予約などのブッキング系と、リサーチ系が中心です。narumiさんが「朝、東京駅に行ったらどの新幹線に乗れとメールが来るミステリーツアー」を提案すると、宮武さんは「サプライズデートに使えるかもしれない」と面白がっていました。
MetaのMuseは便利?それともおせっかい?
Instinctと並ぶ存在として、宮武さんはMetaが出したMuseを紹介します。Museはキャラクターが可愛く、日本でも受けているそうです。Metaはまだ日本展開していませんが、デスクトップ版は誰でもダウンロードできるとあまり知られていない点も挙げています。
宮武さんによると、InstinctとMuseがChatGPTやClaudeと違うもう1つの点は、主体性があることです。こちらが聞く前に、向こうから連絡が来るのが特徴だといいます。
先ほどのホテルの取り直しも、Instinct側から連絡が来るため、ユーザーがリマインドを送る必要がありません。narumiさんは「もう秘書みたいな感じ」と表現しています。
ただし、どれくらい頻繁に提案してくるかについては、「ウザい」と感じる人もいれば、ちょうどいいと感じる人もいるそうです。度合いはある程度コントロールでき、最近はInstinctから電話がかかってくることもあると宮武さんは話します。
ちょっと鬱陶しいお母さんみたいになるか、そうすると。
まだやってないですか?みたいな。
宮武さんによると、Instinctの社長自身も使い続けていて、電話がかかってきたのはまだ3回ほどだそうです。宮武さんは、Instinct側がある程度タイミングを見てくれていると受け止めています。
個人情報の不安と、InstinctがXで広がった理由
narumiさんの質問に、宮武さんはInstinctは自社でAIのエンジンを作るAIの会社だと答えます。プライバシーやクレジットカードを預ける不安についても、Instinctはある程度守っていると説明しているそうです。
それでも、InstinctやMuseには失敗もあります。宮武さんの記憶では、Museを使っていたYouTuberの住所が勝手に明かされたことがニュースになったといいます。narumiさんは、最初はしょうがない、ある程度いいだろうと思える人が今は使っているのだろうと受け止めていました。
Instinctの急成長は、完全にX(旧Twitter)発だったと宮武さんは話します。あるVCが8月中旬に「Instinctというすごいアプリがある」と投稿し、1日は無風だったものの、その後リプライが増えて広がっていきました。
投稿
あるVCが8月中旬に「Instinctってすごいアプリがある」と投稿
無風
1日は反応がほとんどない
リプライ
「何のアプリ?」「リンクください」とリプライが集まる
拡散
リプライが評価されるアルゴリズムで、より多くの人に表示される
ブースト
株主の発信も重なり、1〜2カ月で超大型調達を2回
X今リプライ(が)強いじゃないですか。アルゴリズム上、より評価されて、より拡散できるようになってくるので。
宮武さんの見立てでは、Instinctの利用者はまだほとんどがアメリカの人です。一方でMetaのMuseは無料で使え、Facebookなどとも連携していることから、ダウンロード数ではより多いといいます。
Museはローンチから22日間で500万ダウンロードを達成しました。宮武さんによると、ChatGPTのアプリが500万ダウンロードに要したのは56日間で、週間アクティブユーザー(WAU)は300万人、毎日使う人(DAU)は100万人ほどとされています。
ローンチから22日間
56日間
OpenAIのDotsも参入、移り変わる競争の中で何に頼る?
narumiさんが、ClaudeやOpenAIも同じようなものを出さないのかと尋ねると、宮武さんはOpenAIが収録の3日ほど前にDotsというサービスをリリースしたと答えます。競争が激しい中でも、各社がどんどん出そうとしている状況です。
なんか別の(サービスを)使ってて新しいのこっち出たって移動すると、また元のところが出すじゃないですか。
narumiさんは、乗り換えてもまた元のサービスが新機能を出すので、どこにとどまればいいのか悩ましいと話し、宮武さんも「データがどこにあるのか」という点を挙げて同意しています。宮武さん自身は、新しいものはできるだけ試すつもりだそうです。
宮武さんによると、AIパーソナルアシスタントのユースケースはまだみんなが模索中です。シンプルなタスクのほかに強いのが、リファンド ── 返金のこと。アメリカでは契約サービスの料金トラブルなどで、事業者に返金や値下げを求める場面が日本より多いとされますを求める場面だといいます。
たとえばケーブルテレビとの契約で返金を求めたり、価格交渉をしたりするとき、アシスタントに「勝手にやってください」と任せるそうです。narumiさんは引っ越しの見積もりを例に挙げ、電話やメールが次々来る相手にInstinctがすべて対応し、一番安いものを選んでくれるならめちゃめちゃいいと話していました。
天気を聞いたら終わる?アレクサと同じ課題
narumiさんは、宮武さんがAIパーソナルアシスタントを使い続けそうかと尋ねます。宮武さんはここに1つの課題があると答えます。
最初の、わかんないですけど、その3つのユースケースとか、まあ場合によってその10個分のユースケースは皆さんなんとなく想像つくんですよね。
