初めてのお便りは「ヤマアラシ」から?
「あぐらのアゴラ」に、番組初となるリスナーからのお便りが届きました。鼠さんによると、Googleフォームを作ってから2ヶ月ほど放置しており、今回も来ていないだろうと思っていたところ、まさかの1通があったそうです。
差出人の名前は、番組側で「アゴラーネーム」と名付けたもので、「ぬいぐるみ」さん。フォームの性別欄では「ヤマアラシ」を選んでいました。
いつも楽しく聞かせてもらっています。Discordサーバー宣伝回でお便り募集されてたので送ってみようと思い立って送らせていただきました。いつも作業の合間や寝る前に聞いては作業そっちのけでこっちに夢中になったり、眠気がどっか行って夜更かししちゃったりしています(笑)。
お二人は大学も専門も学んできたことも違うと思うのですが、どうやって知り合ってこんな風にラジオを始めるくらい仲良くなったんですか?お二人は来世があるとしたらどんな人生が理想ですか?
お便りフォームの性別欄について、蛇さんは選択肢を紹介しています。番組らしい遊び心のある項目が並んでいるようです。
性別は、男性、女性、それから高等遊民、ホムンクルス、ヤマアラシとあります。あと無回答でもね、大丈夫ですから。
高校の演劇部から「金玉を握り合う関係」へ
二人の出会いは、同じ高校の演劇部でした。鼠さんが蛇さんの1学年下にあたりますが、鼠さんは1年ほどで退部したため、演劇部時代の接点はほとんどなかったといいます。
二人が親しくなったのは、その後のことです。部活が終わったあとになぜか一緒に帰ったり、お互いに小説を書いていたりと、文学好き同士のつながりが続いていきました。
で、なんか面白いことしましょうよっていう、(そういうことを)お互い嫌って。で、何もやらないままここまで来ちゃって。
大学に入ってから1〜2年ほどは、互いに創作で忙しく、連絡をあまり取っていなかったそうです。蛇さんは脚本を書き、鼠さんはゲームのシナリオで小銭を稼いでいましたが、そのあと二人とも「ひどい墜落」を経験したと振り返っています。
そして「いいかげん何かやろう」となったとき、ラジオを提案したのが鼠さんでした。
リアルの友人に「どんな関係なの?」と聞かれた鼠さんは、番組内で二人の関係をこう説明しています。
僕とへびさんの関係、互いの金玉を握り合って次は潰すって言ってる関係です。
蛇さんは「首根っこつかんでる感じ」と言い換えますが、鼠さんは「もっと致命的」と譲りません。冗談めかしつつも、鼠さんは腹を割って話したからこそ仲良くなれたと話しています。
「実力以上に賢く見られる」つらさとは
二人の共通点として鼠さんが挙げたのは、読書が本物の趣味であることに加え、ADHD傾向があることでした。蛇さんはさらに、喋るのが「うまい」ことも共通点かもしれないと付け加えます。
その、辞世も含めてなんだけど、そのなんか実際以上に賢く見られちゃったりとか。
鼠さんはこれに強く共感し、「私が東大に入ってしまった理由」と自虐します。実力以上に見られると、後から幻滅されるだけでなく、肩書きが重くのしかかるといいます。
自分の体のその肩書きが書いてある部分だけ、多分重量3キロぐらい重いんですよ。だからまず胸筋が痛い。
蛇さんも、東大院卒で西洋哲学という「ゴリゴリ」の経歴を持つ鼠さんには、先生に聞くような気持ちで質問してしまいそうだと話します。ラテン語を読んでいたという鼠さんですが、本人いわく、中身は督促状が家に届くほどの貧乏だそうです。
督促状が「獄門疆」に見えた話
蛇さんは、鼠さんの家に届いていた督促状を見て「獄門疆が来てた」と驚いたといいます。社会保険料の督促状で、封筒の裏側に目がたくさん描かれていたのが理由です。
蛇さんは、夏油傑の姿をした敵が獄門疆で五条悟を封印しようとし、五条悟に「お前夏油じゃねえだろ」と見抜かれる場面を説明します。鼠さんは、督促状を見られた自分をその敵に重ね、「なんでわかるんだ」と言う側になったと笑います。
