なぜ「全員業務委託でいいですか」に注意が必要なのか
今回のエピソードで吉田さんが取り上げるのは、雇用契約と業務委託契約の違いです。過去にも同じテーマを扱っていますが、前週にフリーランス新法を取り上げたこともあり、改めて解説しています。
吉田さんによると、スタートアップや創業したての会社から「全員業務委託でいいですか」と相談を受けることがあるといいます。それに対して、リスクがあると伝えているそうです。
こういうケースって業務委託で進めたいんですけど、大丈夫ですかねとかって聞かれるんですよ。
吉田さんがまず伝えているのは、雇用か業務委託かは当事者が自由に決められるものではない、という点です。実体が伴っていなければ業務委託は選べないと説明しています。
つまり、同じ仕事をしていて、Aさんは雇用契約、Bさんは業務委託契約と当事者間の合意だけで振り分けることはできません。労働基準法は実体で判断するため、実体が伴っていなければ労働者と判定されると吉田さんは述べています。
労働者かどうかを分ける「使用従属性」という物差し
では何を基準に判定するのか。吉田さんは、厚生労働省が労働者性の判断基準という資料を出していると紹介します。労働者性 ── 働き手が労働基準法上の「労働者」にあたるかどうかの性質。これがあると残業代や労働時間規制などの保護が適用される。
考え方としては、労働が他人の指揮命令下で行われているか、そして報酬がその指揮監督下の労働に対する対価なのか、という点で判定していくと説明しています。
吉田さんによると、この判定は昭和60年に出た労働基準法研究報告を基に行われます。要素は大きく2つに分かれるといいます。
指揮監督下で働いているか、報酬が労働への対価かを見る。判定の中で最も大きな要素とされる
事業者性や専属性など、労働者かどうかを後押しして判断する要素
最も大きいのは使用従属性に関する判断基準です。吉田さんはデザインの仕事を例に説明しています。成果物だけを約束して仕事を出している場合は、業務委託らしいといいます。
一方、背景の色や作風などを細かく指示しているケースは、労働者性があるとされます。つまり、成果物に約束しているのか、過程を細かくコントロールしているのかが指揮監督下かどうかの分かれ目です。
もう一つ重要なのが時間的拘束です。朝9時に来て18時に帰ることが強く約束されていれば労働者らしく、いつどこでどのようにやるかが決まっていなければ業務委託の要素が強まると吉田さんは述べています。
ここまでで曖昧だと感じる人もいるはずですが、吉田さんは正直そういうものだと認めています。10個の項目のうち8個をクリアすれば業務委託と言える、といったお墨付きは存在しないそうです。
個別具体的な事象があって、それを基に、今お話ししているような判断基準で一つ一つ判断していくっていう形になります。
開業届や専属性で見る「補強する要素」
使用従属性の次に吉田さんが挙げるのが、労働者性を補強する要素です。ここでは、その人が事業者としてやっているかどうかを見ます。
たとえば開業届を出しているかどうかは一要素にすぎませんが、仕事を受ける側が開業届を出し、フリーランスとしてデザインの仕事を受けているケースなら、労働者ではないと判定されやすいと吉田さんは説明します。逆に、ただ仕事を受けているだけだと労働者と言われやすくなります。
もう一つが専属性の程度です。開業届を出し、いろいろなところから細かく仕事をもらっていれば個人事業主らしいとされます。一方、1社にしか勤めていないケースは専属性があるため労働者性が高いと言われるそうです。
吉田さんは、これらを総合的に判断して、労働者なのか個人事業主なのかを見極め、労働基準法が適用されるかどうかを判断していくとまとめています。
実態が雇用なのに業務委託と言い張ると起きる労務リスク
ここからが本題のリスクの話です。吉田さんによると、リスクが発生するのは、実態が雇用契約なのに業務委託だと言い張っているケースです。
吉田さんはまず労務の観点から説明します。実態が雇用契約なら労働基準法が適用されるため、長い時間働かせていれば残業代を請求される可能性があります。
次が安全の問題です。仕事中に怪我をした場合、軽いものなら治療費で済むかもしれませんが、亡くなってしまえば遺族は怒るはずだと吉田さんは述べています。実態が雇用であれば、会社に損害賠償請求される話になると指摘します。
