人手不足倒産が過去最多、なぜサービス業と建設業なのか
この回のきっかけは、東京商工リサーチ ── 企業の信用調査や倒産情報の集計・発表を行う民間の調査会社。倒産件数の統計は報道でもよく引用されますが出したニュースです。上半期の人手不足倒産が過去最多の240件となり、賃上げ倒産も1.7倍に増えたといいます。
(人手不足倒産が過去最多というニュースを見て)ついにそんな時代になってきたかっていう感じですね。
吉田さんによると、人手不足で倒産しているのはサービス業や建設業が多いようです。吉田さんは、その理由を業種ごとのAIの影響の違いから推測しています。
IT系などのホワイトカラーの職場では、人手不足をAIで補えるため、むしろ人を増やさなくてもよいという流れになっているはずだと吉田さんは見ています。
一方でサービス業や建設業は、AIを積んだロボットが仕事を代行できる段階には至っていません。人を雇って働いてもらうしかないため、最低賃金の上昇や求人競争によって給料を上げざるを得なくなります。
人に頼る現場
AIやロボットでは代替できず、人を雇う必要がある
賃金上昇の圧力
最低賃金の上昇や、求人での外部との競争
人件費の増加
給料を上げざるを得ず、コストが膨らむ
収益性の悪化
利益が圧迫され、倒産に至る
吉田さんのもとにも、飲食業、小売業、建設業から「職人さんの単価が上がっている」「最低賃金の上昇でアルバイトの人件費が増え、損益計算書に大きく響いている」といった相談が寄せられているそうです。
正論は避けられない?値上げと「選ばれる会社」という本筋
人件費の上昇にどう対処するかについて、吉田さんはまず正論は避けられないと話します。生産性を上げる、経営改革で無駄な業務を削る、そして値上げをしても選ばれる会社になる、というのが本筋だという考えです。
吉田さんは、同じ業界でも勝ち残っている会社があることを根拠に挙げます。飲食業界では長蛇の列ができる店があり、建設業界にも待遇のよい事業者がいます。
厳しいですけど、自己責任論みたいなのは一定数出てくると思います。つまりその経営者の自己責任みたいな。
ただ吉田さんは、理想論どおりにはいかない事情にも触れています。不採算な取引先とは付き合わない、不採算な仕事は受けないと徹底するのが理想でも、長く経営していればしがらみも生まれ、うまくやりくりする必要があるといいます。
ヒントは大手に?配膳ロボットとセルフレジの共通点
単価を上げる以外のアプローチはないのか、という相談に対し、吉田さんは「ヒントは大手にある」と答えます。大手には時代の先を見通す人材がいて、以前はなかった仕組みを取り入れているからです。
吉田さんが例に挙げるのが、ファミレスの配膳ロボットとコンビニのセルフレジです。どちらも最近になって広まった仕組みです。
(配膳ロボットは)なんか喋りながらテーブルまで来るみたいな。結構かわいいですよね。
2つの共通点は、お客さんに作業の一部をやってもらうことだと吉田さんは指摘します。ロボットが運んだ料理を客が自分でテーブルに並べる、食器を自分で取りに行く、といったセルフサービス化です。
こうした工夫で人件費を下げ、浮いた分をほかのスタッフの賃上げ原資にしているはずだ、というのが吉田さんの見立てです。
セルフレジ大好き派の私からすると、もうほんとセルフレジがあるコンビニをわざわざ選択するぐらいなんで。
コンビニのセルフレジには万引きのリスクもあるものの、人員が少なくて済むぶん、その分を昇給原資に回せると吉田さんは話します。想定人数を減らす工夫も、賃上げにつながる手段の一つです。
ロボットが料理を運び、客が自分で並べる。食器を客が取る店もある
客が自分で会計する。レジの人員を減らせる
給料以外で人を引き留める方法はあるのか
給料を上げないと人が辞めてしまう、という悩みに対しては、吉田さんは給料とは別の軸で工夫できることがあるはずだと話します。給料は据え置いて休日を増やす、シフトの融通を利きやすくする、といった方法です。
ただし、休日を増やしたりシフトを柔軟にしたりするには、結局は生産性が高くなければなりません。吉田さんは「最初の問題に戻ってくる」としつつ、働き方を分析して働きやすい環境を作り、スタッフに長く働いてもらう道も一つだと述べています。
働きやすさを高めれば、時代の流れほど給料が上がらなくても残ってくれる人がいるかもしれません。とはいえ吉田さんは、給料アップの流れは避けられないと考えています。
