発生頻度が低い介護休業に、なぜノウハウがたまらないのか
今回は、リスナーから寄せられた質問を取り上げる回です。質問の主は、中小企業で総務を一人で担当している方でした。
介護休業について、手続きと従業員説明、所属長説明、総務担当がすべきことなどを取り上げていただけたら嬉しいです。
まだ該当者いませんが、いつでも答えられるようにしたいです。
吉田さんはまず、介護休業の大きな特徴として、発生頻度の低さを挙げます。何と比べて低いかというと、同じ育児介護休業法に並んで書かれている育児休業との比較です。
育児休業はどの会社でも一定の確率で発生します。一方で介護は、両親や兄弟が介護状態になるとは限らず、制度を使わずに一生を終える人もいれば、家族が多く何度も利用する人もいます。
この頻度のばらつきが、中小企業で総務を一人でやっていると、ノウハウがたまりにくいという悩みにつながっています。だからこそ今回は、基本から丁寧に押さえていきます。
「93日しか休めない」介護休業は何のためにあるのか
介護休業の基本は、対象家族1人につき最大93日まで、分割して取得できるという点です。ここでいう対象家族とは、要介護状態、つまり介護が必要になった家族のことです。
吉田さんは、社労士試験の勉強でこの制度を初めて習ったとき、率直な疑問を持ったと振り返ります。
93日しか休めなくて何ができるんですか、みたいなことは率直な感想として思いました。
というのも、介護はいつ始まっていつ終わるか分からないからです。育児休業なら、子が1歳で保育園に入るといった形で終わりの見通しが立ちますが、介護は終わりが見えません。
それでもこの93日には意味がある、と吉田さんは説明します。93日は、ずっと本人に寄り添って休み続けるための期間ではないというのがポイントです。
介護が必要になった当初は、施設を探したり、行政機関に相談したり、ケアマネージャーと話し合ったりする時間が必要です。症状が悪化すれば、施設を変えるために引っ越しに近い作業も出てきます。こうした準備や体制づくりのための93日だと考えられます。
これは吉田さんが社労士試験の予備校の先生から教わった言葉として、印象に残っているものです。長く支えるためではなく、今後の方針を決めるために93日を戦略的に使うという発想です。
休業中の生活を支える介護休業給付金
休業すると、通常の会社では給料は出ません。そこで必要になるのがお金のサポートです。
介護休業をしている間は、国から介護休業給付金が支給されます。非課税で支給されるため、それを使って生活していくことになります。
企業の担当者としては、この給付金があることを本人に案内し、安心して介護休業を取ってもらうよう伝えることが役割になります。
介護休業と介護休暇はどう使い分ける?
介護関係にはいくつか制度がありますが、吉田さんはまず介護休業と介護休暇の違いを整理します。名前が似ているため混同しやすい点です。
介護休業は、通算最大93日休むための制度で、施設探しや今後の支援のあり方を決めるために使います。原則として2週間前までの申請が必要です。
この2週間前という点は、実務担当者にとっては負担になり得ます。申請を受けたら、本人が担当していた業務を2週間で割り振り直す必要が出てくるからです。
一方の介護休暇は、単発で休むための制度で、年5日取得できます。ケアマネージャーと話す、役所で手続きをする、といった場面で使う休暇です。
対象家族1人につき通算最大93日。分割可能で、施設探しや支援体制づくりに使う。原則2週間前までに申請。
年5日の単発の休暇。ケアマネージャーとの相談や役所での手続きなど、単発の用事に使う。
使い分けとしては、まず介護休業でまとまって休んで体制を作り、その後に単発で起こる用事には介護休暇を使う、という流れになります。総務担当としては、この案内ができることが求められます。
総務担当が押さえておきたい相談対応と地域包括支援センター
ここから吉田さんは実務のコツを話します。まず、2週間前に介護休業の申請があった際、その休業期間の穴を誰がどう埋めるかを会社として決める必要があります。
そのため吉田さんは、普段から現場や社長と良好な関係を作り、いざ相談があったときに話が通るようにしておくと後々楽だと勧めます。
介護そのものの手続きは、個人のことなので基本的には本人に行ってもらうことになります。ただし、会社側から使える窓口を案内することはできます。
具体的には、行政機関である地域包括支援センターを紹介し、そこで相談すればケアマネージャーとつながり、支援の体制を決めていけると伝えられるとよい、と説明されています。
2025年4月の法改正で必須になった個別周知と意向確認
実務で特に気をつけたいのが、2025年4月1日の法改正です。吉田さんは、ここでやらなければならないことが大きく2つあると整理します。
1つ目は、介護に直面したと申し出た労働者に対する個別周知と意向確認です。
法改正前であれば、家族の介護が必要になったと相談を受けても、「そうなんですか、大変ですね」で済ませても法律違反ではありませんでした。人としてどうかという問題は残りますが、法的な義務ではなかったのです。
改正後は、介護休業に関する制度や介護休業給付金に関することを、会社から周知しなければならなくなりました。まず制度をきちんと知らせることが1つ目のポイントです。
さらに、周知して終わりではありません。介護に直面した労働者に、どの制度を利用するか、どう進めたいかという意向を確認する必要があります。
この対応が漏れたり、現場でいい加減に扱われたりすると危険です。たとえば上司が相談を止めてしまい何も対応していなかった場合、法違反になります。
本来受け取れたはずの給付や、辞めずに済んだ可能性を巡って、後から労使紛争になる恐れがあります。だからこそ、個別周知と意向確認を確実に行う必要があります。
40歳になったら始める、介護に直面する前の情報提供
改正対応の2つ目は、介護に直面する前の早い段階での情報提供です。具体的には、40歳になった段階で情報を提供することが必要になります。
吉田さん自身は42歳で、幸い両親は元気だと話します。ただ、周囲の話では50代になると介護の話が始まることが多いといい、それを見越して40歳での情報提供が求められます。
提供する内容は、そもそも介護休業という制度があること、自社ではどこに相談すればよいか、そして給付金があるので安心してよいこと、などです。
40歳からは介護保険料が発生するため、吉田さんは、その手続きとワンセットで情報提供するとよいのではないかと話します。会社としては、40歳になる人を抽出し、その人たちに情報提供する作業が必要になります。
介護離職を防ぐための雇用環境整備、中小企業は何を選ぶ?