その後何をお願いするかわかんなくなっちゃうんですよ。
宮武さんは、これはAmazonのアレクサと同じ問題だと指摘します。メニューもディスプレイもなく、何ができるかがわからないため、結局は音楽か天気を頼むくらいになってしまう、という構図です。
(アレクサは)天気聞いたら終わっちゃいますよ。
そこで鍵になるのが、先回りして提案するAIパーソナルアシスタントの強みです。宮武さんは、narumiさんのアシスタントなら「narumiさんはこのタイミングでこれを欲しがるだろう」と的確にレコメンドできるかどうかの勝負だと話します。
ただ、それは簡単ではありません。宮武さんは、SMSやFacebook Messengerのやりとりがあっても、それだけで人を理解できるとは限らないと指摘します。人のアイデンティティはいろんなところに分散しているため、それを拾えるかが今後の大事なポイントになるといいます。
narumiさんは、そこを乗り越えないとAIパーソナルアシスタントは人の習慣に入り込めないかもしれないとまとめ、宮武さんも同意しています。
無料のAIアシスタントはどう稼ぐ?提案への信頼という問題
ユーザー側の料金について、宮武さんは基本的に無料だと答えます。MetaのCEOマーク・ザッカーバーグも基本無料にしたいと話していて、取引の際に手数料を取る、クレジットカードビジネスのような収益モデルを想定しているそうです。手数料を誰から取るのかはまだわからないといいます。
宮武さん個人としては、手数料よりも広告ビジネスに張ったほうがいいと考えています。これに対しnarumiさんは、アシスタントの提案が広告まみれになることへの懸念を口にしました。
でもパーソナルアシスタントを提案してきたものが広告まみれの、めちゃめちゃアフィリエイトみたいなやつで。
それは嫌ですね。そこは、そこはやっぱり適切な。
narumiさんは、その点でFacebookが信用できないと感じる面もあると話し、宮武さんもどうするのかはまだ見えないと応じています。提案してくれるAIほど、その提案を信頼できるかが問われることになりそうです。
AIとAIが交渉する未来、レストランに断られる日は来る?
宮武さんが面白かったと紹介するのは、Instinctの社長が想像しているユースケースです。レストランの予約は基本的に早い者勝ちですが、レストラン側は必ずしも早い者勝ちにしたいわけではない、という話です。
たくさん注文してくれる人や、結婚30周年のカップルのように、店が優先したい客もいるかもしれません。Instinctのようなアシスタントを使えば、ユーザー側だけでなく店側も、その予約を受けるべきかを判断できるようになるかもしれないといいます。
そうすると僕らのInstinctがお店のInstinctに断られるっていうのがあるんだ。
ナリミさんはすごいいい人なんで絶対入れた方がいいですよみたいなことを。
僕のInstinctが言う。
人間がアシスタントに頼み、空いていれば早い者勝ちで予約が埋まる
ユーザー側のAIと店側のAIが交渉し、店が優先したい客かどうかも踏まえて予約が決まる
宮武さんは、いまは人間対AIのパターンが多いものの、今後はAI対AIの会話がめちゃくちゃ増えるため、その世界では何が起きるかわからないと話します。
narumiさんは、相手側も当然AIを使うので、こちらも見定められるわけだと受け止め、「世知辛さが増してる」と笑っていました。
検索・SNSの次の入り口は、AIパーソナルアシスタントになる?
宮武さんは最後に、シリコンバレーがAIパーソナルアシスタントを重要視している理由を語ります。ユーザーとのインターフェースや関係性をどこで取れるかを考えると、これからはAIパーソナルアシスタントとのやりとりが中心になり、この領域に張っていかなければならないといいます。
narumiさんは、これまで検索などが入り口だったところにパーソナルアシスタントが出てくることで、Googleがまたピンチになることもあり得ると話します。宮武さんも、だからこそいま注目されている領域だと締めくくりました。
番組の最後には、narumiさんがポッドキャスト『ドングリFM』を、宮武さんがアメリカのビジネスやテック、カルチャー、政治を発信するニュースレター『Slow Times』を紹介しています。
まとめ
AIパーソナルアシスタントは、答えを返すだけのAIから、予約や決済まで実行し、自分から提案してくるAIへの変化を象徴する存在です。InstinctやMuseの急成長が示すように期待は大きい一方で、個人情報の扱い、ユーザーを深く理解できるか、提案を信頼できるかといった課題も残っていると、宮武さんとnarumiさんは話していました。
- AIパーソナルアシスタントは、ChatGPTなどと違い、予約や決済などの「最後の実行」まで担う
- Instinctは1年未満で時価総額約1.5兆円に達し、ホテルの取り直しやサブスク整理、返金交渉などに使われている
- InstinctやMuseの特徴は主体性で、ユーザーが聞く前に向こうから連絡や提案をしてくる
- 定着の鍵は、分散した個人のアイデンティティを理解し、信頼できる提案を続けられるかにある
- 今後はAI対AIの交渉が増え、検索・SNSに次ぐユーザーとの入り口になる可能性がある



