OffTopic卒業がつないだ、帰国子女ふたりの出会い
『SIDE QUEST』は、8月の間に全5回で放送される、アメリカの消費トレンドやテックを伝える番組です。パーソナリティの宮武徹郎さんは、元ベンチャーキャピタリストで、テック系ポッドキャスト『Off Topic』を運営したのち、現在はニュースレター『Slow Times』を発行しています。
第2回のテーマは「テックガジェットとAI」です。ゲストのg.O.R.iさんは、ウェブ媒体『ゴリミー』の編集長を務めています。
宮武さんとg.O.R.iさんがリアルで会うのは、この収録が2回目だといいます。g.O.R.iさんは『Off Topic』を通じて一方的に宮武さんを知っていて、宮武さんの番組卒業を知ったことが声をかけるきっかけになりました。
(宮武さんが)OffTopic卒業されるっていうことで、マジかよみたいな。俺どこで今後膨大な情報をギュッてまとめてるやつ見ればいいんだよっていうのでね。
その後、二人は渋谷でランチをし、X上でDMを送り合う仲になりました。二人とも帰国子女で、アメリカのテック系の情報が好きという共通点があります。
AI単体ではなく「AI×ハード」で何ができるのか
g.O.R.iさんは『ゴリミー』を17年ほど運営してきました。大手テック企業から小さめのガジェットまでレビューや情報発信をしてきましたが、メインはAppleだといいます。
宮武さんの見立てでは、ガジェットは2010年代から2015年ごろにIoT ── Internet of Thingsの略。家電や機器をインターネットにつなぎ、データのやりとりや遠隔操作をできるようにする考え方ですという言葉とともに一度盛り上がり、その後落ち着きました。それが2023年ごろから、ChatGPTのようなAIを使うデバイスの増加とともに、再び熱を帯びてきたといいます。
g.O.R.iさんは、AIを使ったハードウェアを重要なテーマとして見ています。AI単体は膨大な情報をもとに最適解やアイデアを出せますが、ハードと組み合わせると、できることがだいぶ変わってくるという考えです。
AIかけるハードのなんか完全に新しいものっていうのは、なんかまだできてない感じがして。
g.O.R.iさんによれば、いわゆるAIスマホは、スマホというベースにAIを取り入れて体験を最適化したものです。宮武さんはこれを受けて、「AIを基盤としたハードウェア」はまだそれほど存在しないのではないかと整理しました。
AIボイスレコーダーは取材の現場をどう変えた?
AIを基盤としたハードの入り口として、g.O.R.iさんはAIボイスレコーダーを挙げます。宮武さんは、PLAUDなどいくつかの製品が出ていて、日本でも一部で流行っていると補足しました。
g.O.R.iさん自身は、ANKERのAIボイスレコーダーを使っています。ネックレスのように身につけられるため、取材で重宝しているそうです。
宮武さんは、AIデバイスの働きは幅広いと話します。議事録の書き起こし、メモ、まとめのほか、場合によってはセラピスト的な役割を持つAIデバイスもあるといいます。
AI玩具は子どもの「第三の親」になる?
宮武さんが個人的に面白いと感じているのが、ここ2年でかなり増えたAIおもちゃです。人形と会話ができ、教育の要素もありながら、エンタメとして子どもとお話しできる点に注目しています。
宮武さんは、AIおもちゃとの関係は友達感覚になりがちで、世代によってAIとの関係性が変わってくると考えています。インターネットネイティブの世代や、赤ちゃんのころからスマホに触れてスワイプできたZ世代と同じように、次の世代はAIネイティブになるという見方です。
g.O.R.iさんも、ぬいぐるみがいろいろ教えてくれる存在になれば、子どもにとって特別な存在になりうると応じます。親に匹敵することはないとしながらも、それに近い存在になりえるという受け止めです。
g.O.R.iさんは、知り合いの子どもの例も紹介しました。おもちゃではなく、たしかAlexaだったという音声アシスタントに子どもがいろいろ話しかけ、知らないうちにいろいろ学んでいたといいます。
宮武さんは、Amazon Alexaのような家庭向けAIアシスタントは音声でやりとりできるため、子どもたちにとっては画面を触るより、音声で注文したり相談したりするのが当たり前になっていると話します。
g.O.R.iさんによれば、以前の音声アシスタントは音声を正しく処理するのが難しく、精度や返ってくる答えに物足りなさがありました。今はAIのおかげでそこが大きく進化し、満足できる答えが返ってくる感覚があるといいます。
音声の認識や処理の精度が高くなく、返ってくる答えにも物足りなさがあった
AIのおかげで大きく進化し、満足できる答えが返ってくるようになった
ヘルススキャナーから猫まで、広がるAIハードウェア
宮武さんは、もう少し大型のAIハードウェアにも触れました。体をスキャンして異常値がないかを調べるヘルススキャナー系のスタートアップが出てきているといいます。
ほかにも、Spotifyの創業者が「猫」というものを作ったり、AI企業のミッドジャーニーがハードウェアのプロジェクトを立ち上げたりしているそうです。宮武さんは、さまざまな分野でAIハードウェアが出てきていると見ています。
g.O.R.iさんは、AIの凄さを次のように表現しました。これまで難しかった分析や最適化がAIでできるようになったからこそ、もう一段上の層に進めるようになったという見方です。
今までだとその必要な分析とか最適化とか、そういったものをやるのが難しかったことをできるようになったからこそ、むしろそのもう一個上のレイヤーに行けるようになった
集めた健康データを、AIはどうインサイトに変える?