僕あの支払いをせがまれるんですけど、僕払ってますから。支払うことを俺の魂が否定してんだよ。
督促状を受け取るのは2回目で、1回目は今年の春先に「本当に死にかけた時」だったそうです。鼠さんによると、督促状は不安で開けたくないものだからこそ、強制的に開かせるためにいろいろなデザインのバリエーションがあるといいます。
蛇さんの説明では、封筒はくすんだ水色で、そこに目が18個描かれており、2つが赤と紫、残りが青色でした。さらに鼠さんは、封筒を閉じる部分が縦線とクロスで夏油の頭にしか見えないと指摘し、二人は「これ狙ってるよね」と盛り上がります。
極貧でもAI課金は「教材づくり」に生きる
鼠さんは、健康的でも文化的でもなく「文化的なだけの極貧生活」を送っていると自虐します。蛇さんは、住む部屋があり電気も止まっていないうえ、AIに課金していることを突っ込みました。
鼠さんによると、AIの課金は年間契約で、春先にClaudeのPro1年契約を3万円ほどで結んでいたそうです。現在、鼠さんは行きつけのバーのマスターの息子さんの家庭教師をしており、その教材づくりにAIを大活用しています。
情報を渡す
生徒の苦手なところや単元、好みを個人情報がわからない程度に伝える
AIが作成
それらしい教材をAIが作ってくれる
手作業で修正
鼠さんが修正して生徒に渡す
たとえば、お金持ちになりたいと話す生徒のために、経済新聞の記事を中学英語に訳して教材にしたこともあるといいます。好きなことなので食いつきがよく、鼠さんは教育の場面でAIは結構使えると感じています。
結局時間をかければもっといいものが作れるのにっていうふうに思っている現場の人はたくさんいると思いますね。
実はこの家庭教師は二人で担当しており、鼠さんが英語、蛇さんが数学を見ています。蛇さんは「家庭教師の家に獄門疆が届いてる」とからかい、鼠さんは「話のネタになる」と返していました。
行政への支払いについても、鼠さんはPayPayでお金をやりとりすることが多く、現金への換金のタイミングが合わないと大変だとこぼします。蛇さんは、税金で1つの会社にお金が流れるのは問題ではないかと、冷静に返していました。
寺山修司の「飛ぶことを思うことは思想」
話題は変わり、鼠さんが最近ハマっている寺山修司の話になります。もともと鼠さんの父が寺山修司好きで、『書を捨てよ町へ出よう』を初めて読み、「怪作、傑作の山」だと感じたそうです。
鼠さんは、短歌をやっていた寺山修司 ── 歌人、劇作家、映画監督などとして活躍した日本の表現者。劇団「天井桟敷」を主宰し、アングラ演劇の旗手の一人とされますを「言葉の錬金術師」と紹介し、アングラ演劇の沼にも浸かりそうだと話します。蛇さんは、寺山修司のユーモアがある点が好きだといいます。
鼠さんが最近読んで気に入ったのは、新書館から出ている古い作品集『ひとりぼっちのあなたに』です。蛇さんが「なんでひとりぼっちってバレたんだろう」と言うと、鼠さんは「自分がひとりぼっちだから目に留まる」と返しました。
鼠さんが特に好きなのは、イカロスの神話をもとにした一節です。イカロス ── ギリシャ神話の登場人物。蝋で固めた翼で空を飛びますが、太陽に近づきすぎて翼が溶け、海に落ちて死んだとされますは飛んだが自分は飛べなかったという文章を読み上げ、鼠さんは「飛ぶことを思うことは思想なんですよ」と語っています。
寺山修司の作品はその後、「物分かりのいい老人になっていってしまう」と続きます。蛇さんは、寺山修司の作品にある浮遊感は空への憧れから来ているのではないかと考えています。
蛇さんが好きなのは、ラジオドラマ『中村一郎』です。蛇さんの記憶では、飛び降りようとした中村一郎がビルの屋上からそのまま空を歩いていってしまい、一躍スターになるという話だそうです。
本を言い換えるなら何になる?
