アメリカの消費トレンドを語る新番組の顔ぶれ
「SIDE QUEST」は、アメリカの消費トレンド、特にリテールやテックのトレンドを幅広く扱う番組として、8月の間に全5回放送されます。
担当する宮武徹郎さんは、もともとベンチャーキャピタリストとしてアメリカのテック企業に投資していた人物です。その後、テック系ポッドキャスト「Off Topic」を7年半ほど運営し、最近はニュースレター「Slow Times」を始めています。
パートナーを務めるnarumiさんは、会社員として編集者に近い仕事をしながら、個人の趣味で10年ほどポッドキャスト番組を続けています。二人はポッドキャスト仲間という間柄ですが、宮武さんによれば、ちゃんと話すのはこの回が初めてだそうです。
セレブが集まるLAの高級スーパー「Erewhon」とは?
第1回の題材は、宮武さんが前日に帰国したばかりのニューヨーク出張です。現地の起業家や投資家に会い、リテールのトレンドをキャッチアップしてきたといい、今回はその中から食の話をするところから始まります。
宮武さんがまず挙げたのは、ロサンゼルスの高級スーパー「Erewhon ── ロサンゼルス発の高級オーガニックスーパー。セレブ御用達として知られ、高価なスムージーやSNS映えする売り場で話題になっています」です。ここ数年セレブの間で爆発的な人気となり、それを真似た高級スーパーがニューヨークにもぽつぽつ出始めているといいます。
narumiさんが日本の紀ノ国屋のようなイメージかと尋ねると、宮武さんはいくつかの特徴を挙げました。値段がとても高いこと、用意された料理が売られていること、スムージーが有名でヘイリー・ビーバーなどセレブとコラボしていること、野菜や果物の売り場が写真映えすること、そして値の張る自社ブランド品が多いことです。
具体的な値段も紹介されています。スムージーは1杯22ドル、日本円で3,500円ほど。6ピースの寿司が十数ドルで2,000円ほど、おにぎりは1個5ドルだそうです。
それでも人が集まるのは、Erewhonに行くこと自体がステータスになっているからだと宮武さんは説明します。
結構そのLAとかに行くと、そこでスムージーを買って自撮りを撮って、行きましたよって言って、ちょっとだけ飲んで捨てて帰るっていう人もまあまあいます。
捨てらんないですよ、その三千円。
宮武さんによると、日本からLAを訪れる観光客がErewhonでスムージーを買って写真を撮る、という流れも最近増えているそうです。
ニューヨークに増える高級スーパー、4つの顔ぶれ
宮武さんは今回の出張で、ニューヨークでトップと考える高級スーパーを4つほど回りました。1つ目は「Happier Grocery」で、もともとマーク・ジェイコブスのデザイナーが立ち上げたスーパーです。
Happier Groceryのコンセプトは Erewhon とよく似ていますが、創業者がデザイナーということもあり、バッグやTシャツ、パーカーなどのグッズがかなり凝っているそうです。宮武さんは、日本人のお土産として定番のトレーダー・ジョーズ ── アメリカの食品スーパーチェーン。手頃な価格のオリジナル商品で人気があり、丈夫なエコバッグは日本でもお土産として知られていますのバッグの、もう少し高級版のような存在だと説明しています。
2つ目は、去年できた「Meadow Lane」です。こちらはVCが立ち上げたスーパーで、店舗は小さいものの映える作りになっています。普通のチキンサラダが12ドル、1,500〜1,600円ほどで、60ドル、1万円ほどのオリーブオイルも置かれているそうです。
narumiさんが良いものを仕入れているのかと尋ねると、宮武さんは、高級食材を選んでいるうえ1年間かけて事前にテストもしていたので美味しいのは美味しい、と答えます。ただ、コスパが良いかと言われるとそうではない、というのが宮武さんの見方です。
チキンサラダはちょっと高かったのでやめました。
残りの2つとして、宮武さんは高級化し始めたユダヤ系のコーシャーのスーパーチェーンと、お金持ちが住むエリアにできた「Butterfield Market」を挙げています。
若者が高級スーパーに向かう理由は「手の届くラグジュアリー」
高級スーパーがラグジュアリー化している理由について、宮武さんはまず、アメリカの若者層の懐事情を挙げます。手持ちのお金を考えると高級バッグは買えないけれど、スーパーのちょっとプレミアムな商品なら割とすぐ買える、だから手を出しやすいのではないか、という見立てです。
もう1つの理由として宮武さんは、ステータスの見せ方がいろいろな形に広がり、その1つが食になっているのではないかと話しています。
narumiさんが、高級バッグは手が出ないから高級スーパーのノベルティのようなバッグが「いいゾーン」になっているのかと確かめると、宮武さんはまさにそうだと答えました。
さらに宮武さんは、高級バッグには二次流通市場があって安く買えることもあるのに対し、Happier Groceryのバッグは限定品として売られているので常に手に入るわけではない、という違いも指摘しています。
若者には手が届きにくい。二次流通市場で安く買えることもある
手の届く価格のプレミアム品。限定品なので常に買えるわけではない
スーパーが出会いの場になる?
