白本はどんな時代に生まれたのか
今回の名著再読で取り上げるのは、茂野明彦さんの『インサイドセールス』、通称「白本」です。まずは、この本がどんな背景で世に出たのかが振り返られました。
白本の出版は2020年12月。日本でインサイドセールスが徐々に話題になったのは、ザ・モデル ── Salesforceの営業プロセスを分業型で体系化したモデルを解説した書籍。マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスへの分業の考え方を日本に広めたが出た2016〜17年頃で、そのおよそ2、3年後にあたります。
浜田さんは、時期としてコロナ禍のただ中だった点に注目します。ちょうど多くの人がインサイドセールスを知りたがっていたタイミングで、すぐに広まった印象があると話します。
2020年12月なんで、まさしく今みんなインサイドセールスのことを知りたいみたいな、そんなタイミングで結構ね、すぐ広まったような印象はありますよね。
加藤さんは、ザ・モデルが「Salesforceの中ではこうなった」という事例だったのに対し、白本は「自社の業務にどう実装するか」を示してくれた点が、多くの人に読まれた理由ではないかと指摘します。
めちゃくちゃ実務的なね、もう採用のあり方から何から、もうこの順でやっていけばいいくらいのノリで書いてあるんで、日本のインサイドセールスたちの中でも古典みたいな感じですよね。
「インサイドセールスとは何か」から始まる理由
白本の第1章では、そもそもインサイドセールスとは何かが定義されています。浜田さんは、この言葉が指す中身は会社によって大きく違うと説明します。
単に「外に出ない営業」と捉えると、売り切り型の営業まで含まれてしまいます。一方でザ・モデル型では、SDR ── Sales Development Representativeの略。マーケティングが獲得したリードに対応し、商談化を目指すインサイドセールスの型とBDR ── Business Development Representativeの略。あらかじめ狙ったアカウントにアウトバウンドで働きかけ、接点をつくっていくインサイドセールスの型があり、同じ「トスアップ型」でもリードベースのものと狙ったアカウントを取っていくものに分かれます。
その会社によって何を指しているのか、何がやりたいのかっていうところからしっかりすり合わせる必要がありますよねって、まず定義のところが一番最初に出てきてますよね。
さらに第1章では、単なるアポ取りとの違いも語られています。加藤さんは、白本がインサイドセールスを「ストック型」として表現している点に触れました。
浜田さんは、顧客との信頼を蓄積しながらいいタイミングで商談につなげるという、今まさに言われている考え方を、白本はかなり最初から結論として書いていると評価します。
なぜインサイドセールスが必要とされたのか
第2章・第3章では、なぜインサイドセールスが必要なのかが語られます。浜田さんは、ここはザ・モデルで福田さんが書いていることと近い前提だと話します。
顧客がウェブで調べ物をするようになる中で、営業に会うまでの段階が重要になります。マーケティングで獲得したリードをそのまま営業に渡しても前提が揃っていないため、顧客と営業の前提を揃える司令塔や仲介役としてインサイドセールスが必要になる、という流れです。
加藤さんは、コロナ禍で顧客が事前に情報収集する比率が増えた時代背景も重なると指摘します。浜田さんは、当時のウェビナーの盛り上がりを例に挙げました。
コロナの頃とかってもうウェビナーやったらなんか何百人とか集まったじゃないですか。ウェビナーバブル。あれはもうインサイドセールスないと無理ですよね。
第3章のインサイドセールスの立ち上げについて、浜田さんは、採用よりも前に「何を目的として作るのか」を経営の中で合意しておくことが大事だと要点を示します。
浜田さんは、商談数などをいきなりゴールにすると、いろいろとずれてくると指摘します。そうではなく、顧客の購買体験をよいものにするためにインサイドセールスが必要だという合意こそが立ち上げの土台になると話します。
設計者・実行者・管理者という採用の順番
加藤さんが「好きな章」と語る第4章は、組織と採用がテーマです。浜田さんは、この章がステップごとの役割と、どんなキャラクターを取るかという2軸で書かれている点を高く評価します。
採用の順番として、まず取るべきは設計者です。インサイドセールスは量をこなしてこそという面があるため、つい実行者から取りたくなりますが、それは失敗すると白本は述べています。
浜田さんによれば、設計者はまずマーケや営業との期待値のすり合わせや、リードが入ってくるフローを整える役割です。ここは経験者を取り、形をしっかり作る必要があるといいます。