鼠さんは、旅のエッセイ「風見鶏が回るよ。あの日のように」に出てくる、書物の言い換えに感嘆します。読み上げたのは次のような表現です。
- 一万語を軟禁してある紙の城
- 重さ百グラムの愚者の船
- 押し花の犯罪
- 声を出さない雄弁機械
- 瞑想の紙製飛行機
鼠さんに「書物の言い換え」を振られた蛇さんは、この後に出したら全部陳腐になると答えます。鼠さんは「声を出さない雄弁機械」に特に納得し、雄弁な本は声が聞こえてきそうなのに聞こえないのが不思議だと話しました。
作家が自作を朗読すると何が起きるのか
蛇さんは、日本文学研究者のロバート キャンベルさんがラジオで語っていたという「あらゆる文学というのはボイスを持ってる」という言葉を紹介します。作家特有の声がテキストの中に入っているので、作家自身による朗読は特別なのだといいます。
蛇さん自身も小説を書いて朗読するのが好きでしたが、自分で朗読した作品と、テキストのままの作品には明確な違いがあると感じていたそうです。
それはなんか、自分で朗読することによって、自分の作品のボイスを否定してしまうからなんだよね。
鼠さんも、気に入った小説や詩を声に出して読んだ瞬間に、読まずに置いていたテキストとのギャップが生まれる感覚があると共感します。蛇さんは、他人が読めば「誰々さんが読んでいる」になるのに対し、作家が読むと作家のボイスに言葉が覆われてしまうと説明しました。
鼠さんは例として谷川俊太郎を挙げ、蛇さんも、声のいい谷川俊太郎さんが自作を読むのはやはり特別だと話しています。
鼠さんは、寺山修司の本には他の詩人の引用が多いことも魅力だといいます。ラングストン・ヒューズの詩として紹介された「墓場は一番安上がりの下宿屋だ」という一節に、鼠さんは「墓は確かに一番安上がりな宿」とうなずきます。
蛇さんは、自宅にある寺山修司の全シナリオ全2巻を持ってこようとして忘れたと明かし、鼠さんから「相方失格です」と突っ込まれていました。
二人の読書は重なる部分と違う部分がある
鼠さんによると、二人の読書範囲は実は少しずつ違っています。共通しているのは、太宰治、サリンジャー、村上春樹、芥川龍之介などです。
一方で鼠さんはSFが大好きで、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』や『高い城の男』を挙げます。SFをあまり読んでいない蛇さんに、鼠さんは「SFこそがこの世を作ってますので」と強く勧めていました。
鼠さんは、学童や家庭教師の現場で、子どもに何かを説明するときは、明らかにそれでは説明できないものを使うと喜ばれると感じているそうです。番組の過去回で、プリンを使ってレジスタンスを説明したことも話題に上りました。
鼠さんが驚いたのは、小学2年生の男の子から「重いものをゆっくり投げるのと、軽いものを速く投げるのでは、どちらがエネルギーが強いか」と聞かれたことです。計算で答え、高校でニュートンの話として出てくると伝えると、その子は目を輝かせて聞いていたといいます。
小学2年生でその話に面白いって思えるって、これ才能だろって僕思って。
子どもが好きな鼠さんは、子どもの想像力についての回をやろうと考えています。理科や数学を教える蛇さんも、その科目を好きになってほしいと話しました。
ゾウの骨は「比」で世界のスケールを語る
蛇さんは、先ほどの質問を物理の言葉で整理します。運動エネルギーは2分の1mv²で、質量の1乗、速度の2乗に比例するため、重さを半分にして速さを倍にすると、軽くて速いほうがエネルギーは大きくなるという説明です。
蛇さんがよく話すのは「比」の話です。世界には、そのものに比例するもの、2乗や3乗に比例するもの、逆数や逆2乗に比例するものがあり、それが世界のスケールを規定していると蛇さんは考えています。
例に挙げたのは、似た哺乳類の大腿骨です。大きい哺乳類ほど大腿骨は太く、小さい哺乳類ほど細くなります。
動物のスケールのおおむね3乗に比例する
だいたい2乗ぐらいに比例する(正確に2乗ではない)
荷重のほうが速く増えるため、大きな動物ほど、骨を単純に定数倍するだけでは間に合わず、太くしなければなりません。蛇さんは、縦の長さと横の太さの比を使えば、その動物の大きさを逆算できると話します。
鼠さんは、Wikipediaで読んだゾウの話を重ねます。足の太さからゾウの体の表面積がわかり、薬の投与量を決められるようになったことで、動物園のゾウの生存率が大きく向上したそうです。
こういうものがなんか自然界に結構溢れていて、それを観察していくと、意外となんかこうね、比の問題なんかも、こう世界の根本に関わってるんじゃないかって。
ヤードポンド法への怒りから「次元」の話へ
鼠さんは、ヤードポンド法にブチギレそうになると話します。アメリカに5年ほど住んでいたパートナーと飲んだときも、ずっと怒っていたそうです。
親指の第一関節って。人によってまちまちやろがいって。
これを受けて蛇さんは、私たちは「単位」と「次元」を区別せずに使いがちだが、本質は次元にあると話します。
どちらも長さなので次元が同じで、イコールで結べる
長さと重さで次元が違うので、イコールで結べない
蛇さんによると、イコールで結べる世界が「次元が同じ世界」です。だから単位そのものは物理法則に関与せず、F=maは単位に依存せずに成り立つといいます。
鼠さんは「脳のシナプスが刺激される」と大喜びし、最後は「二次元の可愛い女の子」や『ルパン三世』の次元大介を持ち出して、話を笑いに変えていました。
来世は運動ができる人?お嬢様?
