文章は「対岸」にあるもの?音楽がつないだ橋
この回は、作家・作詞家・詩人・農家として活動する高橋久美子さんがゲストだった前回を受けて、MCの平田麻莉さんと山崎晴太郎さんが二人で振り返る回です。高橋さんは文章論『いい音がする文章』を刊行しており、山崎さんは「文章を書くこと」を大きなテーマとして受け取ったと話します。
山崎さんはこれまで番組で書き手のゲストを迎えるたびに、書くのは得意ではないと口にしてきました。けれど高橋さんの「いい音がする」という考え方に触れて、文章への距離感が少し変わったといいます。
(文章って)ちょっと遠い存在で、言うても英語を喋れるようにならないしみたいな感覚だったんですけど。
音楽とか音とかリズムとかって言われると、ちょっと僕の身体性に近かったりとかするので、それが一個ブリッジになったかなっていう感じはしますけどね。
音楽が好きな山崎さんにとって、文章はずっと対岸にあるものでした。高橋さんが文章を音やリズムで語ったことで、自分の身体感覚から文章に近づける道が見えたようです。
文章は対岸にある遠い存在で、英語のように身につかないものという感覚
音やリズムという身体性に近い視点が、文章へのブリッジになった
話すより文章のほうが饒舌?平田さんの「推敲できる」強み
山崎さんとは対照的に、平田さんは話すよりテキストのほうが自分を表現しやすいタイプだといいます。今の仕事や人間関係のすべてが文章に支えられている、という感覚さえあるそうです。
自分にとってその文章が一番コミュニケーションを媒介するものとして、喋りより文章の方が上位にあるかもしれない。
平田さんが小さい頃から好きだったのは、小説や詩よりも手紙や交換日記でした。山崎さんは、声色やリズムを込められる会話のほうが情報量は多いのではと問いかけます。
平田さんはそれを認めたうえで、文章は推敲できる点が大きいと答えます。会話は喋りっぱなしになるのに対し、文章ならFacebookの投稿も後から何度も書き直し、伝えたいことに近い形に整えられるといいます。
より伝えたいことに近いものをアウトプットできる。喋り言葉よりも。みたいな感覚はあるかもしれないです。
山崎さんは、クリエイティブ業界にはおしゃべりな人が少なく、自分のように「おしゃべりデザイナー」を名乗る人は珍しいと話します。文章やデザインのほうが伝えやすい人が多いのかもしれない、という見立てです。
平田さんは「番組だから喋っているけど、実はそんなに喋らない」と言い、山崎さんに「よく言うよ」と突っ込まれます。それでも平田さん自身は、文章のほうがより饒舌だという感覚を持ち続けています。
声色やリズムを込められ、情報量は多い。ただし喋りっぱなしになる
何度も推敲でき、伝えたいことに近い表現に整えられる
名前がなくてもわかる文章とは?自分らしさの出し場
山崎さんは、高橋さんの本にちなんで「自分らしい文章はあるか」と平田さんに尋ねます。平田さんは、客観的な評価はわからないものの、自分らしい文章を書こうとは思っていると答えます。
それってさ、究極まで言ったらさ、名前がいらないってことになります?
平田さんはその例として、以前番組に出演した岸田奈美さんを挙げます。岸田さんの文章はすぐにわかり、さくらももこさんの文章も同じだといいます。山崎さんが村上春樹さんの名前を出すと、平田さんはAIに「村上春樹っぽく」と頼めば書けるほどだと応じます。
一方で山崎さんは、一般的に生きていると、そうした自分らしさの出し場がないと指摘します。平田さんも、頼まれて書く原稿では自分はエッセイストではないので、むしろ個性を消して書いていると話します。
ただ平田さんは、昔に比べればブログやSNSなど表現の場は増えているとも付け加えます。自分らしさを出せる文章と、個性を消す文章を使い分けている様子がうかがえます。
電話派か、チャット派か?恋愛も文章で育んだ平田さん
平田さんは、フィジカルなやりとりだけだったら誰とも恋愛できていないと思う、と打ち明けます。今の夫とも、2000キロ離れた場所でMessengerなどのチャットを通じて関係を築いたそうです。
付き合ってた人とかと電話で話したことほぼないですね。
山崎さんは、電話のような喋り派とチャット・メール派の違いは、人によってはっきり分かれるのかもしれないと考えます。会社を辞めるのもLINEで伝える若い世代を例に、平田さんを「新人類」とからかいます。
平田さんは、昔から文通で結婚した人もいるはずだと返します。そのうえで、高橋さんの本にあるように、自分の言葉で書けるようになると伝えられる幅が広がる、と話をまとめます。
子どもの文章はなぜいい?AIに任せるものと任せないもの
山崎さんは、小学校低学年の子どもが書く文章がとてもいいと話します。山崎さんは子どもたちが残したものの中から一部を取っておいていて、その中には文章もあるそうです。
(子どもの文章は)めちゃくちゃユニークネスというか、こいつのこの時期しか書けないなみたいなやつを撮ってるんだけど、そういうのが溢れたら結構幸せな世の中になるなと。
平田さんは、ビジネスメールはAIでもいいと思うとしたうえで、高橋さんが話していた「爪痕を残す」ような文章の場をつくっていきたいと応じます。
山崎さんはAIを声で使うことが多いそうです。ChatGPTが音声で応答するようになってから、コピペやプロンプトの手間がなくなり、一気に身近な存在になったと話します。