設計者が形を作った後に、次は実行者を取ります。行動できる人が理想で、インサイドセールス経験者が一番ですが、そうでなくてもホスピタリティ系の営業などが向いていると紹介されます。
人数が揃ってきたら、最後にメンバーを育てられる管理者を取る、という順番です。浜田さんは「めちゃくちゃその通り」と頷きながら読んだと話します。
加藤さんは、生産ラインを作るように語られがちなインサイドセールスにおいて、悪いものを量産すると意味がなくなると指摘します。だからこそ最初の設計者と、時代に合わせた設計のチューニングが重要だと話します。
ユニコーン・パフォーマー・カルチャービルダーの黄金比
第4章では、採用の順番とは別に、チーム内のキャラクター的な役割も語られています。加藤さんが特に好きだというのが、この人材タイプの整理です。
1つ目はユニコーンで、圧倒的なパフォーマーであり、リーダーシップも発揮する人です。ただし、この人材は組織の10%でいいと浜田さんは説明します。
2つ目はパフォーマーで、組織のおよそ8割を占めます。ユニコーンやリーダーの指示を見ながら、行動して成果を出してくれる層です。
3つ目がカルチャービルダーです。自分がどうかよりも、周りを助けたり、チーム全体でパフォームしているかを気配ったりする人で、ここも10%いるとよい組織になるといいます。
浜田さんは、どれかが欠けても組織のバランスが崩れると話します。やりきる人だけだと漏れが出てくるため、その漏れを拾うカルチャービルダーが必要だといいます。
(カルチャービルダーがいないと)少しずつ歯が欠けていくというか、脆くなっていっちゃうみたいなところはやっぱりありますよね。
加藤さんは、カルチャービルダーはオペレーションを守る文脈だけでなく、顧客の成功視点を持つ人が多いと補足します。チームがマインドを見失わないためにこそ、この人たちが必要だと話します。
夜7時くらいに電話してアポ取れたりしてんだけど、それにいいんだっけ?みんな。みたいなことを言ってくれる人。
KPIは「定義」から始めなければならない
第5章はKPIが中心です。浜田さんは、当たり前だが大事なこととして、白本が一番最初に「定義を決めましょう」と書いている点を挙げます。
有効リードとは何か、商談とは何か、そして失注とは何か。ここが曖昧だと、マーケとインサイドセールスの間で認識がずれ、商談化率の議論もできなくなると浜田さんは説明します。
有効リードは何ですか?商談は何ですか?そして失注は何ですか?みたいな。これがないと、商談化率みたいな議論もできないし。
商談の定義も同様です。ZOOMの前に来ただけを商談とするのか、顧客と期待値がすり合った状態を商談とするのか、次のステップまで進むことを商談とするのかで中身は大きく変わると指摘されます。
浜田さんは、失注についても営業と合意すべきだと話します。これらの定義が決まらないと、数字の話をそれより前にしてもしょうがないというのが白本の主張です。
加藤さんは、この定義付けこそ分業する上での肝だと話します。感覚で捨ててしまうファネルが出ないよう、各ファネルを最大化するには定義が欠かせないという理解です。
組織の成熟度でKPIは動いていく
第5章のもう一つの論点が、組織の成熟度によってKPIを変えていくという考え方です。浜田さんは、最初はシンプルに商談獲得数でやるべきだと説明します。
まず接点を増やすことで、どういう商談が受注につながるかも見えてきます。いきなり受注をゴールにするとつらいため、最初は商談獲得数から始める、という順序です。
有効商談をきちんと作れるようになったら次は有効商談、ファネルが見えてきたら成約へと移ります。最終的には顧客の成功にこだわる観点から、成約でインサイドセールスが動けるのが理想だと語られます。
成約でISも動けるのが一番なんだけども、最初からそれやると絶対無理ですよっていう。なので最初はもう焦らず商談にしてください。
浜田さんは、このKPIは事業のフェーズや組織の状況によって行き来すると話します。前職のSansanでは、半期ごとに指標の組み合わせを変えていたといいます。
具体的には、商談数・有効商談・パイプライン金額という3つの指標を、どの割合で使うか、あるいはどれを使わないかを、半年に一度くらいのペースで見直していたそうです。
立ち上げ期
商談獲得数。まず接点と行動量を増やし、受注につながる商談を見極める
成長期
有効商談。きちんとした商談を作れるようになる
成熟期
成約・パイプライン。顧客の成功を見据え、成約まで踏み込む
加藤さんは、KPIの行き来によって、インサイドセールスがマーケ側とくっつく時期とFS側とくっつく時期が連動してくると指摘します。浜田さんは、レイヤーXが自社カスタマイズした見込みMRRのような指標を「究極形」と評しつつ、母数がないと成立しないと補足しました。
温度感で変わるSDRの実務テクニック
第6章は、インサイドセールスのテクニックを扱う実務的な章です。浜田さんは、SDRの章の一番最初に「温度感の高いリードはスピードが勝負」と書かれている点を紹介します。ここでは5分以内という基準が示されています。
