2年4ヶ月ぶりの再登場と、書籍『シリコンバレーによろしく』が生まれた経緯
今回のゲストは、Anyplace, Inc. Co-founder & CEOの内藤聡さんです。Startup Nowには2024年4月以来、2度目の出演になります。
聞き手のおいなりさんは、内藤さんがこれまでで最多の接点を持つゲストだと振り返ります。番組出演2回に加え、主催イベントにも登壇してもらってきたといいます。
やっぱこのエコシステムにとって、(内藤さんのような)存在の方をもっとフィーチャーしなければいけないっていう感覚もあって。
話題の中心になったのが、内藤さんの初の著書『シリコンバレーによろしく お金もコネも英語力もない僕のアメリカ起業』です。おいなりさんは、まだ読む前から「これは絶対届けなきゃいけない」と感じたと語ります。
内藤さんによれば、書籍化のきっかけは出版社からのFacebook Messengerでの連絡でした。それ以前にブログなどで発信を続けていたことが、商業出版のオファーにつながったといいます。
本当に結果的に本を出してから、やっぱりスタートアップの外の人、普段リーチできない人にリーチできたんですよね。
スタートアップの「外」に届けるという編集の仕事
書籍の特徴は、スタートアップ用語のほぼすべてに補足がついている点です。おいなりさんも、この番組を立ち上げた当初、専門用語にどこまで注釈をつけるか悩んだと共感を示します。
内藤さんは、出版社の意向でスタートアップ用語を極力使わない方針だったと明かします。難しい言葉を使わざるを得ないときは、括弧で噛み砕いた解説を入れるという工夫を重ねたそうです。
もう本当そのスタートアップ(の世界が)意味がわかんない人向けにしたいから、特別な言葉使わないでくださいと。
お世話になった人の名前も数多く盛り込みたかったものの、スタートアップの世界の外では知られていない人物も多く、泣く泣くカットした部分も多かったと内藤さんは話します。
もうそのスタートアップの世界の人だったら知ってるような人かもしれないけど、こう知らない人からしたら、みたいな(理由でカットされた)。
おいなりさんは、外の読者に届けるために切り込んでくれた大和書房の編集者を高く評価します。内藤さんも、読み物として広い読者に届く形に仕上げてくれた仕事ぶりに感謝を述べました。
なぜ今、日本なのか——長期滞在インバウンドという空白
ここから事業の話に移ります。Anyplaceは2026年春から日本でも事業を開始しました。立ち上げから半年ほどは、内藤さん一人が日本法人の社員として運営していたといいます。
日本進出の背景には、長期滞在インバウンドという受け皿の空白があります。短期滞在向けのホテルは増えている一方、31日以上滞在する長期のインバウンドは年間60万人以上いるのに、受け皿が足りていないと内藤さんは指摘します。
1号物件は恵比寿ガーデンプレイス、直近では渋谷サクラステージ上層階の物件を始めており、いずれも入居者はインバウンド ── 訪日外国人客のこと。ここでは観光だけでなく、31日以上滞在して働きながら暮らす長期滞在者を指しています100%で埋まっているといいます。
強みは、米国でニューヨーク・サンフランシスコ・ロサンゼルスを中心に事業を展開し、顧客ベースを持っていることです。そのユーザーを日本に連れてこられる点が差別化になっていると内藤さんは語ります。
日本はこう、風が吹いてるうちに、追い風、インバウンド追い風が吹いてるうちにガッと広げたいなっていうところですね。
日本のマンスリーアパートは30平米以下のワンルーム系が多く、広さを求める海外顧客のニーズに合っていないといいます。予算はあるので「高くてもいいから広いところに住みたい」という声が多いそうです。
検索やAI検索の分野でも、Anyplaceは英語圏で強く、日本でもAnyplaceが上位に出てくるといいます。予約は100%がAnyplace.com経由の直接予約だと内藤さんは説明します。