仕事の断り方に正解はある?「行けたら行く」が一番困る
話題は前回盛り上がった、音楽や文芸の世界での仕事の断り方に移ります。山崎さんは、収録中も結局答えは出なかったと振り返り、平田さんは「仕事を選んでいる高飛車なやつ」とは思われたくないと共感します。
平田さんは、自分が依頼する側として「この人の断り方は感じがいい」「感じが悪い」と感じる経験から学び、真似させてもらっているといいます。
山崎さんは、前回の収録中に話に出た、潔く言い切ったほうがいいという意見に強く同意します。期待を持たせず「ごめんなさい、無理です」と伝えたほうが、結果的にいいという考えです。
平田さんは、ある友人が「ゴゴゴゴごめんなさい」と「ご」を何度も重ねて謝ってくる例を紹介し、断り方はその人のキャラクターにもよると話します。
一番良くないのはやっぱいけたら行くでしょ。
仕事でいえば「やれたらやります」のような返事が一番困る、という点で二人の意見は一致します。平田さんは相手への誠意として、断る時ほど早く返事をするよう意識しているそうです。
返事を寝かせるほど自分も返信しづらくなり、その分言い訳も多く必要になる、というのが平田さんの実感です。
山崎さんは、人はいろいろな人と仕事をする中で、無意識にこうしたサバイブ能力を蓄積していると話します。そのうえで、AI同士が返信を書き合うようになれば人間の気持ちは介在しなくなるのか、と問いを投げかけ、平田さんは裁判もAI同士で戦えばいいのではと思うこともあると応じます。
いきなり候補日が並ぶ営業メールは失礼か?
山崎さんがビジネス上で気になっているのは、売り込みのメールでいきなり日程候補がずらりと並んでいるものです。初見でいきなり来ると「うん?」となってしまうといいます。
平田さんの観測によると、この形式には賛否があります。まず受けるかを聞いてから日程を出すべきだという派と、往復の手間がもったいないから最初から候補日を書くべきだという派の両方がいるそうです。
OKかどうかを確認してから日程候補を出すべきで、いきなり並べるのは失礼
OKの返信と日程調整で2回返信させるのは時間がもったいない
平田さんは、二人が以前いた会社でも先に日程を出すよう訓練されたと話します。ただし、そこで仕込まれたのは、相手に断る余地を残す言い回しでした。
お時間いただけますでしょうか。で、もしいただけるなら、大変僭越ながら、例えば下記の日程であればいかがでしょうかみたいな。
難しい場合は別の候補日をいただけますと幸いですみたいな。もう構文で仕込まれました。
山崎さんはこの言い方を高く評価します。平田さんは、やるかやらないかの選択肢を残しつつ、やる場合には別の日程でもいいと伝えることが大切で、結局は全て言い方だとまとめます。
自分の作品で勝負していない?ポートフォリオは若手の魂
山崎さんは、いかにも一斉送信の営業メールで仕事が取れるのかと疑問を口にします。平田さんも、そういうメールはおそらく取れていないのだろうと感じるといいます。
一方で山崎さんは、フリーランスにとってそうした営業からしか広がらない面があることも認めます。昔の売り込みは「ブックを見ていただきたい」という形だったのに、今はクリエイティブの人もビジネス的な営業メールで来るのが気になるそうです。
自分の作品で勝負してない感じに見えちゃうというか。
山崎さんは、営業自体が悪いわけではなく、問題は言い方だと話します。若手の表現者にとって、ポートフォリオは魂のようなものだといいます。
ポートフォリオをどう作るかとか、それが本当にもう魂みたいなものなわけですよ。若手の表現者にとっては。
山崎さんは、誰に見てほしいかを考え、相手のことを調べてトーンが合うか、コラボしたら世界が広がるかを考えて売り込むものだと思ってきました。今は量でいけてしまうことに違和感があるそうです。
平田さんはこれを、定型文を宛名だけ変えて量産している感じが相手に伝わってしまう問題だと整理します。山崎さんも、イラストは素晴らしくてもトーンが合わない相手に送ってしまうのは、送る本人にとってももったいないと話します。
一斉送信のクラファン依頼が残念に感じる理由
平田さんは、送り先に合わせて変えない問題は、あらゆる仕事に言えると話します。広報でも、媒体ごとのトンマナに合わせて企画を変えるべきなのに、同じ文面を一斉送信すると引っかかりづらいといいます。
平田さんはNPOなどソーシャルな界隈にも関わっているため、クラウドファンディング ── インターネット上で不特定多数の人から資金を募る仕組み。寄付型や購入型などがあり、NPOの活動資金集めにも使われますへの協力依頼がよく届くそうです。
これ絶対一斉送信だなみたいなのとか来ると、one of themとして、かき集められてる感がやっぱりちょっと残念に思っちゃって。
逆に「こういうところに繋がりがあると思うから」と個別に依頼されると、平田さんは納得して寄付することも多いといいます。就活のエントリーシートも含め、手書きや電話の時代に比べてワンクリックで送れるからこそ、気持ちがこもっていないことが伝わるのはもったいない、と平田さんは話します。
繋がりを示してお願いされると、納得して寄付することも多い
one of themとして集められている感じがして、スタンプ1つで返すようになる
AIが広がるほど、人間は人間を取り戻せる?