義務として追加されているものに、介護離職防止のための雇用環境整備があります。これは4つの選択肢から少なくとも1つを実施しなければならないものです。
選択肢は、研修の実施、相談窓口の設置、介護関係の制度を利用した事例の収集と提供、利用促進に関する方針の周知、の4つです。
- 研修の実施
- 相談窓口の設置
- 介護関係の制度を利用した事例の収集と提供
- 利用促進に関する方針の周知
吉田さんは、中小企業では事例の収集・提供や研修の実施はかなり大変で、そこまでやっているケースは中小零細だと珍しいと見ています。
そのため実際には、相談窓口の設置を選ぶ会社が多いだろうと話します。もちろん研修の実施を選んでもかまいませんが、どれか1つは必ずやらなければならない義務です。
従業員・所属長・総務担当、それぞれがすべきこと
ここで吉田さんは、質問にあった3つの視点、従業員・所属長・総務担当それぞれについてまとめていきます。
従業員に対しては、40歳になったら情報提供を忘れないこと、そして介護に直面した相談があれば、介護休業や給付金の制度を説明し、意向確認を行うことが必要です。
所属長に対しては、まず相談を勝手に断らないよう理解してもらうことが基本です。説明会などを開き、介護休業が法的な権利であることを共有しておくとよいとされています。
さらに先回りするなら、休業が発生したときの仕事の割り振りを考え、業務が属人化しないよう、普段から休みやすい進め方に変えておくことが望ましいと話します。
所属長には、介護関係の制度を使って休むことは「ズルして休んでいる」のではなく、国が認めた制度に基づくものだと理解してもらうことも重要です。
その先のスタッフに介護の事情をどこまで伝えるかは、プライバシーの問題があるため本人への確認が欠かせません。ただ、無断欠勤ではないことを所属長経由でうまく説明しないと、復帰時に白い目で見られる恐れがある、と注意を促しています。
発生頻度が低いからこそ、事前の学びとプロへの相談を
最後に、総務担当者が気をつけるべき点です。育児休業と違い、介護休業は発生頻度が低く、質問者のように「まだ発生していない」というケースも珍しくありません。
だからこそ吉田さんは、今のうちから本を読むなどして勉強しておくことを勧めます。実際に起きたときの備えとして、事前の学びが役立つという考えです。
実際に起こると、介護は個別具体的で、ケースごとに事情が大きく異なります。そのため最後はプロに相談することが必要だと吉田さんは話します。
手続き関係については社労士が、実際の支援のあり方については行政機関が強いといい、いざというときにそうした相談先があると忘れないでおくことが重要だとまとめています。
まとめ
介護休業は発生頻度が低く社内にノウハウがたまりにくい制度ですが、93日をどう使うか、給付金や休暇との使い分け、そして2025年改正で必須になった対応を押さえておけば、総務担当が一人でも慌てずに動けます。
- 介護休業は対象家族1人につき通算最大93日。長く寄り添うためではなく、施設探しや今後の方針を決めるための期間。
- 休業中は非課税の介護休業給付金が国から支給される。担当者はこの案内で本人を安心させる。
- 93日休む介護休業と、年5日の単発の介護休暇を区別し、体制づくりの後は介護休暇で対応する使い分けを案内する。
- 2025年4月改正で、介護に直面した従業員への個別周知・意向確認と、40歳時点での情報提供が必須になった。対応漏れは労使紛争のリスクになる。
- 発生頻度が低いからこそ、事前の学習と、社労士や行政機関などプロへの相談先の確保が総務担当の備えになる。


