成功に再現性はないけれど、失敗には再現性がある
成功っていうのは運の要素も多いんです。同じ事業をやっても、この人がやれば成功するけど、この人がやったら失敗する、なんてことがざらにあるわけで。
だから、うまくいく方法っていうのはあってないようなもんなんだろうなと思っています。
一方で、失敗する方法に関しては、誰がやってもこの方法を選んでしまえば失敗するよね、というくらい再現度が高いんです。
だからこそ、あらゆる事業の失敗パターンを頭に入れておくと、生存確率が上がるのかなと思っています。
4ヶ月で数千万円の赤字を潰した話
『CHIMNEYTOWN』の下には、河口湖 音楽と森の美術館の事業再生以降、事業再生のオファーがポツポツと舞い込んでくるようになりました。それもあって、最近は国内のいろんな施設に視察に行かせてもらっています。
河口湖 音楽と森の美術館の事業再生には、今年4月から携わらせてもらっています。これまで毎年計上していた数千万円の赤字は、この4ヶ月で収支構造を見直して、すべて解消しました。
今期は美術館事業単体で黒字に着地できる見込みです。前までは美術館は赤字で、別の事業でどうにかこうにかやっていたんですけどね。
しかも、今年の夏、8月の来館者数はコロナ以降最多となりました。ちゃんといい結果が出ているんです。
ただ、今回主に取り組んだのは、財務の見直しとオペレーションの見直しなんです。新しいコンテンツを次々に立ち上げたり、SNSで大きな話題を作ったりを先行させたわけではありません。
まずは既存の事業がどこで利益を生んで、どこで損失を生んでいるのかを正確に把握して、必要なところに一つずつ手を入れていく。それだけで事業として十分に成立する状態まで立て直すことができました。
正直に言うと、イベントごとに毎回PLを見ているエンタメ屋からすると、結構イージーゲームだったんです。唯一時間がかかったのは、作戦を実行に移せるだけの信頼を獲得すること。ここには時間をかけなきゃいけないとも思います。
客足が遠のいた時、施設は「自分たちでやっちゃう」
毎週のように各地に飛んで視察を続けていると、思いがけずバブった施設がバランスを崩す時の定番パターンが見えてきました。みんな、全く同じ轍を踏んでいるんです。
思いがけずバブった施設っていうのは、要するに時代が集客してくれたり、観光が集客してくれたりする施設のことです。追い風の時はイケイケどんどんなんですけど、ひとたび潮目が変わると、立て直し方を知らないんですね。
そうすると、何の根拠もない逆転のアイデアが採用されて、そのアイデアが機能不全を起こしても取り下げる仕組みがない。3年前に誰かが導入した何の価値も生んでいないオペレーションが、当たり前のように生き残っていたりします。
こういう施設に共通しているのは、シンプルで、自分たちでやっちゃうということなんです。
ここが本当に落とし穴で。その施設で働いているスタッフさんは、すでに存在している観光地のオペレーションを回すために集められた人たちなんです。
自分でイベントを立ち上げた経験もなければ、失敗したら自己破産ですみたいな状況で、自己資金でプロジェクトを企画運営した経験もない。当然、空間演出の経験もない。
そんな人たちが会議室に集められて「アイデアを出せ」と言われて、あてずっぽうのアイデアが飛び交う。その中の一つが採用されると、これだけ時間をかけて作ったのだから、というサンクコストが発生してしまう。価値を生んでいないのに毎日続けてしまうんです。
生パフォーマンスには、いい声しか届かない
客足が遠のいた時にやりがちなのが、生パフォーマンスによる集客なんです。これはもう間違いなく、あらゆる施設がやっています。
アーティストやパフォーマーさんを呼んで、生でこんなものが見れますよ、と。ここに人件費を異常にかけてしまう。
タチが悪いのは、生パフォーマンスっていうのは、お客さんのポジティブな声だけがスタッフに届いちゃうんです。頑張ってくれたアーティストに「頑張ってたね、よかったよ」と声をかけてくるおばあちゃんって、いるんですよ。
もちろん、普段YouTubeを見ていない人からすると、生パフォーマンスを見て純粋にすごいと思う人も一定数います。ですが、下手すると、それ以上に「つまんないな」と思っている人もいる。
ただ、つまんなかったですって、わざわざスタッフに言うお客さんなんていないんです。だからスタッフは、喜んでもらっているのだと勘違いしてしまう。
そもそも、アーティストの生パフォーマンスを一人でも多くの人に見せるために劇場があるわけです。ステージがあって、客席があって、たくさんの人に見せるという前提であの形になっている。
つまり、劇場でない場所で生パフォーマンスをしたところで、楽しめる人数は限られている。そうすると、パフォーマーさんのギャランティと交通費と、チケットの売り上げが全然見合わないんです。
首を切れないから、赤字が増えていく
僕はいろんな施設を回りましたけど、聞くんですよ。このパフォーマーさん、今何人のお客さんに対してやってますか、と。14、5人に対してやってますけど、と返ってくる。
じゃあこのパフォーマーさんのギャランティはいくらですか、交通費は、遠方から来られてたら宿代は。で、14、5人ですか、と。これ、やればやるほど赤字じゃないですか、みたいなことが起きているんです。
しかも、その14、5人を仮にめちゃくちゃ楽しませていたとしても、劇場じゃないので、そのパフォーマンスを見れない人もいる。生パフォーマンスを見れないという不満だって、その裏で発生しているんです。
じゃあ、やめた方が良くないですか、と言うと、まずパフォーマーから恨まれる。要するに、首を切れないんです。
価値を生んでいなくて、収支でいうとマイナスを計上しているのに、首を切れない。みんな嫌われたくないんですよ。首を切ると嫌われるから。
加えて、その生パフォーマンスのファンが5、6人いたりする。「やめさせないでくださいね」という声がある。そうやって結局、ずっと赤字を計上し続けて、会社ごとピンチに追いやられてしまう。これがほぼすべての施設で起きているんです。
立て直そうと思ったら、やっぱり外部の力が必要なのかなと思います。僕たちは、その嫌な役回りを結構背負わされているんですよね。
人件費は何でもかんでも削れとは思わないけれど、こういう人件費は削らなきゃいけない。何より、一回採用したアイデアを取り下げるルールがない、というのがいろんな施設で起きています。皆さんの施設はどうでしょうか、というお話でございました。
オンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』では、僕が毎日2、3千文字の記事を投稿しています。興味がある方はぜひ覗いてみてください。それでは素敵な一日をお過ごしください。じゃあまたね。
まとめ
思いがけず当たった施設は、潮目が変わると自分たちで逆転策を打とうとして、いい声しか届かない生パフォーマンスに人件費をかけ、価値を生まないのに首を切れずに赤字を膨らませていきます。
- 成功に再現性はないが、失敗パターンには再現性がある
- 時代や観光に集客を任せてきた施設は、潮目が変わると立て直し方を知らない
- 生パフォーマンスはポジティブな声だけが届き、収支のマイナスと不満が見えなくなる
- 嫌われたくなくて首を切れず、採用したアイデアを取り下げるルールもないまま赤字が続く