山崎さんは、たった一文や「もし」という一言の違いで受け手が気づくことに、人間のすごさを感じるといいます。AIの文章にも最初は騙されていたものの、ここまで広がると人は気づくようになる、という見方です。
やっぱ人間は人間なんだな、向き合ってるのは。
平田さんは、改行を1つ入れるかどうかでも印象は変わると応じます。AIで仕事がなくなるのではとライターなどから相談されることも多いものの、まだ人間にしかできない仕事はあると強く感じているそうです。
山崎さんは、以前は文章をとりあえず機能させるだけで精一杯だったが、AIが広がった今だからこそ、人が文章に向き合えるようになり、自分の文章を取り戻せる感じがしたと話します。
平田さんは、構成を考えるのはAIが得意なので任せ、一つひとつの表現にこだわることに時間を使えば、より個性を出しやすくなるかもしれないと提案します。
構成はAIに任せる
AIが得意な構成づくりの時間を省略する
表現にこだわる
空いた時間を一つひとつの表現に使う
個性が出しやすくなる
自分の文章を取り戻せる
出社回帰の中で、二拠点生活はどうなった?
平田さんは、高橋さんが農業という全く違う環境に身を置いていることの意味も面白かったと振り返ります。高橋さんは1年の半分を愛媛の実家で農家として過ごしています。
山崎さんが、一時期メディアで盛んに取り上げられた二拠点生活は落ち着いた印象があると尋ねると、平田さんはコロナ以降に二拠点生活をする人は増えたと答えます。一方で出社回帰の流れで都内に戻る人もいるそうです。
ただ平田さんによると、一度二拠点生活を経験すると、会社と家の往復以外の価値に気づく人も多いといいます。出社回帰になっても、転職という選択をする人もたくさん聞くそうです。
コロナ以降
二拠点生活をする人が増えた
出社回帰
厳しくなり、都内に戻る人も出てきた
価値への気づき
会社と家の往復以外の価値を知り、転職を選ぶ人も多い
関西でも活動する山崎さんは、関西の水は案外合うと感じつつも、農家をしているわけではないので仕事のスタイルはあまり変わらないといいます。
外遊びが好きな山崎さんは、冬に雪山へこもることもあります。ただ、雪山に行くと東京に頭が戻ってこられないそうです。
「大丈夫大丈夫、雪山でも(連絡)返せるからさ」とかって行くんだけど、マジで返さないっていうか。
平田さんは、あえてモードを切り替えて別の自分で過ごす人も多いと話します。1年の半分ずつで分ける人や、平日と週末で切り替える人もいると二人は挙げ、山崎さんは実際にやってみたらどうなるか興味があるといいます。
場所を変えるだけで生きやすくなる?フリーランスの流動性
平田さんは神奈川県の逗子に住み、仕事では東京に来ることが多いそうです。以前はコンクリートジャングルに住んでいましたが、今は都心に来ると早く帰りたくなるといいます。
(逗子に住むようになって)よくここ住んでたなとかって思うようにはなりましたね。
平田さんは、エリアによって人との距離感がだいぶ違うと感じています。逗子では、いい意味で干渉し合い、気を向け合う関係があるそうです。ただし、ずっと見張られているようになると息苦しく、程よい距離感があるのかもしれないと話します。
生きづらいと思ってても、場所変えるだけで実はすごい生きやすくなるとかは、どっちのパターンでもある気はしますよね。
山崎さんも、地方に行けばアトリエを大きくできると思うことがあるといいます。家族のステージやキャリアステージにもよると話したうえで、フリーランスは住む場所の流動性が高いと指摘します。
平田さんは、その流動性こそフリーランスの醍醐味だと応じます。フリーランス協会のメディアでも二拠点居住の話題はビューが伸びやすく、関心の高さがうかがえるそうです。
番組の最後には、配信が100回を超えたことと、11月1日に初めての公開収録を開催することが告知されました。
まとめ
高橋久美子さんの回の振り返りは、文章で伝える力を起点に、断り方や営業メールなど日々の仕事のコミュニケーションへと広がりました。AIが広がる時代だからこそ、自分の言葉や相手に合わせた一文の重みが増している、というのが二人の共通した実感です。
- 山崎さんは「いい音がする文章」という視点で、遠かった文章に近づけたと話した
- 仕事を断る時は期待を持たせずに言い切り、断る時ほど早く返すのが誠意につながる
- 日程候補を示すメールも、相手に断る余地を残す言い方次第で印象が変わる
- 定型文の一斉送信は相手に伝わってしまい、作品や依頼の価値を下げかねない
- 構成はAIに任せ、表現にこだわることで自分らしい文章を取り戻せるかもしれない