温度感の高いリードには、成約までのアシストをどんどん進めます。一方で温度感の低いリードには、SPIN ── 状況・問題・示唆・解決という4種類の質問で顧客のニーズを引き出す営業のヒアリング手法のような質問が有効だと語られます。
浜田さんによれば、茂野さんはSPINの発展形も使うことがあるといいます。示唆質問を投げかけ、顧客に「それは聞いたほうがいいかもね」と思ってもらうところまでチャレンジしたい、と白本は具体的に書いているそうです。
加藤さんは、これはハウツーでありつつも、顧客がどういう状態かによって必要なサポートが違うという発想が根底にあると読み取ります。浜田さんも、ゴールが商談でなくウェビナーでもいい場合があるなど、かなり具体的に書かれていると話します。
マネジメントとモチベーションの言語化
第7章はチームマネジメントで、能力開発やワンオンワンのやり方など実務的な内容が中心です。浜田さんは、その中でもモチベーションが重要だと話します。
浜田さんは、茂野さんがHRMOS(ハーモス)在籍時にインサイドセールスのミッションとビジョンを作っていたエピソードに触れます。加藤さんも、これは大事だと同意します。
インサイドセールスは日々の業務の反復性が高くなりがちです。だからこそ、この仕事によって組織や社会がどこに向かうのか、自分たちがどうなるためにやっているのかを言語化することが、モチベーションの維持につながると語られます。
加藤さんは、目の前の数字を優先して理想と逆行する瞬間があっても、「なぜ今逆行しているのか」を青写真に照らして説明できることが、長くインサイドセールスを続ける上で重要だと話します。
6年前の未来予測は当たっていたか
最終章では、当時のインサイドセールスの未来が語られています。浜田さんは、これが2020年、つまり6年前に書かれた内容だと驚きを口にします。
白本には、SDRがコミュニケーションの設計者になり、高度なヒアリングテクニックでニーズを顕在化させる必要がなくなっていく、と書かれています。AIを搭載したチャットボットがほぼ全てに答えてくれる状況を想定した記述です。
6年前にそんなんありました?みたいな。ChatGPTより前ですよねみたいな。そこで唯一SDRに残る役割は設計者ですみたいな。
浜田さんは、自分が数ヶ月前にnoteで書いたことがすでに白本に書いてあったと振り返ります。SDRはコミュニティ形成なども担い、BDRはABMの実践者として長期的にアカウントを育てる、という予測が、基本的にその通りになっていると話します。
浜田さんは、こうした複眼的な視点が生まれた背景として、茂野さんの経歴を挙げます。Salesforceでグローバルのインサイドセールスを経験し、Bizreachで立ち上げやセールスイネーブルメントのチームづくりを手がけ、個人としても多くの企業を支援してきたことに触れました。
AI時代に読み返して残る普遍性
最後に、今の時代に改めて白本を読んでどう捉えるかが語られました。浜田さんは、AIでいろいろ変わるとはいえ、最後は人が顧客との接点を作るという普遍性を強く感じたと話します。
浜田さんは、行動数と商談数の話に見えて、本質は顧客にとってどういう意味があるか、そしてインサイドセールスで働く社員にとってどういう意味があるかだと語ります。そのための組織設計やマネジメントが具体的に書かれている点を評価します。
浜田さんは、ザ・モデルもテクニックの本に見えて後半はマネジメントのことばかり書いてあると指摘します。白本も同様に、ワンオンワンのやり方などマネジメントの記述が厚く、ここをしっかり叩き込んでおかないといけないと話しました。
加藤さんは、社内も社外も結局は対人であるという点に、白本が長く読まれる理由を見出します。前提が今も変わっていないからこそ、時代が変わっても読み返す価値がある一冊だと締めくくられました。
まとめ
茂野明彦さんの白本は、2020年の出版から6年経った今も、インサイドセールスの前提を押さえる一冊として読み継がれています。役割設計・採用・KPI・マネジメント、そしてAI時代の未来予測まで、普遍的な考え方が具体的に書かれている点が、この回で繰り返し確認されました。
- インサイドセールスは会社ごとに指す中身が違うため、まず「何を目的にするか」の定義とすり合わせが出発点になる
- 採用は設計者→実行者→管理者の順番。良いものを量産するには、最初に形を作る設計者が欠かせない
- チームはユニコーン10%・パフォーマー80%・カルチャービルダー10%のバランスで機能する
- KPIは定義(有効リード・商談・失注)から始め、組織の成熟度に応じて商談獲得数から有効商談、成約へと移していく
- AIで役割は変わっても、顧客と社員にとっての意味を問う姿勢と、設計・マネジメントの重要性は変わらない

