本屋に行かない、電子書籍も読まない。二人の読書事情
この回のテーマは「読書の秋。本との出会い、自分の変化」です。伏見さんがイトウさんに最近本屋さんに行っているかを尋ねるところから、話が始まります。
イトウさんは、最近は本屋さんにほとんど行かないと答えます。昔に比べて読む時間が減ったうえに、そもそも近所に本屋さんがなく、電子書籍で読むことも増えたため、紙の本を読む機会が少なくなったといいます。
読まないことはないかな。ただ、本屋さんにまず本屋がない近所に。
一方の伏見さんは、電子書籍を一度も読んだことがないといいます。物理的な紙の本が好きで、本が好きだったことが今の仕事に就いたきっかけにもなっているそうです。
本当に本がなかったら全然違う人生だったろうなっていう感じが自分にとってはあるから。
それでも伏見さんは、エンタメがあふれる今、本が好きでも読む時間が取れない人は多く、自分もその一人だと認めます。二人は「積ん読 ── 買った本を読まずに積んでおくこと。「積んでおく」と「読書」を掛けた言葉で、今では広く通じる表現になっています」が当たり前の言葉になったことにも触れます。
この積ん読はいつか読まれるのか、一生積ん読なのか、どっちなんだろうと思いながら。
伏見さんは、映画やドラマ、動画も含めて、コンテンツに触れられるかどうかは「時間との闘い」だと話し、もっと触れる時間が欲しいのが正直なところだと語ります。
なぜ伏見さんはオンラインをやめて本屋で買うのか
伏見さんは、Senseofには本を勧める記事が多く、イトウさんが9月初めに「この秋、どんな本を、どんな場所で読む?」というまとめ記事を作ったことを紹介します。旅にまつわる本、ミステリー小説、歴史小説など、ライターたちの記事からは文章を書く人は読むことも好きなのだと感じられるそうです。
そのうえで伏見さんは、本屋さんには偶然の出会いがあり、いわゆるジャケ買いもその楽しみの一つだと話します。けれどイトウさんは、目的の本があるときに行くタイプで、ジャケ買いはしたことがないといいます。
伏見さんが本屋さんにこだわる背景には、子どもの頃の体験があります。両親が共働きだった伏見さんにとって、本屋さんは子どもの頃の「救いの場」のような場所だったそうです。
本屋さんを守りたい気持ちもあるから、結構本屋さんで買うようにしてる。
以前はSNSや記事で気になった本を楽天ブックスですぐ買っていた伏見さんですが、今はそれをやめ、本のタイトルを控えて本屋さんで買うようにしています。そのため、本屋さんに行くこと自体が目的になることも多いといいます。
紙の本が好きで電子書籍は未経験。タイトルを控えて本屋さんで買い、ジャケ買いもする
近所に本屋さんがなく、電子書籍で読むことも多い。本屋さんには目的の本があるときに行く
ジャケ買いの決め手は「3冊のバランス」
イトウさんは、ジャケ買いという行動が自分にはできないタイプだとして、伏見さんがどうやって選んでいるのかを尋ねます。
伏見さんは本屋さんなら何時間でもいられるものの、さすがに疲れるため、「今日はこの本屋さんで何冊選ぼう」と先に決めているそうです。目標は大体3冊です。
伏見さんの本の選び方は、ジャンルの絞り込みから表紙の情報へと順番に進んでいきます。
伏見さんによれば、最後の決め手は1冊ごとの魅力より、3冊のラインナップのバランスだといいます。この話をしながら、初めて言葉にしていることだとも打ち明けます。
今日の3冊をこう俯瞰してみた時に、なんかいいバランスじゃんみたいな。そこを目指して選んでる気がする。
伏見さんは、3冊の組み合わせの例も挙げます。金額は決めていないものの、3冊だと5000円ぐらいになることが多いそうです。
| 枠 | 本の種類 | ねらい |
|---|---|---|
| 1冊目 | ガーデニングのムック本 | 今好きな園芸の分野から選ぶ |
| 2冊目 | ハードカバーの文芸やエッセイ | その時に読みたいジャンルから選ぶ |
| 3冊目 | 知っている作家の文庫本 | 古本屋まで行かなくても、新刊書店で買っていいと思えた本 |
大阪の独立系書店で気づいた「偶然の出会い」の中毒性
伏見さんは、いつか自分も本屋さんになりたいと考えていて、町の本屋さんを視察気分で訪ねることもあるといいます。そのなかで紹介したのが、大阪の阿倍野区にある本屋アガサ不文律本屋アガサ不文律です。
伏見さんの説明では、本屋アガサ不文律は個人の方が営む新刊書店で、1階が新刊書店、2階が喫茶と古本のスペースになっていて、時々イベントも開かれています。Twitterで知り、行ってみたいと思って大阪に行く機会に訪ねたそうです。
伏見さんは本屋アガサ不文律で一度会計を済ませたあと、また気になる本が出てきて2回会計し、「何度もすみません」と言った記憶があるそうです。イトウさんは、こうした独立系書店 ── 大手チェーンに属さず、店主が独自の方針で本を選んで並べる個人経営などの書店。店ごとの個性が魅力とされますが今流行っていると応じます。
伏見さんは、本屋さんでの偶然の出会いには「やめられない何か」があると話します。たくさんの本の中から選ぶことで、今の自分が何を欲しているのかに触れられるというのです。
新しい本に出会って欲しいって思う自分みたいなのが知れるのが面白くてやってる気がしてきたぞ。
伏見さんはイトウさんにも、「今日の3冊を決めよう」という気持ちで本屋さんへ行くことを勧めます。そうすると、今まで買わなかったであろう本を手に取ることになり、それが新しい自分に出会う感覚につながるのではないかと話します。
