うまくいく方法より、失敗する方法の方が再現度が高い
成功っていうのは運の要素も大きくて、同じ事業でもこの人がやれば成功するけど、この人がやったら失敗するっていうことがざらにあります。
だから、うまくいく方法はあってないようなものなんだろうなと思っています。
一方で、失敗する方法はちょっと違うんです。誰がやってもこの方法を選んでしまえば失敗するという、比較的再現度の高いパターンがある。
なので、あらゆる事業の失敗パターンを頭に入れておくと、生存確率が上がるのかなと思っています。
赤字だった美術館を、まず足元から立て直した話
今年の4月から、『河口湖 音楽と森の美術館』の事業再生に携わらせてもらっています。

これまで毎年計上していた数千万円の赤字を、この4ヶ月間で収支構造を見直して、すべて解消しました。今期は美術館事業単体で黒字に着地できる見込みです。
この時に主に取り組んだのは、財務の見直しとオペレーションの見直しなんです。
新しいコンテンツを次々立ち上げたり、SNSで話題を作ったりを先行させたわけじゃない。まずは既存の事業がどこで利益を生んで、どこで損失を生んでいるのかを正確に把握することから始めました。
そうすると、足元の改善だけでも事業として十分に成立する状態まで立て直せたんです。
正直に言うと、PLを毎回見ているエンタメ屋からすると、これは結構イージーゲームでした。唯一時間がかかったのは、作戦を実行に移せるだけの信頼を獲得することでしたけどね。
集客を時代や観光に任せてきた施設の落とし穴
毎週のように各地に飛んで視察を続けていると、思いがけずバブった施設がバランスを崩す時の定番パターンが見えてきました。みんな、全く同じ轍を踏んでいるんです。
ここでいう「思いがけずバブった施設」というのは、時代が集客してくれたり、観光が集客してくれたりする施設のことです。
こういう施設は、追い風の時はイケイケどんどんなんですけど、ひとたび潮目が変わると立て直し方を知らない。集客を自分たちでやってきたわけじゃないので、そっぽを向かれた時にどうしたらいいの、となってしまう。
結果どうなるかというと、何の根拠もない逆転のアイデアが採用されて、しかもそれが機能不全を起こしても取り下げる仕組みがないんです。
3年前に誰かが導入した、何の価値も生んでいないオペレーションが、当たり前のように生き残っていたりする。
こういう施設に共通しているのは、シンプルで、もう自分たちでやっちゃうんですよ。
ただ、ここが落とし穴で。その施設のスタッフさんは、すでにある観光地のオペレーションを回すために集められた人たちなんです。
自分でイベントを立ち上げた経験もなければ、失敗したら自己破産という状況で自己資金でプロジェクトを回した経験もない。当然、空間演出の経験もない。
そんな人たちが会議室に集められて「アイデアを出せ」と言われて、あてずっぽうのアイデアが飛び交う。その一つが採用されると、これだけ時間をかけて作ったのだからというサンクコストが発生して、価値を生んでいないのに毎日続けてしまうんです。
客足が遠のいた施設が必ず手を出す「生パフォーマンス」
客足が遠のいた時に施設がやりがちなのは、これはもう間違いなくあらゆる施設がやっているんですけど、生パフォーマンスによる集客なんです。
アーティストやパフォーマーを呼んで、生でこんなものが見られますよ、と。ここに人件費を異常にかけてしまう。
タチが悪いのは、生パフォーマンスというのは、お客さんのポジティブな声だけがスタッフに届くことなんです。
頑張ったアーティストに「よかったよ」と声をかけてくれるおばあちゃんは、いるんですよ。純粋にすごいと思ってくれる人も一定数いる。
でも、下手するとそれ以上に「つまんないな」と思っている人もいる。ただ、つまらなかったとわざわざスタッフに言うお客さんはいないんです。
だからスタッフは、喜んでもらっているのだと勘違いしてしまう。
そもそもの話なんですけど、アーティストの生パフォーマンスを一人でも多くの人に見せるために劇場ってあるんですよね。ステージがあって、客席があって、たくさんの人に見せる前提であの形がある。
つまり、劇場でない場所で生パフォーマンスをしても、楽しめる人数は限られている。そうすると、パフォーマーのギャランティと交通費と、チケットの売り上げが全然見合わないんです。
マイナスを出しているのに、なぜ首を切れないのか
僕がいろんな施設を回って必ず聞くのは、このパフォーマンスは今何人のお客さんに向けてやっていますか、ということです。
14、15人に向けてやっています、と返ってくる。じゃあこのパフォーマーさんのギャランティは、交通費は、遠方なら宿代もいくらですか、と。
それで14、15人ですか、と。やればやるほど赤字じゃないですか、ということが起きているんです。
しかも、この場でパフォーマンスをしている以上、それを見られない人には「見られない」という不満も発生している。
じゃあやめた方がよくないですか、というと、やめられない。まずパフォーマーから恨まれるからです。要するに、首を切れない。
価値を生んでいなくて、収支でいうとマイナスを計上しているのに、首を切れない。みんな嫌われたくないんですよ。
加えて、その生パフォーマンスのファンが5、6人いる。「やめさせないでください」という声があって、やめると最低みたいな空気になる。
結局それでずっと赤字を計上し続けて、会社ごとピンチに追いやられてしまう。これがほぼ全ての施設で起きているんです。
これを立て直そうと思ったら、やっぱり外部の力が必要なのかなと思います。僕らはその嫌な役回りを背負わされている感覚もあります。
人件費は何でもかんでも削れとは思わないけれど、こういう人件費は削らなきゃいけない。何より、一度採用したアイデアを取り下げるルールがないというのが、大体いろんな施設で起きているんです。
まとめ
客足が遠のく、だから生パフォーマンスを入れる、いい声だけが届く、喜んでもらえていると思い込む。その裏で不満が出て、収支は完全にマイナス。それでも嫌われたくないから首を切れない。この繰り返しで赤字が膨らんでいく。皆さんの近所の施設はどうでしょうか、と問いかけたくなる話でした。
- うまくいく方法は再現しづらいが、失敗するパターンは驚くほど共通している
- 集客を時代や観光に任せてきた施設は、潮目が変わった時に立て直し方を知らない
- 客足が遠のくと生パフォーマンスに手を出すが、劇場でない場所では人数が見合わず赤字になりやすい
- マイナスなのに首を切れないのは、嫌われたくないから。取り下げるルールがないことが根本にある






