なぜ大手でも撤退する?飲食店経営の難しさ
今回のエピソードは、前回に続く飲食店の労務管理の続編で、経営の視点からの解説です。冒頭で吉田さんは、飲食店の廃業率の高さに触れています。
吉田さんは身近な例として、自宅やオフィスの近くのすき家が閉店してしまったことを挙げています。大手であっても店舗を閉じる現実を示すためのエピソードです。
家の近くのすき家が潰れちゃってですね、ちょっと困ってます。
吉田さんは、すき家のような大手であれば出店計画や想定PLを綿密に組んで出店しているはずだと話します。それでも退店するのだから、飲食店の経営は難しいのだという見方です。
そして、こうした経営の難しさを理解したうえで経営者と話せると、社労士としてよいと吉田さんは述べています。労務だけでなく経営の目線を持つことが、この回の通底するテーマです。
うまくいく飲食店の共通点は「コスト意識」
吉田さんは多くの飲食店経営者と話してきた経験から、うまくやっている経営者には共通点があると指摘します。それは総じてコスト意識がしっかりしていることです。
その前提として、飲食店には必ず店舗があり、席数とお客様という2つの要素が関わります。吉田さんは、席数もお客様も、どちらも有限だという点を強調します。
だからこそ飲食店の売上には上限があると吉田さんは説明します。アプリのダウンロードのように単月で爆発的に伸びることはなく、必ず一定の金額に収まるという考え方です。
スマホのアプリみたいに爆発的にダウンロードされて、ものすごい単月の売上が爆発したみたいなことはなくて、必ず何か一定の金額になるはずなんですよね。
売上に上限がある以上、長期的に結果を出すには、主要なコストを一定金額以下に収める必要があると吉田さんは言います。人件費、地代家賃、原材料費が、それぞれ一定額以内に収まっているからこそ、一定の利益が出るという理屈です。
この考え方があるかないかが、飲食店が長期的に続けられるかの分岐点になっていると吉田さんは話します。よくやっている経営者ほど、コスト意識は厳しいそうです。
人件費を一定に収めるカギは雇用契約書の書き方
吉田さんは、コスト意識の話を労務の面に落とし込みます。労務からコストを見たときに出てくるのが人件費です。
優秀な経営者は人件費を一定に収めたいと考えるはずで、そこで社労士や労務担当者が関わるのが雇用契約書の書き方だと吉田さんは指摘します。
店舗を回すには、時間帯ごとに何人必要かが決まっているはずだと吉田さんは言います。混雑する時間帯は5人、開店直後は3人でよい、といった配置です。この適切な人員配置が、飲食店の労務管理と経営で重要なテーマになります。
人員が多すぎれば人件費が膨らみ、赤字に転落する可能性が高まります。一方で、少なすぎてもよくないと吉田さんは続けます。
人手が足りない店で起きること、足りている店で起きること
本来5人必要なところに3人しかいないと何が起こるか。吉田さんは、店員を何度呼んでも来ない状況を例に挙げます。
こうなるとお客さんはイライラし、注文しなくなったり、再来店しなくなったりします。逆に、適切な人員がいればサービス品質が上がると吉田さんは話します。
サービスがよければ、また来ようという気持ちになり、食べログなどによい評価を書いてもらえることもあります。
さらに、絶妙なタイミングで次の飲み物を尋ねたり、ラストオーダーを確実に聞いたりできれば、売上が増える仕組みにもなります。こうした対応のためにも、適切な人員が欠かせないという説明です。
吉田さんは、人員配置には多すぎても少なすぎても問題があるという両面を整理して示しています。
人件費が膨らみ、赤字に転落する可能性が高まる
呼んでも人が来ずお客さんが離れ、売上増につながる声かけもできない
「シフトによる」で終わらせない優秀な経営者の契約設計
吉田さんは、雇用契約書によくある「シフトによる」という曖昧な書き方に注目します。この書き方では、スタッフの誰がいつ来るのか分からないと指摘します。
結果として、ある日はシフトが足りず、ある日は多すぎるといった事態が起き、前の章で挙げた人員過不足の問題が出てきます。
一方で本当に優秀な経営者は、Aさんは週3回で何時から何時まで、Bさんは週2回でこの時間、といった形で全体をコントロールし、シフトを過不足なく埋めたいと考えるはずだと吉田さんは言います。
本当に優秀な経営者だったら、Aさんは週3回で何時から何時まで来る、Bさんは週2回でこの時間に来るとかっていうのを全部コントロールして、シフトを過不足なく埋めたいはずなんですよ。
もちろん人手不足でシフトが埋まらない現実はあると吉田さんは認めます。ただし、優秀でない経営者は「人による」という曖昧な決め方で諦めてしまうと指摘します。
優秀な人は、各スタッフとの契約を明確に決めたうえで、その通りに出勤してもらえる関係性や契約内容を作ります。吉田さんは、ここが社労士から見たいい飲食店と悪い飲食店の違いだと話します。