イトウさんが、そうやって買った本が想像と違うこともあるのではと聞くと、伏見さんは「全然ある」と認めます。それでも、その時にビビっときたものなので、それはそれでいいと考えているようです。
シェアハウスの読書会で知った、本を選ぶ楽しさ
伏見さんは以前シェアハウスに住んでいた頃、そこで読書会を開いていたといいます。幹事は引き継いだものの読書会は今も続き、LINEグループで情報が届くそうです。
伏見さんたちの読書会では、メンバーが読んだ本を全部記録につけていました。参加者は多いときで7〜8人、少ないときは2〜3人と、その時々で変わったそうです。
読書会のメンバーでは、みんなで古本屋さんに行き、その空間で1冊ずつ本を選んで共有する企画もありました。伏見さんは、本選びにはその時の興味や、急に興味が湧いた瞬間が表れるので、それをみんなでシェアするのが楽しかったと振り返ります。
伏見さんは、韓国では本を読むことがおしゃれでかっこいいというトレンドになっているらしいと紹介し、日本でももう少し流行ってほしいと話します。
伏見さんの読書会には若いメンバーもいて、他の人が読んでいるのを見て「詩集とか歌集ってあるんですね」と驚く人もいたそうです。伏見さんは、触れていなければ知らないのも当然で、読書会はそうした出会いのいい機会になると考えています。
積ん読と再読が映し出す、その時々の自分
伏見さんは、インスピレーションで選んだものの読んでいない積ん読もたくさんあると明かします。買って満足しているところがあるのは否めないとしつつ、それも含めて自分の気分や状態を知る手がかりになると話します。
確かに今こういう気持ちなんだなっていうのが俯瞰できたりするのかもしんないね。
伏見さんは、昔読んでよかった本を読み返して、以前とはまったく違う箇所でひどく泣いたことが何度かあるといいます。
やっぱあの時の自分には全然この本のこういうところわかんなかったんだなみたいなのが、なんか知れたことっていうのが何回かあって。
イトウさんは同じ本を読み返す派で、再読には2つのパターンがあるといいます。
何回読んでも、そのたびに違うところが面白く感じられる
中学生ぐらいの頃は面白いと思ったのに、大人になって読むと「なんじゃこりゃ」と感じた
伏見さんは、文字から受け取る情報は映像よりも読み手が補う部分が多く、そのぶん読む時の自分が投影されやすいのだろうと話します。イトウさんも、その時々の自分によって感じ方が変わることが読書の魅力だと応じます。
本を処分した後悔はなぜ消えないのか
伏見さんは物理的な本そのものが好きで、デジタル化はできずにいるといいます。実家でも本をどうするのかとしょっちゅう言われ、「ブックカフェをやるときまで待って」と返しているそうです。
伏見さんはかつて引っ越しの際、パートナーから全部は持っていけないと言われ、本を処分したことがあります。厳選して残すものを決めたにもかかわらず、何年経ってもその後悔は消えないといいます。
自分が選んで自分の本棚に入ってくれたっていう、なんか選んだっていう意識がやっぱり結構ずっとある。
伏見さんにとって本棚の本は、いつ選んだかを全部思い出せるわけではなくても、自分で選んだという意識が残るものです。選ぶ自由を感じさせてくれ、選んだ自分を肯定してくれる安心感があるからこそ、処分したことが心に残っているのではないかと話しています。
寒い土地の本を真冬に読む「サイトスペシフィック・リーディング」
伏見さんは、Senseofの記事は本の紹介だけでなく、本の選び方や読書の楽しみ方も扱っていると話し、編集を担うイトウさんにライターの思いをどう受け取っているかを尋ねます。
イトウさんは、読書好きなライターが多いと感じるといいます。まとめ記事にも、ブックホテル ── 本を読むことを楽しめるように、館内に多くの本を備えた宿泊施設。滞在中に自由に本を手に取れるのが特徴ですにわざわざ泊まった体験を書いた記事が入っているそうです。
イトウさんが特に印象に残っているのは、本の舞台と同じ状況に身を置いて読む読み方を勧める記事です。寒い地域の話を書いた本を真冬のキャンプ場で読む、といった内容だといいます。
すごい、ああ、いい読み方だなと思って。
伏見さんは、ライターのしおりしおりさんが書いたこの記事を「サイトスペシフィック・リーディング」と紹介し、特定の場所でページをめくるからこそ濃厚になる読書体験だと読み上げます。台湾に行って台湾で読むなど、現地の話を書いた本を旅先へ持っていく読み方も書かれているそうです。
イトウさんは、こうした記事から読書にはいろいろな楽しみ方があると伝わればいいと話します。伏見さんは、本選びから読む時間、本棚にしまったあとまで、自分を知るストーリーがあるのが本のよさだと締めくくります。
まとめ
本屋さんでの偶然の出会い、読書会でのシェア、再読、本棚に残る本まで、二人の話は本を通じて「今の自分」に気づくことへとつながっていきました。読書の秋に、いつもと違う選び方や読み方を試すきっかけになる回です。
- 伏見さんは、本屋さんで「今日の3冊」を決め、そのバランスで選ぶことを楽しんでいる
- 本屋さんでの偶然の出会いは、自分が今何を求めているかを知る手がかりになる
- 読書会での本のシェアは、知らなかったジャンルとの出会いの場にもなる
- 再読で感じ方が変わることから、自分の変化に気づける
- 本の舞台と同じ状況で読むサイトスペシフィック・リーディングのような楽しみ方もある