ワーケーション客が選ぶ「プチ移住」と、オーバーツーリズムの対極
内藤さんによれば、日本に来る長期滞在者はビジネス目的だけでなく、意外にもワーケーションやノマド的な人が多いといいます。桜のシーズンは物件が100%埋まり、写真がまだ揃わないリスティングの段階から予約が入ったそうです。
(顧客は)みんな全員(検索かAIで)見つけたみたいな。チェックインの時に聞いたんですけど、そのシーズンはもう100%ワーケーション。
なかには、6年間も働きながら旅する生活を続けているマーケターとエンジニアのカップルもいたといいます。今回は6ヶ月かけてヨーロッパなどを回り、花見のシーズンに日本へ来ていました。
内藤さんは、こうした滞在者はオーバーツーリズムの対極にあると位置づけます。数は多くなくても単価が高く、2〜3ヶ月の滞在で飲食やアクティビティにお金を落としてくれるといいます。
単価高い人が来てもらって、ちゃんと日本にお金落としてもらって、日本好きになってもらって帰ってもらう。プチ移住みたいな人たち増えてもいいのかなと思ってて。
マナーがよく、発信力もあるため、帰国後に「日本が良かった」と口コミが広がる効果も期待できると内藤さんは語ります。おいなりさんも、結果的に日本への愛が高まる好循環だと応じます。
都内開発が利回らない時代と、民泊規制という逆風の追い風
日本展開の障壁として、内藤さんはまず東京の部屋の狭さを挙げます。海外の顧客が求める広さの物件が少ないため、デベロッパーと組んで開発したり、築古物件をリノベーションして広くする必要があるといいます。
都内のレジデンス開発はコストが上がり、新規開発をしても利回りが出ないケースが増えているといいます。しかし海外顧客向けに振り切ると単価が上がることが、デベロッパーにとっての解になっています。
日本だと普通の賃料、家具のない状態の賃料で出してるより、大体50%とか値上げしてもちゃんと埋まるんですよ。
もう一つの追い風が、民泊 ── 住宅を宿泊施設として旅行者に貸し出すサービス。Airbnbなどが代表例です。近年は日本でも海外でも規制が強化され、短期の営業がしにくくなっています規制です。東京でもニューヨークでも30日以下の短期貸しが難しくなっている一方、Anyplaceは30日以上のマンスリーで賃貸扱いになるため、理論上どの物件でも運用できると内藤さんは説明します。
物件の収益性とか価値を高めるために、マンスリーのサービスアパートメントで運用したいっていうニーズめちゃくちゃあるんで。
Airbnbなどの短期貸し。日本・海外ともに規制強化で運用が難しくなっている
マンスリーで賃貸扱いになるため規制の対象外。理論上どの物件でも運用できる
集客・英語審査・家具選定というAnyplaceの価値
デベロッパーがAnyplaceと組みたがる理由として、内藤さんは3つの価値を挙げます。海外からの集客、英語での審査や信用チェック、そして海外顧客に合った家具選定です。
特に信用チェックは重要だと内藤さんは語ります。海外の顧客はどれだけ収入や信用があっても、日本で家を借りられない人が多く、そのギャップを埋めるのがAnyplaceの役割だといいます。
日本で家借りれない人多いんですよね。もったいないですよ、めちゃくちゃ。そこのギャップを僕たちはこうなくしていきたい。
家具選定でも顧客のフィードバックが生きています。海外の顧客はベッドのサイズを気にし、最低でもクイーン、できればキングを求めるといいます。日本ではキングサイズはほぼ見つからず、選択肢がないこと自体に日本人は気づかないと内藤さんは指摘します。
キングサイズなんて日本で見つけるの幻なんですよ。
大きなベッドが求められる背景には、体格に加え、パートナーと一緒に寝る文化があると内藤さんは説明します。こうした海外仕様への対応は、既存のホテルには難しい部分だといいます。
- 海外からの集客ができる