多店舗経営者が必ず見たがる「店舗別・日次の収支」
吉田さんは次に、飲食店の経営者が考えることへ話を進めます。飲食店は1店舗だけで経営していることは少なく、社労士に依頼が来るのは2〜3店舗を展開しているケースが多いそうです。
1店舗、特に家族経営の場合は、社労士への依頼はほとんどないと吉田さんは述べています。
多店舗を経営する人が必ず見たがるものとして、吉田さんは店舗別の収支を挙げます。A店・B店・C店それぞれが赤字か黒字かは、絶対に知りたい情報だという説明です。
さらに意識の高い経営者は、店舗別の売上を年単位ではなく月次で、もっと早ければ日ごとに見たいと考えます。日々の売上が目標を達成できたかを知りたいというニーズです。
こうしたニーズに対応する飲食店向けのシステムが各種出ていると吉田さんは言います。注文やシフト管理を通じて、今日の売上と人件費から目標達成の可否が速報値のように分かる仕組みです。
レジ付属の勤怠システムに潜む「機能不足」の落とし穴
ここから吉田さんは、社労士や労務管理担当者が気をつけるべき点を指摘します。そうしたシステムはあくまで収支管理のためのもので、労務の観点から見ると微妙だという注意です。
具体的には、レジシステムに付随する勤怠システムは、労務のプロから見ると機能不足だと吉田さんは言います。
問題点として吉田さんが挙げるのが、1ヶ月単位の変形労働時間制への対応です。飲食店ではほぼこの制度を使っているのに、適切な集計に対応していないと指摘します。
吉田さんによれば、この制度の集計は1日単位・週単位・月単位という3ステップで踏んでいく必要があります。しかし、多くの付属勤怠システムはこの集計に対応していないケースがほとんどだといいます。
一日単位、週単位、(月)単位って、あのスリーステップで踏んでいく集計に対応してないケースがほとんどなんです。
その結果、勤怠が適切に取れず、出てくる残業時間も正しくならないため、未払い残業が発生しているケースはよくあると吉田さんは警告します。レジシステムに付随したおまけのような勤怠システムでは、労務面で不足が出やすいという指摘です。
レジか勤怠か、経営者を悩ませる「究極の二択」
吉田さんは、この問題を二択の構図で整理します。レジシステムに合わせて労務を妥協するか、レジとは別の勤怠システムを入れて二重管理で妥協するか、というものです。
どちらを妥協するかという究極の二択があり、この解決策は今のところ出ていないだろうと吉田さんは述べています。
吉田さん自身は、OPLUSとキングオブタイムの組み合わせがよいと考えているそうです。ただし、これらはレジシステムではないため、レジ側とは全く連携しない点が難しいところだと話します。
レジ付属の勤怠システムを使い、労務面の集計を妥協する
レジとは別に勤怠システムを導入し、レジと勤怠の二重管理を妥協する
吉田さんは、経営管理・収支管理の重要性と、経営指標を店舗ごとにいち早く見たいというニーズを、労務と結びつけて話せると経営者とよい対話ができると整理しています。
社労士が飲食店経営で力になれるポイントとは
吉田さんは補足として、飲食店を含む店舗型ビジネスではシフト管理がとても重要だと述べます。
経営計画では想定の売上を作り、それに合わせて想定のシフトを作ります。その時点で赤字なら、どう頑張ってもうまくいかないため、シフト管理と売上管理をしっかりやりたいと考える経営者が多いはずだという説明です。
その重要性をうまく伝えられたり、頑張りたいのにうまくいかない経営者にアドバイスできたりすると、社労士がよく分かっていると思ってもらえると吉田さんは話します。
さらに細かい論点として、着替えの時間や調理手順を覚える時間が労働時間に該当するかどうかにも触れています。吉田さんは、業務命令で行う着替えやマニュアルの読み込みは、労働時間に該当する可能性が高いと述べています。
大きなリスクとしては、変形労働時間制を適切に運用できている会社は少ない点も挙げられています。こうした点も、経営者と話すきっかけになるという見方です。
まとめ
飲食店の経営編として、吉田さんは売上に上限があるからこそコスト意識が重要であり、その要となる人件費はシフトと雇用契約書の書き方に直結すると解説しました。さらに、レジ付属の勤怠システムの機能不足という落とし穴にも注意を促しています。
- うまくいく飲食店の共通点は、席数もお客様も有限だと理解した厳しいコスト意識にある
- 人員は多すぎれば人件費が膨らみ、少なすぎれば客離れを招くため、適切な配置が鍵になる
- 「シフトによる」という曖昧な契約ではなく、スタッフごとに出勤を明確に決める設計が優秀な経営者の特徴
- レジ付属の勤怠システムは1ヶ月単位の変形労働時間制の集計に対応できず、未払い残業のリスクがある
- 社労士はシフト管理と人件費管理の重要性を経営と結びつけて伝えることで、飲食店経営者の力になれる