数年前から、ヘルスケア系のデバイスは健康データをトラッキングしてきました。宮武さんは例として、オーラリング ── 指にはめて睡眠や心拍などを計測する指輪型のウェアラブルデバイス。フィンランド発の製品として知られますや、アメリカのマットレス系企業であるエイトスリープ、Appleのヘルスアプリを挙げます。
ただ、データは集まっても、そこから何をすべきかがなかなか出てきませんでした。宮武さんは、AIを「知能のレイヤー」と捉え、データからインサイトへつなげることがAIデバイスの掲げるビジョンだと説明します。
計測
オーラリングやマットレス、Apple Watchなどが健康データを集める
知能のレイヤー
AIがデータを読み解く
インサイト
行動の提案や不調の可能性など、パーソナライズされた助言につながる
g.O.R.iさんによれば、データを「こう行動したほうがいい」「ここに不調があるかもしれない」という形に落とし込めるのは、これまで限られたプレイヤーだけでした。たとえばAppleは、Apple Watchのデータをヘルスケアアプリに落とし込み、機能や警告、通知を出せるようになっています。
g.O.R.iさんは、同じことが他の会社でもできるようになる点を強みと見ています。Apple Watch以外の健康デバイスが、違う着眼点でユーザーにメリットをもたらせるからです。
宮武さんはさらに、ハードウェアが必要な理由を挙げます。これまではスタンダードな情報しかアドバイスできませんでしたが、データがあればよりパーソナライズされた提案ができます。
今のソフトウェアだけですと、デジタル上の世界、我々が扱う世界はトラッキングできるんですけど、やっぱりリアルの世界で我々より動くので、そこのデータってどうやって取り入れるんだっていうところで、こういうデバイスが結構重要になってくる
宮武さんは、ジムで筋肉がどう使われているかをトラッキングするAIデバイスも出てきていると紹介し、さまざまなデバイスのデータを組み合わせてインサイトに落とし込む流れが今後の主流になると見ています。
オーラリング×Claude×カレンダーでわかった、意外なストレス源
宮武さんが最近聞いて面白かったのが、あるベンチャーキャピタリストの事例です。オーラリングなどの健康データを、Anthropic ── AIの安全性研究を掲げるアメリカのAI企業。対話型AI「Claude」を開発していますのClaudeに読み込ませ、カレンダーと組み合わせて、どのタイミングで一番ストレスを感じているかを調べたといいます。
その結果、アシスタントと話しているときにストレスレベルがかなり上がっているとわかったそうです。
アシスタント側にちょっと失礼な話だったんですけど。
かわいそう。
宮武さんは、この事例を、これまでありえなかった組み合わせのデータを混ぜることで新しいインサイトが得られる可能性の一例として捉えています。
音声メモとiPhoneの写真で、ハワイ旅行記が自動でできる
g.O.R.iさんは、健康の話から少し逸れるとしたうえで、自身のAI活用例を紹介しました。家族旅行でハワイに行ったとき、iPhoneで大量に写真を撮り、それをコンテンツにしたかったといいます。
こいつの言った感想が何に対してでコンテキスト情報がっと増えるわけじゃないですか。
g.O.R.iさんは、バラバラだったものを1つの体験としてまとめられる点に手応えを感じています。自分で面倒だったから始めたことでしたが、AIをうまく使えていると思ったそうです。宮武さんも、iPhoneのGPS情報が組み合わさるからこそできる体験だと応じました。
OpenAIの「Family of Devices」とジョニー・アイブ
宮武さんが気になっているのは、AIデバイスを作ると噂されるOpenAIの動きです。特に、OpenAIがプレスリリースなどで使う「ファミリー・オブ・デバイス」というキーワードに注目しています。
宮武さんの解釈では、これは複数のデバイスを、互いに支え合う「ファミリー」として展開する戦略です。最近は他の会社でも、複数のデバイスを組み合わせる話が出てきているといいます。
g.O.R.iさんは、出ている情報は限られていて何とも言えないとしたうえで、最新の話では「ドーナツ型」だという話があると紹介しました。各社が音声周りに力を入れていることから、OpenAIのデバイスも音声に関するものになるのではないかと見ています。