終盤は、お便りの2つ目の質問「来世があるとしたらどんな人生が理想か」に答えます。蛇さんはまず「割と静かな生活がいいかな」と答えたうえで、女性に生まれてみたいと話しました。
女性に生まれ変わりたいっていうと、「女性の苦労を知らない」って言われちゃうんですよ。
でもだからこそ、ちょっと女性に生まれてみたいかもしれない。
鼠さんは性別にはあまり興味がなく、運動ができる人間に生まれたいといいます。生まれつき発達性協調運動障害があり、平均台を渡れず、子どもの頃はあちこちで転んであざだらけだったそうです。
鼠さんは、学童で子どもたちが楽しそうにドッジボールをする姿を見るたびに、その気持ちよさは自分が得られなかった青春時代の一ページだと感じるといいます。もう1つの理想は、お金に困らない人生です。
蛇さんは「お嬢様に生まれたい」と続けます。鼠さんは、女性に生まれるなら仕事もスポーツもバリバリにできるかっこいい女性、たとえばキャリアウーマンになりたいと話しました。
俺の本心、最近気づいたんですけど、俺の本能はかっこいい女性が好き。頼りがいのある人。
そこに蛇さんが加えた理想は、仕事のできる女性の上司になって、仕事ができない部下を叱責してみたいというものでした。まとめの場面で「仕事ができる部下を叱責する」と言い間違え、鼠さんに「ただのSじゃん」と突っ込まれます。
運動ができ、仕事もスポーツもバリバリにできるかっこいいキャリアウーマン
お嬢様に生まれ、社会人になったら仕事ができない部下を叱責する
鼠さんは、二人は意外と方向性が似ていると話し、「また来世で巡り逢う」と笑いながら締めくくりました。
リスナーとの交流と、これからの案件
最後に鼠さんは、初めてのお便りへの感謝を改めて伝えます。そのうえで、中高生向けにオンラインでの家庭教師も受け付けたいと話し、料金などの問い合わせ先として番組の公式メールを記載することになりました。
仕事の依頼について、鼠さんはPayPayやSurfsharkを冗談まじりに挙げます。甘いものが好きな蛇さんはお菓子の案件を希望し、ASMRを提案して鼠さんに却下されていました。
また、蛇さんのDiscordサーバー「自由研究ラボ」では、数学の証明を支援するプログラミング言語Lean ── 数学の定理の証明をコンピュータで記述・検証できる言語。証明支援系と呼ばれ、数学の形式化に使われていますの勉強会が始まっているそうです。鼠さんは、小説を投げ合うなどの文化的な交流もあると紹介していました。
まとめ
初めてのお便りをきっかけに、二人の出会いから督促状の「獄門疆」、寺山修司の言葉、物理の比と次元、そして来世の理想まで、話は自由に広がりました。脱線しながらも、文学と物理それぞれの視点が交わるところに、この番組らしさが表れた回でした。
- 二人は高校の演劇部の先輩後輩で、文学や創作を通じて親しくなった
- 鼠さんは家庭教師の教材づくりにAIを活用し、生徒の好みに合わせた教材を作っている
- 寺山修司の作品から、作家のボイスや自作の朗読をめぐる話が広がった
- 蛇さんは、比が世界のスケールを規定し、物理法則の本質は単位ではなく次元にあると語った
- 来世の理想として、鼠さんは運動のできるキャリアウーマン、蛇さんはお嬢様を挙げた