- 英語でのサポートと信用チェックができる
- 海外顧客に合った家具(ベッドサイズなど)を選定できる
タイミングの見極めと、米国6都市170室という現在地
日本進出はずっと構想にあったものの、内藤さんは「もっと先の話」と考えていたといいます。インバウンド増加とAirbnb規制という追い風がそろった今こそ、入るべきタイミングだと判断しました。
いつかはと思ってましたけど、もっと先の話かなと。タイミングやっぱ大事なんで、今そういう追い風が来てる。
米国での現在地は6都市で約170室です。メインはニューヨーク、サンフランシスコ、ロサンゼルスで、ジャージーシティやブルックリンなど周辺都市にも拡大しています。
日本での手応えについて、内藤さんは非常に良いと語ります。他に選択肢がなく選ばれやすいうえ、英語圏から顧客を連れてこられるオペレーターがほとんどいないため、可能性を強く感じているといいます。
個人としての喜びは、日本の経済に貢献できている実感だと内藤さんは話します。これまで米国で雇用と納税をしてきたが、日本でも雇用を増やし、納税し、顧客が現地でお金を使ってくれることが嬉しいといいます。
なんかそういうお客さんの反応見るのが一番嬉しいかもしれないですね。
なぜここまで日本のエコシステムに尽くすのか
おいなりさんは、内藤さんが本の出版や投資家のプログラム招致など、なぜここまで日本のスタートアップエコシステムに貢献するのかを率直に問いかけます。最短で事業成果を出すなら、日本を気にせず現地でやってもいいはずだからです。
内藤さんは理由を2つ挙げます。1つは、East Venturesの松山大河さんやアニキ分のキヨさんなど、日本のエコシステムの人たちに過去とても世話になったことです。
もう1つは、巡り巡って自分の事業の成功確率も上がるという実利です。米国での日本人コミュニティはまだ弱く、群として強くなり協力し合わないと勝ちにくいと内藤さんは考えています。
日本のコミュニティがやっぱりまだ弱いんで、アメリカ。どんどん若い人にチャレンジしてもらって、群として強くなって協力し合って勝たないと、やっぱ難しいと思うんですよね。
内藤さんは、中国・インド・韓国はコミュニティが強く、投資家も起業家も多く助け合って大きくなっていると指摘します。日本もその層の厚さを目指す必要があるという考えです。
「若い人こそ海外へ」——Jリーグを最後のゴールにしないように
内藤さんは、若い人がどんどん海外に行くフェーズになってきていると感じています。10年前のスタートアップ界隈はドメスティックな人が多かったが、今は英語を使える人材が増えてきたといいます。
全然アメリカに、イチローとか大谷みたいな経営者が生まれるんじゃないかなっていうのはちょっと感じ出しているんですね。
内藤さんは、スポーツの例えで海外挑戦の当たり前さを語ります。今の若い世代がサッカーをやっていればプレミアリーグを、野球ならメジャーを目指すのに、スタートアップだけ日本を最後のゴールにする必要はないという主張です。
おいなりさんは、この2年半前の内藤さんの言葉がきっかけになりつつも、家族などを言い訳に渡米を先延ばしにしてきたと打ち明けます。しかし今年10月にサンフランシスコ行きを決め、そのために英語も勉強していると語りました。
英語は場数——LAUNCH採択と、毎週の「地獄」のピッチ
英語の習得について、内藤さんは「あっちに行っちゃうのが一番」だと断言します。基礎の勉強も大事だが、使わざるを得ない環境に身を置くことが決定的だといいます。
内藤さんが最初に入ったのが、ジェイソン・カラカニス ── 米国の著名なエンジェル投資家。スタートアップ向けのアクセラレータープログラム「LAUNCH」を運営し、Uberの初期投資家としても知られますさんのアクセラレーター「LAUNCH」でした。毎週トップティアのVCの前でピッチし、質疑応答して順位付けされる回が3回続き、内藤さんはそれを「地獄」と振り返ります。