g.O.R.iさんによれば、OpenAIのハードウェアに関わる人たちには元Appleの人がとても多いそうです。宮武さんは、スティーブ・ジョブズとともにAppleのデザインやプロダクトを手がけたジョニー・アイブ氏が、このデバイスの責任者だと説明しました。
g.O.R.iさんは、Appleに深く携わったアイブ氏だからこそ、「ファミリー・オブ・デバイス」には納得感があると話します。最初のデバイスで突破口を開きつつ、それだけで全てが完結するとは考えていないのだろうという見方です。
g.O.R.iさんによると、アイブ氏は過去のインタビューで、現代人はディスプレイを見ている時間が長いと話していたといいます。
iPhoneが作った人がそれを言ってるっていう。
そう、お前が作ったんやでっていうやつなんですけど。
g.O.R.iさんは、ディスプレイのない体験を目指していると見つつも、それでユーザーが何を得られ、何が便利になるのかはまだ見えないと話します。宮武さんも、その点の情報は一切出ていないと応じました。
Metaのスマートグラスに見る、複数デバイスの世界観
宮武さんによれば、OpenAIはまず1つのデバイスを年内に披露するという話です。複数デバイスの例として、宮武さんはMetaのスマートグラスを挙げます。
Metaはディスプレイ付きのスマートグラスを出しており、それに加えてリストバンドで眼鏡を一部操作できるといいます。宮武さんは、互いに操作し合い、どこに行ってもChatGPTなどOpenAIのAIがデバイスを通じてついてくる世界観が見えてくるのではないかと考えています。
g.O.R.iさんは、先ほどのリアルの情報の話につなげます。OpenAIの新デバイスもリアルの情報をどんどん取り込み、ChatGPTというプラットフォームに集約させ、その先に展開していくのだろうという見立てです。
宮武さんは、1つのデバイスだけでは全てのデータを集めるのが大変なので、複数デバイスで情報を集めるのではないかと補足しました。
表情がないのに感情が伝わる、Appleのランプロボット
宮武さんがもう1つ気になっているのは、OpenAIのCFOが、デバイスについて「人間味がある」と話していたことです。宮武さんは、元Apple勢が作るデバイスらしいと感じたといいます。
宮武さんはここで、Appleが去年出した研究論文を紹介しました。ピクサーのルクソーのランプのキャラクターによく似たロボットを作り、人間味があると満足度が上がるのではないかを示そうとしたものです。
宮武さんの説明では、そのロボットはAからBへ行く際に、あえてCに寄り道してからBへ行きます。時間はかかりますが、情報を伝える一瞬前に悲しそうな仕草をしたり、ひねった動きをしたりすることで、より可愛らしく見えるといいます。
AからBへまっすぐ行く。時間はかからない
Cに寄り道してBへ行き、伝える前に悲しそうな仕草なども挟む。時間はかかるが、満足度は上がるのではないかとされた
g.O.R.iさんは、顔も表情もないのに可愛らしさがあったと振り返ります。
明確に落ち込んで見えますもんね。それだからなんか落ち込みって動きで表現できんだってやっぱその時思った
OpenAIのデバイスにも少し動きがあるという話は出ていますが、宮武さんはそれがどういう動きなのかはまったくわからないとしています。g.O.R.iさんは、メンバーを見るとありえると話し、アイブ氏のチームが出してくるドーナツ型は自分たちの想像を超えてくるだろうと期待を寄せました。
iPodやカセットテープ、アメリカで再燃するレトロテック
話題は、アメリカで再びブームになっているレトロテックに移ります。宮武さんによると、iPodが最近また人気になっているほか、有線のイヤホン、カセットテープ、CDなども流行り始めているそうです。
g.O.R.iさんは、自分の青春時代を彩ったMDがそのブームに入ってこないことを嘆きます。
僕の青春時代を彩ったMDが一個に入ってこないのが腹立ちますわ。
g.O.R.iさんは中学生のころ、TSUTAYAで借りた音楽を4倍モードでMDにたくさん入れ、一推しのプレイリストを作って貸し回していたといいます。
宮武さんの最初のiPodは、誕生日プレゼントか何かでもらったU2のスペシャルバージョンだったそうです。