賃上げの第一歩は、経営状況と賃金水準の把握
いずれ給料を上げるとして、何から順に手を付けるべきか。吉田さんが1つ目に挙げるのは、会社の経営状況と賃金水準の把握です。
どの会社にも「売上が100なら、うちのモデルでは30%を賃金に返せる、50%返せる」といった水準があるはずだと吉田さんは言います。まずはそれを調べ、自社の状態を知ることが出発点です。
吉田さんの見立てでは、多くの会社は顧客単価が低くて売上が伸びず、売上に占める賃金の割合が高いために賃上げ原資がない状態です。その場合は販売戦略を練るか、不採算の仕事を断って採算性の高い状態を目指すことになります。
吉田さん自身の会社でも、これまで採用を重ねてきた方針を見直し、採用を一定数抑制しようと考えているそうです。理由はAIの台頭です。
賃金水準を上げるには、一人当たりの売上を高める必要があります。吉田さんは、売上を増やすか、採用抑制で一人当たりの売上を相対的に増やすかのどちらかだと整理しています。
最低賃金が上がると、なぜ賃金テーブル全体が押し上がるのか
2つ目の手順は、想定人件費のシミュレーションです。吉田さんは、最低賃金の上昇で経営者が困るのは、最低賃金を下回る人の給料を上げれば終わり、ではない点だと話します。
賃金テーブルって一番下のものが上がると全部こうところてんみたいに上がっていくわけじゃないですか。
具体例として吉田さんが挙げるのは、優秀な人とそうでない人で時給に10円の差をつけていたケースです。両方を素直に最低賃金に合わせると、2人は同じ金額になってしまいます。
なんで私の方が優秀なのにあの人と同じ給料なんですか?っていう問題が出てきますから。
最低賃金を下回る層の中でも、優秀な人とそうでない人に10円の差がある
全員を最低賃金に合わせると同じ金額になり、優秀な人の不満が生まれる
このように最低賃金の上昇は、直接・間接に賃金テーブル全体へ影響します。そのため上位者の賃金をどれだけ上げるかも含めて、整合性のとれた新しい賃金テーブルを作る必要があると吉田さんは説明します。
限られた原資を誰に渡すのか、キーパーソンへの集中
賃金テーブルとあわせて、評価制度や手当も見直し、どういう人に給料を渡すのかを決めることになります。吉田さんは、経営者は表立って言わないだろうとしたうえで、会社が辞めてほしくない人に厚くする流れを予想しています。
会社としては辞めてほしくない人、キーパーソンに給料をたくさん出すような給与制度にしていくと思います。
吉田さんは「果たしてそれでいいのか」という疑問も残しつつ、そうした舵取りをする会社が増えると見ています。限られた給与原資をどこに配分するかを決めることが、避けて通れない課題になります。
最後の手順は従業員への説明です。評価制度を見直すなら従業員説明会を、賃金制度を見直すなら賃金制度の説明会を開く必要があると吉田さんは話します。
インフレ時代の賃上げに正解はあるのか
持続的な賃上げに何が必要かについて、吉田さんは「正解はない」と率直に語ります。上げなければスタッフの生活が成り立たず、上げすぎれば会社が存続できないからです。
給料据え置くと、それってある意味なんか相対的には降級してるのと同じですから。インフレ時代ですから。
物価高が続くいま、給料は上げていく前提で物事を考えなければならない、というのが吉田さんの結論です。
まとめとして吉田さんは、生産性を上げて選ばれる会社になることを基本に置きつつ、キーパーソンへの賃金原資の集中や、働きやすさを追求した働き方の設計など、複数の方法があると話します。経営、働きやすさ、キーパーソンの扱いをバランスよく組み立てることが、いい会社を作るポイントだといいます。
まとめ
賃上げが難しい会社でも、生産性を上げて選ばれる会社を目指すことが本筋です。そのうえで大手の省人化に学び、働きやすさや原資の配分を工夫しながら、給料は上げていく前提で計画を立てることが求められます。
- 人手不足倒産はAIで代替しにくいサービス業・建設業に多く、最低賃金や求人競争が人件費を押し上げている
- 配膳ロボットやセルフレジのように、客に作業の一部を担ってもらう省人化で賃上げ原資を生み出せる
- 休日やシフトの融通など給料以外の働きやすさも、人を引き留める手段になる
- 賃上げは「経営状況の把握→人件費シミュレーション→評価制度の見直し→従業員説明」の順で進める
- インフレ下での給料据え置きは実質的な降給であり、上げていく前提で考える必要がある