当時はまだ英語力も怪しく、英語でピッチした経験もありませんでした。それでも今思えば、あの経験があってよかったと内藤さんは語ります。
もう一回やってもいい、やらせてほしいなぐらい(しごかれました)。いい体験でした。
LAUNCHへの採択は、Anyplaceを振り返って最も大きかったと内藤さんは断言します。ジェイソンさんが同社にとって初の外部の米国人投資家、つまりファーストビリーバーになったことが転機でした。
「あ、自分もこの舞台に立てたんだ」っていう感じに、実感になりましたよね。
トップレベルの投資家に会い続けるうちに、緊張にも慣れてパフォーマンスを出せるようになるといいます。内藤さんはその要因を一言で「場数」だと語りました。
中国・インド・韓国との差——ロールモデルと投資家の層
米国での日本人コミュニティが弱い理由について、内藤さんはまずロールモデルの不在を挙げます。韓国や中国には移民のファウンダーによるユニコーン級の会社があり、「自分もできる」と思えるが、日本のスタートアップは米国での大成功例が少なく「無理だろう」から始まるといいます。
もう1つの差が投資家の層です。トップティアVCには自国にルーツを持つアジア系パートナーが多いのに、日本にアイデンティティを持つ投資家は少ないと内藤さんは指摘します。
日本移民とか、かなり日本にアイデンティティがある人は少ないんで、その数がバッて増えないと、やっぱり多分こう、実際問題違うと思うんですよね。
なぜ他のアジア圏は現地に投資家がいるのか。内藤さんは、エコシステムが2周も3周も先に回っているからだと説明します。早い段階で米国に渡って成功した人が投資家になり、次の移民が来やすくなる循環が層を厚くしているといいます。
一方、日本は国内にマーケットがあったため、出ていく人が少なかったと内藤さんは分析します。ただし今後は人口が減り、外で稼ぐ力が求められるといいます。
韓国政府ファンドの懐の深さと、南場智子さんの仕掛け
内藤さんは、韓国政府のファンドが米国で起業する韓国系ファンドにも出資している点を、キヨさんから聞いた話として紹介します。本丸の米国で経験を積む人材を増やすことが、間接的に韓国へのリターンになるという発想です。
この話を聞いたDeNAの南場智子さんは「やっぱり日本もやんなきゃ」と話していたと内藤さんは伝えます。南場さんはテックハウスやシリコンバレーとの距離を急速に縮めているといいます。
内藤さんによれば、南場さんは月1回ほどベイエリアに来て、旅行気分ではなくミーティングをびっしり入れて帰るといいます。英語を話せることも大きく、上場企業の経営者であれだけ現地に関係を築ける存在は稀だと評します。
上場の企業の経営者だったらもう唯一ぐらいなんじゃないですか。南場さん的な存在。あっちであんだけ関係築いて。
南場さんは海外で挑戦したいファウンダーに出資し資金調達を助けるアクセラレータープログラム ── 起業初期のスタートアップに出資し、数ヶ月かけてメンタリングや投資家紹介などの支援を集中的に行う育成プログラムのことです「DelightX」を運営しています。メンターには、Lyftの初期投資家やYouTube共同創業者のスティーブ・チェンさんら錚々たる面々が並ぶといいます。
内藤さん自身の投資家でもあるスティーブ・チェンさんを紹介し、南場さんの後押しでメンターに加わってもらったといいます。内藤さんは、これも南場さんが自ら足を運んでいるからこそだと語ります。
南場さんの動機について、内藤さんはファウンダー愛の強さとグローバルな視点を挙げます。同時に、DelightX出身の日本人が増えればAIをテーマにした情報や人の繋がりがDeNAにも入る、事業的にも戦略的な仕掛けだと見ています。
キヨさんのDeNAグループ入りが意味すること
おいなりさんは、キヨさんがDeNAグループに入ったことについて内藤さんの受け止めを尋ねます。内藤さんは、聞いたときとても嬉しかったと語ります。