マウス、クリックホイール、タッチ。Appleが変えた操作方法
宮武さんは、iPodのデザインにはジョニー・アイブ氏が深く関わっていたと話します。アイブ氏はスティーブ・ジョブズ氏とともに丸みにこだわり、iPodからiPhoneに変わるときには画面のガラスにも強いこだわりがあったそうです。
g.O.R.iさんは、iPodのホイールの回転を、今見ても天才的な発想だと評価します。
ホイールの回転とか、あれだって未だになんかあれ、あれ天才だなって思うんですよ。
宮武さんは、Appleは入力のUIが強いと考えています。パソコンではGUI ── Graphical User Interfaceの略。文字のコマンドではなく、画面上のアイコンやウィンドウをマウスなどで操作する仕組みですとマウスを取り入れ、iPodではクリックホイール、iPhoneではタッチを生み出してきました。
g.O.R.iさんは、Appleはインプットメソッドの開発に長けているのかもしれないと応じました。だからこそ、次に何を出してくるのかという期待が生まれます。
Appleから大量移籍、アイブ率いるOpenAIのデバイスに期待
そのジョニー・アイブ氏は現在、Appleを辞めてOpenAIにいます。宮武さんとg.O.R.iさんの間では、OpenAIがアイブ氏の会社を買収したという認識で話が進みました。
アイブ氏とともに移った元Appleの従業員は、g.O.R.iさんの記憶では400人ほどだったといいます。宮武さんは、かなりシニアなメンバーも含まれていて、Apple側もそれにかなり怒っているらしいと話しました。
宮武さんは、それだけの組織をアイブ氏がOpenAIで率い、新しいデバイスを作ろうとしていると整理します。g.O.R.iさんは「期待はできますよね」と応じました。
AppleマップとGoogleマップ、どちらを使う?
エンディングで、g.O.R.iさんは『ゴリミー』のコメント欄を刷新し、「ゴリミー広場」と名付けたことを紹介しました。その中で「お題」を出し、1つのトピックについて読者同士が知見をシェアできるようにしているといいます。
最近のお題は、AppleマップとGoogleマップのどちらを使っているか、というものです。宮武さんは、ここ5年ほどで海外の人がAppleマップを結構使っていると気づいたと話します。
g.O.R.iさんも、海外に行くとAppleマップを使う人が多いと感じていたそうです。日本ではGoogleマップ派が強い一方で、場面によって使い分けている人もいるといいます。
g.O.R.iさんがAppleマップの良さを実感したのは、ハワイ旅行中に両手に自分と妻のラテを持って移動したときでした。AppleマップはApple Watchに地図を出し、曲がるべきところで振動して知らせてくれたので、とても便利だったそうです。
g.O.R.iさんはこの体験を記事にし、みんなはどうしているのかと思ってお題を出したといいます。宮武さんは最後に、ニュースレター『Slow Times』でアメリカのビジネス、カルチャー、テック、政治について発信していると紹介し、番組を締めくくりました。
まとめ
この回では、AI単体ではなく「AI×ハード」が生む新しい体験が一貫したテーマでした。AI玩具や健康データの活用、写真と音声の組み合わせに見られるように、リアルの世界からデータを取り込むハードウェアがAIの可能性を広げつつあります。その先にあるのが、ジョニー・アイブ氏が率いるOpenAIの「ファミリー・オブ・デバイス」で、Appleが入力方法を変えてきた歴史を踏まえ、二人は期待を寄せていました。
- AIを基盤とした新しいハードウェアはまだ少なく、AIボイスレコーダーなどがその入り口になっている
- AI玩具や音声アシスタントは、AIネイティブ世代にとって友達や「第三の親」のような存在になりうる
- 健康データや写真の位置情報など、バラバラのデータをAIが組み合わせることで新しいインサイトや体験が生まれる
- OpenAIはジョニー・アイブ氏と元Apple勢を中心に、互いに支え合う複数デバイスを構想しているとみられる
- マウス、クリックホイール、タッチと入力方法を変えてきたAppleの系譜が、OpenAIのデバイスへの期待につながっている