宮武さんは、若者が高級スーパーに集まるもう1つの理由として、スーパーが恋愛の出会いの場になっていることを挙げます。narumiさんは「どうやるんすか?」と驚きます。
宮武さんによれば、高級スーパーに来ている人は、ある程度の所得がある人ではないかと見られるため、そこで出会いを求める人がいるそうです。レジに並んでいるときや売り場を歩いているときに実際に話をすることもあるといいます。
今日夜何作るの?みたいな。本当ですか?
でも本当にそうなんですよ。
LAのErewhonには座って話したり食べたりできる屋外エリアがあり、そこで交流が生まれるそうです。さらにErewhonはメンバーシップ制を持っていて、マッチングアプリと提携し、メンバー同士がマッチングしやすい仕組みも作っていたといいます。
narumiさんは、スーパーの創業者がVCやデザイナーなど普通とは違う人たちだからこそ、コミュニティやメンバーシップ、出会いの場にまで広がるのだろうと受け止めました。宮武さんは、その背景にある需要をこう語ります。
高級スーパーの流行は、単に高いものを買う行動ではなく、ステータスとコミュニティを手頃に得られる場所を求める動きとして語られています。
アジア料理はアメリカ人の味覚を変えたのか?
高級スーパー以外に宮武さんが気になっているのが、アメリカでのアジア料理の広がりです。出張で集中的に見たわけではないものの、いろいろなスーパーでアジアフードのコーナーが広がり、街中のレストランでも「ザ・アメリカン」以外の料理がかなり増えていると感じたそうです。
特に多いのはアジア系で、直近では韓国料理が目立つといいます。韓国のステーキハウスやフライドチキン店が増えていて、ラーメン店もたくさんあるそうです。narumiさんは、日本でも新大久保で若い人が韓国の食べ物を買っている様子を挙げ、どこの国でも韓国料理は強いと応じました。
宮武さんは、こうした他国の料理が増えることで、アメリカ人の味覚そのものが変わり始めているのではないかと考えています。宮武さん自身もかつてアメリカに住んでいたことがあり、当時は子どもの誕生日に食べるものといえば明確にピザだったといいます。
narumiさんの「ピザやハンバーガー、ステーキばかりで、日本料理のような繊細なものはないのでは」というイメージに、宮武さんは「まさにおっしゃる通り」と同意します。チーズやマカロニ&チーズのようなストレートな味、ハチミツのかかったチキン&ワッフルのような料理が人気だったそうです。
誕生日会はピザより寿司、子どもたちの舌の変化
アメリカ人の味覚の変化を象徴する例として、宮武さんが挙げたのは、ニューヨークやニュージャージーの寿司店に子ども連れの家族がよく来ているという話です。子どもたちが以前より寿司を食べるようになり、誕生日会でピザパーティーをしたくないと言うのだそうです。
一応子供たちは結構握り食べたいっていうのが増えてるので、なんかもうちょっとやっぱり舌が繊細になり始めてるのかなっていうふうに思います。
明確にピザ。チーズなどストレートな味が好まれていた
寿司、それも握りを食べたい子どもが増えている
ただし寿司はピザより高く、親が困っているそうです。narumiさんが回転寿司チェーンについて尋ねると、宮武さんは、スシローはないもののくら寿司はLAなどにあり、それでも安くはないと答えています。
宮武さんはこの変化を、日本の食がより受け入れられやすくなる兆しと捉え、日本のブランドにとってはチャンスにもなるのではないかと話しています。
narumiさんは、コロナ前の5、6年前に最後にニューヨークへ行ったときは「変な寿司」もまだ多く、日本の味を求めるとラーメン店くらいしかなかったと振り返ります。そのとき一蘭で3,000〜4,000円かかったそうです。
アメリカのラーメン店については、宮武さんが日本との違いを指摘しています。日本ではファストフード的にさっと食べて帰るのに対し、アメリカの一風堂などでは前菜を頼み、ラーメンを頼み、デザートまで頼む、ちゃんとしたレストランになっているそうです。
ファストフード的に行って、ラーメンを食べて終わる
餃子や肉まんなどの前菜、ラーメン、デザートと頼む。バーがあり店内は暗めの雰囲気