キヨさんがDeNAというリソースを使い、米国でのスタートアップ出資、VCへのLP出資、事業づくり、買収まで手がければ、日本のスタートアップのプレゼンス向上につながると内藤さんは期待します。
内藤さんは、大企業の中途社員が現地で出資しようとしてもスピード感が現地VCと違い、良い案件が取られてしまうと指摘します。キヨさんのようにセンスも知見もある人が日本のリソースを現地でうまく使うことに意義があるといいます。
日本のこう、スタートアップの歴史としてはすごいいいコラボレーションと思いますね。DeNAとキヨさん。まあひいては南場さん、キヨさんのタッグみたいなところで。
日本人の「トキワ荘」、テックハウスのいま
ベイエリアの日本人起業家コミュニティは、日本にいるとほぼテックハウスとしてしか見えないと、おいなりさんは切り出します。その現状を内藤さんに尋ねました。
テックハウスには良い人材が集まってきており、有名アクセラレーターに受かった人や、大きなファイナンスを準備している人も出てきているといいます。
テックハウスの魅力は、ゲストスピーカーに一流の人物が来てくれることだと内藤さんは語ります。Snapの初期に関わったGeneral Catalystのニコさんや、StitchFixをナスダックに数千億円で上場させたカトリーナさんらが訪れているといいます。
ナスダック上場して数千億の会社作った創業者に会う機会ってないじゃないですか。そういうのがちゃんと作れるのがやっぱテックハウスにいることの魅力でしょうね。
おいなりさんは、なぜ彼らがそこまで応援してくれるのかを問います。内藤さんは、彼らが何かをテイクする境地ではなく、自分に何ができるかというギブのベースで動いていると答えます。
何が自分にできるかみたいなベースで動いてて、僕たちみたいなわけわかんないファウンダーが行っても、いろんな人紹介してくれるんですよね。
内藤さんは、ニコさんがその場だけで終わらず、名前を使ってメールでしっかり人を繋いでくれると語ります。それが評判を高め、案件が集まる循環になっているといいます。
入居審査を握る「ピンクさん」という存在
テックハウスの入居審査は非常に厳しいといいます。誰でも入れるわけではなく、キヨさんの奥様である「ピンクさん」が寮母的な立ち位置で、入居の可否を決めているそうです。
審査基準は事業の良し悪しではなく、言語化が難しい嗅覚だと内藤さんは語ります。それでもピンクさんが通した人には良いファウンダーが多いといいます。
申し込む側は大変ですよね。審査基準わかんない。
内藤さんは、ピンクさんを「山賊の親分」のようなワイルドで面倒見のいい人物だと表現します。稼働率よりも良い人を入れたいというコミュニティの姿勢が、この審査に表れているといいます。
ピンクさんは不特定多数の若い起業家と同じ一軒家で暮らし、ときに一緒に食事もするといいます。内藤さんは、それを厭わない面倒見の良さが大きいと語ります。
おいなりさんは、10月のサンフランシスコ訪問時にピンクさんへのインタビュー企画をやりたいと提案します。内藤さんも、これまでインタビューがない存在だとして賛同しました。
内村鑑三『後世への最大遺物』——人に残せる4つのもの
話題は書籍のキーワードでもある「生き様」に移ります。おいなりさんは、その原点となったくだりを内藤さんに紹介してもらいました。
内藤さんは最初の事業に失敗して深く落ち込んでいたとき、キヨさんから内村鑑三 ── 明治から昭和期のキリスト教思想家。『代表的日本人』などの著作で知られ、その一部は早くに英語へ翻訳されましたの『後世への最大遺物』を勧められたといいます。講演をもとにした短い名著で、30分ほどで読めるそうです。
この本が説くのは、人が後世に残せるものが4つあるという話です。内藤さんは、その最後の1つが自分の人生を変えたと語ります。
内藤さんによれば、お金・思想・事業は残せる人が一握りに限られます。しかし4つ目の「生き様」は誰でも残せる、というのがこの本の結論です。