さらに保険の加入義務という論点も出てきます。フルタイムで働くなど労働時間が多ければ、雇用保険や社会保険に加入しなければならず、加入の時効は2年のため、2年間遡及する必要が出てくる可能性があるといいます。
この遡及の論点を気にするのは経営者だけではありません。吉田さんは、上場準備中の会社なら監査法人や主幹事証券が気にしてくると述べています。
あなたの会社の業務委託契約で働いている個人事業主の方と労働者の方って何が違うんですか?っていう時に聞かれたら答えられるようにしておかなきゃいけない。
答えられなければ証券会社から疑念を持たれ、上場に対して非協力的な態度になってしまうかもしれないと吉田さんは注意を促しています。
法務と税務にも広がるリスク
リスクは労務だけにとどまりません。吉田さんは次に法務の観点を挙げます。前週に取り上げたフリーランス新法の話です。フリーランス新法 ── 正式には特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律。フリーランスへの発注時に取引条件を書面などで明示する義務や、報酬の支払期日に関するルールを定める。
フリーランス新法の保護対象となる個人事業主に業務委託をしている場合、書面の発行義務や報酬の支払期日の義務が出るため、注意が必要だと吉田さんは説明します。
さらに税務のリスクもあります。実態が雇用なのに業務委託と言い張っていると、本来は源泉所得税を引かなければならないのに引けていない、という話になります。源泉所得税 ── 給与などを支払う側が、支払時にあらかじめ差し引いて国に納める所得税。雇用であれば会社側に徴収・納付の義務が生じる。
吉田さんは、自身の法人が5期目に入り消費税の納税義務が出てわかったこととして、消費税の論点も挙げます。個人事業主は消費税を付けて請求してくるため、適正な業務委託であれば発注側の消費税の納税額は下がるといいます。
しかし実態が雇用だと、それは税金の計算をごまかしているリスクになります。税務調査で源泉所得税の徴収漏れや消費税の申告誤りを指摘されるおそれがあると吉田さんは述べています。
これだけリスクが分野をまたぐため、吉田さんは相談先も分野ごとに分けるよう勧めています。
| 分野 | 主なリスク | 相談先 |
|---|---|---|
| 労務 | 残業代、労災、保険の遡及加入 | 社労士 |
| 法務 | フリーランス新法の書面・支払期日義務 | 弁護士 |
| 税務 | 源泉所得税の徴収漏れ、消費税の申告誤り | 税理士 |
迷ったら雇用にすべき理由と、業務委託で安く使う発想の落とし穴
結局どちらがいいのか。吉田さんの結論は明確で、迷っている時点で雇用にした方がいいというものです。
雇用を勧めると、社会保険料が高くなるから嫌だと言われることがあると吉田さんは言います。しかし、その考え方自体がおかしいと指摘します。
吉田さんによると、雇用は安定した働き方で、業務委託はリスクの高い働き方です。その前提に立てば、似た仕事でも本来は業務委託の方が報酬は高いはずだといいます。
リスクが高い(働き方)は報酬が高くなるっていうのは、これはもう市場原理として当たり前ですから。
だからこそ、業務委託で安く働かせようという考え自体がそもそもおかしいと吉田さんは述べています。
もし業務委託にしないと採算が取れないビジネスモデルなら、顧客単価や販売個数の方がおかしいと吉田さんは考えています。その場合は、ビジネスモデルや顧客単価の見直しから始めた方がいいと締めくくっています。
まとめ
雇用か業務委託かは当事者が自由に選べるものではなく、労働基準法は実態で判断します。実態が雇用なのに業務委託と言い張ると、労務・法務・税務それぞれでリスクが生じるため、迷うなら雇用を選ぶべきだというのが吉田さんの結論です。
- 雇用か業務委託かは自由に決められず、実体が伴わなければ労働者と判定される
- 判定は使用従属性と、開業届や専属性などの補強要素を総合的に見る
- 実態が雇用なのに業務委託と言い張ると、残業代・労災・保険の遡及加入などのリスクが出る
- フリーランス新法の書面義務、源泉所得税や消費税など、法務・税務のリスクにも広がる
- 迷うなら雇用が無難で、業務委託で安く使う発想自体を見直すべき