第3次フローズンヨーグルトブームと1時間待ちの行列
この夏、特にニューヨークで人気になっているのがフローズンヨーグルトです。宮武さんによれば、正確にはギリシャヨーグルトのフローズン版で、アメリカでは3回目の波にあたるといいます。
宮武さんが大学生だったころの波では「ピンクベリー」という店が人気だったそうです。もう1つの波で何が流行ったかは宮武さんも覚えていないとしつつ、今回の第3の波では、ニューヨークの多くの店がとりあえずフローズンヨーグルトを出し始めている状況だといいます。
一番有名とされる「ミニス」という店に宮武さんも行こうとしましたが、平日なのに1時間待ちで、今回は食べられなかったそうです。
narumiさんは、フローズンヨーグルトは昔からどこにでもあってコンビニでも売っているのに、なぜ波が来るのかと首をかしげます。宮武さん自身も理由ははっきりしないとしながら、ボバティー ── タピオカ入りのミルクティーのこと。アメリカではボバティーと呼ばれ、日本と同様に何度も流行の波が来ていますのように上がったり下がったりするものだと話しています。
プロテインブームを押し上げたGLP-1
宮武さんが「何でもプロテイン」と表現するほど、アメリカでは数年前からプロテインのブームが続いています。narumiさんも、日本のセブン-イレブンでプロテインドリンクや、タンパク質が何グラム摂れるかを明記した鶏胸肉の惣菜が増えていると応じます。
宮武さんは、アメリカでのブームの大きなきっかけとしてGLP-1 ── もともと糖尿病治療に使われるホルモン関連の薬で、食欲を抑える作用からアメリカでは減量目的での使用が広がっていますを挙げます。食欲がなくなる薬がダイエット目的で人気になり、食べる量が減るぶん、タンパク質を意識して摂らなければならなくなったという流れです。
GLP-1の普及
食欲を抑える薬がダイエット目的でアメリカで人気になる
食事量の減少
薬の影響で食べる量が減る
タンパク質の補給
筋肉を落とさないよう、別の方法でタンパク質を摂る必要が出る
プロテインブーム
タンパク質を摂れる商品が広がる
宮武さんは、プロテインが「筋肉をつける」とわかりやすいことも人気の理由だと見ています。食物繊維も人気が出始めているものの、プロテインほどわかりやすくはないといいます。
narumiさん自身も、体重×1グラムを目安にタンパク質を摂るようにしているそうです。鶏肉や魚を食べても足りないため、朝起きたときと夜の前に粉末をミルクで割ったプロテインを飲んで補っているといいます。
アメリカでの具体例として、宮武さんは「デイビッド」というプロテインバーの人気や、スターバックスがプロテイン入りのフォームの技術を開発して特許を取り、追加オプションとして販売していることを紹介しました。
narumiさんは、前日にセブン-イレブンで、ペットボトル1本で5〜6グラムのタンパク質が摂れる「プロテイン入りの水」を見かけたと話します。値段は180円ほどだったそうです。
3時間半待ちのピザ店「シェリーズ」
プロテインが流行る一方で、ニューヨークではピザも引き続き人気です。宮武さんが挙げたのは、去年から人気が出た「シェリーズ」というピザ店です。
シェリーズは、アメリカで一番のレストランと評価されたこともあるイレブン・マディソン・パーク ── ニューヨーク・マンハッタンの高級レストラン。「世界のベストレストラン50」で1位に選ばれたこともある名店ですのシェフ2人が独立して始めた店です。いつも行列ができていて、注文してもその場では作ってもらえず、バックオーダーが多すぎるため「何時に戻ってこい」と言われるそうです。
一番最初に行った時は午後三時頃行ったんですけど、六時半に帰って来って言われたんですよ。
今回の出張でも、宮武さんは3時半ごろに行って7時のピックアップにしたそうです。7時半ごろには売り切れていたといいます。
シェリーズのピザはスライスでは買えず、ホールのみです。一番安いもので40ドル、6,500円ほど、一番高いもので70ドルほど。ニューヨークスタイルのしっかりした生地で大きめですが、宮武さんは2〜3人で行っても1枚だと少し足りないくらいだろうと話しています。
行列を嫌うアメリカ人、ニューヨークだけは例外?