どんな生き様を残したいか——大谷級の経営者を日本から
おいなりさんは、内藤さんが今どういう生き様で生きていきたいのかを改めて問います。内藤さんの答えは、日本から大谷翔平級の経営者が生まれてほしい、というものでした。
死ぬまでに、大谷みたいな経営者が日本から生まれてほしいんですよね。
内藤さんは、OpenAIやビッグテックの経営者が日系であってもいいはずだと語ります。自分が大きな事業を目指すのはもちろんだが、個の力には限界があるため、日本人コミュニティから誰かが出てくる景色を見たいといいます。
司馬遼太郎と「歴史の主役は一人じゃない」
内藤さんは、自分が大谷級の個になることだけでなく、いろんな物語があっていいと考えています。その背景にあるのが、起業してから一層好きになったという司馬遼太郎の歴史小説です。
内藤さんは、坂本龍馬や新選組が司馬遼太郎の作品によって広く知られるようになった例を挙げます。歴史は見方を変えれば、いろんな重要人物がいると語ります。
『関ヶ原』で描かれる石田三成のように、負けた側や悪役を主人公にしても意味を持たせる書き方に、内藤さんは強く惹かれるといいます。歴史を作ってきた人には、いろんな主役がいるという見方です。
天下取った家康になんなくても、いろんな重要人物で、その歴史を作ってきた人はいるんで、その何か意味のある一部になりたいなっていうの方が強いかもしれないですね。
おいなりさんも、同じ思いをスタートアップに持ってこの番組をやっていると応じます。内藤さんは、起業家だけでなく投資家やメディアなど、それぞれの役割に意義があると語ります。
シリコンバレーへの挑戦が「通過点」になる日
おいなりさんは、必ずしもベイエリアで起業する必要はなく、自分はメディアという切り口でエコシステムに貢献したいと語ります。内藤さんも、全員が起業すべきとは思わないと応じます。
一方で内藤さんは、ポテンシャルのある人にはそれを発揮してほしいと語ります。大谷が野球をやっていなかったら損失であるように、海外に挑戦できる人には挑戦してほしいという思いです。
内藤さんは、2年前に比べて、海外挑戦のメッセージから「いかがわしさ」が薄まったと振り返ります。数だけでなく質が上がり、投資してもリターンがあると見なされつつあるといいます。
博打じゃなくなってきた感じですね。
内藤さんは、ALPACAのYoshiさんがユニコーンになった例や、日本人がY Combinator ── 米国の代表的なスタートアップアクセラレーター。採択されること自体が実績とされ、世界中の起業家が応募する登竜門的な存在ですに入るのが当たり前になりつつある流れを挙げます。Y Combinatorに入ることが特別ではなく、通過点になっていくことが理想だといいます。
最後に2人は、スタートアップは失敗を前提とするからこそ、成功を増やす方にフォーカスすべきだと語り合います。ZOOMのような大きな事業を作る人が出れば、日本のスタートアップの歴史が変わると内藤さんは締めくくりました。
まとめ
米国で10年超戦う内藤聡さんが、Anyplaceの日本進出と初の著書を機に、事業の狙いから「後世に残す生き様」までを語った回でした。日本のスタートアップを海外へ押し出す静かで大きな願いが、通底しています。
- Anyplaceは長期滞在インバウンドという空白を狙い、集客・英語審査・家具選定を強みに日本へ逆輸入された
- 民泊規制と都内開発の利回り低下が、30日以上のマンスリー運用を追い風にしている
- 内藤さんは、日本人コミュニティが群として強くなることが自分の成功確率も上げると考え、エコシステムに貢献している
- 英語も海外挑戦も「場数」であり、若い世代には日本を最後のゴールにしないでほしいという思いがある
- 内村鑑三『後世への最大遺物』の「生き様は誰でも残せる」という言葉が、内藤さんの軸になっている