シェリーズやフローズンヨーグルト店の例から、宮武さんは、人気店に行列ができるようになっていると指摘します。もともとアメリカ人は行列があまり好きではなかったものの、自身の仮説として、ニューヨークだけは例外で「行列OK」になっていると話しています。narumiさんは「日本みたいになってきてますね」と応じました。
行列文化に合わせて新しいサービスも出てきています。代わりに並んでくれるサービスに加え、宮武さんが面白いと感じたのは、人気レストランの横のアパートの住人にお金を払ってカメラを設置し、列の長さを確認できるようにするサービスです。
すごいさすがアメリカだなと思いましたね。
narumiさんが、お金を払えば行列をスキップできるファストパスはないのかと尋ねると、宮武さんはまだないとしつつ、どこかがロイヤルティやメンバーシップの形で作りそうだと答えています。
宮武さんはニューヨーク全体を見て、行列には2つの種類ができていると感じたそうです。観光客が並ぶ場所と、若者層やニューヨーカーが「今イケてるスポット」として並ぶ場所です。
観光客が並ぶ場所にできる列
若者層や地元の人が、今イケてるスポットに並ぶ列
ターゲットやウォルマートの棚に並ぶクリエイターブランド
narumiさんが、出張先で食や買い物文化をつい調べてしまうのかと尋ねると、宮武さんは消費行動を見るのが好きで、どこが今イケてると思われているのかを見に行くと答えました。
宮武さんは、日本でいうイオンのように何でも売っているターゲットやウォルマートにも足を運び、棚にどんなブランドが並んでいるかをチェックしているそうです。そこで目立つのが、YouTuberやTikTokerなどクリエイターのブランドです。
クリエイターブランドには、飲食やお菓子のブランドに加え、最近はおもちゃのブランドもあるといいます。宮武さんは、日本でいえばHIKAKINさんのラーメンブランドに近いと説明し、narumiさんは「みそきん」がセブン-イレブンで売り切れになった例を重ねました。
宮武さんが最近ターゲットに行ったときは、新しいシリアルブランドや、世界一のYouTuberとされるMr.Beastのチョコレートブランドが大量に並んでいたそうです。ニューヨークは歩きやすく、歩いているうちにトレンドが自然と見えてくるのが楽しいと宮武さんは話しています。
テックの人がスーパーを巡る理由と、番組からのお知らせ
narumiさんは、宮武さんにテクノロジーの人という印象が強かったため、ニューヨークでスーパー巡りをしているとは思わなかったと感想を述べます。宮武さんは「しかも高級スーパー巡り」と応じました。
お知らせとして、narumiさんは自身のポッドキャスト「ドングリFM」を紹介しました。宮武さんは、ニュースレター「Slow Times」で、アメリカの消費トレンドやテック、カルチャー、ビジネスについて週2回、無料版と有料版を届けているほか、コミュニティも作っていると話しています。
ニュースレターはアメリカで今とても盛り上がっていると宮武さんは言います。日本ではSubstackがじわじわ来ている感じがするというnarumiさんに、宮武さんは「頑張ります」と答えて回を締めくくりました。
まとめ
ニューヨーク出張帰りの宮武徹郎さんが語ったのは、高級スーパー、寿司、プロテイン、行列といった街の風景から、アメリカ人の消費行動の変化を読み取る視点でした。
- 高級バッグに手が届かない若者が、高級スーパーで手の届くラグジュアリーとステータスを手に入れている
- ErewhonのようなスーパーはSNS映えだけでなく、メンバーシップや出会いの場としても機能している
- アジア料理の広がりで、誕生日会にピザより寿司を選ぶ子どもが増え、日本ブランドにはチャンスになりうる
- GLP-1の普及がタンパク質の需要を押し上げ、スターバックスまでプロテインフォームを売るブームになっている
- ニューヨークでは行列文化が生まれ、行列をカメラで確認するサービスなど新しいビジネスが登場している







